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       北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が実施した地下核実験をめぐって、「激震」が走っている。 
 
       世界の諸国の中で、もっとも敏感な反応を示したのは日本、それから韓国(大韓民国)そしてアメリカだ。特に 
      韓国では、ノム・ヒョン政権の「太陽政策」の失敗として、いままでノム・ヒョン政権を強力に支持してきた韓国 
      中央日報ですら、太陽政策反対に回っている。 
 
       アメリカのブッシュ政権は、すぐさま韓国と日本に「もし北朝鮮が核攻撃してきたら、韓国と日本はアメリカが 
      核の傘で守る」と通告してくるなど、今にも核戦争が始まらんばかりの対応を見せた。 
 
       日本の安倍政権は国際的にみれば、はしゃぎすぎともいえる反応を見せている。国連安全保障理事会が1週間程 
      度で北朝鮮に対する経済制裁決議を決めたことも、安倍政権の「はしゃぎ」に拍車をかけた。日本のマスコミもこ 
      ぞって「北朝鮮バッシング」に走り、安倍政権支持に回っている。しかし、歴史的・国際的な視点で、今回の北朝 
      鮮核実験問題を論じた冷静な記事にはついぞ見なかった。 
 
 代表的なのが次のような論調だろう。 
       「国連安全保障理事会が北朝鮮の核実験発表に対する厳しい内容の制裁決議1718を全会一致で採択した。核 
      実験実施発表から1週間足らずというスピード採択だった。 
       国際社会は、北朝鮮の核保有は断じて許さないという一致した意思を示すことに成功した。日本は今月の安保理 
      議長国だが、日本の国連外交の新たな成果としても評価したい。 
       北朝鮮は7月のミサイル発射後の安保理非難決議1695の時と同様、今回の制裁決議も即座に拒絶した。 
       北朝鮮が安保理決議に従い、平和的解決への誠意を見せるのであれば別だが、拒絶を貫く以上、国際社会は北の 
      核、ミサイル、拉致などの諸問題の十分な解決を見るまで「圧力」の手を緩めてはなるまい。 
       採択された決議は、制裁を可能にする国連憲章7章に基づくものだが、中国、ロシアの要求で軍事的措置(42 
      条)は除外し、経済制裁などの非軍事的措置(41条)に限定した。」(2006年10月16日 サンケイ新聞 
      社説 電子版) 
       
 このサンケイ新聞の主張は、北朝鮮バッシングに目がくらんでどこか狂っている。 
      今回は国連憲章第7章第41条の非軍事的制裁(経済制裁)の適用だが、42条(軍事的制裁)が適用されなかっ 
      たのはロシア・中国の反対だったから、と書いている。何を根拠にこう書いているのかわからないが、そして軍事 
      的制裁にロシア・中国が反対したのは事実だが、42条の適用を主張するブッシュ政権に対して、41条にとどめ 
      たのは国際世論の良識というものである。 
       
       「この決議を採択することは朝鮮人民共和国に対する宣戦布告(the Declaration
      of War)と見なす」といって 
      席をたった相手に対して、42条を適用すれば、次に何が起こるか火をみるよりもあきらかだ。朝鮮戦争の時と違 
      って、今の北朝鮮は国際的にも孤立しているし、戦争をまともに戦える力もない。 
       
       韓国の新聞の論調によれば、軍部と金正日との溝も深くなっている、という。また、中国は金正日の「北京亡命」 
      で幕引きを図っているという噂も聞こえるようになった。いわば、北朝鮮は戦争を戦い抜く力を失っている。 
      戦争は短期に集結するだろう。金正日政権の崩壊と北朝鮮の民主化という結果で終わるだろう。それにしても韓国 
      や日本が戦場となることは明らかだ。 
      (宣戦布告と見なす、といって席をたった北朝鮮国連代表の姿は、戦前国際連盟が日本の満州國傀儡政権樹立に対 
      して「現状復帰要求決議」を出した時に、「連盟脱退」を宣言して意気揚々として連盟会場を出て行く松岡洋右の 
      姿と重なる。前者はCNNのニュースで見たし、後者は写真で見た。) 
       
       結局、41条の経済制裁の適用決議にしても、肝心の経済封鎖の問題が、臨検を含めて各国政府の裁量に任す、 
      という内容で、産経新聞の社説がいうように厳しい内容、とは言い難い。 
 
       まず、国際世論は、北朝鮮のミサイル実験、今回の核兵器実験に対しては冷静沈着な対応をした、ということが 
      できるだろう。 
       
       
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       しかしながらそれよりももっと基本的で重要な問題があるーーー。それは、今回地下核実験を行った北朝鮮を非 
      難する国際的・歴史的根拠である。 
 
       部分的核実験禁止条約( Partial Test Ban Treaty ? PTBT)が締結されたのが、1963年8月のこと。アメリ 
      カ、イギリス、ソ連の三カ国の間で調印された。前年の1962年、有名なキューバ危機があった。この時世界は 
      核戦争の一歩手前までいったのである。この経験から深刻に学んだアメリカのケネディ政権とソ連のフルシチョフ 
      政権の間で合意がなって、部分的核実験禁止条約が成立した。この合意にイギリスも参加した。 
 
       この部分的核実験禁止条約は、それまで野放しだった核兵器実験に一定の自主規制をかけたという点では、前進 
      だったが、一方で「核兵器先進国」による核兵器保有独占状態を維持しようという意図もあった。実際にこの時す 
      でに核兵器保有国であり、独自開発にこだわって核兵器保有の遅れたフランスは、この条約に調印しなかった。核 
      兵器を保有したばかりの中国もこの条約に調印することを拒否した。 
 
       さらにこの部分的核実験禁止条約には決定的な弱点があった。大気中や宇宙における核兵器実験は禁止していた 
      ものの、地下核実験については全く規制をかけていなかった。いわば「ザル法」である。 
 
       とはいえ、これ以降、世界の核実験の主流は地下核実験となる。第5福竜丸の悲劇などは2度と起こらなくなった。 
 
       その後長い間の紆余曲折と政治的駆け引きが続いた後、包括的核実験禁止条約(Comprehensive Nuclear Test Ban Treaty − CTBT )が国連総会で提案され、圧倒的多数で採決された。1996年9月のことだった。この時提案 
      提出を中心になってとりまとめた国はオーストラリアである。しかし、原水爆禁止平和運動など、世界的な核兵器 
      反対・廃絶運動の大きなうねりがあったことは見過ごせない。広島・長崎の悲劇の経験が世界にゆっくりとではあ 
      るが共有化された結果ともいえる。いまからわずか10年前のことだ。 
 
 日本もすぐさま署名、翌1997年7月には批准して正式加盟国となった。 
 
       さてこの包括的核実験禁止条約(CTBT)は、国連総会で採決された時点で、国際原子力機関(IAEA)の 
      『世界の動力用原子炉』および『世界の研究用原子炉』に掲載されている44カ国全部の批准が必要だった。44 
      カ国全部が批准しなければ、この条約は発効しないのである。この44カ国は「発効要件国」と呼ばれている。 
 
 2006年8月現在、CTBTに署名した国は176カ国、うち批准した国は135カ国にのぼる。 
 
       しかし、44カ国の発効要件国のうち、署名国は41カ国、うち批准国は34カ国しかない。従ってCTBTは、 
      10年以上経っても発効していない。 
 
       署名はしたが、批准していない国は7カ国で、アメリカ合衆国、中国、インドネシア、コロンビア、エジプト、 
      イラン、イスラエルである。44カ国の条約要件国のうち、署名も批准もしていない国は北朝鮮(朝鮮民主主義人 
      民共和国)、インド、パキスタンの3カ国だ。 
 
       現在世界で核兵器を保有している国は、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国のほか、イスラエル、イ 
      ンド、パキスタン、北朝鮮の9カ国と見られている。この9カ国の実に5カ国までが、CTBTを批准していない 
      か、または署名すらしていない。 
 
       今更、核拡散防止条約も脱退した北朝鮮に、CTBTの批准を迫ったとしても無駄であろうが、北朝鮮に地下核 
      実験の停止を迫る側、特にアメリカ・中国の側にも、根拠と資格という点では、迫力のないことおびただしい。 
 
      一応署名しているアメリカや中国は、地下核実験を控えるようになったが、この条約で規制していない「臨界前核 
      実験」は平気で続けている。北朝鮮に核実験停止を迫る資格はない、といわれても仕方がない。 
       
       
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       国際政治とはきれい事ではない、要するに力と力のぶつかり合いだ、と訳知り顔に解説する人がいるとすれば、 
      それは、原水爆禁止運動をはじめとする全世界の核廃絶運動への努力をまったく評価していない、という他はない。 
      こうした力があったからこそ、野放し状態だった核実験にも一定の歯止めがかけられるようになり、包括的核実験 
      禁止条約など一定の成果が上がるようになったのだ。 
 
       実際に核廃絶に向けて一定の成果はあがっている。アメリカに「ならずもの国家」と名指しされたカダフィ大佐 
      のリビアは、公式に核兵器開発断念を宣言したし、第二次世界大戦後核兵器開発に着手したスイスは、1988年 
      に開発を放棄、1995年にはこのことを世界に向けて公表している。またスェーデンも同様に、1970年、核 
      拡散防止条約に署名した時点で開発を放棄、2001年には正式に世界に向けて中止を宣言した。 
 
       長い間対立の続いたブラジルとアルゼンチンは、1988年にまずブラジルが核兵器開発の放棄を宣言、これを 
      受けてアルゼンチンも放棄を宣言、1990年には両国は共同で核兵器放棄を世界に向けて宣言した。ちょうどイ 
      ンドとパキスタン両国と逆のケースである。 
 
       もっとも注目すべきは、南アフリカ共和国である。南アフリカは核兵器の開発を完了、配備までしながら、この 
      完全廃棄をおこなった。南アフリカは、核兵器の配備まで行いながら、完全廃棄をおこなった唯一の国である。2 
      00年後の世界の教科書は、南アフリカの勇気と良識ある行動を賞賛するだろう。 
 
       こうした国々の行動こそが、人類の良識を形成してきたのであり、一定の歯止めとなってきたのだ。もし北朝鮮 
      がこうした良識のある世界に取り囲まれていたとしたら、今の様に簡単に力の誇示の手段として、核実験には踏み 
      切れなかったろう。仮に踏み切ったとしても「誇り」を持つことにはためらいを見せたであろう。 
 
       核兵器廃棄宣言を行うことがその国の誇りであり、人類への貢献だ、という国際世論を定着させることがまず重 
      要なのだ。核兵器を保有していることは現代の文明国家としては、恥ずべき汚点なのだ。核兵器廃棄を宣言したリ 
      ビアと、今なお1万発の核兵器を保有し、なおかつ地域限定の「実戦で使える小型核兵器」の開発計画に着手して 
      いるアメリカと、どちらがならず者国家か。 
 
       こうした国際世論の形成に、アメリカや中国が貢献してきたか、というとこれまで見たように決してそうではな 
      い。むしろこうした国際世論・国際常識の形成に水を差してきた。 
 
       さて日本である。唯一の被爆国であり、戦後曲がりなりにも「非核三原則」を守り続けた日本は、今のところ世 
      界へ向けて、「核兵器開発放棄」を一度も宣言していない。それどころか、岸信介首相の時に「憲法解釈上、日本 
      は、核武装は可能である」という見方を示して以来、歴代政府は一度もこの解釈を訂正していない。 
 
       岸元首相の孫であり、元首相を尊敬していると伝えられる安倍晋三首相は、2006年10月10日の衆院予算委員会の 
      外交問題に関する集中審議において、北朝鮮の核実験実施の発表に関連し「我が国の核保有という選択肢は全く持 
      たない。非核三原則は一切変更がないということをはっきり申し上げたい。」と明言している。 
 
       ならば、北朝鮮が核実験を行った(と疑われる)この時期に、「永久放棄宣言」をすべきであろう。北朝鮮の核 
      兵器保有で、日本も核兵器を保有するのではないかとする世論が海外の論調に目立ち始めた。この時期に日本政府 
      が「核兵器永久放棄」宣言を行えば、「核兵器をもたないことがその国の誇り。核兵器は保有すること自体が犯罪 
      だ。」とする国際世論作りに大きく貢献できるはずだ。 
 
       安部晋三首相の著書、「美しい国へ」のサブタイトルは「自信と誇りのもてる日本へ」である。強大な軍事力と 
      経済力をもった日本が「自信と誇りのもてる日本」なのか、「核兵器永久放棄宣言」を行って、「核兵器の保有は、 
      それ自体人類に対する犯罪行為」とする国際世論作りに貢献する日本が「自信と誇りのもてる日本」なのか・・・。 
 
 
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