【参考資料】ヒロシマ・ナガサキ・フクシマ
(2010.4.18)
<参考資料>福島原発事故:小出裕章インタビュー 第2回 その@ 福島原発事故の収束点はまだ見えていない、冷却システムの回復が先決
 (第1回小出インタビューへ)  

   2011年3月11日の東日本大地震の発生、それに続く東京電力福島第一原子力発電所事故発生から早くも1ヶ月以上経過する。原発事故そのものは未だに収束点がみえないまま、最後の一線で「最悪のシナリオ」の展開をなんとか食い止めているという状況だ。その一方で、気象庁、長谷川洋平地震情報企画官が4月12日、「東日本に限らず、日本全国大きな地震が発生することがあるので、日ごろより地震に対する備えをして頂きたい」と声明し(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/
hiroshima_nagasaki/fukushima/20110417_2.html
>)
日本列島全体が活発な地震期に入ったことに対して警告を発する中、未だに全国で25カ所の原子炉が操業中である。
(<http://www.kikonet.org/research/archive/
energyshift/list-of-nuclear-power-plant.pdf
>)


 今のところ「第二のフクシマ危機」が絶対に発生しないという保証はどこにもない。

 こうした中、世界は急速に日本経済そのものを見放しはじめている。その要因は東日本大地震ではない。「フクシマ原発危機」だ。もう少し言えば「原発危機」に有効に対処しえないでいる日本という国を見放しはじめている。こうして「原発危機」は「経済危機」に発展しつつある。孫正義ら新興経済人が「原発危機」に対して深刻な憂慮を示しているのも故なしとしない。
 今日本の直近の将来はすべて「フクシマ原発危機」の進展いかんにかかっている。事故発生当時首相菅直人が「東日本が潰れる」と言ったと伝えられるが、「フクシマ原発危機」の収束点が見えていない以上、その状況は基本的に変わっていない。
 
 今私たちはできるだけ東京電力福島第一発電所がどんな状態になっているのかを知っておく必要があるだろう。併せて「原発危機」の行く末を、一人一人がそれぞれの立場で、的確な見通しをたてておかねばならないだろう。そうでなければ、私たちは事態に有効な手を打つことが出来ない。その参考材料の一つとして京都大学・原子炉実験所・助教の小出裕章の話を聞きに行った。インタビューは2011年4月13日(水)、大阪府の熊取町にある同原子炉実験所の小出の研究室で行った。写真撮影は私の同僚の網野沙羅である。
 
 文中、小出裕章の発言は『 』で囲った。また補足資料は文中に最低限補った。煩わしい場合もあるので、補足資料は読み飛ばしやすいように青字の小さめのフォントで表記した。なお補足資料記事の文責は100%哲野イサクにある。小出裕章には全く責任がない。以下本文。

安定化に向かっている?

―現在の状況をどう見ていらっしゃいますか?

昨日でしたか、菅さんが、事態は安定化に向かっている、というような発言を記者会見かなにかで聞きました。大変情けないことだと思いました。一体どういう情報をもとに彼がそういう判断をするのか、あるいはどういう情報が彼に届けられているのか、この国は本当に困った国だな、と思いました。』

 2011年4月12日、首相菅直人は記者会見を開き、「これから復旧、復興に向かわねばならない」と述べた後、

「この間、大変厳しい状況が続き、放射性物質の外部への放出も生じたところであります。本日、この放射性物質の外部放出を試算した結果、国際的指標に基づいてこの事故の暫定評価をレベル7とすることを発表したところでもあります。

  一方で、現在の福島第一原子力発電所の原子炉は、一歩一歩安定化に向かっておりまして、放射性物質の放出も減少傾向にあります。東京電力に対して、今後の見通しを示すように指示をいたしておりまして、近くその見通しが示される予定になっております。」
(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/
fukushima/20110413_1750.html
>を参照の事。)

 と述べた。これで見る限り、菅政府も「フクシマ危機」の収束が、「復興、復旧」の前提、先決問題と見ていることは明白だろう。そのためには何が何でも「フクシマ危機の収束」を演出しようとしている、と見ることが出来る。従って4月17日に東電が「福島第1原子力発電所の事故収束に向けた復旧作業の工程表」を発表して、「6ヶ月から9ヶ月以内に収束」の見通しを出した(たとえば、<http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C938
19695E3E5E2E2E58DE3E5E2E6E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2
>を参照の事。)のもこのシナリオに沿ったものだろう。今の問題は、この工程表が現実的なものか、あるいは単なる作文なのかということだ。もしG20に向けた単なる作文であることが明らかになれば、その反動は大きい。また多分偶然だろうが、4月17日は、アメリカの国務長官ヒラリー・クリントンが韓国の帰途、東京に立ち寄って菅政府の首脳と会談した日でもある。これが現実的な工程表なのか、それとも単なる作文なのかは、以下の小出裕章の話も参考にしながらみなさんが判断していただきたい。


事故が起きてからすでに1ヶ月以上経ちますが、この事故は、1週間以内に勝敗が決するという私の予測は完全に外れました。』

―ということは?

私は、もし破局に至るとすれば1週間以内に破局に至ると、見ていました。』

―チェルノブイリ事故の時と同じように?

いや、チェルノブイリの時は、事故が起きた瞬間に核暴走による爆発を起こして、一瞬にして勝敗がつき、破局が来てしまったわけです。しかし「福島原発事故」はそうではありません。

 日本の原水炉は軽水炉という形で、チェルノブイリと同じ形ではありませんし、チェルノブイリは核暴走という事故でした。日本の原子力発電所の場合は炉心が冷却できなくなるということが一番の破局の原因になるだろう、それは、炉心の冷却が出来なくなる、それによって炉心が溶けてしまう、そうした破局だろうと考えていたわけです。

 それは、もちろん事故直後にその危険が大きいわけですし、もし炉心が溶けるという状況が起きるのであれば、1週間以内に起きるだろうし、1週間経ってそれが防ぎ止めていられるなら、きっともう安定していると、安定化へ向かって進んでいるだろうと思っていた。

 安定させられるかどうかは1週間で勝負が決まると思っていたのですが、その予測が完璧に外れました。

  要するに、1週間経っても破局に至らなかった、といって1月たっても安定化に向かっていない。これが、私の予測は完全に外れたという意味です。』

 ―現在は、破局の最後の一線で何とか踏みとどまっている、という表現でいいですか?

いいと思います。』

事故直後の経過

 小出がここで述べている1週間以内に炉心溶融が発生し破局がくるだろうという一方の見通しは、実は菅政府も全く同じであった。
 
 菅政府の原子力災害対策本部が随時発表している「福島第一・第二原子力発電所事故について」という資料(以下報告書と略称)を読んでいくと、次のような経過になる。

3月11日 14:46 三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の地震発生。1号機、2号機、3号機が地震により自動停止。
15:42 1号機、2号機、3号機に関し原子力災害特別対策措置法(以下原災法と略)第10条通報。

 つまりすべての交流電源が失われたのである。この時大きな不安を抱えながらも東電関係者は、まだたかをくくっていた。非常用電源が働いて、炉心を冷却できるだろうと思っていたからだ。ところがその54分後―、

16:36 1号機及び2号機に関し、原災法第15条事象発生。非常用炉心冷却装置注水不能。

 つまり少なくとも1号機、2号機に関していえば、炉心に全く水が注入できなくなったのである。関係者は事態の悪夢のような展開にはじめて愕然としたであろう。水が注入できなければ、核の崩壊熱でどんどん炉心内部の温度があがっていき、燃料棒のジルコニウム被覆管の融解温度約1650℃に達するのは時間の問題だ。この時水と反応して大量の水素が発生する。さらに次におこることは、燃料棒のペレットの融解温度約2800℃に達し、燃料棒がどろどろに溶けてメルトダウンし、残っていた水と反応して水蒸気爆発を起こす。これはチェルノブイリ4号炉と同じ事態だ。もし炉内に大量の酸素が発生すれば、水素と反応して水素爆発を起こす。水蒸気爆発が先か、水素爆発が先か、どちらにしても同じことだ。圧力容器が大爆発を起こす。圧力容器が爆発すれば格納容器も無事では済まない。炉心の大量の放射能は一斉に飛び散る。

 これが1号機で起ころうが2号機で起ころうが事態は同じことだ。あたりは恐らく人が近づけないほどの高濃度の放射能で覆い尽くされる。人が近づけなければ、1号機、2号機、3号機はやがて同じ状態だ。1号機から4号機までの使用済み核燃料プールにも大量の核燃料があって、これも同じ状態になる。1号機から約5−600m離れた5号機、6号機も人が近づけない状態になればやがて大量の放射能をまき散らすようになる。そうなれば、放出放射能量から見るとチェルノブイリ事故の約10倍規模の大惨事になる、こうしたことは11日午後4時36分「原災法第15条事象発生」時点で東電福島原発関係者の頭の中を一瞬で駆けめぐったことだろう。

16:45 1号機及び2号機に関し、原災法第15条通報

 冷却できないとわかった時点から12分後、「原災法第15条通報」が行われた。ところがこの報告書には通報の内容が書かれていない。原災法第15条を調べてみると、第15条は「原災法の条項であり、原子力緊急事態宣言 について規定したもの。主務大臣(経済産業大臣、文部科学大臣或いは国土交通大臣)は、通報された放射線量が、避難・退避が必要になると予想される異常な水準の放射線量以上の放射線量が検出されたり、又は、原子力緊急事態 の発生を示す事象の場合で、原子力緊急事態が発生したと認めるときは、内閣総理大臣に報告を行う。内閣総理大臣は、原子力緊急事態宣言及び緊急事態応急対策実施すべき区域、原子力緊急事態の概要、区域内の居住者、滞在者その他の者及び公私の団体に対し周知させるべき事項の公示 。原子力緊急事態宣言の解除も本条項による。」(http://www.nisa.meti.go.jp/word/9/0331.html)というものらしい。

 この時は間違いなく内閣総理大臣に報告されたであろう。恐らく菅直人は腰を抜かしたに違いない。(以上同報告「4月15日17:00版」1/64p〜8/64p参照の事


原子力安全・保安院の展開予測

 「原災法第15条通報」があった9分後の午後4時54分に、首相菅直人は「総理大臣記者発表」を行い、またその3分後の午後4時57分には官房長官記者会見が開かれる。内容はみなさんご記憶の通り、実際の危機とはほど遠い「安全・安心」を強調したものだった。

 午後7時03分、原子力緊急事態宣言が発令され、直ちに原子力災害本部が設置された。 何度かの会議が開かれた後、午後9時23分、総理大臣指示として「半径3km圏内の避難、10km圏内の屋内退避が出された。9時52分枝野は短い記者会見を行い、詳しい説明抜きに「冷静な対応」を呼びかけた。(同27/64p参照の事

 所轄官庁である産業経済省の原子力安全・保安院は事態の把握に努めていたが、めぼしい情報はなにもなかった。(同32/64p)しかし、たとえば2号機に例をとってみると、11日午後2時47分に緊急炉心停止していわゆる原子炉スクラムが作動した後、午後8時30分には完全な電源喪失のため、原子炉スクラムが完全に停止した。ここまでは厳然たる事実である。つまりこの時点で2号機原子炉は完全に制御不能状態に入った。その後午後9時50分に2号機の水位計が復活し見てみると、圧力容器内の燃料棒の下から3mまでしか水が来ていなかった。燃料棒は約4mあるから、すでに炉心は1mむき出しになっていることになる。圧力容器内の温度が核分裂エネルギー熱のためどんどん上昇し、水の蒸発のため水位が下がってきていることを意味している。

 原子力安全・保安院は、11日午後10時、ちょうど枝野が記者会見をしているころ、事態をこのまま放置すればどんな状態になるかを2号機に例をとって予測した。この予測はただちに首相の菅に伝えられたことだろう。それによれば―。

    (予測)22:30 炉心露出 
    (予測)23:50 燃料被覆管破損
    (予測)24:50 燃料溶融
    (予測)27:20 原子炉格納容器設計最高圧(527.6kPa)到達      

 これは、水位が下がって上部1mほど燃料棒が露出した30分後に圧力容器内の水が全部蒸発し、炉心が全露出してしまうであろう、そしてその後1時間半以内に燃料棒のジルコニウム被覆管が融解するほど温度があがるであろう、その後約1時間で燃料棒がどろどろに溶けるまでの温度に上がるだろう、それから3時間半後に格納容器の設計最高圧に上がって、内部圧力でいつ格納容器が爆発してもおかしくない状況になるだろう、という原子力安全・保安院の予測を示している。(同33/64P参照の事

 この予測では水素爆発や水蒸気爆発を想定していないのがなぜなのか私にはわからない。また実際には予測していたのだが、この報告書に記載しなかったのかも知れない。

 ともかく、実際には2号機はこの予測のとおりにはならなかった。2号機は3m半ば位の水位からジリジリ水位が下がり、炉心全露出の危機が訪れるのは14日の夕方になってからである。一方格納容器の圧力はさほど上がらなかったが、圧力容器の圧力は12日未明から異常な高さでずっと推移し、13日に圧力容器内の水蒸気をベント(排出)するまで続いた。(同別添1の「福島第一原子力発電所パラメータ」<以下パラメータと略>の4枚目参照の事)

1号機に訪れた危機

 実際に、ほぼこの原子力安全・保安院の予測通りの展開を見せたのは1号機である。最初の危機は1号機に訪れていた。まず水位から見ると、12日早朝4mの高さをもつ炉心からさらに1.3m上にまで来ていた水位(炉心最下部からいうと5.3mの深さの水)は同日9時近くからみるみる下がりはじめ、ついに午後3時から午後6時半までの間に全くなくなっていた。この状態は翌々日の早朝5時近くまで続く。つまりほぼ1日半空だきの状態だった。一方圧力は、圧力容器でも格納容器でも12日未明から異常な高さで推移する。圧力容器は停止中にもかかわらず運転中よりもさらに高い値を示し続け、格納容器に至っては設計最高値の2倍以上にも圧力が高まっていた。よく壊れなかったものである。(同「パラメータ」の1枚目参照の事。)
 
 そして12日午前10時過ぎから格納容器のベントを開始する。放射能を含んだ大量の水蒸気が格納容器外に放出されたわけだ。この時までには先の保安院の予測通り、ジルコニウム被覆管は溶けており、水と反応して大量の水素が発生していた。つまりベントした水蒸気には実は大量の水素が入っていたわけだ。小出裕章インタビュー「最悪の事態を避けるため全力をあげる時」の「最悪の事態とは?」の項を参照のこと。
 
 格納容器の外に出た水素は原子炉建屋内の天井付近にたまっていった。そして午後3時36分、酸素と反応して水素爆発を起こすのである。原子炉建屋は破壊され、一緒に大量の燃料棒から発生した揮発性のヨウ素、セシウムが大気中に放出され、みるみる発電所敷地内の放射線量は上昇していった。(以上2/64p及び別添2「モニタリング・データ一覧」参照の事。)
 
 そのままほっておけば、炉心温度はやがて2800℃に達し、燃料棒がどろどろに溶け(以下本格的溶融という)、メルトダウンし圧力容器内や格納容器内に残っているだろう水と反応して水蒸気爆発を起こすはずだった。しかし福島原発関係者は12日午後8時20分から消化系ラインを使ってホウ酸の混ざった海水を注入していった。(同2/64P及び8/64p参照の事。)このため、炉心の温度は下がりはじめ、本格的溶融は避けられ現在に至っている。この間数々の疑問があるのだが、今は置くとして、仮に1号機が水蒸気爆発をしていれば、その後は、人が作業できる環境ではありえず、作業員全員退避しなければならなかったし、そうなれば、他の原子炉も、使用済み核燃料プールも、いずれは同じ運命だったろう。
 
 その意味では、1号機の水素爆発の12日午後3時36分の水素爆発から午後8時20分までのわずか5時間足らずが私たち日本の運命を分けたといっても過言ではない。また数々の幸運にも恵まれたはず、という言い方もできなくはない。
 
 随分長い補足説明になったが、小出裕章は、この数々の幸運の上に、私たちを破局の淵から取りあえず救ったのは、そして今現在、最後の一線で持ちこたえているのは、福島第一原発現場の労働者の献身的な活躍があるからだ、と見ている。小出裕章に戻ろう。

福島原発現場労働者が破局を食い止めている

 最終的破局を、辛うじて踏み止めているのは、要するに福島原発の内部で苦闘中の、労働者の人たちなのですね。・・・(言葉を探している)・・・。

今私たちが闘っている敵は原子炉の中にたまっている放射能それ自体なんです。放射能というのは何百種類もの放射能の集合体なのですが・・・』

―しかも刻々と姿を変えていく・・・。

 そうです。非常に寿命の短い放射能も中にはありますし、中には比較的短いものもあるし、比較的長いものもある、とてつもなく長いものもある、そういう多様な放射性核種、放射性物質の集合体なんです。

 で、地震に襲われて、事故が起きて、原子炉内のウランの核分裂の連鎖反応は(いわゆる臨界状態)、多分止められたんだろうと私は思っている、制御棒を挿入したというので多分止められたんだろうと私は思っていますが、それでもそれまでたまっていた放射能との格闘が今まで続いている。』

崩壊熱との格闘

今、原子炉内の核崩壊による発熱を考えてみましょう。原子炉の中の核分裂反応が止められた時、すでに厖大な熱が出ていた。
(1号機から3号機まで。4号機は定期点検中で圧力容器内には燃料棒はゼロですべて使用済み核燃料プールに移されていた。「今起きていることとその最悪のシナリオB」の「福島第一の保有核燃料」の項参照の事。<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/fukushima/03.html>)


  崩壊熱について日本語ウィキペディア「放射性崩壊」は次のように説明している。
『放射性物質は、核爆弾や原子力発電所の運転中の炉心のような中性子の照射を受けることで大量、または多量のエネルギーを放出する連鎖反応を伴わない場合でも、放射性崩壊によってそれ自身が勝手に核種などを変えてゆくため、その過程で放出される放射線のエネルギーが周囲の物質を加熱し、崩壊熱 (decay heat) となって現われる。時間当たりに放出される崩壊熱のエネルギーは不安定な物質であるほど大きく、その大きさは元の放射性物質がしだいに放射線を放って比較的安定である核種や安定核種へと変化するに従って減少する。例えば原子炉の炉心では発電のための核反応を停止しても、その1秒後で運転出力の約7%ほどの熱が新たに生じ、時間の0.2乗に比例して減少しながら1日後でも約0.6%の熱が放出される。』



 その発熱は1日経つと約1/10まで減ってくれる。つまり比較的寿命の短い放射能がどんどんなくなってくれる。でも1日目以降はそれほど減らなくなって、1ヶ月経った今でも1日目に比べると1/3ぐらいにしか減っていない。』

 一方で温度というのは、こうした発熱と冷却のバランスできまるものですよね。発熱の割合は事故直後から、1日経てば1/10、1ヶ月経った今では、1日後のまた1/3ぐらいまでは減ってくれている。ですから事故直後から比べると1ヶ月経った今では、すでに1/30ぐらいまで、放射性物質の崩壊熱の力は弱まっている。敵の力は事故直後に比べると1/30ぐらいになっているんですよ。でもこれからは減らない、30日以降は、ほとんど敵の力は弱まらない。』

 ですから、今残っている崩壊熱をその発熱量以上に、何とか冷やし続けない限りは、温度が上がってしまうということになる。もっとも、その冷やし続けるという作業は事故直後から、ずーと続いているわけです。』

正常な冷やし方ではない

 ―しかも、今は「正常な冷やし方」ではないんですね?

 そう、正常な冷やし方ではない。正常な冷やし方をする回路はすべて失われてしまっています。ですから今福島第一原発の人たちがやっていること、とにかく外から原子炉の中に水をかけて冷やすということをやっている。しかし、それをやってしまうと外から水を入れているわけですから、入れた分だけ中から溢れて出してくると言うことになる。

 原子炉圧力容器と言っている鋼鉄のお釜もすでに破損しています。そして原子炉格納容器と言っている、放射能を閉じ込める最後のバリアもすでに破損しています。

 ですから水をいれれば入れるほど、燃料棒を冷やすことは出来るけれど、放射能に汚染したまま、外に出てくるという事になります。

 今現在福島第一原子力発電所の敷地の中に6万トンというもの凄く放射能で汚染した水が、タービン建屋内とかトレンチ、あるいはピットと呼ばれているコンクリート製の水路の中であるとかに、もうそこら中にたまってしまっている状況。
 そのもの凄い汚染水を出来るだけ環境に漏らさないようにしなければならないのはもちろんですけど、そのために東電は何をしたかというと、その汚染水に比べればまだ汚染の少ない、「低レベル」と彼らが呼んだ汚染水、1万トン近くたまっていた汚染水をそのまま海に捨てて、それまで格納していたタンクをカラにして、そこに高レベル放射能汚染水を入れようとしているわけです。

 でも、私が今低レベルとよんだ廃液自身が、国の基準で環境に放出していいという濃度限度に比べれば、何百倍も高いという猛烈な汚染水ですね。しかしそれを海に出さなければもうどうにもならないと言うところに追い詰められている。

 かといって水の注入をやめるわけにはいかない。やめれば、先ほど申し上げたように、炉心内の温度が高くなって、最悪の破局が近づいてくる。

 ですからもちろんそれをしなければいけません。』

冷却システムの回復のための作業
 しかしその一方で、トレンチにしても、ピットにしても、立坑(たてこう)と呼ばれるところにしても、全部コンクリート製の構造物ですので、もともと水を閉じこめることはできませんね。ですから、もの凄い汚染水が地下に洩れていっているだろうと私は推測しています。』

 高濃度汚染水を漏らさないようにするためにちゃんとしたタンクに移さなければいけない、この作業をしなければならない。でもその他にもう一つ、その作業が絶対に必要な理由がある。それは比較的安全な作業環境を設定するということです。』

 今は、とにかく外から水をいれて冷やした後、中から溢れてくるのをなんとかしようとしているわけですけど、いつまでもそんなことはできない。いつかは高濃度汚染水を海に捨てなくてはならなくなる。ですから外から入れた水を、何とか循環させて冷却できるというシステムを回復しなければならない。』

―それは要するに、冷却水の復水システムの回復ですよね、そのシステムが回復すれば大きく一歩前進する・・・。

そうです。しかしそのためには大工事と云っていいレベルの作業がどうしても必要になる。しかし今そこら中にたまっている放射能汚染水はもの凄い汚染水です。このもの凄い汚染水を現場から追い出さない限りは正常な冷却回路を回復しようとしても、人が近寄れない。作業自体が出来ないという状態になっている。』

―原子力安全・保安院の西山審議官の記者会見を見ていると、この高レベル汚染水は1000mSv(ミリシーベルト)と言っていましたが、先生もそう思われますか?

ええ。もっと高い数値のもあるだろうとは私は思いますが、すくなくとも政府が言っているのは1時間当たり1シーベルトということです。人が近づけるレベルではありません。』

―もう、それ自体が放射性物質ですよね。

もの凄い放射性物質の濃度の濃い液体が、要するにタービン建屋という巨大なフロアに溢れてしまっている、ということです。そういうところには到底人が近づけない。とっても苦しい状態に追い詰められているわけで、なんとか正常な冷却回路を作らなければいけない。そのためには作業が必要だ、作業のためには何とか汚染水を現場から出さなければならない。でも出すところがないという困難な状況になっている。』

「6万トン」はどこへ?

―高濃度汚染水は6万トンですか・・・、でもどこへもっていくんですか?

福島第一の敷地内にある集中廃棄物処理建屋に1万トンから2万トンぐらいは入れられるんだと思いますが、全体(約6万トン)はもちろん入れられません。

 もう随分前にした私の提案は、石油タンカーを連れてきて、それに入れて東京電力の柏崎刈羽原子力発電所に移す、そこの柏崎刈羽原子力発電所には廃液の処理装置がありますので、そこで処理をしながらタンカーでピストンをしながら、移すというのが私の提案だったのですが、全くその作業も進んでいない。』

 東京電力柏崎原子力発電所は新潟県柏崎市と、同県刈羽郡刈羽村にまたがる巨大な原子力発電所。「現在1号機から7号機までの7つの原子炉を有する。7基の原子炉が発生する合計出力は821万2千キロワットに達し、7号機が営業運転を開始した1997年7月2日の時点でそれまでの最大だったカナダのブルース原子力発電所を抜いて世界最大の原子力発電所になった。」と日本語ウィキペディア「柏崎刈羽原子力発電所」は説明している。2007年に発生した新潟県中越沖地震(マグニチュード6.8)で、例の「想定外」のためあちこちに不具合と火災も起こり、このため1号機から7号機まですべて運転停止をした。その後運転を再開したが、2号機、3号機、4号機はいまだに運転停止中である。(<http://www.kikonet.org/research/archive/energyshift/list-of-nuclear-power-plant.pdf)を参照の事。)現在東京電力は、今年夏場の電力供給不足を口実にして、この3つの原子炉の操業再開を狙っている。

―しかし、そのタンカー自体も、高濃度の放射能汚染水を輸送するような構造になっていませんよね、タンカー自体が放射能に守られてはいませんよね?

なっていません。』

―決死の作業になりますね?

 もう2度とタンカーとしては使えなくなる、それより、そのタンカーを一体誰が操縦するのか、普通そのタンカーを操縦する人たちは、放射線業務従事者でもなんでもないわけで、被曝をしてはいけない人たちですから、そういう人たちを守りながらどうやってタンカーを動かすのかということはとてもむつかしい課題だと思います。

でもこの危機な訳ですから、こんな時こそ政治が動いてその問題をなんとか解決して動かすということは私は必要だと思ったのです。ですが、今の政治にはそんなことをやる力もなにもないようなのです。』

―正常なこれまで設備されていた復水機能の回復ということについては、どんな見通しをもっておられますか?

 もともとは原子炉圧力容器という鋼鉄のお釜は健全である、正常に機能するという前提で原子炉は設計されているわけですね。格納容器という放射能を閉じ込める容器ももちろん同じ前提です。ですが、すでに原子力圧力容器に穴があいている。で、格納容器にも一部穴があいているということがわかっているわけですね。そういう時にこれまで設備されていた正常な復水・冷却回路は、実は復旧できない。』

(息をのんで、絶句。なるほど言われてみればそうだ。これまでの設備が正常に動作するという前提がなくなっている。)

パラメータから見た容器の損傷

 今たとえば、「パラメータ」を見てみよう。1号機の原子炉圧力は3月12日午後3時半頃水素爆発を起こすまで0.800MPaGという信じられないくらいの高い値を示していた。「MPaG」は「メガ・パスカル・ジー(ゲージのジー)」と読む。パスカルは圧力の単位。だから「MPa」は「百万パスカル」の単位になる。「G」は標準大気圧計測(ゲージ圧力)で計っていますよ、という意味だ。地球表面の標準大気圧を「MPa」の単位で表現すると0.101325MPaGという事になる。(日本語Wikipedia「気圧」を参照の事)。だからこの値は7.89気圧、約8気圧という数字になる。沸騰水型の圧力容器の設計圧力最高値は約70気圧。だからこの数字で圧力容器が圧力爆発することはない。しかしこの時点では、1号機はすでに緊急停止している。緊急停止した圧力容器が絶対に検出しない高い圧力だ。明らかに異常事態が起こっている。水位計と併せて見ると水位がどんどん下がっているので、内部温度が100℃以上に上昇し、どんどん水蒸気が発生し圧力が上がっている、ということだ。実は、この時点で、燃料棒近辺の温度はすでに1650℃以上にあがっており、燃料棒の被覆管のジルコニウムが溶け出していたのはすでに見たとおりだ。

 格納容器の圧力はもっと凄い。3月12日午前2時45分の計測では0.941MPaabsという値になっている。「abs」はゲージ圧ではなくで「絶対圧」で計っていますよ、ということだ。絶対圧は、「絶対真空を基準に表した圧力」と云う意味で、だから絶対圧 = ゲージ圧 + 大気圧となる。絶対圧が0.941MPaということは、ゲージ圧に直すと0.84MPaGとなる。これを標準大気圧に直すと、8.92気圧ということになる。
 
 格納容器の設計圧力最高値は4気圧程度だ。ここで出ている値は設計値の倍以上の圧力ということになる。よく壊れなかったものだ。こうして異常な値を示していた内部圧力も、12日午後3時半頃の水素爆発の後は、圧力容器が3気圧、2気圧、1.5気圧と下がり、その後上がったり下がったりしながら、4月15日の朝6時の計測では再び2つの計測計のうち1つ(A)が4気圧程度、もう1つ(B)が9気圧程度とまた異常値を示し始めている。
 
 それでは1号機の圧力容器は密閉性が保たれている、すなわち穴があいていない状態なのかというと、どうもそうではなさそうなのだ。前に見たとおり空だきの状態になってから海水を注入し、その後真水に切り替え、今は真水と窒素を注入しているが、どんなに水を入れても水位計は-1800mmから-1600mm程度でほぼ一定しているのだ。4月15日午前6時の時点の圧力容器給水ノズルの温度は196.4℃と報告されているから、今も盛んに水が水蒸気になっていることは疑いない。しかしそれにしても水位が上がらないという事は圧力容器に穴があいてそこから洩れているということを意味している。(同2/64p及び「パラメータ」の1枚目から3枚目までを参照の事。)


2号機と3号機の損傷

 2号機はどうかというと、圧力は異常な値を示してはいないが、これも3月14日午後5時過ぎの計測で突如空だき状態になった後、大量の水を注入しても水位が−1400mmから−1500mmと一定しており回復していない。15日の圧力容器温度も148.2℃と決して良いデータとはいえない。内部ではどんどん水蒸気になっている。なにより圧力容器のデータがマイナス値になっている。これはもう意味のないデータでほぼ外気圧と同じ、外気と完全につながっているという事を意味している。もちろん放射能は放出され続けている。

 ただ1号機も2号機も底が抜けた、と云う状態ではない。もしそうなら水を入れても一定の水位すら確保できないはずだ。やはり「穴があいている」という表現が正しいのだろう。

 3号機はどうだろうか?3号機も圧力容器の圧力は3月17日に意味のない値までさがり、3月18日にはついにマイナス値を計測した。その後有意の圧力には回復しておらず、一時期をのぞけばずっとマイナス値だ。これも穴があいていると見なければならない。水位も回復せず−2000mm前後を行ったり来たりしている。なおここでいう水位とはすべて圧力容器の水位だ。先にも触れたように、圧力容器内の燃料棒の長さ(高さ)は約4mある。この4mが全部水で覆われている状態がTAFの状態で、TAFでは水位は±0mmとなる。このTAFの状態から水位がどれだけあるかと云う表示が先ほどのデータだ。−2000mmということはTAFから2mほど水位が低い、燃料棒が2mむき出しになっているということになる。それではどれくらいが正常値かというと、2号機の3月11日午後10時のデータでは3400mmとなっている。この時圧力容器の圧力データは5気圧程度とすでに異常な値を示していた。すなわち水が蒸気になっていたことを示している。だから正常な値では水位は4000mm以上、すなわち燃料棒の最頂部から、さらに4m以上の水で覆って冷やし続けるというのが正常な状態だと考えられる。ということは、1号機から3号機まではまだ燃料棒が半分以上むき出しであり、これまでの最悪の状態ではないものの、依然として危険な状態にあることが読み取れる。


冷却システムの回復が最重要課題

ですから、圧力容器というお釜があって、そこにぐるぐる水を回すと言うことはできるけれど、お釜自身に穴があいてしまっていますので、水を入れれば入れるだけ洩れてしまう、だから事故以前の正常な冷却回路はすでにもう復旧できないのです。

そこで今私が考えているのは、原子炉圧力容器にはもう穴があいている、その外側に格納容器という別な容器がある、圧力容器に水をいれるとどんどん洩れてくる、漏れてきた水は格納容器の底に溜まります。サプレッション・チェンバ(別図イラスト1参照の事。イラストでは横から見ているため、球形に描かれているが上から見ると巨大なドーナッツ状をしている、と小出裕章は教えてくれた。)にたまるだろうと思います。一部外部に洩れてしまっているのはもうしようがないけれど、でも格納容器の底にたまる筈だと思います。』

そこで私の提案はそのサプレッション・チェンバにたまった水をポンプで汲み上げてそれを原子炉圧力容器の中にもどすと、そうするとまた洩れてきてサプレッション・チェンバにたまるんですけど、それを汲み上げて、また圧力容器に戻す、というループを作るということです。』

 でも、水をそのまま戻したのでは、どんどん圧力容器内の温度が上がってしまいますので、その途中に熱交換機(ラジエーター)を入れて温度を冷やしてから圧力容器の中にもどすということを考えているわけです。ラジエーターで奪った熱だけは海へ捨てる、海水で冷やしながら奪った熱だけを海へ捨てるということを考えているわけです。そういう回路を考えない限り、冷却回路を回復する手だてはないと私は思います。

 ただそれは原子力発電所が設計して持っていた、配管あるいはポンプなどを使ったのでは多分うまくいかないと思う。幸いに余熱除去系というラインがあって、そのラインはとっても便利なんです、この余熱除去系のラインは、事故が起きた時の緊急炉心冷却系として、サプレッション・チェンバの水を汲んで、原子炉圧力容器の中に送るというラインもあります。ポンプも配管もあるから出来るのです。ただしその途中には熱交換機がないのです。だから、熱交換機を入れてやらねばなりません。それは大工事にはなります。』

 中国電力が今、上関原子力発電所を建設しようとして現地山口県上関の地元に札束攻勢を行っているが、地元上関の住民をはじめ多くの広島市民も是非これを潰してやりたいと思っているが、この原子炉が福島第一原子力発電所の1号機と同型の軽水炉沸騰水型のMk-1である。ただしMk-1の改良型である。この改良型の「全体系統構成概要図」(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/pdf/kaminoseki_genpatsu_gainenzu.pdf>を参照の事)を見ると、残留熱除去系(RHR)ライン、すなわち小出裕章の言う余熱除去系ラインにすでに熱交換機が入っている。恐らくは事故対策を念頭に置いた安全装置なのだろう。だから、今回東京電力もせめて改良型に改造しておけば、と悔やまれる。いや改良型にしたところで事故は起きる時には起きる。事故が起きた時、取り返しのつかない事態になるようなシステムを、私たちは絶対に使ってはならないのだ。それが今回の「フクシマ危機」で唯一学べる教訓であろう。私は今回の「フクシマ危機」で原子力発電の仕組みを付け焼き刃でざーっと勉強してみたが、学べば学ぶほどこの仕組みのアンバランスな技術構造に驚いた。原子力という巨大な力を相手にするには、それを扱うハードウエアの技術体系があまりにも旧態依然たる体系なのだ。アインシュタインの世界に、ニュートン力学で対応しているようなものだ。このアンバランスを補うために、一つの装置を導入する、それがまた次の矛盾と問題を生む、それを解決するために次の装置を導入する・・・と云う風に永遠のいたちごっこを演ずることになる。そのたびごとにシステムは煩雑、複雑になり、それがまた事故のたねを蒔くという風に危険を増していく。逆に事故や操作員の誤作動を生まない方がおかしいぐらいの複雑さだ。優れた技術は例外なくシンプルな構造をもっている。これでよく「原子力は安全」だなどと云ってきたものだ。私もいまさら勉強しても時すでに遅しなのだが・・・。

福島第一の苛酷な現場

でも、熱交換機を入れるという大工事をしようとしても、今は現場に立ち入ることすら出来ない。まず現場の猛烈な濃度の放射能汚染水を外に出さない限りは、その工事すら着手できないというそういう状態なのです。』

でもそれをやらなければ冷却系統が回復できない、多分長い時間がかかると思います。
 現場から高濃度の汚染水を出すということ、出した後にその冷却系統敷設の工事をするということ、長い時間がかかりますし、さらにもの凄い被曝をしながら労働者たちがそれをやらなければいけないという事になります。そういう状態になっているわけです。』

 (しばし無言)

 −先生、・・・そうおっしゃいますけれど、誰がその危ない作業をやるんですか?国際放射線防護委員会(ICRP)の2007年の勧告に関する文書(< http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/pdf/ICRP2007kankoku_Pub103_shingi.pdf>を参照の事)というのを読んだんですけど、その中に放射線作業者が自分の危険を知って作業を行う場合と知らされずに作業をする場合と状況が違う、だから放射線危険規制値(許容値)も異なる、という記述がありました。表現は違うと思いますけど、意味合いはそうでした。緊急事態を想定した項目の中でそういう記述がありました。福島第一原発では、作業者のみなさんが、それを承知でやっているんでしょうか?

それはわかりません。十分に放射線、あるいは被曝に関する知識を持っている人も、もちろんいると思います。しかし、これまでの原子力発電所の歴史を見てくると、実際の現場の作業員の方たちは、ほとんど放射線の知識のない人たちが使われてきたと云うのが実態なんです。ですから今回のような事態の中でも、きっと知識のない人たちが、アラームメーターという被曝を警告するようなメーターをつけながら、鉄砲玉のように使われて作業をしているんだと想像します。つい先日までそのメーターすらが不足していて、渡されていなかったと云う状態な訳です。ですから想像を絶する苛酷な現場だろうと、私は思います。』

―覚悟してやっている人たちはまだしも、その今たまたま鉄砲玉と云う言葉を使われたけれども、鉄砲玉に使われているということならばこれは別な意味で大問題ですよね。

 そうです。それは大問題です。

 ただ、今現在、福島第一原発の現場のことは、本当に、その現場のことを知っている人でないと、ほとんど力にならないと私は思う・・・。』

私たちを救っているのは福島第一現場の労働者たち

―ええ?現場を・・・?それはどういうことですか?

 例えば、私も京都大学・原子炉実験所で働いていて、所内のことは隅から隅まで知っている、だから大きな戦力になることができる。それは現場を知っているからです。だからもしここが事故になれば、ここの所員が全員でその事故を食い止めるしかない。外部からだれかを呼んできたところでほとんど仕事にならないだろうと思う。

 暗闇の中でもスイッチの位置がわかる、バルブの位置がわかる、そういう人でないと、急場の役に立たないと思う。でもそういう人の数というのは限られている。』

 そういう人たちが、事故発生以来、これまで、福島第一原発で、作業をしてきたんですけど、被曝線量の上限はもちろん決められているわけですから、次々とそういう人は、作業が出来なくなる。』

 菅政府は今回被曝線量の上限許容値を急遽、年間100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに引き上げた。そして御用学者は、今までが相当余裕をもっていたんだから、250ミリシーベルトでも問題ない、とテレビに登場してうそぶいた。

 そうすると別な人を連れてこなければならなくなるわけですけど、次には、多分作業の効率がどんどん落ちてくる・・・。

 たとえば、もし私が福島第一原発の現場へこい、と言われれば喜んで行きますけど、といって、なにか作業をしろということになると、私に出来ることがあれば、あそこに飛んでいって、あのバルブを閉めてこい、開けてこい、あそこのボルトを1本締めてこい、とかいわれれば出来ると思います。でも私に出来るのは精々そのくらいですよ。やはり現場を知っている人にはかなわない。』 

 私は菅さんと枝野さんに現場に行って欲しいと思います。ボルトの1本も締めてこい、といいたいです、そうすれば現場がどんな深刻な状況かがわかるでしょう。』

 でも、そのくらいしかできない。その程度しか役に立たない。(事故への対応は)現場を知っている人がやる以外にはないだろうし、そういう人たちの力がいつまでもつのだろうか、と思います。

 これまで、最後の一線で、彼らが持ちこたえてきてくれたわけで、そのおかげで敵の力はだーっと減ったんですね。1/30まで敵の力は減っているわけですね。しかし、こちらだってどんどん疲れてきているわけですよ。』

―消耗戦になってきている?

そうです、そうです。しかし1ヶ月経った今、冒頭申し上げたように、これからは敵の力は余り減らないのです。』

―そうするとですね、今、戦いに例えていえば、初戦ではとにかく30日は持ちこたえたと、敵の力を大きく減殺したが、これから中盤戦に入っていくと、敵の力はさほど衰えていかない、減っていかない、戦闘効率が悪くなる、そういう時期が始まる?

 それに対して、こちらはへとへとになってって疲れてくる、外から誰かを呼んでくる、それは戦力としては相対的に低い能力の戦力でしかないという問題が出てくる。これであと何ヶ月持ちこたえることが出来るか、本当に安定化させるためには、冷却回路の回復が必要なわけですけど、絶対これは必要なんですけど、この作業が出来るのかと思うと、私はもの凄い不安なんです。』

―今までは、よくやってきたという評価になりますか?いや起こってきた状況に対してと云う意味ですよ。

(答えようがない質問で、苦笑) 
  今、とてつもない破局が進行中なわけで、政府によれば「想定外」という事態がおきてしまったわけで、何をしていいかわからないというそういう状況の中で、頑張ってきてくれたと私は思います。』

―しかし原子力対策本部の報告書を読む限り、3月11日の晩から、少なくとも政府・東電には、次に何が起こるかは想定できた筈だと思います。

 私もそう思います。私は常に最悪のシナリオを想定してきましたので、全ての電源が断たれたということを聞いた時に、これはとてつもない事態だ、最悪の場合は1週間以内に破局が来ると予測をたてたわけですね、しかし冒頭申し上げたように、私の予測は喜ばしいことに外れた、でも私の予測を外れさせてくれたのは、手探りの中で、最後の一線で踏みとどまって頑張ってくれた福島原発の労働者・技術者の人たちの献身的な働きだったのです。』  

 (以下そのAへ)
  (第1回小出インタビューへ)