【参考資料】ヒロシマ・ナガサキ・フクシマ
(2010.3.27)

<参考資料>福島原発事故:小出裕章インタビュー第1回目「最悪の事態を避けるため全力をあげる時」

(第2回小出インタビューへ) 
正しい危機感共有が危険突破の鍵(

 「福島原発事故」は最悪どんな事態になるのか。どんな事態が最悪のシナリオなのか、広島原爆についていささかなりとも知る私たちは、京都大学原子炉実験所・小出裕章(助教)が時間を取ってくれるというので会いに行った。

 小出に会いに行った理由は、小出が優秀な原子力学者(研究キーワードは原子力安全、放射能汚染、放射線計測、 確率論的安全評価、 事故解析など)である他に、彼が率直に事態を説明してくれる数少ない専門家だという点だ。原子力に関係する学者・研究者は数多い。しかし一部の原子力産業や電力業界御用学者(といっても彼らが学術界の支配的潮流だが)は除いたとしても、率直に私たち市民に口を開いてくれる専門家は驚くほど数少ない。

 誤解を恐れずに云うならば、間違えても構わない。専門家は今こそ口を開くべきだ。全ての事象に正しい回答が出せる一人のスーパーマンなどは存在しない。多くの専門家が口を開いて自由に議論し、お互いに批判しあってこそ、正しい回答に達することが出来る。東京電力福島第1原子力発電所事故は、まかり間違えば日本列島の機能と私たちの生活の場を半分奪ってしまう危機に発展しかねない。専門家が口を開かなければいつ開くというのか。誰のための科学でなんのための研究か。

 今から65年以上も前、最初の原爆がまさに完成しようというその時、1945年6月11日マンハッタン計画の科学的研究と開発の中枢を担ったグループの一つであるシカゴ大学の冶金工学研究所の科学者たちは「原爆の使用はやめるべきだ」という点を骨子とする報告書を時の陸軍長官ヘンリー・スティムソンあてに送った。いわゆる「フランク・レポート」である。
(「フランク・レポート」<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/flanc_report.htm>を参照の事)

 その冒頭に次のような一節がある。

 ・・・しかしながらわれわれは同時に、過去5年間この国の安全にとってまた世界の全ての国々の将来にとって、容易ならざる危険が存在することを知りうるひとつの小さな市民グループでもあった。しかもわれわれを除くその他の人類はこの危険を知らないのだ。それ故に、ことの重大さに鑑み、原子力に関して熟知している立場から想起せらるる政治的諸課題に注意を喚起し、なさるべき決定のための準備や研究へ向けてそのステップを示すことはむしろわれわれの義務であると感ずるに至った。』前掲「緒言」参照の事

 フランク・レポートの科学者たちは、自ら「一つの小さな市民グループ」と規定し、しかも「容易ならざる危険が存在しうることを知りうる」市民グループと規定した。その立場から「なさるべき決定のための準備や研究へ向けてそのステップを示すことはむしろわれわれの義務であると感ずるに至った。」と述べている。

 この時のフランク・レポートの科学者が置かれている立場と、現在日本の原子力科学者や研究者の置かれている立場は酷似している。まさに発言するのは「科学者の義務」なのだ。

 小出は強い危機感を持っている。強い危機感を持っているのは小出一人ではない。小出の同僚である同じ京都大学原子炉実験所の今中哲二も強い危機感を持っている。小出や今中ばかりではない。多くの原子力科学者や研究者もそれぞれの立場で強い危機感を持っている。原発容認派の学者(原発推進派ではない)の中ですら危機感は強い。

 私が感じている危機感は過剰だと感じる人は多いかも知れない。しかし事態を知れば知るほど危機感は強くなる。今の問題は彼らの危機感が、日本全体の市民たちの間と共有できていないということだ。東電や原子力安全・保安院、官房長官枝野幸男の記者会見での記者たちとの間抜けなやりとりを見よ。私たち日本の市民の間で危機感が共有できていない証拠の一つである。

 正しい危機感は正しい情報と認識の共有から生まれる。そして正しい危機感は正しい情勢判断と準備と一人一人の正しい決断を生む。こうした正しい危機感の共有なしには、私たちはこの危険(福島原発事故)を乗り切れない。正しい危機感は根拠のない恐怖感とは違う。根拠のない恐怖感は逃避と怯懦と敗北しか生まない。

 市民の側の責任も大きい。危機感を共有するためには市民の側も積極的に事態の理解へ向けて努力しなければならない。セシウムだの、シーベルトだの云われてもわからない、何を言っているのかわからない、と受け身になっていたのではいつまでも理解は出来ないし、危機感を共有することはできない。専門家にできるだけわかりやすく説明する責任があることはもちろんだが、市民の側も出来るだけ積極的に理解するよう努力し、受け身の姿勢を改めるべき時だ。そうして受け取った情報を自分の頭で考え判断するという態度が必要だ。

 小出とのインタビューでみなさんと正しい危機感の共有がいくらかなりともできれば私としては望外の幸せだ。前置きはこのくらいで早速インタビューのやりとりに入ろう。文中小出の発言は『 』でくくった。また質問者はA、B、Cとした。(うち一人は私である。)また小出の発言を補う註はその箇所に説明註として補った。説明のための註は小さめの青字のフォントにしてある。以下そのやりとり。

「想定外」ではなく「想定放棄」

 今回の東北関東大地震は、広島原爆の3万発分のエネルギーが放出されました。よく核実験なんかの時にTNT火薬に換算してといいますけれど、その換算値でいうと、広島原爆のエネルギー出力を16キロトンと見た時に、その3万発がいっぺんに出したぐらいのエネルギーを今度の地震は出しているわけですよ。』

  広島原爆の出力については1.2万トン(12キロトン)からいろいろな見方がある。たとえば、「核兵器アーカイブ」の「アメリカ全核兵器一覧表では広島原爆の出力を1.5万から1.6万トン、としている。小出は1.6万トンと見ているわけだ。(<http://nuclearweaponarchive.org/Usa/Weapons/Allbombs.html>を参照の事。)

人間の営みとは全然違うものなんですね、自然の力は。自然の大きさ、地震の大きさというものは。そんなものが起きた時に、人間がそんな自然の力に対処できるなんて思う方がおかしいわけですよ。そういうこと自体が間違いだと、私は思っている。

 ところが原子力を推進してきた人たちというのは、どんな地震や大津波が来たって原子力発電だけは大丈夫だと言い続けてきた・・・。

 ただ、彼らにしてもマグニチュード9.0なんていう地震を想定してしまったら、ああ、やっぱり難しいと思ったでしょうし、彼らが想定している地震はいつももっともっとちいちゃいものですし、彼らはそんな大きなものは想定しないできた。本当に大きな地震や津波がきた時には「想定外」という言葉を使って自分の責任を免れようとするわけですね。』

 2011年3月18日(金)に開かれた第110回原子力安全問題ゼミで、「もうやめよう、原子力 ほんとうに・・・」と題して講演した小出は、現在の原子炉立地審査指針を批判して、重大事故に対して仮想事故を措定し、重大事故を越えるような、「技術的見地からは起こるとは考えられない事故」とし最初から「重大事故」を越えるような事故は考えていない、と述べた。つまり今回のような大地震や大津波は言葉の正しい意味で「想定外」だったのではなく、最初から想定することをやめてしまっていたことになる。「想定外」だったのではなく、想定することを放棄していたのだ。

東電にもわからない

−B:それで、もう起きてしまったわけです。今福島原発で何が起きているのか?先生は今どんな事態になっていると見ていらっしゃいますか?

 正確にいうとわからない・・・。それは何故かというと、情報がないからです。私は一番はじめは東電と国が情報を隠しているのだと思っていた。情報を持っているのに隠していると思っていると思っていた。でも実はそうではない、と今は思います。東電自身が情報を持てないままに、ここまで来てしまった、と思っています。
 
 たとえば私は一番知りたいのは、原子炉の中の状態です。たとえば圧力が何気圧であって、温度が何度で、炉心の損傷具合がどうであって、水はどこまできていて・・・。そうしたことを東電自身がわからないまま来ている・・・要するに、一切の電源がないわけですから、計器すら生きていないと、云う状態でここまで来てしまったわけですから。3月24日になってホントにわずかな情報が出てきましたけれど。こんな情報だけでは私にもわからないし、東電もきっとわからないまま、手探りのまま、来てしまったんだな、と思うようになりました。』

−C:わずかな情報ってそれはなんです?

 たとえばですね、これは首相官邸のホームページに3月24日になって出てきた情報です。データの表題は「福島第1原子力発電所1〜3号機 プラント状況」というデータで、1号機、2号機、3号機の状況を伝えるデータです。データの日付を見ると、3月の13日から始まっています。ま、ですから、事故が起きてから2日目から、ずーと3月23日までデータがあるんですが、福島第1原発の1号機、2号機、3号機・・・に関する情報で、炉の水位がどれだけあるかとか、圧力容器の中の圧力がどれだけあるかとか、ドライウェルという圧力容器の中(空間)の圧力がどれだけあるかとか、サプレッション・チェンバーと呼ばれている圧力抑制室の圧力がどれほどとか、ま、白抜きのわからないところはありますけど、ようやくなにがしかのデータが24日になって出てきました。』
(写真は首相官邸のホームページから出てきたデータ) 
▼資料:【福島第一原子力発電所 1〜3号機 プラント状況】
※クリックすると表の全てが見られます。



 次の「圧力容器図」を参照の事。
(図は日本語ウィキペディア「福島第一原子力発電所事故」からコピー・貼り付け。)

沸騰水型原子炉圧力容器及び再循環回路の詳細図
(※:原子炉格納容器)
  1.原子炉本体
2.コンクリート遮蔽プラグ
3.設備プール
4.ドライウェルヘッド
5.使用済み核燃料プール
6.燃料充填空洞
7.ドライウェルフランジ
8.原子炉圧力容器
9.生物シールド
10.第二コンクリート遮蔽壁
11.立鋼ドライウェル
12.ビーム
13.コンクリート埋込部
14.ジェットノズル
15.拡張ベローズ
16.ベントヘッダー
17.排水管
20.土台基盤
23.バルクヘッド
26.クレーン
29.冷水パイプ(発電機から)
39.制御棒
42.ベント/ヘッドスプレー
18.水(ウェットウェル)
21.原子炉建屋(側壁)
24.減圧室
27.使用済み燃料 
30.蒸気パイプ(発電機へ)
40.スチームセパレーター
19.シェル接合領域
22.プラットフォーム
25.ベントバルブ
28.冷却液パイプ
31.制御棒作動装置
41.スチームドライヤー


 このデータもどうやってとったのかいまだに私にはよくわからないんです。3月11日以来、全発電所が停電しているわけで、発電所じゅうまっくらなんですよ。それでこんな13日とかの情報がどうして残っていたのか、ですね。電源回復したのがほんの数日前で、3号機の制御室に電気がついたとか、つかないよ、とかいうのはほんの数日前ですよね。

 それまではとにかく、全部真っ暗闇、なわけですよね、特に発電所というのは窓なんかない、ほとんどのところは、そういう建物なわけですから、真っ暗闇の中を、そのぉ、ごそごそと作業してたわけなんでしょうけど、中央制御室に何かわずかなバッテリーで動く器機があったんだ、と私は想像しているわけなんです。誰かが、そこまで懐中電灯をもって走っていって、そのわずかな計器の読みを、手で書いて持って帰ってきたのがこれだと私は思っているのです。

 要するにこの程度の情報しか、東電も持っていなかった。

 で、3月23日になって、とにかく1号機の温度が高すぎる、冷却が出来ていないから、それまでは1時間あたり2トンの海水を送っていたらしいんですけど、18トンに増やした。そしたらいきなり蒸気がダーッと出てくるわけですから、今度は格納容器の内圧が高くなって、壊れそうだからと云って、また送水を絞るというようなことを、ほんとに手探りでやっている、ですね。』

隠している情報もある

―A: 昨日になって官邸のホームページが出てきたという話が一方にあるんですけど、研究者の中にもいろんな専門の方がおって、たとえば洩れた元素が明らかになっていないとすれば、元素の種類を正確にすべて明らかにする、示してくれと、そうすればいろんな考え方も出来ると・・・。
 
 彼らには、その余裕もないと思います。』

―B:余裕もない?

 はい。ただ、隠している情報もあるんですよ。昨日だったかな、一昨日だったかな、はじめて「SPEEDI」という放射能影響予測評価シュミレーションのデータが出て来ましたよ。』

「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の試算について」と題する3月23日付内閣府・原子力安全委員会発表のプレスリリース(<http://www.nsc.go.jp/info/110323_top_siryo.pdf>)を参照のこと。

あんなもの、今出してどうするんだ。あれは事故が起きたら刻々と公表して、放射能がどっちへ流れていっているかを知って、対策を取るためのものだった、わけですよ。
 
 それを事故が起きて2週間もたって、「こうでした」なんて云っても意味ないわけです。彼らはそのためにほぼ20年近い時間をかけて研究してきたわけです。時間をかけて、厖大なお金をかけて作ってきて、今使わなければ一体いつ使う(声が裏返っている)のかというようなものなのに、それをずーっと秘密にして口をつぐんでここまで来ている。』

―C:もうオーストラリア気象庁とか他の国はインターネットで予測を公表している・・・。

 そうですよ。どんどん流しているのに、日本の「SPEEDI」だけがデータを公表しないまま、来た。ホントに情けない連中だと私は思います。』

―C:本当に一言もないですね、その批判には。

 ええ、本当に悲しい国ですよ。』

冷やすこと、ひたすら冷やすこと

−A:非常に憂慮する事態というか、なにもつかめていないというか・・・、それでここまで来てしまった。しかも打つ手も、確かな見通しをもってやっているとも思えない・・・、ということですね。

 もちろんです。できることといえば、水を入れると云うことだけなんです。もう、私が考えてもそれしかない。

 でも、水を入れるというのは、本来ポンプで入れる、でも、全ての電源はないわけで、ポンプは動かない、で、必死で考えた最後の手段が消防のポンプ車を連れてきて、水を入れるということを考えたわけですね。でも、水はない、しょうがない、海水だと。』

−C:塩を含んでいてもしょうがない、と。

 ええ、そうです。そうです。もう・・・海水なんか入れたらもう2度と原子炉なんか使えないと云うことだってわかっているわけだし、海水なんか入れたらそれこそ、塩分が析出するわけだし、正規のポンプ自身、次に動かそうとしようとしても(析出した塩分のために)動かないかも知れない・・・そういう危険すら抱えながら、それしかないということで追い込まれている、わけですよね。でもなんとか、入れるしかない。

 私でもそうしたと思います。海水でもいい、海水がなければ、とにかく泥水でもいいから入れるしかない、と私は思いますので、私も同じことをやったと思います。でも、そのために、事故からもうすでに2週間経っているわけですけど、なんとか最悪の崩壊を防いでいる、わけですね。

 でもこれから本当に最悪の崩壊を防ぎ続けられるのか、どうかと問われると私は確信を持って答えられない。』

最悪の事態とは?

−C:最悪の事態とはどんな事態でしょうか?

 今の事態はですね、燃料棒の破損は確実です。燃料棒の被覆管ですね、ジルコニウムという合金で覆われて中のウラン燃料が密封されています。』

 左の写真はウラン燃料棒とペレット。燃料被覆管(ねんりょうひふくかん、Fuel tube)はジルコニウム合金で出来た、厚さ2mm、直径1cm強で、長さが約4mのきわめて細長い形状の管である。


 「このような細長く特殊な材質のパイプを高品質で製造することが難しく、初期の原子炉で使用された被覆管では、ピンホールの発生などによる核分裂生成物(FP)の漏出事故が発生している。
このうち原因の多くが原子炉運転中の出力変化に伴い、燃料棒の温度変化によって生じる熱応力によるものと判明してからは、燃料棒の健全性を保つため原子炉出力の急な変化を避けるように運転が行われている。すなわち緊急の場合を除き、原子炉の起動と停止は、一日以上の時間をかけてゆっくりと行われ、燃料棒に対して余計なヒートショックを与えないような配慮がなされている。」と日本語ウィキペディア「燃料棒」は説明している。
(写真は同サイトからコピー貼り付け)

 またペレットについては、「最も一般的な形状は、高さ1 cm、直径1 cm弱の黒色の円柱型のもので、原子炉によっては、中央が中空になっているペレットもある。使用されるウランは、天然ウランか低濃縮ウランのいずれかで、日本では低濃縮ウランが使用されている。ウラン金属は、融点が1,132 ℃であるため高温を伴う原子炉では容易に溶けてしまうばかりでなく、およそ670 ℃で結晶構造が変化し膨張してしまうなどの欠点を有する。そこで、ウランの酸化物を粉末状にした上で成型し、磁器のように焼き固める(焼結)ことで、融点を2,700〜2,800 ℃程度まで高めている。」と日本語ウィキペディア「燃料ペレット」は説明している。

 なぜそれが確実かというならば、水素爆発が起きたから、です。で、その水素はジルコニウムが水と反応してできたものです。それ以外に大量の水素が発生するメカニズムはありませんので、燃料棒の被覆管が大量に水と反応して水素を発生したと云うことですから、被覆管が大量に破損していると云うことは確実。
 
 被覆管の中にはウラン燃料がペレットという形で詰まっていて、そこに核分裂生成物という本体がある。で、その一部は損傷しているわけですね。』

−C:燃料本体も損傷しているわけですか?被覆管だけでなく・・・。

 そうです。それも確実です。問題はその損傷の仕方なんです。私はその損傷がまだ、大規模に損傷しているとは思っていない。私は東京に飛んできた放射能(放射性物質)の分析とか、福島発電所周辺の土とか、マツバであるとかいうものの測定をすでにしましたけれど、私が測定できた放射能はヨウソ131、ヨウソ132,ヨウソ133、テルビウム132、セシウムの134、136、137、それしか観測できなかった。それ以外の放射能(放射性物質)は観測できなかった。

 その3つの元素は揮発性の元素です。ですから、ウランのペレットがむき出しになってしまえば、簡単にそのペレットの中から出てきて、格納容器の中に充満して、それがベントによって出てきた、と私は思っているのです。』

 「揮発性」の元素と云うことは、空気に触れると簡単にガス化して大気中に流れ出すと云うことだ。つまりペレット本体が物理的に破損、言い換えれば熱で溶けなくなくても簡単に空気中に流れ出るということだ。それだけでも大変な事件ではあるのだが、小出がこの3種類(核種)しか測定できなかったということは、ペレット自体まだ溶けていないと云うことでもある。ベントというのは、「放射性物質を含む水蒸気を逃がして圧力容器の圧力を下げること」である。つまりわざと放射性物質を大気中に放出していることになる。なぜそんな危険なことをするかというと、さらにとてつもない危険を招いてしまうからだ。つまり圧力容器の中で発生した水蒸気の高まりのため、圧力容器が爆発して最後の砦を失ってしまうからだ。圧力容器が爆発すればすべておしまいである。


 でも、ウランのペレットが大量に溶融するような事故になると、もっともっと別な元素、バリウムとか、ランタンとか、ま、プルトニウムの場合があるかもしませんけれど、そういう元素も出てくるはずだと私は思ってデータの分析をしているのですが、そういう元素は一度も観測できないで、今日まできている。そうすると、大量の破壊は今のところ食い止められていると、私は思っていて、とにかくその大量の破壊を食い止めなければいけないと、思っているわけです。
 
 じゃ、大量の破壊はどうやっておきるかというと、原子炉がメルトダウンする時です。つまり、(原子炉なり、燃料棒が)溶けて落ちる時です。溶けて落ちるとどういうことになるかというと、原子炉というのは圧力容器という巨大な圧力釜の中に入っているわけですが、それが今水が段々減っていって、(燃料棒が)露出してきて溶けようと、・・・溶けるか溶けないかのせめぎ合いをしているわけですが、もしそれが溶けて落ちた時に、圧力容器の底にまだ水があると水蒸気爆発します。そこで水蒸気爆発をすれば多分、圧力容器が壊れます。圧力容器が壊れるとすぐその外側に格納容器があるわけで、格納容器は薄い鉄板ですから。』

―C:厚さ3cm位?

 はい。一方、その内部の圧力容器というのは10cmから20cmというブ厚い鋼鉄製ですけど、それが壊れるような水蒸気爆発にでもなってしまうと、格納容器も一緒に壊れる・・・。そうなるとそれはもうおしまいです。炉心はもうどろどろに溶けているわけですし、放射能を閉じこめる最後の防壁は格納容器ですから、それが壊れてしまえば、もうなすすべがないわけです。そうならないように、願っているのです、今。』

チェルノブイリとの比較

―C:チェルノブイリ原発事故との比較で言うと、今云われた状態は、つまり圧力容器、格納容器が壊れた状態は、チェルノブイリ事故以上という、表現をしていいんでしょうか?

 最悪の事態になってしまえば、チェルノブイリ以上になってしまう可能性はあるわけですね。一つイッて(圧力容器・格納容器が破壊されて)しまえば、(高い放射能のために)多分、現場に(誰も人間は)とどまれません。そうなると(他の原子炉を)冷却できないわけですし、今やっているような、消防車のポンプで水を入れるという作業もできなくなる。自衛隊や東京消防庁が現場へ行って、使用済み燃料プールに水を入れるという作業も出来なくなる。そうなるともう、なにもできないまま全てが潰れていくと、いう状態になると思います。』

―B:それは順番に同じような状態が次々に起こると云うことでしょうか?

 順番に、というのは、どういう状態を云っているのかわかりませんが。1号機、2号機、3号機というのは原子炉が動いていたわけで、そのどこかが、私が今云ったように、水蒸気爆発を起こして格納容器が壊れるという、ことになるとすると、残っていた原子炉もなんの手当ても出来ませんので、同じことになると思います。それと使用済み燃料プールというのは1,2、3、4と全部あるわけで、そこも結局は水が干上がることになるわけで、そこの燃料も溶けると思います。』

―B:5号機、6号機は、そこまで飛び火しないと見ていいでしょうか?

 わかりません。飛び火するかもしれません。今はまあ、辛うじて電源があるので冷やすことが出来る、原子炉は「冷温停止」といっていますけれども、一応冷えていますし、使用済み燃料プールにも水を送ることができる、と云っていますので、今はいいですけど、ほんとに無人になってしまえば、その時に何ができるかというと、それを考えればなかなか難しいかもしれません。』

―B:だから、チェルノブイリ以上という事も想定できると云うことは、今の1、2、3、4以外に使用ずみ燃料プールのことも考えると、チェルノブイリをはるかに超えた・・・。

 ええっと、(福島第一原発の)1号機は46万キロワット、2、3、4は78万4000キロワットですからそれを合計すると281.2万キロワットになる。チェルノブイリはぴったり100万キロワットでしたから、チェルノブイリの3倍くらいになる可能性はありますね。』

 日本語ウィキペディア「福島第一原子力発電事故」によれば、1号機は46万キロワット、2号機から5号機までが78.4万キロワット、6号機が110万キロワットで単純に計算すれば469.6万キロワットになる。単純に原子炉の出力で放出放射能比較をすれば、チェルノブイリの5倍近くの放射能放出量になる。これは最悪のシナリオである。

専門家の共通認識

―A:今の小出先生の認識は、研究者・科学者のかなりのひとたちの共通した見方になってきていますか?

 今、私がお話ししたことですか?今私がお話ししたことは、多分誰でもそう思っていると思います。』

―C:東電もそう思っている?

 東電もそう思っていると思います。』

―A:政府もそこまで認識している?

 えーと、枝野さん(官房長官)なんかはわかりませんよ、ああいう人は。でも政府の専門家はそう思っていると思います。』

―C:「最悪のシナリオ」はそうなんでしょうね、誰が見ても。

はい。』

(しばし全員沈黙・・・)

―B:打つ手は、ないんですよね・・・。

 そんなことはない。打つ手は、水を入れて、水を入れて冷やすと云うことです。冷やし続けると云うことです。水というのは圧倒的に優秀な冷却剤です、この世で。巨大な比熱を持っている物質は水の他にはない。』

 比熱とは1gあたりの物質の温度を1度あげるのに必要な熱量のこと。つまり、比熱とは、物質1gあたりの熱容量。ちなみに水の比熱は18℃で「1」である。

 暖めにくく冷めにくい、原子炉を冷やすためには流しやすいし、透明だし、放射化もしない、と。もうこんなに優れた冷却剤はない。』

―C:チェルノブイリのことを考えると、チェルノブイリの時は4号炉だけでしたよね?

 そうです。』

―C:で、しかも日付を数えてみると、10日間か11日間で終熄、放射能を閉じこめましたよね?

 ええと、そうではないです。あれは黒鉛減速炉で黒鉛を減速材に使っていた炉です。 その黒鉛に火がついて燃えたんです。それでその黒鉛が燃え尽きるまで7日間かかった。燃えている間は、ウランの炉心自身も発熱しているわけですから、どんどん溶けて、地下に、溶融体が地下に流れ落ちて行った。私たちは「象の足」と呼んでいますけれど。そういう事が私たちが、そこに行って見て、後からわかったんです。

 でも溶けていっていると云うことは、そこからどんどん放射能を出していると云うことです。それで一方で黒鉛が火災になってごうごうに燃えている、空に炎を舞上げている、ということで一週間で出るべき放射能は外へでてしまった。
 
 放出された放射能はもちろん周辺にも落ちたんですが、大量の黒鉛が燃えたために、高さ1000m、1500mと云う上空に、とにかくダーッツと上空にあがった、燃えている間は。ですから放出された放射能は、周辺に落ちると云うよりは、むしろ風に乗って遠くへ飛んだんですね。幸か不幸か、チェルノブイリ原発の敷地の中そのものには、その敷地の中には何とか人が踏みとどまれる、そういう状態だったんですね。踏みとどまれると云っても大変なことだったと思いますけれど。ですから1号機、2号機、3号機も何とかそこに人が残っていられた状態だったんです。それで1号機、2号機、3号機は守ることができた。』

国際事象評価尺度

―C:だけど今回の場合、福島第一原発の場合は6つ。最悪の状況としては・・・。

 国際事故評価尺度のことですか?』

―C:ええ、それもそうだけど、我々の、事故の大きさを実感するのに、一般市民の感覚としてはどこでつかんだらいいのか・・・。

 国際事故評価尺度というのは、ひたすら(放出する)放射能だけを見るのですね。私は全面的にこの尺度が正しいとは思いませんけれど、放出される放射能だけで事故の大きさを評価するというのもひとつの筋の通った考え方だと思います。それは外に出てくる放射能を見ています。ま、どんな尺度でもいいですけど、ちゃんとどんな尺度で測ったか、ということを了解しておいてもらえばいと思います。』

 日本語ウィキペディア「国際事象評価尺度」を見てみると「1逸脱」、「2.異常事象」、「3.重大な異常事象」、「4.事業所外への大きなリスクを伴わない事故」、「5.事業所外へリスクを伴う事故」と並び、この「5.」へアメリカのスリーマイルス島原子力発電所事故(1979年)などが分類されている。「6.大事故」には1957年の旧ソ連キシュテム事故が分類されている。「7.深刻な事故」には1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故があげられている。「7.深刻な事故」の上は設けられていない。

 日本語ウィキペディアでは触れられていないが、英語Wikipedia“International Nuclear Event Scale”ではすでに“Events at Fukushima I and II nuclear power plants”というセクションが立てられていて、「現在進行形の事象。冷却が失われたために数万の住民が避難した。水素爆発で原子炉建屋が破壊され、2基の原子炉が、燃料棒が空気に露出した後、部分的メルトダウンの状態に入った。」とし、フランス原子力公団の総裁がレベル6を勧告し、またアメリカ・エネルギー省チュー長官が議会に対して「スリーマイル島の事故より深刻」と証言したと記述している。またIAEAはまだ公式な分類を行っていないが、アメリカのシンクタンク、科学安全保障研究所(Institute for Science and International Security)がレベル7の状態に近づきつつあると声明したと記述している。


―B:今回の事故で、手の打ちようは限られていると、そういうお話を聞いたんですけど、たとえばチェルノブイリでやったような石棺を、ま、これ最後の最後かもわかりませんけど、すでに準備しておくとか、覆ってしまうというか・・・。

 それは、いずれにしてもやりますよ。やるしかない。』

―C:冷えないと覆えないでしょう!

 はい。ただ覆うにしても簡単ではない。』

 日本語ウィキペディア「チェルノブイリ原子力発電事故」は「石棺」について次のように記述している。「4号炉は事故直後、大量の作業員を投入し、石棺と呼ばれるコンクリートの建造物に覆われた。石棺の耐用年数は30年とされており、老朽化への対策が望まれている。事故後、放射能汚染により人が立ち入ることができなかったことから原発事故の直撃を受けた職員の遺体が搬出されることがなかった。
事故直後無防備のまま炉の中に入った数名の作業者の行方がわからず、現在も、石棺の中に数名の職員の遺体があるとみられる。遺体はおびただしい放射能を帯びているため、搬出できるまでには数世紀かかるとみられている。石棺の中では、放射性物質拡散防止のために特殊な薬剤が散布されているが、大半が外部に流出しているとみられている」
(写真は同サイトからコピー・貼り付け)

最悪のシナリオを避ける

―B:もう作り始めた方がいいんじゃないでしょうか?

 そんなことをやるよりは今は原子炉の破壊を防ぐことの方が先決です。もう何たってそれですよ。』

―B:それとですね、スリーマイル島のアメリカの事故以降、アメリカの研究者、その体験を持って、引き続きそれを研究してきた人たちに、ある程度委ねる、ないしはそういう人たちも入れて、国際的な、世界的な、対処の仕方で考えていくというか、そういうような態勢はまだ全然取っていないんですよね。

 余裕があれば、望ましいでしょうが、今、そんなことをやっている余裕はありません。まずとにかく今は原子炉を冷やさなければならない。破局的な崩壊を防がなくてはいけない、もう・・・(言葉が見当たらない様子・・・)、全力をそこに投入すべき時、それに失敗すれば、ホントに全部がイってしまうかどうかと云う瀬戸際なんです。何とかこの段階で食い止めると、いうことが一番大切だと思う。
 
 これから後はどうするか、そりぁ大変ですよ。10年経つか20年経つかわからない作業をこれからやるわけで、ちょっとでも早く準備した方がいいのかどうかおっしゃるのはホントだけれども、そんなことを云う前にまずやらなきゃいけないことがある。』

―C:つまり最悪の事態をさけるということですね?

 そうです!そうです!何とか最悪の事態を避けると云うことが一番大切だと思います。』

―C:それには真水を注入する以外にはない・・・。

 はい。ま、真水がなければ海水でもいい。しょうがないと私は思ったわけですけど。』

―C:ええ、でも海水は蒸発すると塩が残る。これはこれで危険ですよね。

 ええ、ダメかも知れない。ポンプを動かそうとしても、塩が析出していてポンプに絡まってポンプが動かないとかですね、燃料棒の隙間に塩が析出していて、仮にポンプから水を流してもうまく冷えないとかですね、いろんなことが起きるかも知れないと思いながら・・・。(でもそれしかない)

「私でもやる」

―A:・・・これは表現として余り適切でないかも知れないけれど、真水を注入してとにかく最悪の事態をさける、避けるしかないということになると、たとえば犠牲者が出たとしても、何万人、何十万人の犠牲者よりは取りあえず、100人が犠牲者になってくれという、そういう・・・。

(遮るように)Aさん、あなた、どう思います?』

―A:そういう事態だと、これは表現が難しいけど・・・。

―C:いや、いい質問だと思います。

 昨日(3月24日)、3人の労働者が被曝したというんですよね。彼らはアラームメーターがピッピッなっていたのに、作業を続けたと・・・。』

 25日の報道によれば、この作業員は電気配線の敷設にあたっていたという。作業時間は40−50分の長時間にわたった。その時15cmまでの放射能汚染の水たまりの濃度は400ミリ・シーベルト、作業員の防護服から検出された濃度は約180ミリ・シーベルトだった、という。2人は東電下請けの会社の社員、1人は東電孫請けの会社の社員で、いずれも作業経験豊富なベテランだったという。(3月25日付朝日新聞大阪版夕刊による)
 
 また、3月27日(日)付けの朝日新聞朝刊(広島版)にはさらにつっこんだ記述が載っている。一部引用すると、「3号機で24日、水につかりながら電源ケーブルを敷設していた3人の作業員が被曝した。」「作業員らは何のために、こんな場所で電源ケーブルを敷設していたのか。」「タービン建屋の地下一階には、原子炉に大量の水を確実に送り込み、燃料を冷やすためのポンプがある。今の危機的状況を脱するためには、このポンプに電源ケーブルをつなぎ、再起動させる必要があるからだ。」「1〜3号機の原子炉内ではいまだに熱を出し続ける核燃料によって、どんどん水が蒸発している。」「タービン建屋の地下ポンプが再起動できれば、原子炉に継続して水が送り込めるし、パワーもはるかに強い。」「・・・もっとも確実な手段が通常の運転時に原子炉を冷やすのに使う『残留熱除去系』というシステムを復旧させることだ。電源ケーブルがうまく敷設できて、このシステムが動かせるようになれば、大量の水を循環させて一気に冷やせる。」「東電によると、タービン建屋の地下一階にたまった水の深さは1号機は最大40センチ、2号機は同1メートル、3号機は同1.5メートルにも達する。」「電源ケーブルの敷設作業は25日以降、中断したままだ。」

―C:しかも短靴で。

 はい。そういうんですけど、(アラームに)気がつかなかったというんですけど、そういう報道もあるらしんですけど、鳴っているのに気がつかなかった、(アラームが)間違いだと思ったという報道もありますね。けれども・・・。私は「確信犯」だと思いますよ。
 
 現場に行った、(たまり)水があったこともわかるわけですよね。
 
 でもこの水の中に踏み込まないと作業が出来ないことはわかっているわけですよ。それで彼らはアラームメーターが鳴っても、また水の中に足をつっこんでも、(この作業の意味の大きさがわかっていたから)要するに作業をしようと思ったわけですよ。
 
 私は・・・、ウゥ、もし私が彼らだったらどうしたかと、いえば、やったと思います。そうやらなければホントの破局が防げないと思うならやるしかないのです。』

 (この稿了)
(第2回小出インタビューへ)