(2010.5.17)
<参考資料> 2010年NPT再検討会議

核兵器不拡散条約(the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)
NGOグループ 演説者リスト (2010年5月7日現在)

 5月7日の一般討議は、すべてNGOグループの意見発表に当てられた。ただNGOグループはこれまでのいきさつからして、西側先進国から生まれたものが多く、3日から5日までの討議の内容と比較すると、時代遅れや的外れになってしまった内容も出てきている。一言でいえば非同盟諸国の主張の方が、「核兵器廃絶」へ向けてはより前進的で、より実際的だといえる。これは「核兵器廃絶問題」に関しては、日本を含む「西側先進国」の方が逆に「思想的後進国」になってしまったという、一種奇妙な逆転現象の反映といえるのかも知れない。「思想的後進国」で多く生まれたNGOグループが後進性を色濃く残しているという見方も可能であろう。

 1.レイ・アチソン(Ray Acheson)
「決定的な意志に到達−自由と平和のための女性国際連盟」
(Reaching Critical Will, Women's International League for Peace and Freedom)

(<http://www.reachingcriticalwill.org/>)
 実はこのNGOグループは今回私の第一ニュースソースである。といって個人的に誰かを知っているわけでもないし、友人がいるわけでもない。情報が網羅的で的確だからだ。「再検討会議行事予定表」http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/NPT/2010_calendar.htmもこのグループのサイトからの丸写しである。

 この演説は以下http://www.un.org/en/conf/npt/2010/pdf/reachingcriticawill.pdf

 2.ジョディ・ウイリアムス(Jody Williams)
「ノーベル女性イニシアティブ」(Nobel Women's Initiative)
http://www.nobelwomensinitiative.org/
ジョディ・ウイリアムスをはじめとするノーベル平和賞女性受賞者で2006年に結成したNGO。
 この演説は以下。http://www.un.org/en/conf/npt/2010/pdf/jodywilliams.pdf しかし、この中身は今となってはかなり的外れ。

 3.谷口稜曄(すみてる)
日本原水爆被爆者団体協議会(日本被団協)<http://www.ne.jp/asahi/hidankyo/nihon/>。谷口氏は長崎原爆被災者協議会(<http://www1.cncm.ne.jp/~hisaikyo/>)の会長。
 この演説は以下。<(http://www.un.org/en/conf/npt/2010/pdf/japanconfederation.pdf)>。但し朝日新聞の電子版で日本語原文が読める。(<http://www.asahi.com/national/update/0508/SEB201005080009.html>。
この演説は、一般討議の内容と比較すると、私には相当な異和感が残る。NGOとして被爆体験を語るのは当然だろうが、未だに被爆体験だけとは。再検討会議そのものは「体験」を語る場ではないだろう。その体験や見識、研究を通して、「核兵器廃絶」へ向けての具体的・現実的な提案なり、その提案を実現するための問題点、言い替えれば何故核兵器廃絶が実現できないのか、という問題を議論しなければならない。私には的外れの印象しか残らない。もっとも再検討会議に出席している人たちは「日本の被爆者は原爆体験しか語らない。」という認識が一般的だろうから、この演説に対して表立った批判はないだろうが。やはり、被団協は「原爆被害者国家補償要求団体」であって「核兵器廃絶運動」団体ではない、という思いを強くする。

 4.バーバラ・ストライブル及びファティ・オーズカン(Barbara Streibl and Fatih Oezcan)
「すべてのすべての核を禁止世代」(Ban All Nukes generation)
(<http://www.bang-europe.org/>)
 この演説は次。(<http://www.un.org/en/conf/npt/2010/pdf/banallnukesgeneration.pdf>)

 5.ロブ・グリーン(Rob Green)
軍縮・安全保障センター(Disarmament and Security Centre)
(<http://www.disarmsecure.org/>)
 この演説は次。(<http://www.un.org/en/conf/npt/2010/pdf/disarmamentsecuritycentre.pdf>)。「核兵器のない世界」を標榜しながら、未だに「核抑止論」を盾に、「核兵器保有」を正当化していることを痛烈に批判している。

 6.クリス・フォード(Chris Ford)
ハドソン研究所(Hudson Institute)<(http://www.hudson.org/)>。ハドソン研究所はランド・コーポレーションを母体とするアメリカ保守派のシンク・タンク。
 この演説は次。<http://www.un.org/en/conf/npt/2010/pdf/hudsoninstitute.pdf>。5のロブ・グリーンとは逆に「核抑止論」を徹底的に擁護している。しかし「対核テロ対策」と核抑止論の根本的矛盾については説明仕切れていない。

 7.レベッカ・ジョンソン(Rebecca Johnson)
「軍縮外交のためのアクロニウム研究所」(Acronym Institute for Disarmament Diplomacy)<(http://www.acronym.org.uk/)>
 この演説は次。<http://www.acronym.org.uk/>)。「核兵器廃絶は可能だ。」として「自分の生きている間は核兵器廃絶は実現できない。」というオバマ大統領を一応批判して見せているが、肝心の廃絶への具体的な道筋ははっきりしない。いつもながらわけのわからないオバサンである。(といって彼女のサイトの個別の情報は貴重であるが。)「核兵器廃絶」は単なる市民運動ではない。核兵器廃絶は鋭い政治問題なのだ。お国のイギリスではスコットランド独立運動と絡んで核兵器廃絶をとうとう政治課題にしてしまった市民達がいる。(われわれ日本の市民も学ばなければならないだろう。)本気かどうかは別として、保守−自民連立政権も核兵器廃絶を政治課題にせざるを得なかった。現実はレベッカ・ジョンソンよりはるかに進んでいる。

 8.ジョン・バローズ(John Burroughs)
核政策に関する法律家委員会(Lawyers Committee on Nuclear Policy)。(<http://lcnp.org/>)
 この演説は次。(<http://www.un.org/en/conf/npt/2010/pdf/lawyerscommittee.pdf>)。事実関係を丁寧に追いかけていった科学的な論文で、結論や認識はどうあれ、傾聴に値する。

 9.ジェー・ワン・リー(Jae Won Lee)
「韓国の平和と再統一のための連帯」(<Solidarity for Peace and Reunification of Korea>)
(<http://spark-korea.org/>)
 この演説は次。(<http://www.un.org/en/conf/npt/2010/pdf/solidaritypeace.pdf>)。韓半島の非核化を訴え、核兵器保有国の「非核兵器保有国」への「消極安全保証の確立」を求める。日本の外務省の主導の「東北アジア非核兵器地帯」は完全にアメリカの「核兵器不拡散政策」の補完物だが、リーの主張する意見はもっと「攻撃的非核兵器地帯」の系譜に属するように見える。丁寧に読んで見なければならないだろう。

 10.ホーリー・リンダムード(Holly Lindamood)
デイジー・アライアンス(Daisy Alliance)(<http://www.daisyalliance.org/>)。デイジー・アライアンスは5月7日に関連イベントとして「中東非核兵器地帯への道程」というセッションを開いている。(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/NPT/2010_calendar.htm>)
 この演説は次。(<http://www.un.org/en/conf/npt/2010/pdf/daisyalliance.pdf>)。演説の中身も「中東非核兵器地帯」に関するものだが、イスラエルに核兵器の放棄を厳しく迫った内容になっているかどうかは疑問だ。

 11.マリー・オルソン(Mary Olson)
核情報資源サービス(Nuclear Information and Resource Service)。<(http://www.nirs.org/)>核兵器廃絶だけでなく、原子力エネルギー全般の危険性を訴えるアメリカのNGO。主張はともかく、とにかく調べている。この科学的姿勢、実証精神には私たちも学ぶところが多い。
 この演説は次。(<http://www.un.org/en/conf/npt/2010/pdf/nuclearenergy.pdf>)

 12.ジャヤンタ・ダナパラ(Jayantha Dhanapala)
パグウォッシュ会議(Pugwash)(<http://www.pugwash.org/>) 。ダナパラはパグウォッシュ会議の会長。
 この演説は次。(<http://www.un.org/en/conf/npt/2010/pdf/jayanthadhanapala.pdf>)。ダナパラは良くも悪くもNPTの役人だ。ただこの演説は「NPT小史」として参考になる。

 13.アメリア・ブルドリック(Amelia Broodryk)
安全保障研究所(Institute for Security Studies)(<http://www.iss.co.za/>)。安全保障研究所は、汎アフリカ主義のシンク・タンク。本部は南アフリカのプレトリア。
 この演説は次。(<http://www.un.org/en/conf/npt/2010/pdf/institutesecuritystudies.pdf>)。新アジェンダ連合に属する諸国の専門家を代表しての発言としている。発言は地味だが、「核兵器廃絶」の現段階での到達点をよく押さえていると思う。こういうのを読むと、西側「先進国」での議論がいかに遅れているかがわかる。

 14.杉谷義純
世界宗教者平和会議(Religions for Peace)(<http://www.wcrp.org/>)杉谷義純は世界宗教者会議の事務総長で、前天台宗宗務総長。<(http://www.wcrp.or.jp/public/pressrelease13.10.30.html)>。
 この演説は次。(<http://www.un.org/en/conf/npt/2010/pdf/religiousleaders.pdf>)。なお、世界宗教者会議日本委員会(<http://www.wcrp.or.jp/>)に確認してみると、この英文テキストは最終版ではない、とのことで現在国連に提出中とのことだ。入手でき次第、差し替えることにする。ただし大筋は変わらないとのことだ。

 15.秋葉忠利
広島市長
 この演説は次。(<http://www.un.org/en/conf/npt/2010/pdf/mayorakiba-final.pdf>)。広島市に確認すると現在日本語に翻訳中で、近く広島市のサイトに掲載するとのこと。掲載されればそちらにもリンクをする予定。ただ英語テキストを一読すればわかるとおり、飛び抜けて短く、ほとんど何も言っていないのに等しい。締めの言葉が「Yes, we can!」で、これはオバマ大統領のフレーズだ。これまでの全体発言から推測すると、NPT会議の雰囲気は、必ずしもオバマ賛美ではなく、むしろアメリカの核兵器政策に対して批判的な非同盟諸国主導の内容になりつつあると感じられる。秋葉市長のこの「オバマ賛美」のトーンは、浮き上がったものとなったのではないか。

 16.田上富久
平和市長会議(Mayors for Peace)(<http://www.mayorsforpeace.org/>)長崎市長。秋葉市長が広島市長の資格での発言であるのに対し、田上市長は平和市長会議代表としての発言。
 この演説は次。(<http://www.un.org/en/conf/npt/2010/pdf/mayortaue.pdf>)。これも短いので一読するとおわかりだと思うが、要は「核兵器廃絶」をスローガンのようにして連呼するだけで、内容がない。要するに研究・考察した形跡がない。15.の秋葉広島市長や3.の日本被団協の演説とどこか共通性があり、「核兵器廃絶問題」をそれぞれ自分たちの立場で調べ、考え抜いた跡がないのが特徴である。

 なおこの演説の原文は日本語で、次の長崎市のサイトで読める。(<http://www1.city.nagasaki.nagasaki.jp/mayor/teirei/nptsiryou.pdf>)。長崎市によると、この演説の原文は日本語だそうだ。田上市長が平和市長会議代表としての演説だったので、平和市長会議のサイトを探したが、こちらではこの演説原文は見つからない。

 以上が7日の演説者である。中にはこれまで触れた通り非常に重要な内容を含んだものもある。いずれ日本語化していくつもりだ。