(2010.2.7)

『連邦政府負債の脅威との闘い』、『伸びる防衛予算の中の赤字』、『北東アジアの安全保障』


外交問題評議会2010年1月5日付けの「要約日報」(Daily Briefing)(<http://www.cfr.org/media/world_this_week.html?id=1832>)は、丸ごと私の興味を引くものだった。今日のテーマは次の三本。

連邦政府負債の脅威との闘い』、
伸びる防衛予算の中の赤字』、
北東アジアの安全保障』
 


『連邦政府負債の脅威との闘い』


 『連邦政府負債の脅威との闘い』(Confronting the Debt Threat)では、「要約日報」子は次のように書いている。

 『オバマ政権の予算提案のうちあるものは、健全な施策である。しかしアメリカ議会における審議の立ち往生と中国とヨーロッパにおける経済改革は、アメリカの競争力を弱体化させるだろう、と「エコノミスト・ドット・コム」のライアン・アベントは云っている。』

と先ずエコノミスト誌の電子版「エコノミスト・ドット・コム」の経済部編集長ライアン・アベントのインタビュー記事を紹介している。(<http://www.cfr.org/publication/21361/
confronting_the_debt_threat.html>


 次に紹介しているのは、『アメリカの雇用の壊し方』と過激なタイトルのマシュー・スローターの、10年2月3日付けウォール・ストリート・ジャーナル紙に掲載された記事。
<http://www.cfr.org/publication/21370/how_to_destroy_
american_jobs.html?breadcrumb=/bios/8097/matthew_j_slaughter>


 次にふれているのが外交問題評議会のある会合で、紹介された「輸出野望」(Export Ambition)と題されたチャート。(<http://blogs.cfr.org/geographics/2010/02/03/exports/>)。『オバマ大統領は5年間で輸出を2倍にすると述べたが、これを達成するにはこれから5年間毎年15%の伸びをしなければならない。実際に過去の歴史でこれが達成できたのは、70年代のほんの数年間だ。(大意)』と一応批判的だ。

 次が、やはり外交問題評議会のある会合で、開催された『グローバル経済傾向−ジョセフ・スティングリッツとの対話』(http://www.cfr.org/publication/21301)と題するインタビュー形式の対談だ。これはとりわけ面白いので、近いうちに速記録を翻訳掲載しておこうと思う。

 次は『デイリー・ビースト(the Daily Beast−毎日の不愉快)』と題するニュース評論Webサイトに掲載された、「財政的死への悪循環」(Fiscal Death Spiral)とこれもまた過激なタイトルの、エドワード・アルデン(Edward Alden)の記事。(<http://www.cfr.org/publication/21357/fiscal_death_spiral.html>)「デイリー・ビースト」は「バニティ・フェア」や「ニューヨーカー・マガジン」の編集長だったティナ・ブラウン(Tina Brown)が始めたサイト(<http://www.thedailybeast.com/>)らしい。

 次が、外交問題評議会の会合で行われた、世界銀行チーフ・エコノミスト、ジャスティン・イーフ・リンに対するインタビュー形式の対談で「金融世界の一触即発」(Stimulus in a Volatile Financial World)(<http://www.cfr.org/publication/21226>)と題する記事。

 この項目の最後が、『弱い経済を更に弱くする方法』(How to Make a Weak Economy Worse)<http://www.cfr.org/publication/21356/how_to_
make_a_weak_economy_worse.html>
)と題するアミティ・シュリーの記事。


『伸びる防衛予算の中の赤字』


 今日の3つのテーマのうちの2つめ『伸びる防衛予算の中の赤字』でも面白い記事が並んでいる。まず「要約日報」子のコメント。

  『オバマ政権が要求した防衛予算は、不規則な戦争(これは、「イラク戦争」「アフガニスタン戦争」「テロとの戦い」の3つの戦争を指している。)を処理していかねばならないアメリカの軍隊を再建するにあたって、財政支出の中心軸を定めることに失敗している、と専門家のトッド・ハリスは云っている。』

とまずトッド・ハリソン(Todd Harrison)のインタビュー記事
<http://www.cfr.org/publication/21368/deficits_
in_a_growing_defense_budget.html>
)を紹介している。ハリソンは、防衛予算研究の専門家だそうだ。

 次が、外交問題評議会の内部の会合「4年毎防衛再検討会議」で、国防次官(国防政策担当)のミシェル・フラノイ(Michele Flournoy)が、行った『冒頭あいさつ』。次のサイト<http://www.cfr.org/publication/21350/prepared_remarks.
html?breadcrumb=/publication/by_type/transcript>
から、PDF文書が入手できる。

 次が、外交問題評議会のフェロー(紛争防止担当)のミカ・ゼンコー(Micah Zenko)の論文『徒食者:遠のく戦争』(Drones: War from Afar)
<http://www.cfr.org/publication/21319/drones.html
?breadcrumb=/issue/24/defensehomeland_security>
)。

 次が、外交問題評議会の機関誌「フォーリン・アフェアーズ」1/2月合併号に掲載された論文『ベストな防衛?:防止軍事力と国際安全保障』(The  Best Defense? :Preventive Force and International Security )
<http://www.foreignaffairs.com/articles/65736/
abraham-d-sofaer/the-best-defense>
)。書き手は、国務省の法律顧問をつとめたこともあり、現在はフーバー研究所の上級フェローのアブラハム・ソーファー(Abraham D. Sofaer)。

 次が外交問題評議会特別報告、『アメリカの防止行動の強化』(Enhancing U.S. Preventive Action)(<http://www.cfr.org/publication/20378>)。先ほども出たミカ・ゼンコーと米国平和研究所も経験したポール・ステアーズ(Paul B. Stares)の共著。

 最後がレスリー・ゲルプ(Leslie Gelb)の『アフガニスタンに関する新たな疑問』(New Doubts About Afghanistan)(<http://www.cfr.org/publication/21308>)。ゲルプは外交問題評議会の栄誉理事長。この記事は先ほどの「デイリー・ビースト」に発表された。


『北東アジアの安全保障』


 三本柱の最後のテーマが『北東アジアの安全保障』だ。「要約日報」子は次のように書いている。

 『外交問題評議会の上級フェロー、シーラ・スミス(Sheila Smith)は、6者協議は北東アジア諸国(北朝鮮、韓国、日本の三か国を指す)の間に協力関係を構築している、それは北朝鮮問題で協働することが必要だ、しかし、同時にアメリカが企画している台湾に対する武器売却を挟んで緊張する米中関係でも協働することが必要だ、と云っている。』

 とシーラ・スミスのインタビュー記事『北東アジアの安全保障』(Security in Northeast Asia)(<http://www.cfr.org/publication/21342/security
_in_northeast_asia.html>
)を紹介している。シーラ・スミスは外交問題評議会が、ジョセフ・ナイにかわる日本向け宣伝工作者として売り込み中の人物で、朝日新聞がいたくお気に入りだ。しかし何をいっているか一応翻訳して掲載しておこうと思う。またこの後は、外交問題評議会の「北東アジア研究グループ」の最近の仕事が4−5本紹介されている。

 外交問題評議会は、アメリカの政策決定に隠然と強い影響力を与えてきた。内部での重要な議論はほとんど非公開である。従ってこうして外部に発表される論文、記事はほとんど一定の政策に誘導しようとするプロバガンダと考えなければならない。しかしだからといって無価値であるわけではない。彼らの専門家として知見、知識、経験は極めて貴重である。要は批判的に検討して摂取すればいいことだ。

 われわれ一般市民が専門家である彼らの見解を批判的に摂取できるか、という人もいるかも知れない。ひるむことはない。われわれには生活者としての健全な良識がある。その健全な良識に照らして批判的に検討すればいいのだ。


「日米同盟」と健全な良識

 たとえば、「日米同盟」は日本の外交関係の基軸だ、と言う人がいる。日米関係は日米安保条約でその関係が法的に担保されている。日米安保条約に基づいて、日米政府間でいろいろな日米間の行政協定が結ばれている。その行政協定に基づいて日本にアメリカ軍の基地が置いてある。日米再編に関する「4者共同発表」などはこうした一種の行政協定だ。行政協定は、時の政府間の約束で、国と国の約束ではない。それが証拠に両国での国民議会の承認や批准を必要としない。政府が変わればその政府間の約束事を見直すことはなんら違法行為ではない。

 にも関わらず、もし「日米再編」は国際的約束で、何がなんでも守らなければならない、という議論があれば、長い間アメリカ軍の存在に苦しめられ、軍事的植民地経済のまま自立できない沖縄の市民の良識からして、この議論はプロバガンダだ、とすぐ見分けがつく。朝日新聞がいおうと、東大教授がいおうと、簡単に見分けがつくではないか。

 この「4者共同発表」に伴って「再編実施のための日米のロードマップ」が合意された。この文書を読むと、米軍再編のために日本は60億9000万ドル(約5500億円)を負担することが明記されている。(もし日米間に密約がないとすればだが。私はある根拠によってあると考えているが。)

 全国に2万5000人も保育園入園を待っている幼い子供とその若い親が居る。これを解消するのに5500億円もかかるまい。しかも、保育園不足解消の問題は日本の出生率改善に直結する問題だ。いやそれ以前に、憲法24条に定める「生存権」の問題だ。もしこの問題より、日米再編の方が重要だという議論があれば、それは健全な生活者たる多くの日本市民にとっては、プロバガンダであり、われわれ市民の健全な良識からたやすく批判できることだ。

 権威や社会的地位に懼れひるまないことだ。そしてつまらない利益誘導にひっかからないことだ。われわれ一般市民には健全な働くものの良識がある。その良識に照らして自分の頭で考えれば、容易に批判摂取できる。

なお「4者共同発表」は外務省の次のサイト
<http://www.mofa.go.jp/mofaJ/kaidan/g_aso/ubl_06/
2plus2_kh.html>
、「日米再編のロードマップ」は次のサイト、
<http://www.mofa.go.jp/mofaJ/kaidan/g_aso/ubl_06/
2plus2_map.html>
から読むことができる。不思議なことが2つある。日米共同発表なのに「日本語正文」が何故存在しないのか?それは置くとしてもう4年も経つのになぜいつまでも「仮訳」なのか?)