<軍産学複合体制と核兵器の起源 関連資料>

グルジア攻撃で米大型兵器計画が推進
Attack on Georgia Gives Boost To Big U.S. Weapons Programs


(2008年8月16日付けウォール・ストリート・ジャーナル電子版掲載
原文:http://freedom4um.com/cgi-bin/readart.cgi?ArtNum=85404 )


グルジア軍が、自国内にある自治共和国南オセチア共和国の首都ツヒンワリに軍事侵攻したのが、2008年8月8日夜半(現地時間)、丁度北京オリンピックが開催されようと云うときだった。ロシア軍はOSCE(欧州安全保障協力機構)の規定に基づき平和維持軍として南オセチア共和国に駐留していた。というのは、すでに南オセチアでは、オセチア共和国の独立と北オセチア共和国(ロシア領内)との合併を求めるオセット人市民(オセチアの国名の由来となっている。オセチアはオセット人の地という意味)分離独立に反対するグルジア人市民との間で内戦が始まっており、ロシア軍がこれを調停する平和維持軍としてすでに駐留していた。Wikipediaによると南オセチア共和国の人口は約7万人。大半はオセチア人とのことである。また同記事は次のように説明している。

グルジアの行政区画でのシダカルトリ地区とその周辺だが、南オセチア「自治州」は1920年から1991年までのザカフカース・ソビエト連邦社会主義共和国及びグルジア・ソビエト社会主義共和国の時代に置かれた自治州で領域はシダカルトリ地区北半とその周辺だった。グルジア独立で「南オセチア自治州」が消滅したことにオセット人が反発して自治権を要求した南オセチア紛争で「南オセチア自治州」が再設立され、同じ領域をもって南オセチア共和国 (Республикa Хуссар Ирыстон、首都はツヒンワリ) として独立を主張し、グルジアからの分離、ロシア連邦への加入を目指している。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%97%E3%82%AA
%E3%82%BB%E3%83%81%E3%82%A2
 )

 ツヒンワリに侵攻したグルジア軍のロケット弾攻撃で市民約2000人が死亡したという。グルジア軍が駐留していたロシア軍にも攻撃を開始したことから、グルジアーロシア軍間の戦闘の様相を呈した。この時、ロシア軍に対して、グルジア軍攻撃命令を下したのは、当時北京オリンピック開会式に出席していたロシア首相のウラジミル・プーチンだったという見方がインターネットの世界ではもっぱらである。

 日本の新聞やテレビを見ていると、このロシア軍のグルジア軍攻撃のところから突如報道が開始されたので、前段が分からない人には、南オセチア共和国で何が起こっているのか、それが東ヨーロッパにおけるアメリカ軍産学複合体制のミサイル配備計画とどう関わっているのか、それが核兵器戦争の可能性をもってわれわれの暮らしと運命にどうつながっているのかが、全く分からない。
インターネットのない時代ならともかく、インターネット時代になってもこんな報道をしていては、日本の新聞やテレビも多くの日本人市民からの信頼を失っていくだけだ。アメリカ・日本の軍産学複合体制の宣伝広報機関になってしまった、と言われてもしょうがない。)


やはりどうしても分からないのは、グルジア政権首脳の意図である。ミヘイル・サアカシュヴィリ大統領は親米派の大統領であるが、それにしてもOSCE(欧州安全保障協力機構)の枠内で駐留しているロシア軍に攻撃をかけて単独で勝算があったのだろうか?それとも国際世論の同情が集まると考えたのだろうか?田中宇は最近の記事「米に乗せられたグルジアの惨敗」(http://tanakanews.com/080819georgia.htm)の中で、グルジアはアメリカにそそのかされた、と書いているが、私もその見方をとるほかはない、と思う。


欧州安全保障協力機構(Organization for Security and Co-operation in Europe)は1990年ドイツ統一後のヨーロッパ安全保障を維持する枠組みとして創設された。

NATO諸国、アメリカ・ロシアも参加しており、当初の原加盟国35カ国から2006年現在で56カ国に増加している。外務省の次のサイト。
(http://www.mofa.go.jp/MOFAJ/area/osce/gaiyo.html)


このウォール・ストリート・ジャーナルの記事の日付に注目したい。グルジア軍の南オセチア侵攻から、わずか1週間以内にこの記事は書かれている。ずいぶん早手回しな、と感じるのは私に先入観があるからだろうか?


この記事はオーガスタ・コール(August Cole)の署名入りである。


この記事を理解するには現国防長官、ロバート・マイケル・ゲイツ(Robert Michael Gates)の略歴に関する知識が必要なるかもしれない。
詳細はhttp://en.wikipedia.org/wiki/Robert_Gates で見ていただくとして、ゲイツは2006年12月に前任者ロナルド・ラムズフェルドの後任として、第22代国防長官に就任した。ラムズフェルド当たりに較べるとはるかに実力派の大物である。

1943年生まれ。生まれ故郷のカンザスの大学で学士号を取り、インディアナ大学で歴史学で修士号をとり、ジョージタウン大学で「ロシア・ソビエトの歴史」のテーマで博士号をとっている。高校時代から「オールA」に秀才だった。
ジョージタウン大学を出るとCIAにはいったが、当時徴兵免除性がなかったため空軍の少尉としてベトナム戦争に従軍している。除隊後はCIAにもどったが、1974年に国家安全保障会議のスタッフとして引き抜かれる。30歳そこそこだったからよほど優秀な人物だったと思われる。
CIAの高級幹部としてもどったのが1979年、まだ30代の中頃である。1987年CIA長官に任命されるが、その後イラン・コントラゲート事件に関与したとして上院から長官再任を拒否され辞任。その後テキサスにあるテキサス・A&M大学の学長に就任する。
同大学はもともとテキサスの農業大学だったが、今はアメリカでも3本の指に入る軍事大学である。総基金56億ドルというのも凄い。

2001年9・11の後、ブッシュ政権は国防総省に継ぐマンモス官庁、アメリカ国土安全保障省(DHS = U. S. Department of Homeland Security)を創設し、急速に軍事国家化を進めるがゲイツはその初代長官に指名されるが、指名を断ってテキサス・A&M大学の学長にとどまっている。ゲイツには魅力のないポストだったのだろう。というのはA&M大学の学長時代にすでに、「イラク研究グループ」のメンバーに指名され、国家安全保障政策に深く関わっていたからである。
2006年11月に国防長官に指名されると今度は受諾した。07年タイム誌の「もっとも影響力のある人物の一人」にあげられた。


(以下記事本文)




 ロシアのグルジア攻撃はアメリカの大規模兵器計画にとって思わぬ支援・擁護者となっている。その計画には見かけ倒しのジェット戦闘機(*flashly fighter jets)、ハイテク駆逐艦なども含まれている。これらの兵器は、今反抗している敵どもとの闘い(*ここは多分イラク戦争やアフガン戦争などに見られる戦闘形態のこと、すなわちゲリラ戦における戦闘を指していると思われる。)には役に立たないとして、今年の予算化については相当苦戦すると見えた兵器である。

(* ここで見かけ倒しのジェット戦闘機といっているのはF-22ラプターであり、ハイテク駆逐艦と言っているのは、アーレイ・バーク級駆逐艦であろう。F-22は次を参照して欲しいが、米空軍に最新鋭戦闘機である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/F-22_(%E6%88%A6%E9%97%98%E6%A9%9F

 製造者はロッキード・マーチン社。アーレイ・バーク級駆逐艦はイージス・システムを搭載した最新鋭駆逐艦である。後6隻建造することになっていた。詳しくは以下。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%8
3%AC%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%83%90%E3%83%BC%
E3%82%AF%E7%B4%9A%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%
A4%E3%83%AB%E9%A7%86%E9%80%90%E8%89%A6


 イージス・システムを搭載しミサイルを発射できる駆逐艦である。機関およびイージス・システムの製造者はジェネラル・エレクトリック社である。)

 国防長官のロバート・ゲイツは永年の間、こうした軍事的に高価なそして野心的な兵器システムの手綱を締めようとしてきた。たとえば1機1億4300万ドルのF-22ラプター戦闘機(*raptorは猛禽類という意味)、などがそうである。というのはゲイツの考え方にしたがえば、こうした兵器は、イラクやアフガニスタンでアメリカが当面している戦いのように、見つけ出しにくくまた比較的軽い装備の軍事兵力に対しては、適切ではないと考えているからだ。

 ゲイツは、数十億ドルの金がかかりまた雇用機会を生み出すチャンスの高いこうした計画を欲している、一連の防衛企業や政治的利害関係者から反対されてきた。

 ロシアの侵攻軍が軍事車両を連ねてグルジアへの道をひた走りに走り、空から爆撃をしているとき、ソ連と中国はもうさほど大きな脅威ではないとする国防総省の見解は、いや大きな脅威だとする方に一挙に燃え上がった。もしグルジアにおける紛争が継続し、強化されるなら、国防総省にとっては大きな値札がついた各項目(*各兵器システムのこと)に予算がつくこと疑いなしと言う状況により持って行きやすいだろう。

 たとえば、米下院予算委員会・国防小委員会のパワフルな委員長、ジョン・マーサ(John Murtha、ペンシルバニア州選出民主党)は、今週のロシア状況を素早く把握して、アメリカ軍によるイラクおよびアフガニスタンの作戦の料金を、ロシアは徴収しようとしている、と指摘して次のように云う。

われわれはあまりにイラクに対して(*国防)資源を消費し注意を払いすぎてきたために、これから先の将来の脅威が見えなくなってしまったのではないかと思う。グルジアとロシアの最近の紛争は、その完全な例証だ。」

 ウォール街の証券アナリストの中には、ロシア軍の侵攻は、(*市場の)防衛産業分野は「強気で買いだ」(*make bullish call)とする理由と見始めたものもいる。ロード・アイランド州、ニューポートのJSAリサーチ社は、この週の前からロシアの侵攻は「防衛株買いを告げる鐘」と指摘していた。

(* JSAリサーチ社は機関投資家向けの調査研究コンサルタントで、防衛・航空宇宙産業を得意分野とする。以下。http://www.jsaresearch.com/ 同社がそう言う指摘をしていたとすれば、グルジアの南オセチア侵攻、それに対するロシアの反撃という筋書きは、事件発生前に、すでに一部で知られていたことになる。)

 ゲイツ氏自身今週、あらたな紛争(*グルジア紛争)は、アメリカをしてロシアとの戦略的関係を見直させることになると述べている。火曜日(*2008年8月12日。グルジアの南オセチア侵攻は8月7日。−いずれもワシントン時間。)の記者会見で、ゲイツ氏はアメリカはグルジアで軍事力を行使する考えはない、冷戦の再来を求めるつもりもない、と明言した。しかしながら彼が明確にしたことは、ロシアはグルジアを罰しているかのように見える、グルジアはNATOに対して(参加するかどうか)、そして西側の同盟国になるかどうかふらふらしている、旧ソビエト諸国に対する警告にはなっただろう、ということだ。

(* 非常におかしなことにこの記事では、OSCE―欧州安全保障協力機構―の存在に全く触れていない。日本の報道でもロシア軍は「平和維持軍だった」という記述は散見するが、その記事でも欧州安全保障協力機構の枠内での平和維持軍だった、ということは触れられていない。インターネットの世界での常識が、アメリカや日本の大手マスコミの世界では全く言及されていない。これはどう考えてもおかしい。)

 今までのところ、ゲイツ氏はアメリカが国防予算を投ずべき戦いの場は、反乱分子やテロリストの分野に集中すべきだとしてきた。すなわち伝統的な敵に対する通常兵器や反乱分子やテロリストとの戦いの準備である。

 今年初め、コロラド州で開かれたイベントで、ゲイツ氏は軍事が「“次なる戦争病”(Next-War-itis)に傾きすぎる嫌いがあり、防衛エスタブリシュメントは、将来の紛争に何を備えなければならないかを愛好する傾向にある。」と指摘した。これに対してゲイツは、過去の戦争に向けてギアを入れるような高名な計画の長い長いリストを削るべく模索する努力を費やしてきた。

 このゲイツの長い削減(*兵器)リストのトップに来るのがF-22ラプターである。ボーング社をはじめとする他の強力を得て、ロッキード・マーチン社が製造している。F-22は空軍における最高の戦闘機と考えられているが、イラク・アフガニスタン戦争で、使い物ならない時にすら頑固にこの戦闘機を追求する空軍を、今年の初め譴責したところでもある。

(* ロッキード・マーチン社は米Defense News のランキングでは07年世界第1位の軍需受注企業。ボーイングは同じく第2位。)

 攻撃の対象に晒されていたのが「フューチャー・コンバット・システム」(FCS)である。これは、それこそ未来的金額1600億ドルをかけて、軍隊の装備を近代化しようという計画で新しい装備や電子仕掛けのからくりが満載である。このフューチャー・コンバット・システムの主要受注企業はボーイングとSAIC社であるが、この計画を何度も見直し、ゲイツ氏のいう「次なる戦争病」の非難を何とか躱したいと願っている。

SAIC社―SAIC, Inc.は1969年設立の急成長企業である。Defense News のランキングでは07年に第13位。全体の収入は83億ドルであるが、最初の会計年度1970年の総収入はわずか23万4000ドルだった。以下参照。
http://www.saic.com/about/timeline/1970.html )

 それと同時期に海軍はその最も高価な駆逐艦群の建造に及び腰になっていた。技術的なリスクが小さく、安くついて、できるだけ既存の技術に傾いていたためである。これもコース変更である。海軍は2隻のー7隻ではないーDDG-1000ズムウォルト級駆逐艦を要求している。議会予算局の見積もりでは、1隻50億ドルもする。

(* DDG-1000 ズムウォルト級駆逐艦は詳しくはhttp://en.wikipedia.org/wiki/Zumwalt_class_destroyer 従来のイージス・システムより目標探知追尾距離で約25%伸びているとされる。もちろんミサイルも搭載されている。機関はGE社製である。)

 こうした駆逐艦ではなくて、海軍は公海上における対潜水艦作戦やミサイル防衛に適したもっと安い艦船を要求しているのである。

 次期政権がこれら一連の計画に対してどのような見解をとるかは今のところ不明確だが、防衛産業のトップたちはこれら計画を前進させるべく極めて強固に戦ってきたし、彼らが事実上「殺されずに済む」レベルで落ち着くことを願ってもいる。ありふれた大合唱だが、米国の利益に脅威がいったん認められれば、総軍司令官として、次期政権はその世界の危険を認識するであろうと云われている。

 政権交代は、防衛予算の歴史的な高レベルを反映して、防衛産業の記録的な売り上げと利益を見せているまさにその時に行われる。しかし(*防衛)予算に対するプレッシャーはすでに否定しがたい。イラクとアフガニスタンにおける費用は毎月120億ドル(*わかりやすく1ドル=100円として、1兆2000億円、年間14兆4000億円!)要求する。それにペンタゴンは、(*イラクとアフガニスタンからの帰還)兵力に対して、膨大な修理・補充の仕事に直面することになる。

 今、ロシアをめぐる状況は、アメリカの軍備をめぐる議論を一番の議論の対象としてしまった。ペンタゴンの高官は「脅威は常に(*軍備)調達を促進する。」と語る。「どちらの政党が(*ホワイトハウスの)事務室に入るかは関係ない。」

 ゲイツ氏のアプローチは国防総省の戦略文書として成文化された。それは非通常戦争(*unconventional warfare がもとのことばであるが、これはとりもなおさず核兵器ミサイル戦争を意味する。)に対する能力とロシアや中国の軍隊のような敵を打ち負かす地上兵力との間のバランスをとろうというものだった。

 これは空軍協会(the Air Force Association)の理事長であり最高執行責任者であるマイケル・ダンの怒りを買うものである。彼は云う。
ゲイツ氏のいわゆる“次なる戦争病”批判は、彼の戦略そのものが別な大きな軍隊の費用で反乱分子やテロリストに焦点をあてる“次なる戦争病”だ、と言う議論に出会うことになるだろう。」

空軍協会。http://www.afa.org/ 非営利の団体。というより空軍予算の圧力団体、業界団体である。アメリカの軍産学複合体制にはこうした大小無数の業界団体・圧力団体が存在し、軍国主義イデオロギーを愛国心の名の下に鼓吹し、最終的に軍事圧力・戦争圧力を形成している。マイケル・ダン自身元空軍パイロットであり、空軍幹部だった退役軍人である。http://www.afa.org/aboutus/dunn.asp )

 退役空軍中将であるダン氏は、もしF-16やF-18のような戦闘機がグルジアの戦闘ミッションに投入されたら、それは墓場に入るほどの危険があるという。国境付近から放たれるロシアの高度に発達したミサイルから逃れるすべがないからだ。そしてF-22のような最新鋭機だけが、こうした攻撃を躱すことができるという。「この戦争(グルジア紛争)の結果、議論は全く変わってしまった。」とダン氏はいう。

 ロシアの侵攻前ですら、空軍の議論は立法者(*議会関係者のこと)の視野の中に入っている兆候はあった。議会が休会に入る直前、小委員会(*下院予算委員会軍事小委員会)のマーサ氏は、ホワイトハウスが要求する以上のF-22戦闘機を20機購入する方向へ向けて5億2300万ドルの拠出をするつもりだと語っている。

(* この記事から推測できることの一つは、アメリカの軍産複合体制は、「対テロ戦争」という名目での軍事予算浪費はもうこれ以上無理で、やはりロシアとの「冷戦」を必要としており、グルジアをそそのかして南オセチアに侵攻させ、ロシアの反撃、グルジア侵攻を実現させた。ただ機関投資家筋は事前にそのシナリオを知っていたと見えて、アメリカの軍需産業の株を購入していた、と言うことになるが・・・。まるで絵に描いたような臭いシナリオではある。)