No.18-1 平成19年2月17日
国境なき記者団ランキングに見る日本の報道自由度

その@ 鳴らされるアメリカ、フランス、日本への警鐘

鏡が歪んでいるのか我々が歪んでいるのか?

 現代国家において、その国の「報道の自由度」は、実質的な民主主義がどの程度定着しているかを知る直接のバロメーターの一つといっていい。

 その意味で、2006年度で第5回目となる、世界のフリージャーナリストの団体である「国境なき記者団」の作成する「世界報道の自由度インデックス」(Worldwide Press Freedom Index)は、極めて興味あるデータだ。

 そこには、我々日本人が思いこんでいる姿とは、全然異なった日本の姿が写っている。写し出す鏡が歪んでいるのか、あるいは我々が思いこんでいる日本が歪んでいるのか・・・。

 国境なき記者団(英文名称:Reporters Without Borders http://www.rsf.org/ )の2006年度世界報道の自由度インデックスによれば、日本の報道の自由度は、調査168カ国(または地域)中第51位である。50位は今や中東の時限爆弾と化したイスラエル、52位は民主主義的政体の確立に向けて産みの苦しみを経験中のドミニカ共和国だ。

 (このランキングは、http://www.rsf.org/rubrique.php3?id_rubrique=639 で読むことが出来る。又訳文は以下。「国境なき記者団 世界報道の自由度 ランキング 2006」。なおこのランキングの訳出・作成に当たっては、国境なき記者団・東京支部の許諾を得た。心より感謝したい。なおもとのランキングは年次別となっているため、一つの表にまとめ直した。世界報道の自由度ランキング 各国の2003年以来の推移を一覧できる。なお原文は上記ホームページの検索欄で、知りたい年次、たとえば「Index 2006」と打ち込むと参照できる。)

 なお国境な記者団は日本語のWkiepdeia によると、言論の自由(または報道の自由)の擁護を目的とした、ジャーナリストによる国際的な非政府組織。1985年にパリで設立された、とある。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E5%A2%83%E3%81%AA%E3%81%8D%E8%A8%98%E8%80%85%E5%9B%A3 また同サイトには2002年、調査開始からのランキングと評点が出ている。)
英語のWikipedeia(http://en.wikipedia.org/wiki/Reporters_Without_Borders)にはやや詳しく説明が附されている。

 国境なき記者団(本部・パリ)は、現在世界に130人以上のジャーナリストのメンバーをもち、「報道の自由」を推進し、これに関する報道や広報発表も行っている。2005年には欧州議会のサハロフ賞を他の個人・団体とも共同授賞している。

 ただ一部に「国境なき記者団」に対する批判一部にあることも事実だ。その批判は主として、その「公平性」に向けられている。国境なき記者団の基金のうちその19%までが西側の政府または政府関連機関からの寄付によって賄われていることからする見方かも知れない。そうした団体のうち全国民主主義基金(=The national Endowment for Democracy ネットで調べたが適切な日本語訳がないのでこうした。似たような名前でThe International Endowment for Democracy=国際民主主義基金というのがあるが、これとは別物)からの寄付金が大きいので、批判の目が向けられている。この全国民主主義基金はロナルド・レーガンが創立したアメリカ政府関連組織である。特にキューバには特に偏見があるのではないか、アルジェリアには甘すぎるのではないか、アリスティド大統領後のハイチに対しても甘いのではないか、イラク戦争におけるアメリカには甘いのではないか、という種類の批判である。

 確かにキューバ(165位)に対しては厳しすぎる採点かも知れない。アメリカの謀略に取り囲まれ、経済封鎖で締め付けられ、ジャーナリストなのかアメリカの諜報員なのか分からない状況に永年置かれているキューバの立場に立ってみれば、もっと同情的であってもいいのかも知れない。しかし、言論の自由の立場に立てば、2003年に75人の反体制派(うち27人がジャーナリスト)を拘束したキューバ政府を積極的に弁護しようとも思わない。

 何より、私が全体として、国境なき記者団のランキングを信頼するのは、その「報道の自由度」の基準が明確であり、なるほどと思わせる内容だからだ。調査は今回でまだ5回目だが、これから回を重ねるごとに、この基準が精緻を極めていき、特に「先進各国」のそれぞれ巧妙な「言論の自由」封殺のからくりを見破り暴くようになっていくことを期待している。


自由度世界ワーストは北朝鮮(168位)

 はじめに国境なき記者団が、2006年度の世界の状況についてどうコメントしているかを見てみよう。
 
 世界のワースト3は北朝鮮(168位つまり最下位)、トルクメニスタン(167位)、エリトリア(166位)だ。特に北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は2002年に調査を開始して以来一貫して最下位である。トルクメニスタンはカスピ海に接する中央アジアの国だ。長くニアゾフ大統領の独裁体制が敷かれ、「中央アジアの北朝鮮」と呼ばれているほどだ。インターネットへのアクセスも許されていない。昨年12月ニアゾフは突然死去した。エリトリアはエチオピアの南、紅海に面する国である。1993年エチオピアから独立した。独立以来イサイアス・アフェウェルキ大統領の独裁体制が敷かれている。言論弾圧も相当なものだ。

 話はそれるが、このエリトリアでは日系二世のアメリカ人、ゴードン・サトー博士が、砂漠をマングローブの林に変える壮大なプロジェクトに取り組んでいる。ゴードン・サトー博士は無結成培養法を確立し、ノーベル医学賞の候補にもなった人だ。引退後は私費を投じてエリトリアの海岸をマングローブの林に変えようと取り組んでいる。(Gordon Sato と打ち込むと日本語でも英語でも検索でき、氏の足跡を知ることができる。ついでに言えば、博士の無結成培養法は、広島大学の医療研究グループにも伝わり、大きく発展を遂げている。)


アメリカ、フランス、日本に警鐘

 一方、先進国の中では、国境なき記者団はアメリカ、フランス、日本の3カ国に特に触れ、「これらの国々では引き続き報道の自由が腐り続けている。」と警鐘を鳴らしている。

 このランキングの上位にずらっと顔を並べているのは、北ヨーロッパの国々である。フィンランド、アイルランド、アイスランド、オランダといった国々は真の民主主義国と言っていい。毎年共同1位の常連だったデンマークが19位に落ちたのは、例の「マホメットの漫画」事件のせいだ。この漫画を描いた作者は脅迫された。

 さて深刻なのはアメリカである。ランキングは2003年からみてもらうことが出来るが、この調査が始まった年、2002年にはアメリカは17位だった。それが2003年には31位、2004年には22位、2005年には44位、そして2006年には53位にまで落ちてしまった。先進国サミットのメンバーの中でアメリカより下位にある国は、今やロシア(147位)と中国(163位)だけである。

 国境なき記者団は、9・11以来のブッシュ政権の「テロ戦争」に名を借りた言論抑圧政策を要因としてあげている。テロ戦争に批判的なジャーナリストは、FBIやその他の国家機関の監視を受け、疑わしい人物としていろんな嫌がらせや脅迫を受けている。2006年7月フリーのジャーナリストであるジョシュ・ウォルフはビデオ・テープの提出を拒んだために投獄された。(Josh Wolf と打ち込むと様々な記事を閲覧できる。日本語では数少ない。たとえば、ジョシュ・ウォルフでhttp://mkt5126.seesaa.net/archives/20061004.html くらいか。)

 また、アル・ジャジーラで働くスーダン人カメラマン、サミ・アル・ハジは2002年の6月以来、悪名高いキューバの米軍グアンタナモ基地に、裁判なしに投獄されている。(Sami al-Haj と打つと英文だが様々な記事を読むことが出来る。日本語ではサミ・アル・ハジで検索できる。日刊ベリタの記事が優れている。http://www.nikkanberita.com/index.cgi?cat=special&id=200601271213365

 2006年4月にはAP通信で働くカメラマン、ビラル・フセインがイラクでアメリカ軍に拘束された。
(Bilal Husseinと打つと、英文で様々な記事を読むことが出来る。彼はイラク人で2005年にはピューリッツアー賞を受賞している。日本語ではhttp://www.peace-forum.com/mnforce/qa06.htmlなどの記事が優れている。)

 それにしてもブッシュ政権は狂っているとしかいいようがない。アメリカの既成ジャーナリズムは、時の権力と密着しながらその影響力を保ってきた。報道の自由という前に自ら進んで権力が行う世論操作の道具になってきたという側面がある。たとえば、1945年、アラモゴード砂漠で最初の原爆実験が行われたときに、ニューヨーク・タイムスの科学記者ウィリアム・L・ローレンス記者は、マンハッタン計画の総責任者レジール・グローブズの要請を受けて、「原爆で放射能や死の灰はでなかった。」というでっち上げ記事を書いた。しばらくアメリカ国民は、原子爆弾は放射能や死の灰は生じないと信じていた。なおローレンスはこの記事でピューリッツアー賞を受けている。(詳細はトルーマンは何故原爆投下を決断したか?「X.投下を推進する勢力」http://www.inaco.co.jp/isaac/back/009/009.htm )
 
 しかし、連邦裁判所がニュース源の秘匿を否定する判決を下したり、ジャーナリストを露骨に拘束したり、白昼投獄したりするような政権はこれまでなかった。もっとオブラートに包んできた。
 
 報道の自由の国アメリカは、今や全くの幻想である。
 
 日本のことは後でまとめるとして、フランスは2003年に26位、2004年に19位、2005年に30位、2006年にはついに36位にまで転落してしまった。キプロス(30位)、韓国(31位)以下である。「国境なき記者団」の報告によるとこれはメディアの事務所やジャーナリストの事務所が家宅捜索を受ける事件が多発しているためという。また、労働運動がらみの事件でジャーナリストが襲撃されたり、脅迫を受けている事件も増えたという。フランスでも何かおかしなことが起こっていると言うべきだろう。


南米ボリビアが16位

 一方明るい話もある。

 なんと言っても中南米のボリビアが16位に入ったことだろう。国境なき記者団は、「経済的に繁栄していない国でも報道の自由を確立できる格好の見本」として賞賛している。ボリビアは2003年には51位、2004年には76位、2005年には45位だった。何がボリビアに起こったのか?
 フアン・エボ・モラレス・アイマ大統領は、2005年12月の大統領選挙で当選した。ボリビア史上初めての先住民(インディオ)出身の大統領である。長い反政府運動を経て大統領に当選した。当選後は社会主義的な政策を推し進め天然ガス、石油の国有化を推し進めた。また外国資本に対しては180日以内の再契約を行うかまたは撤退を迫った。

 モラレス大統領の政策が正しいのかどうかを私は論評する立場にはない。ただ事実関係としていえることは、モラレスは言論の自由を推進していると言うことだ。別な言い方をすれば、モラレスは言論の自由を身方にしていると言うことだ。

 国境なき記者団は、「この国のジャーナリストは、いまやカナダやオーストリア並の言論の自由を謳歌している。」と指摘している。

 さらにボスニア・ヘルツゴビナが19位に入ったことも特筆すべきであろう。1992年、旧ユーゴスラビアから独立するとすぐに、イスラム教徒、東方正教会教徒、ローマカトリック教徒の民族対立を背景にした内戦が勃発。首都サラエボの冬季オリンピック会場はさながら死体置き場と化した。国連の調停で和平が実現したが、NATO軍は未だに駐留して治安の維持に当たっているという。専門家の分析は分からないが、2003年度37位、2004年度21位、2005年度33位、そして2006年度19位と見てくると、その和平は本物であるように見える。

 「報道の自由度」は民主主義の指標であると同時に平和の指標でもあるのだ。

 もう一つ目につくのは、冷戦崩壊後、旧共産圏諸国の中に多く報道の自由度の高い国が見られるという事実だ。

 バルト三国、エストニア(6位)、ラトビア(10位)、リトアニア(27位)の3カ国はもともと東欧の分類に入れるのがおかしいくらい民主主義思想が発達していたが、「プラハの春」を経験したチェッコ連邦(5位)及びスロべニア(8位)、ハンガリー動乱を経験したハンガリー(10位)など皆上位に位置している。ポーランド動乱・「連帯」を経験したポーランドの53位が見劣りするぐらいだ。

 これを見ていると民主主義=言論の自由は、体を張って戦い取り、体を張って守るものだと言う感を深くする。


先進的なアフリカ諸国も徐々に上位へ・・・

 一部先進的なアフリカ諸国も目立つようになってきた。
 
 23位のベニンはこのところずっと30位以内に定着している。この国のことは全く知らなかったので、今回調べてみたら、昔のダホメだった。政情の安定しない典型的なアフリカの新興国だと思っていたら、マチュー・ケレクという人が大統領になって以来政情が安定し、社会主義的政策の行き詰まりの後、市場開放政策を推し進め、今や近隣の諸国に平和維持部隊を派遣するなど指導的な地位に居るのだそうだ。マチュー・ケレクは2006年に任期満了で引退し今は、選挙でヤイ・ボニ大統領が就任している。最近の日本語表記ではベニンではなく、ベナン共和国と表記するのだそうだ。

 26位にはナミビアがランクされている。1990年南アフリカから独立した人口200万人足らずの小国だ。長い植民地時代、南アフリカのアパルトヘイトに苦しめられた歴史が、言論の自由度を高くしたのだろうと私は推測している。2003年の56位、2004年の42位から急上昇である。

 32位にはモーリシャス共和国がいる。1962年イギリスから独立した時には立憲君主国だった。政治的対立を経て1992年に共和国に移行して以来、民主的な運営が続いているという。

 34位にはガーナがランクされた。前年の66位から見ると大幅な改善である。エンクルマ大統領がクーデタで失脚した後、政情不安定、経済は破産状態に陥ったが、1992年の民政移管の後、国情は安定しつつあるという。報道の自由度から見ると長い試行錯誤を経て確実に発展しつつあるようだ。


惨憺たるアジア諸国

 アジア諸国を見てみると惨憺たるありさまだ。

 アジア諸国のトップは31位、お隣の韓国だ。2003年の49位、2004年の48位、2005年の34位から2006年の31位と着実にその報道の自由度を上げている。いろいろ批判もあるだろうが、これは確実にノ・テウ政権の功績だろう。ノ・テウ政権がもつ雰囲気が韓国の自由度を上げたのだ。

 しかもこの国の言論の自由には筋金が入っている。日本占領時代には、言論の自由どころか、民族の誇り、自国の言葉すら奪われつつ戦ってきた。戦後は朝鮮戦争のため無理矢理作らされたアメリカの傀儡政権の弾圧とも戦ってきた。その後軍事政権とも戦った。こうして民主化要求の嵐を乗り越えて獲得した自由だ。後戻りすることはないだろう。
 
 40位までに入っているアジアの国は韓国だけである。

 その次が43位の台湾、51位の日本、そして58位の香港と続く。経済的繁栄が続く中国は昨年から4つも下げて163位でほとんど最下層グループだ。国境なき記者団は中国について、「確かに中国のメディアの数は増加の一途をたどっており、極めて活発だ。しかしながら、同時に抑圧も、政府の宣伝攻勢や公安部の活動に裏打ちされて、大きくなっている。世界でもっとも人口の多い国の政府は、新華社を通じてのニュースの独占を続けると言っている。事前検閲もいっそう激しさを増した。また罰則も増えている。多くのニュースを取り扱うウエブサイトが閉鎖を余儀なくされた。また身体的攻撃もエスカレートしている。あるジャーナリストは警察に殺されている。」とコメントしている。

 中国が国際政治の中でいかに主導権を発揮し、経済的な繁栄を続けても、「言論の自由」がこのような状態では、国際的な尊敬は得られないだろう。

 ランキングのワースト20の中にアジアの国が7つも入っている。先ほども見たようにベスト20には一つも入っていない。

「アジア的後進性」という他はない。

 日本が本来こうした点でアジアのリーダーシップを取るべきなのだが、あとで見るようにアジア的後進性、戦前の絶対中央集権主義的体質から抜け出せないでいる。

 164位のミャンマーは、「言論に対して抑圧の度を高めており、7人のジャーナリストが投獄されているほか、新たに11人が逮捕された。事前検閲の度合いも激しさを増している。一見メディアが乱立しているように見えるパキスタン(157位)も、一皮めくると官憲や秘密機関による誘拐、身体的襲撃が続いている。」

 「一方ベトナムは、依然として表現の自由を押さえているものの、3つ上げて155位となった。ラオスは、メディアが政府情報局の命令に従わざるを得ない状態が続き、156位で変化なしだった。」
 
 146位のシンガポールはさらに悪化している。外国人ジャーナリストに対する法的規制措置がとられ、6つも順位を下げた。フィリッピンは、ジャーナリストの誘拐、政府権力による嫌がらせが続いており、3つ下げて142位となった。
 
 東チモール(83位)やモンゴル(86位)では若々しい民主主義が育ちつつあるものの、ジャーナリストに対する身体的襲撃や脅しが続き、若干だが順位を下げている。

 ブータンは同国最初の民間新聞社が生まれるなど、言論の自由化が一気に進み、44も順位を上げ98位にランクされている。ネパールは、2006年度のランキングでこそ159位だが、2006年4月の民主主義革命の結果、王制が転覆、基本的人権に基づく自由が一挙に拡大した。2007年度のランキングが期待できる。

 しかし、全体として言えばアジア的後進性は覆うべくもない。


(以下そのAへ)