(原文は以下:http://www.trumanlibrary.org/whistlestop/study_collections/bomb/large/documents/fulltext.php?fulltextid=11)
  暫定委員会会議議事録
  1945年6月21日 木曜日
  午前9:30〜午後1:15 午後2:00〜午後4:15

出 席 者

委員会メンバー
ラルフ・A・バード閣下
バニーバー・ブッシュ博士
ジェームズ・F・バーンズ閣下
ウイリアム・L・クレイトン閣下
カール・T・コンプトン博士
ジェームズ・コナント博士
ジョージ・L・ハリソン氏 委員長代行

(委員会メンバーについては「暫定委員会について」を参照のこと)
招聘参加者
レスリー・グローヴズ少将
ハーベイ・H・バンディ氏(第V項目の討議)
アーサー・ページ氏

T.対外発表用声明原稿
 
 委員会は、次の3つのセットとなる対外発表用原稿を詳細に検討した。
   (1) 核実験時
   (2) 大統領声明
   (3) 陸軍長官声明
 小委員会は、ページ氏とグローヴズ将軍の執務室からの代表とからなり、委員会時における委員からの詳細な提示を基礎に、各声明の書き直しを行うこと、また書き直しは陸軍長官に送付すること、それから陸軍長官は承認を得るため大統領に送付することで、同意した。

 タイミングに関しては、陸軍長官声明に続いてすぐに大統領声明、そして翌日には、歴史的科学上の声明を発表することで同意した。
(中略)

 グローヴズ将軍は、プリンストン大学のH・D・スミス博士が、今科学上の声明を準備中であり、今最終段階に来ていることを報告した。精確を期すため、計画の主要参加者がチェックしているところである。グローヴズ将軍はどんな内容が含まれるのに適切か、現在注意深くその基準を作成している、と説明した。

a. 実験の後に発表されるべき諸声明
 実験と兵器の実際の使用との間には時間差があるところから、委員会は、実験後の声明は出来限り情報を少なくし、しかも発表を地元の新聞にだけに限るべきだと感じている。A原稿(実験後になされる声明の原稿)は、損害の程度がどうであれ、基本的定型原稿であるべき事、もし避難の必要が起こったらガス爆弾と印象付けられるような書き方であること、もし死亡事故に発展したら死亡者のリストを付け加えること、などが合意された。また委員会は、この発表の直接の中身については、上記なされた考慮に従って、最終決定を行うこと、それは実験の時に決めること、などを一致して理解した。

b. 大統領声明 
 委員会は、詳細に原稿を検討し、声明の書き直しに関し小委員会に対し多くの変更点を指摘した。声明の最後の段落は、大統領のみが決定できる政策内容を大意とすること、3巨頭会談(ポツダム会談のこと)がおこなわれるまで発表を差し控えることなどが合意された。どちらにせよ、国際的管理を確立する話題にはあまり立ち入らないように書き直しすることが必要だと感じられる。

c. 陸軍省長官声明
 変更点について詳細に提示された。戦争前に、アメリカの科学者がなしたこの分野における活動に適切な知識が与えられるように、また海軍省がこの計画を支援したこと、この仕事の遂行にグローヴズ将軍が、著しい働きをしたことなどに力点を置く。ケベック合意、共同開発機構(米・英・カナダ三国による)、資源の獲得あるいは原鉱、特にトリウムに関する、交渉・合意に関するくだりは削除する。

U.原爆使用の後の一般的かつ継続的対外発表に関する政策について

 ハリソン氏は、最初の声明以降色々な声明が出されて、いわばごちゃごちゃに混乱するのではないかという問題を提起し、問題の性格と量からして、委員会が取り扱いできなくなるのではないか、と云った。委員会は、将来の発表原稿はすべてグルーヴズ将軍とアーサー・ページにその扱いに責任を持たせることで合意した。グローヴズ将軍は、将来の声明に関する取り扱いルールの一覧表を準備し、承認を得るために委員会に提出すると云った。

V.ケベック合意の第二条項
 この時点で、バンディ氏が、委員会に出席し、双方の合意なしにこの兵器を第三国に対して使用しないとしたケベック合意の問題を提起した。
 (ケベック合意:1943年8月19日カナダのケベックで、イギリス首相チャーチルとアメリカ大統領フランクリン・ルーズベルトの間で行われた、一種の核不拡散合意。要点は1.この兵器をお互いに相手国に対して、使用しない。2.お互いの合意なしには、第三国に使用しない。3.お互いの合意なしには原爆開発に関する情報を第三国に提供しない、の3点)

 幾分の討議の後、バード氏は、陸軍長官に対して、適切な行動を取って、ケベック合意の第2項の取り消しを求めるよう動議を提出した。 動議は全員一致で通過した。


W.科学顧問団にウレイ博士を追加する請願

 ハリソン氏は、シカゴの冶金工学研究所のシカゴグループとクリントン研究所の一部から、ウレイ博士を、科学顧問団に加えるようにという請願を受け取った事を説明した。委員会はウレイ博士を顧問団に加えないことで合意した。また請願に対する回答としてハリソン氏は、科学顧問団はウレイ博士の専門の分野で、必要に応じ博士の意見を徴するようにと述べるべきという点に置いても合意した。

 ( ハロルド・クレイトン・ウレイ。詳細は次のURL.http://en.wikipedia.org/wiki/Harold_C._Urey 
 アメリカ生まれの化学者、宇宙科学者。はじめは動物学、化学で博士号を取得。その後物理学に興味を持ち、コペンハーゲンのニールス・ボーアの原子構造研究に参加。その後、重水素の発見(その仮説の提出)を行い、1934年ノーベル化学賞を受賞している。この当時ウレイは、コロンビア大学でマンハッタン計画に参加、中性子U−238からガス状分裂でU−235を取り出す方法論を確立し、マンハッタン計画に貢献している。またニールス・ボーアとも親しく、レオ・シラードに誘われて、シラードのジェームズ・バーンズ面会にも立ち会っていることから、彼が原爆の実戦使用に反対だった事は容易に推測できる。4人の科学顧問団のうち、原爆使用に明確に反対の立場を取っている科学者が一人もいないことから、原爆使用反対の立場の科学者を送り込もうとしたグループがあっさり、暫定委員会に蹴られた、というのが、ここのくだりの読み解き方であろう。)


X.科学顧問団の提言
 科学顧問団の提言は、6月16日の日付で陸軍長官に送付され、受領の上、暫定委員会が読んだ。この提言は(1)研究・開発・管理に関する将来政策、(2)原爆の即時使用、および(3)暫定計画、の3つの部分からなる。

a. 研究・開発・管理に関する将来政策
 ブッシュ博士が表明するように、委員会の総意は、戦後における研究・開発計画の全体的な考察は(戦時とは)異なるべきである。現在時点で、委員会は適切に戦後委員会を設立するという観点からのみ、問題を考え得る。ブッシュ博士は、この分野におけるどのような管理機構でも、大統領に提出したブッシュ博士の提言書でいう政府全体を管掌する研究開発のための一般機構と統合化されねばならないと指摘した。バーンズ氏は、この分野での研究の視点は政府全体の一般的研究母胎と統合されねばならないが、戦後管理委員会はこれらに加えて設立しなければならないと感じている。ブッシュ博士は、委員会そのものは、直接の行政執行機関ではなく、請負契約を発注する運営形態であるべきだ、と指摘した。委員会はこの見解で一致した。委員会のメンバー構成に議論が及び、シビリアンがマジョリティを占めるべきだと指摘され、多分9人のうち5人がシビリアンで、2人が陸軍から、2人が海軍からとなるだろうと指摘した。ハリソン氏の提言で、委員会は、法制問題を担当する小分科会を作りそこで、法律面の細かい部分から、立法化へ向けての原案作りを直ちに着手しなければならないことで合意した。W・L・マーベリー氏(准将)とグローヴズ将軍の執務室の代表者が行動で小委員会を作ると云うことで合意した。

b. 原爆の即時使用
 ハリソン氏は、シカゴの科学者グループからの提言を、A・H・コンプトン博士を通じて受け取ったことを説明した。とりわけその提言の中では、今回戦争で原爆を使用しないことを求めているが、他の諸国に知らせるために、純粋に技術的な実験を実施することを提言している。ハリソン氏はこの報告を、研究と勧告のために科学者顧問団に手渡した。科学顧問団の報告の第2章では、直接の軍事的使用以外のいかなる代替え案も認めがたいと述べている。委員会は、5月31日及び6月1日の委員会で取った態度、すなわちできるだけ早い機会に、日本に対して原爆を使用するという姿勢を再確認した。またその際、警告なしで、また2つの投下目標、すなわち軍事施設または住宅に囲繞された軍事工場、あるいはもっとも損害を受けやすい建造物といった投下目標、と云った事柄も再確認された。

c. 暫定計画
 委員会はまた科学顧問団の第3の提言も承認した。すなわちマンハッタン工区において戦後研究の重要性を含んだ計画のことである。この計画に対しては年間2000万ドルを超えない予算を振り当てる。

Y.3巨頭会談におけるこの議題の位置づけ

 3巨頭会談(ポツダム会談)に関する計画で大統領から指摘がありそうな案件に関して、委員会は重要問題として細部にわたって細かく検討した。効果的な将来の管理を確かなものとする希望に関して、また計画(原爆開発計画のこと)に関する一般情報を、会談のすぐあと公表するという見解に関して、委員会は全会一致で、もしその適当な機会さえあるなら、極めて有利な状態となると言う点で一致した。またロシアに対しては、大統領に次ぎにように告げるべきであると言う点についても一致した。すなわち、この兵器の開発についてどの観点から見てもわれわれが成功していること、及び日本に対して使用するつもりであること、である。

 大統領は、それ以上付け加える事があるとすれば、以下のように告げるべきである。すなわち、この兵器が世界平和を補助するようになることを確実なものとする目的でいつか将来、話し合いたい、という点である。委員会は、もしロシアが詳細な情報を求めてきた場合、現在の所これ以上の情報は出せない、と感じている。また委員会は、ケベック合意の項目の下では、会談の前に首相とこの問題全体について協議することで合意した。委員会は、ハリソン氏に、以上述べた立場を、陸軍長官に告げるよう依頼した。

Z.次回会合
 次回会合は仮に7月6日金曜日、9:30からと決めておく。場所は後刻決定。

会議は午後4時15分に終了。

R・ゴードン・アーネソン
米国陸軍中尉
書記