ランディビジオ / イル・ロングにある戦略空軍及び戦略海軍基地訪問中のフランス共和国大統領、
ジャック・シラクによる演説


国防大臣
フランス国民会議議員諸氏
国防軍参謀総長
陸軍参謀総長
そしてお集まりのみなさん、


 本日、ここイル・ロングでみなさんとご一緒することは実に私の喜びとするところであります。
使命の達成に邁進せらるる、男女・兵士・民間人の人たちにここでお目にかかることができるのは非常な喜びです。使命とは、我が国独立と保全にとっての基礎力、すなわち核抑止です。

 国家的核抑止力の創設はフランスにとって一つの挑戦でした。そしてそれは、各人が各部署への深い関与なしには達成不可能だったでしょう。われわれの研究能力の開発、あらゆる種類の技術的問題を革新的に解決する力など、あらゆるエネルギーの結集を必要としました。こうして核抑止は、それが設定された時、我が国が作り出す事のできる姿形となり、そうとして維持されました。

 物理科学、数量的模擬実験、レーザー技術―とりわけメガジュールレーザー技術、核技術や宇宙技術などの重要な分野に置いて、常に私たちをリードしてくれた、フランスの各民間企業や原子力エネルギー委員会(CEA)などの研究者や技術者にここで賞賛の意を表したいと思います。また、我が国の核軍事力にいろいろな方法で支援した人々に対しても賛辞を述べておきたいと思います。国防省の軍備総代表団のスタッフ、提携する企業やグループの役員や一般従業員、政府管掌の査察員や関連機関の人員たちがそうです。

 私は、もちろん、取り分けてまた真っ先に、空軍と海軍の混成部隊の要員の事を考えます。最長のそして最も重要な戦術ミサイルを取り扱い、恒久的に最も慎重に行動することを訓練しつけられています。私は知る限り最高度の緊張状態を設定しておりますが、それは我が国の安全に対する要求に正比例しています。私は我が国の安全を保持することに伴う無理をよく承知しています。人はあなた方のことをめったに言及しませんが、私はあなた方の例外的とも云える価値と極めて大きい功績に敬意を表したいと思います。恒久的核抑止政策、我が国は特筆すべき事に40年間もその姿勢をとり続けてきたのですが、その姿勢そのものが賞賛の証拠なのです。

 またご家族にも、特に潜水艦乗務員のご家族にも賞賛の意を表します。哨戒作戦の任務中は家庭を離れなければならず、それは孤独であり、時として苦痛を伴うものであることを私はよく承知しております。

 みなさん、あなた方は常に変化しつつある状況の中で任務を果たしているのです。

 冷戦が終了した今、われわれは主要な大国からの直接の脅威のもとにはありません。しかし二極化の世界が終わったからといって、平和に対する脅威が取り除かれたわけではありません。多くの国々で、文明と文化と宗教を巡る過激な思想が広がりを見せつつあります。今日、対立をもたらそうとするこの意志は、厭うべき攻撃へと向かいつつあります。そしてこの厭うべき攻撃は、狂信主義と不寛容こそが全ての愚かさの根元であることを常に思い起こさせます。
明日には、フランス全土を覆う、もっと危険な形を取るかも知れません。テロリズムに対する戦いが、われわれの最優先事項の一つです。この危険を提示するに当たり、われわれは色々な用意と方法を採ってきました。われわれはこの方向へ向かって断固としてまた解決する方向へ継続していくつもりです。しかしながら、テロリズムに対して必要な戦いに向けて、あらゆる防衛や安全に関して考えることを規制していくという誘惑に負けてはなりません。事実、新たな脅威は、全然取り除かれていないのです。

 われわれの世界は常に変化し、新たな政治的、経済的、人口動態学的、軍事的均衡を求めて模索しております。それは力の極の速やかな出現として特徴づけられます。またそれは、新たな不均衡の出現に直面しています。特に原材料資源の分配、自然資源の供給、人口動態的均衡の変化、などの分野ではそうです。これら変化は結果として、不安定を招きます。ナショナリズムが併発的に勃興する場合に置いては特にそのことがよく当てはまります。

 互いに異なる力の極が、敵愾心の淵に沈み込むことは決して過去のことだけでありません。この危険を取り除くため、われわれは法と集団安全の原則に則って、より公平で、とりはっきりとして国際秩序を確立する方向で効率的に作業しなければなりません。同時にまたわれわれは、われわれの主要な同調と共に、対立よりもむしろ協調の方向へと急がなければなりません。しかしながら、われわれは国際機構の予期せぬ逆転や戦略的驚愕から自由ではありません。これはわれわれが歴史から学ぶところであります。

 われわれの世界はまた、核兵器、生物兵器、化学兵器を保有していることに基づく根拠に乏しい主張にも特徴づけられます。従ってある国が核兵器を獲得したいという誘惑が存在するわけですし、条約に違反するわけです。かつて見られないほどの長距離ミサイルの発射試験は世界中で増加しています。この観測から国連安全保障理事会は、大量破壊兵器の拡散とその供給手段の多様化が、真に国際兵と安全にとって脅威となった、との認識を持つに至りました。

 最後に、地域的な不安定に対する、これまでもあったような危険が引き続き存続することも無視してはなりません。不幸にして、この種の危険は世界中の至る所に見受けられます。

 世界を震撼させる危険に直面して、この新たな脅威に直面して、
フランスは常に、核抑止政策の基本的な枠組みの中で、危険を防止するという道を、まず選択します。法、影響力、連帯の原則に依拠しながら、あちこちで発生する危険を解消するべく常に奮闘するというわれわれの外交政策による、危険の防止を全て行動の中心に設定致します。危険の防止は、軍事発動の前に、長い目で見た防衛と安全に対する姿勢と密接に関連します。

 しかしながら、防止だけで十分にわれわれが守れるかというと、それはいささか、素朴な楽観主義にすぎると信じます。必要なときには、軍事力も行使する力を持ち合わせなければならない、と言うことにも耳を傾けなければなりません。従って、この戦略を支持しまた補完するために、これまで使ってきた手段も使いながら、われわれの境界線の外側を仲裁する能力も持ち合わせなければなりません。そのような防衛政策によれば、何があろうと、われわれの重要な利益は保証条項(safeguard)内に保留する事になるのは当然です。これがわれわれの防止戦略に直接由来しかつその究極的表現を構成する、核抑止力に与えられた役割です。

 現在と将来の不確実性に当面するにあたり、核抑止力は安全にとっての基礎的な保証であり続けます。どこから圧力がやってこようと、核抑止力はわれわれに行動の自由を与え、われわれの政策を管理し、われわれの民主主義の価値の持続を確かにするものです。

 同時に、われわれは包括的かつ完全な軍縮を推進しようと云う地球的な努力を、支援し続けます。特に、兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)を支持します。しかしもちろん、われわれの地球的規模における安全な状態が維持でき、かつその方向へ進めようと云う意志が満場一致であるときのみ、軍縮への道を前に進んでいく事ができるのです。フランスは削減の一方で核抑止軍事力を維持していきます。それと共に核兵器不拡散条約の精神及び保有の制限の基本原則を遵守します。われわれの核抑止政策はそのような精神の中にあるのです。

 フランスの重要な利益がどこにその限界を持つのかを恒久的な立場からに評価するのはフランス国家元首の責任です。その限界の不確実性を維持して行くことは、核抑止主義(deterrence doctrine)と全く同質のことになります。領土の統一、国民の保護および主権の自由な行使は、常に我が国の最も重要な利益の中核をなしています。しかし国家的利益はそれにとどまるものではありません。国家的利益の考え方は世界のペースに応じて変化します。世界はヨーロッパ諸国間の相互依存の体制の発展及び世界規模化(globalization)の強い影響によって特徴づけられます。たとえばわれわれの戦略的物資補給に関する保証体制、あるいはわれわれの同盟国の防衛と言ったようなことは、守らねばならない利益です。これら利益に対して犯される攻撃、脅威、脅しなどと言った容認できない振る舞いの結果を、その規模や潜在性の面で査定することはフランス大統領の責任です。もし必要なら、こうした分析の結果、こうした状態がわれわれの利益を逸脱しているとの考えに至るかも知れません。

 2001年9月11日の攻撃の直後、私が強調したように核抑止力は狂信的なテロリストを思いとどまらせるものではありません。しかし、われわれに害を及ぼす手段として使おうとする国家の指導者たち、またあちこちで大量破壊兵器を使用しようとしている国家の指導者たちは我々の側から断固としたまたそれにふさわしい反撃が彼らの前に口をあけている、という事を理解しなければなりません。この反撃は通常兵器であることもありましょうし、また異なる種類の反撃でもあり得ます。
 その起源から、核抑止はその精神に置いても、また方法論に置いても、そしてわれわれの環境に対してもまた私が先ほど注意を喚起した脅威に対しても、引き続いて採られてきた政策です。割れ輪rが重要だと見なしている利益に対して攻撃を加えるいかなる主要な力に対してもわれわれは打撃を加える立場にいます。局地的力に対しても、われわれの選択が、何もしないでいることと全面的に壊滅させることの間に位置しているというわけではありません。われわれの戦略部隊は柔軟で鋭い反応力を持っていますから、その力の中心部に対して反撃を加えることができますし、また敵の機動力に対しても直接反撃を加えることができます。このためわれわれの持つ核軍事力はそれにともない、装備の取り替えを行いつつあるところです。たとえば、われわれの潜水艦に装備しているある種のミサイルでは核弾頭の数を減らしていますが、それはこの目的のためです。

 しかしながら、われわれの核兵器使用に関する概念は変わらずそのままでもあります。どんな状況下であれ、核の使用は紛争期間中の軍事目的を意味することは疑問の余地がありません。核兵器はしばしば「非使用の兵器」として言及されています。しかしこの公式もわれわれの決意を貫き通し、やむなく核兵器を使用することに疑いを生じさせるものではありません。核兵器使用に対する間違いのない脅威は、われわれを攻撃しようとたくらむそのような指導者たちの眼前に永遠に存在し続けることになります。こうした指導者たちの行動が、彼ら自身と彼らの諸国にとてつもないコストを出費させることになる理由とそのこと自体をはっきり分からせてやることは根本的に必要です。その上云うまでもないことですが、われわれの重要な利益を体制として保証する決意を明確に示すため、最後警告の手段に訴える権利をわれわれは留保しています。

 このようにわれわれの核抑止主義はその原理において変化はないのですが、この主義を表現する様相は徐々に発展し、発展しつつけ、われわれが21世紀の文脈の中でそれを語ることができるようになります。

 その使命に絶え間なく対応しつつ、海軍と空軍の混成部隊の能力は、われわれの関与案件に首尾一貫して対処できます。それぞれ異なる、そして賞賛さるべき特徴を持った2つの混成部隊のおかげで、全ての確認できる脅威に対して対処すべきフランス共和国元首は多様な選択肢を持つに至りました。

 そうした能力の近代化と状況に即した適応は、進展しつつある地勢戦略的環境の中で、絶対不可欠の信頼感を有すべきわれわれの核抑止主義にとって完全に必要であります。

 われわれの兵器廠を現在の状況で十分であるとして、そのまま維持していくと想像してみるのは、結局の所、いささか無責任と云うことになるかも知れません。もしわれわれの核抑止政策が新たな状況に対応できていないものとすれば、われわれの核抑止に対する信頼性はいかにあるべきか?われわれは局地的に発生する全面破壊への脅威を規制し続けなければならないわけですが、その際どのような核抑止力信頼性であるべきか?将来極短距離の弾道ミサイルでどのような信頼性を構築していくべきか?このようにしてM51弾道ミサイルが、その大陸内射程距離のおかげでまた空対地中距離ミサイルシステム(ASMPA)の改良のおかげで、この変化しやすい世界の中、脅威がどこに起ころうが、またその性格が何であろうが、その脅威に対応する手段をわれわれに提供してくれることになったのです。

 またその上、弾道ミサイルの脅威に対処するに当たり、ミサイル防御で十分と満足できる人はどこにもいないでしょう。いかに高度に洗練されたシステムといえども100%効果的な防御システムなどはどこにもないのです。先手を取って脅威を回避する以外に確実な保証はありません。われわれの防御システムは単機能に立脚しているため、実際の所、核兵器、生物兵器、化学兵器などその他の手段を見つけてくる敵に対して早急に対処しておく必要があります・従ってそのような対処は、核抑止の代替策と見なすわけには行きません。われわれが傷を受けやすい部分を削減する補完策であります。

 フランスが断固として大西洋同盟の枠内で共通した考え方へと踏み込んで軍備を配置し、我々自身の防衛システムを発展させている理由がここにあります。我が国の安全と独立には相当の代償がともなっています。40年前、時の防衛相は予算の50%を核軍備に宛てました。この割合はその後徐々に減っていき2008年には18%にしか過ぎなくなると予想されています。今日、「規制ある充足」(Strict sufficiency)の精神の中で、われわれの核抑止政策は全防衛予算の中で、全体として云えば10%以下を占めるに至りました。核抑止に向けられる防衛予算は、先端技術に宛てられております。すなわち基本的には我が国の科学的、技術的、産業研究分野に対するかなりの支援を実現しています。
 防衛努力全体の10%は、我が国に対して信頼性のあるまた継続的な安全を保証するのに十分にして適切な値段ということができましょう。この件に関して疑問を提起するのは、極めて無責任だと言う点を強調しておきます。

 さらに、欧州安全防衛政策(European Security and Defence Policy)の進展、欧州共同体各国の利益の編み上げが発展していること、そして各国間に存在する連帯の力、これらはフランスの核抑止力を、その実在そのものによって、欧州大陸の安全にとっての核要素としているのであります。1995年フランスはこの問題に関するヨーロッパレベルの議論を喚起する目的で協調核抑止力という意欲的な考え方を打ち出しました。その安全に責任を持つ強力なヨーロッパを視野に入れて、現存する核抑止力を計算に入れた共同防衛体制、この体制のことをいつの日か、われわれが自問自答する時がやってくると、私は今でも信じております。さらにいえば、欧州共同体の構成諸国は、共同の安全利益について、それは何なのか、また将来どうあるべきなのかを、今一緒になって考え始めていています。私もまたこの考えを深めていきたいと思います。これが、最初のそして必要なステップです。

 おあつまりのみなさん。

 1964年以来、フランスは自立した核抑止力を保有してきました。歴史の教訓が、ド・ゴール将軍をしてこの究極の選択を採らしめたのです。その後フランスの核軍事力は我が国の防衛を確かなものとし、平和維持に多大な貢献をして参りました。今日、静かに事態を見守り続けるならば、我が国の将来と運命にとって主人とも云える自由の国にわれわれが暮らすことのできる所以が見えて参りましょう。核抑止力は継続していますし、明日も継続するでしょう、そしてわれわれの安全にとっては、究極の保証人なのであります。
(to be the ultimate guarantor of our security.)