【参考資料】ヒロシマ・ナガサキ・フクシマ
(2010.4.2)
 

<参考資料>福島原発事故:今起きていることとその最悪のシナリオ@

行方不明者2名の意味は
 4月6日追記※ この記事をアップした後、4月3日に行方不明者が遺体で発見と報道された。しかし遺体の発見が3月30日、死因特定が4月2日。原子力災害対策本部の報告に載ったのは4月3日13時30分の資料。直近の出来事として遺体発見すら、それまで伏せられている。

 東京電力福島第一発電所で起きている未曾有の原発事故に関して、毎日洪水のような量の情報が流されている。私たちはこうした情報の中から、自分なりに整理して事態を理解し、ものごとの本質を見極め、一人一人が自分の頭で考え、判断し、正しい対応をとる必要に迫られている。大げさでなく日本列島の運命と私たち日本人の市民生活全体が現在の事態の行く末にかかっている。物事の大小と一つ一つの情報の価値を見定めていかなければならない。そうした判断の材料の一つとなることを願って、また私自身の整理と認識を深めるためにもこの<参考資料>を作成する。

 ベースとする資料は、首相官邸に設けられた「福島第一原子力発電所に関わる原子力災害対策本部」(以下災害対策本部と略)発表の『平成23年(2011年)福島第一・第二発電所事故について』と題する報告書で、これは官邸のホームページで簡単にダウンロードできる。
また私のサイトでも適時掲載することにした。

 ただし官邸の発表の仕方は、上書き方式で過去に発表したデータを消されていく。だから、前後比較すると時々クビを傾げるところが出てくる。

 例えば、災害対策本部2011年(原文は平成表記だが、すべて西暦表現で記述する。これは専ら私の頭の都合だ)3月12発表資料では、「人的被害」の項目で『行方不明2名(4号タービン建屋内)』という記述が出てくる。行方不明者が誰なのか、「4号タービン建屋内」というのは「4号炉のタービン室建屋内」ということだと思われるが、事故発生から3月12日14:00現在までの間にとにかく行方不明者が2名でている。

 これが3月25日発表資料では、単に「行方不明2名」というさらに簡単な記述に変わる。爆発かなにかが起こり死亡したのか、あるいは津波でさらわれたのか、あるいは現場から逃げ出して行方を眩ませたのか、東電の社員なのかあるいは下請け会社の社員なのか、男性なのか女性なのか全くわからない。ともかく行方不明は3月25日発表資料の段階でも「行方不明」ままだ。

 これが4月1日(13:00)現在発表資料では、『行方不明:社員2名(4号機タービン建屋内)(同12/52ページ)とやや詳しくなる。こうなると2名が現場から逃げ出したなどということはちょっと考えにくい。東電社員ならば、東電が家族に連絡をとって安否を確かめるはずだからだ。本当に行方不明なのだ。津波にさらわれたのか。だとすれば4号炉タービン室内部は壊滅的な打撃を受けているはずだ。

 しかし同日発表資料では、4号機についてこれまで重要な事象を記述した後『29日11:50中央制御室の照明が点灯』と記述し、計器不良のため主要データが得られないとし、タービン室建屋内のことには全く触れられていない。津波で壊滅的打撃を受けたとは思えない。

 そうするとこの2名は、何か痕跡を残さないほどの事故にあったか、あるいは「行方不明」としなければならないほどの「重大な事象」が存在して、それを隠しているのか、あるいは単純な誤記がチェックもないままに記載され続けているのか、といろいろな想像が膨らむ。

 今の問題は、「重大な事象があって東電側が隠している」ケースだ。それでなくても危機的状況が続いている福島第一原発事故である。もしこの事象が存在して隠されているなら、今後の見通しも狂ってくる。「行方不明者2名」について東電側は説明が必要だろう。また災害対策本部も怠慢と云わざるを得ない。


写真は日本語ウィキペディア「福島第一原子力発電所事故」からコピーして加工


不可解な点の多い資料だが

 さらにこの資料には不可解な点が多い。今一番大事なデータは原子炉内部のデータだ。

 原子炉水位、原子炉(圧力容器内)圧力、格納容器内圧力、それぞれの温度などといったパラメータ(変数)だ。ところが『別添1』の「福島第一原子力発電所パラメータ」と題された資料で、1号機、2号機、3号機の原子炉内温度に関するデータは一切書かれていない。

 温度は本格的な炉心溶融を読み取る最重要のパラメータである。事故で計器が狂っているのかと思うとどうもそうではなく、4号機では「原子炉水温度」の項目が設けてあり、すべて「−」の表示になっている。5号機では「3月15日21:00 167.0(℃)」の表示以降全て書かれており、「3月20日7:00 185.0」を最後として100℃を切り、「4月1日6:00  29.8」となっており、大変いいデータである。6号機も「3月20日16:00 167.5」を最後に100℃未満に入り、「4月1日6:00 44.1」とこれも安心するデータである。

 そうするとこの『別添1』資料は、5-6号機の「原子炉水温度」について安心させるデータだけを公表し、1-4号機の不安を抱かせるデータは公表しない方針なのかと思ってしまう。

 また「使用済み核燃料プール」に関するパラメータは、4号機、5号機、6号機についてはわずかに発表されているが、1-3号機については全く記述がない。使用済み核燃料プールにも危険な使用済み燃料棒が存在しているのだ。その危険度は原子炉内にある燃料棒と全く変わらない。

 公表されているデータでも疑問点が多い。たとえば、1号機圧力容器の圧力に関する記述である。事故発生3月11日の日付が変わって3月12日深夜、計測時刻は不明ながら、原子炉圧力容器内圧力は「0.800MPaG」だったと記載されている。

 「MPaG」は、「メガパスカル・ジー」と読む。「パスカル」とは圧力の単位である。日本語ウィキペディア「パスカル」の項目を読むと「1パスカルは、1平方メートルの面積につき1ニュートン(N)の力が作用する圧力または応力と定義されている。」と書かれている。それでは「1ニュートン」はどういう力かというと「1ニュートンは、1キログラムの質量をもつ物体に1メートル毎秒毎秒 (m/s2) の加速度を生じさせる力と定義されている。」と書かれている。つまり停止している1kg物体に秒速1mの加速度を与える力、ということになる。

 ややこしいことは抜きにしていえば、地球上の表面の1気圧とは「0.101325MPa(メガパスカル)」に相当する。だから「0.800」Mpa(メガパスカル)とはおおよそ7.89気圧の圧力があったことになる。沸騰水型の原子炉圧力容器は90気圧が設計強度の限界とされているので、約8気圧は大した数字ではない、と思われるかも知れないが、原子炉は停止中であり、1気圧程度だと正常の範囲であるが、停止中に8気圧は異常である。明らかに内部で異常事態が起こっている。それで圧力が異常に上昇している。
(後に詳しくこうしたデータを見てみることにする)



 そう思ってこのデータを読んでいくと、13日8:00に「0.353」と突然下降する。どんないきさつでこの「0.800」が「0.353」に下降したのか時刻を追っていこうとしてはじめて気がついた。
最初の「0.800」の計測時刻は「−」(未知)であるが、次の「0.800」は「2:45」となっている。つまり12日深夜2時45分に計っても「0.800」だった。その次に「0.800」が7回続くのだが、その時刻はすべて「2:45」なのだ。つまり同じデータを9回繰り返したことになる。(上の写真を参照のこと) 

 あまりにバカにした話ではないか。どうせ誰も読まないだろうと思って単純な誤記ミスををそのまま災害対策本部が発表したのなら、まだ理解もできる。しかし、この間危機的状況(このデータのままでも十分危機的状況だが)が存在して、それを隠すためにこうした記述を行ったとも考えられる。(それほど私は東電、管政府を信頼していない。)

 数字の羅列を見ていくわけだから、ついつい大きな変化のポイントだけが目につく。同じ数字は見過ごし勝ちになる。そこにつけ込んだ悪質な記述の仕方と考えられなくもない。

 特に3月12日午後3時30分頃1号機は水素爆発を起こして原子炉建屋が吹き飛んでいる。その時刻近辺まで、圧力は「2:45 0.800」を繰り返している。「なにか隠しているのではないか」と私が疑う理由だ。

 全体として云えば、安心させるデータばかりを並べて、不安に思うデータは隠しているのではないかと思わせる「原子力災害対策本部発表資料」だが、それでも福島第一原子力発電所で今何が起こっているのか、を知るのに当たって第1級資料であることは疑いない。

 少なくとも、「大丈夫だ」、「電力不足が心配だ」を繰り返し、今や東電・政府の「一大プロパガンダ機構」としてしかその機能を果たしていない既成大手マスコミの報道を読んだり、見たりしているより、はるかに「今起こっている事態」の理解には役立つだろう。

 それを次回からに見ていくことにする。

 
(以下次回)