(2010.1.20)

<参考資料> イラク、アフガニスタンのコスト、1兆ドルに達す


 2010年1月15日、ロイター電ワシントン発の記事(<http://www.reuters.com/article/id
USTRE60E0M220100115>
)で、「イラク、アフガニスタンのコスト1兆ドルに達す」(Cost of Iraq, Afghanistan tops $1 trillion)という記事が出た。1兆ドルは1ドル=90円で計算しても90兆円だ。ほぼ日本の国家一般会計予算に匹敵する。これは、別にロイターが積算した数字ではなく、ネタ元は 国家優先計画(National Priorities Project )<http://nationalpriorities.org/>というWebサイトである。このサイトはアメリカの納税者の立場から連邦政府の税金の使い方について監視、研究・調査、報告しているサイトである。それも単に憶測記事に基づくのではなく、公開された資料を丁寧に分析し、しっかりした根拠に基づいている。アメリカ市民のこうした粘り強い、科学的でしたたかな姿勢には本当に頭が下がる。私たち日本の市民も学ばなければならないだろう。自分の頭でモノを考えるという姿勢は一貫している。同サイトに「戦争コスト・カウンター」(同サイトの右側バーにあるアイコンをクリックするとカウンターが出てくる。)を一度ご覧になるのもいいだろう。オバマ政権に欺かれてはいないアメリカ市民も多いという事でもあるし、ロイターもこのサイトの科学性、分析の正確さを認めたという事でもある。以下このロイターの記事の翻訳。



イラク、アフガニスタンのコスト、1兆ドルに達す 

 2010年・1月15日(金曜日) ワシントン発(ロイター)

 2001年以来のイラン及びアフガニスタン戦争で、アメリカの納税者が蒙るコストは1兆ドルに達する。さらにバラク・オバマ大統領は、追加330億ドルを今年の増派のために要求すると見られている。資金の2/3以上は2003年以来のイラク戦争に投じられたものである。イラクにおける軍事作戦が手薄になるのに対して、アフガニスタンに対するそれが活発化するので、今年はイラクよりもアフガニスタンに対して投じられる資金が上回る最初の年になる。

すでにいくら使われたか?
(How much has been spent already)

 超党派予算研究グループで、戦争コストを一貫してカウントしているWebサイト「国家優先計画」によると、議会はすでにアフガニスタン・イラクの両戦争に対して1兆500億ドルの支出を承認してきた。(*2010年)9月30日(*連邦政府2010会計年度の年度末)まで両戦争に必要な予算、1280億ドルを含めた2010年度国防予算(註1)を議会が承認した2009年12月末時点で、計算上1兆500億ドルに達する。1兆ドルには戦争関連のコスト、たとえば国務省関係で現地大使館の安全警備費などが含まれている。

イラクでいくら使いアフガニスタンでいくら使ったか?
(How much went for Iraq and how much for Afghanistan?)

 大きいのはイラク戦費である。2003年のイラク侵攻以来、7473億ドルが割り当てられている。残り2990億ドルがアフガニスタン戦費。2001年9/11同時攻撃の後、アルカイダとの戦いとタリバン政権転覆を狙ってアフガニスタンに侵攻して以来だ。2010会計年度、この9月末が年度末だが、では723億ドルがアフガン戦費に、645億ドルがイラク戦費に充てられ、「国家優先計画」に、よるとアフガン戦費がイラク戦費を上回る最初の年になるという。

これら作戦はあといくらかかるか?
(How much more will these operations cost?)

 オバマは昨年12月、盛り返しつつあるタリバンと戦うため、すでに6万8000名の現地軍に加えて3万人の増派を発表した。国防省高官によれば、オバマはまもなく議会に対してタリバン対策としてのこの増派に330億ドルを要求するだろうと述べている。

 とここまでは2010会計年度の枠内の話である。その先の費用については「疑問符」である。一つには兵力撤退がはっきりしないためでもある。オバマは2011年の半ば頃までにはアフガニスタンからの撤退を開始したいと述べたが、しかしこれは現地の状況によるとも述べた。撤退のデッドラインは未だに確定していないのだ。兵員一人当たりにかかる費用は、年間50万ドルから100万ドルかかると推定されている。それは、兵員現地宿泊費用や装備費を給料や、食料費、燃料費と同じ科目に入れるかどうかによる。傷病兵の医療コストや退役兵員補償費は、時間の経過と共にふくれあがってしまう。

イラクにおいては、アメリカ軍は、09年12月時点の11万5000名から、この8月末までには5万名にまで削減される予定である。その5万名は2011年末まで駐留する予定だ。それがイラク政権との合意事項である。

1年前議会予算局はイラクとアフガニスタン追加戦費は、もし両方の駐留軍がおおよそ2013年までに7万5000名に押さえられるならば、次の10年間で867億ドルに登るだろうと予測した。


何が政治的リスクになるか?
(What are the political risks?)

 オバマの民主党は議会で多数派を握っている。しかしアフガニスタン戦争を続けることが賢明であるかどうかについて意見が2つに分かれている。このことは、この春のいずれかの時期に行われる追加戦費要求で、議会の承認を取るためには共和党の助けを借りなければならないという事だ。オバマはこの承認が取れると見ている。というのも一つにはアフガニスタン増派を承認したがらない議員も戦場の兵士に対する予算をカットすることは嫌がるからだ。今週議会上院軍事委員長のカール・レビン(*民主党)は「明らかに財政的には極めて苦しいとわかっていても、総体としてアメリカの人々は、現地の兵士を支援し続けるだろうと、私は思う。議会はそうした声を反映するだろう。」と述べている。

 しかし、アメリカ大衆の厭戦気分やアメリカの負債に対する関心の高まりなどからして、軍事作戦やイラン・アフガニスタンにおけるコストを削減しろという政治的圧力は大きくなると見られる。(註2)


註1  2010年度国防予算:国防省に承認された予算は、2009年10月28日時点で大統領オバマが署名した時点では、6800億ドル(61兆2000億円。=90円)である。統合参謀本部によれば、2010年春までに後追加で400億ドルから500億ドル必要だという。
<http://en.wikipedia.org/wiki/Military_budget_of_the_United_
States#Budget_for_2010>
)

註2  アメリカの支配層が、大手の支配的マスコミを使って「アフガニスタン増派キャンペーン」を張り、これを既成事実化し、アメリカの議会は「増派反対派」と「賛成派」に分かれて、一種の芝居を行い結局は、増派予算を認めさせてしまう、というのがオバマ政権の描いているシナリオだ。カール・レビンの発言はそれを確認したものに過ぎない。しかし、アメリカの大衆は、本当に今度はそれをすんなりとは認めないだろう、というのがこのロイターの記者の見方だ。冷静に見て判断をしていると思う。この記者は、「国際金融資本党一党独裁政権」瓦解の徴候を感じ取っているのだろか?