【参考資料】ヒロシマ・ナガサキ・フクシマ
(2010.4.21)
追加:2011.4.22 福島第一原子力発電所配置図イラスト
<参考記事>福島原発事故:小出裕章インタビュー 第2回 そのA正しい情報を伝え、皆の知恵を集めることが破局回避の唯一の道
 
小出裕章の見解

 前回までの京都大学・原子炉実験所・助教、小出裕章の見解をまとめると次のようになるだろう。 

 「福島第一原発事故」は、事故発生直後から1週間以内で決着がつくと予想していた。この場合決着がつとは、「破局にいたるか」あるいは「収束し安定化に向かうか」のいずれかがハッキリするという意味だ。
ところが小出裕章自身の言葉を借りれば『私の予測は完璧に外れた』のである。

 「完璧に外れた」というのは、「破局に至らなかった」と云う意味と、「安定化にも向かっていない」という意味と2重の意味を含んでいる。そして「破局」に至るのを最後の一線で食い止めているのは、福島第一原発の現場で献身的に格闘し続けている一握りの労働者・技術者たちだ、と小出はいう。再び小出裕章の言葉を借りれば、『喜ばしいことに私の予測を完璧に外れさせてくれたのは現場で苦闘している人たちの働きだった。』ということになる。

 ここで「破局」というのは、「チェルノブイリ事故」の約10倍の放射能放出が地球を襲うことを指している。小出裕章の同僚、京都大学・原子炉実験所のやはり助教、今中哲二の研究を今引用すれば、チェルノブイリ事故では約4億キュリーの放射能を放出した。(「福島原発事故:その最悪のシナリオ そのB」の「チェルノブイリ事故の放射能放出量」の項参照の事<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/fukushima/03.html>)

 その約10倍というと約40億キュリーの放出量ということになる。首相菅直人が云ったと伝えられるセリフではないが、これはまさに「東日本が潰れる。」世界中の人々が心配して「フクシマ危機」の成り行きを見つめているのは当然のことだ。(私たちは、日本国内のことばかりに気をとられているが、世界の人たちに対して今重大な責任を負っていることを忘れるべきでない。)

 小出裕章の見解は、『この破局は、最後の一線で今食い止められている。』しかし『1ヶ月以上経った今、敵(放射能)はこれから衰え方が小さくなる。その一方でこちらは戦力がどんどん消耗していく。日本全体が総力を結集してことに当たらなければならないのに、政治からその体制ができていない』ことに深刻な憂慮を示している。

 技術的に云えば、福島原発事故現場で、「人間が作業できる環境を回復し」、「正常に敵を冷やし続ける仕組みを回復」すること(正常な冷却システムの回復)が先決である。今の段階で「敵を閉じこめる」見通しはまだ立っていない。根本的な問題解決のために、これから先どれくらいの年月がかかるか見当もつかない。まだ闘いはやっとその入り口に立ったばかりである。しかし「政治」はそこへ向けて日本人の力と英知を結集させていない。そこに小出裕章の真の憂慮があるのだろう。

 今私たちがやらなければならないことは、一人一人が自分で調べ学んで、自分の頭で考え、「フクシマ危機」を解決しうる政治の仕組みを作り上げていくことだろう。従って「フクシマ危機」に取り組むことは、日本に真の民主主義を確立する闘いと重ならざるを得ない。その出発点は、私たち一人一人が、学んで自分の頭で考える賢い「日本の市民」となることにある、このことは疑いようがない。

 文中小出裕章の発言は『 』で囲った。補足資料は文中に補ったが、煩わしい場合もあるので、青字の小さめのフォントで表記し、読み飛ばしやすくしている。補足資料の記述に関する文責は100%哲野イサクにある。小出裕章には責任がない。なおインタビューにはカメラマンとして私の同僚の網野沙羅が同席した。以下本文。

破局的には壊れていない

「喜ばしいことに予測は外れた」とおっしゃいましたが、その予測通りになっていれば、 どんな事態が来ていたのか・・・。今どのくらいの放射能が残っている?

今、すくなくとも問題になっている放射能は、ヨウ素とセシウムという2種類の放射能です。いろんな放射能がありますけど、基本的にはヨウ素とセシウムだけです。
  それはなぜそうかというと、2つの放射性核種が揮発性だからです。それはもうかなり大量に出ています。原子炉の中に含まれている、もともと含まれている量の数%、あるいは10%という量がすでに出てきてしまっている。でも他の不揮発性の核種というのは、まだまだ外に出てきていない状態にあると思います。』 

それは、放出放射能の分析結果から確実に推測できることですか?

はい。えーと、すでにプルトニウムという放射性核種が敷地の中で検出されたという報道がありましたけれど、今朝(4月13日)はストロンチウム90という核種が、それも不揮発性なのですが、出てきたという報道がありました。実は3月16日の試料から検出されていたということですから、かなり前から洩れてはいるんです。検出されていたのですけど、量としていえば非常に少ない量、ですから私は原子炉の炉心自身が破局的には壊れていないと、今でも考えています。私が考えている「破局」が来てしまうと、揮発性のヨウ素とかセシウムは全体の数十%、今出ている量の桁違いに多いものがでてくる、10倍以上のものが出てくると思います。それに加えてプルトニウムとかストロンチウムであるとか、不揮発性核種、あるいは超ウラン元素まで大量に出てきます、そういう事態ですね、そういう事態が「破局」です。』

超ウラン元素や不揮発性の核種、特に人工的しか出てこないような核種、そういうものは有意味な量としては出てきていない、今のところ、ということですね。一度メールを差し上げて、問い合わせしたような核種ですね。あのデータそのものは恐らく計測ミスだろうという見解はいまでも変わりませんか?

 この時私が問い合わせた内容は以下のようであった。メールの日付は2011年4月1日となっている。

  『原子力災害本部発表の「2011年福島第一・第二原子力発電所事故」と題する報告書(以下報告書と略)の2011年3月25日版   (http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/pdf/201103251100genpatsu.pdf)を見ると、3号機タービン建屋地下内溜まり水の分析結果が表示されており(同14/48ページ)、次のように記述されています。

Co(コバルト)−60 濃度:約7.0X10(2乗)Bq (単位は立方センチメートル以下同じ)
Tc(テクネチウム)−99m 濃度:約2.5X10(8乗)Bq
I(ヨウ素)−131 濃度:約1.2X10(6乗)Bq
Cs(セシウム)−134 濃度:約1.8X10(5乗)Bq
Cs(セシウム)−136 濃度:約2.3X10(4乗)Bq
Cs(セシウム)−137 濃度:約1.8X10(5乗)Bq
Ba(バリウム)−140 濃度:約5.2X10(4乗)Bq
La(ランタン)−140 濃度:約9.4X10(9乗)Bq
Ce(セリウム)−144 濃度:約2.2X10(8乗)Bq
  合計 濃度:約3.9X10(6乗)Bq

 となっております。それまでとは全く異なった、しかも不揮発性の核種が出ております。特にテクネチウムとランタンが気になります。これは炉心の本格的溶融が始まったと見るべきなのでしょうか、それともまだ少ないレベルなので含まれて当然と見るべきなのでしょうか? 』

 これに対して小出の返事は次のようであった。(日付は4月1日になっており、表題は「測定の誤りだと思います」になっている。)

Tc-99m は半減期が6.02時間という寿命の短い核種です。Mo-99(半減期66時間)の娘核種ですが、Mo-99が検出されていないようですので、たぶん間違いです。La-140も半減期40.3時間という比較的寿命の短い核種でBa-140(半減期12.8日)の娘核種です。こうした場合、Ba-140とLa-140は「放射平衡」という状態になり、放射能強度が等しくなるはずです。ところが分析値は著しく異なっており、これも測定の誤りだと思います。

先にI-134(半減期53分)が検出されたという誤報がありましたが、情報には十分注意が必要です。』

 今回この記事をまとめるため、最新の報告書(4月18日 17:00現在版<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/pdf/201104181700genpatsu.pdf>)で確認すると、この記載は引き続き掲載されてはいるものの(22/67ページ参照の事)、「再評価中」と変わっており、「(注)事務的な記載ミスが判明したため訂正」となっていた。記載は続けてはいるものの事実上の取り消しと見て良かろう。

(苦笑)ええ、それは今でも変わりません。』

日本列島が地震活動期

要するに破局的な事態と言うことになると、不揮発性のもの、超ウラン元素の核種がどんどん検出されるだろう、と。

そうです、そうです。ですからそれだけは何とか避けなければ行けないし、それを避けるためには、原子炉を冷やし続けなければならない、冷やすためには、正常な冷却回路を復旧させねばならないし、それしかない。しかし、それが出来ないまま、ここまで来ている・・・。』

網野『 今、地震が続いていますけれど、今後また大きな地震があったら、今、外から(水を)かけながら冷やすという作業すらできなくなる事態も考えられますね。もしそうなった場合、また温度が上がってくる、そして破局的なことが起こりうる?』

 網野の心配には理由と背景がある。例えば、「東日本大震災:余震域外で地震活発 気象庁が備え呼びかけ」(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/fukushima/20110417_1.html>)や「日本全国で大きな地震が発生する可能性−気象庁」(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/fukushima/20110417_2.html>)

もちろんです。ただし、発熱自身はあがらないんですよ、発熱というのは崩壊熱という熱なんですけど、それはもう上がりません。どんどん下がっていくばかりです。まぁ、(1ヶ月以上経た今は、崩壊熱の)低下は、これからはほとんどしませんが、少なくとも上がることはない。それが(原子炉内の)温度にどういう風な影響を与えるかという と、それは冷やす効果とどっちが勝つか、というだけなんです。
 
 発熱量以上に冷やせば温度は下がっていくし、発熱量以下で冷やせば温度は上がっていく、まして(地震や停電などで)冷やすことができなければ、温度はどんどん上がっていくことになります。

 福島第一の現場は、それを消防のポンプ車とか、ようやく復旧した電源で水を入れているという状況で、それが何とか続いているから、破局的な結果になる温度上昇を防いできた・・・。水で冷やすという仕事は、これからもやらなければならないけど、網野さんが今言ったように地震で作業ができなくなることは十分考えられる訳ですし、現にそれは起きている。要するに冷やす作業が出来なくなる、そうすると熱は出続けていくわけですから、温度が上がってしまう、そうすると炉心がますます崩壊していく、破局的な状況がやってくる、そういう可能性は、これからも十二分にあるわけです。』

網野『 お話をおうかがいすると、随分原始的なことをやっているんですね・・・。』

(ひたすら苦笑)


本格的溶融、メルトダウンの意味

 ― 炉心が崩壊すると言うことは燃料ペレットがその融解温度、2800℃以上に達するということで理解しておいていいですか?

ええ、いいです。私が恐れているのはそれです。』

ですから、今はジルコニウム被覆管が溶けて、炉心がむき出しになった状態、揮発性の核種が拡散した状態、これが温度が上がって2800℃になってくると燃料棒が溶け出してくる、これが本格的溶融の状態ですね?
  そうです。炉心が溶ける、メルトする、一部はもうメルトしていると私は思っていますが、大量にメルトする段階にはいたっていない。大量にメルトして、その溶けたかたまりが下に落ちる、ダウンする、これがメルトダウンの状態ですね。

その時、炉心というのは原子炉圧力容器というお釜の中に入っている、また炉心のかなりの部分が水からむき出しの状態になっている、圧力容器の中にはまだ水が残っているから、底の方に水が残っているところに溶けた炉心のかたまりが落下するというようなことが起これば、そこで水蒸気爆発が起こる、そうなったら圧力容器は壊れるでしょうし、外側にあるペラペラの格納容器も壊れるでしょう、そうなればもう何の防壁もないまま、溶けた炉心から放射能が飛び出してくる、それはなんとしても避けないといけないと思っている。そのためには冷やすしかないのです。』

よく新聞なんか読んでいて、私なんかがよく混乱するのは、炉心が一部溶けていると云う状態と、今言われた完全なメルトダウンの状態とが区別がつかなくなるんですね。

炉心が一部溶けている状態と、今私がいっているメルトダウンの状態とは、全く違います。私が恐れている破局的な事故というのは、大量の炉心がメルトして、ダウンする、と云う状態です。今「炉心が溶けている」というのは、一部が溶けてプルトニウムやストロンチウムが少し(微量)出てきているという状態、もうそれは、福島第一で確実に発生しているんですね。でも一部溶けているということと大量に溶けていると言うことは事故の規模や深刻さということで言えば、決定的に違います。』

原子炉圧力容器や格納容器に「穴があいている」、と云う表現がありますが、これも穴があいている、すなわち完全密閉の状況ではないということと、容器自体が完全破壊されて、炉心が全部がむき出しになっている状態とはまた違うことですね?確認するようですが・・・。

全然違います。私は「穴があいている、確実」といいました。ですから水をいれてもそれが容器の外へ洩れてしまうという状態。でも破局には至っていない。なんとか水を入れ続けて洩れ出して来る水はどうしようもないけれど、何とか持ちこたえている状態。確かに、その状態を脱却しなければならないけれど、でも破局には至っていないという状態・・・。」

いや、というのは一部の新聞記事もそうなんですけど、インターネットの一部の訳知りの人の書いたものを読むと、圧力容器も壊れていて、炉心が溶けていて・・・。もうすでにメルトダウンしているとか、圧力容器はまったく機能していないとか書いている人もいるわけなんです。一部炉心損傷や一部熔解、ということと2800℃以上になって炉心全溶融の状態と区別がついていない、この決定的に違うことが区別がついていないことがあるもので、今、確認のためにお尋ねしている訳なんです。

それは区別して考えなければいけないと思います。今私が破局と言っているのは、中に閉じこめられた放射能がすべて外に飛び出した状況のことですね。繰り返しになりますけれど、水蒸気爆発を起こして圧力容器も格納容器もすべて壊れた状態、そういう状態を私は、「破局」と呼んでいるわけです。

何度も繰り返しますけれど、その破局を避けるためには冷やし続けなければいけない、正常な冷却機能を回復しなければならない、そのためには作業現場の安全を回復しなければならない、しかし現場の放射能に阻まれてそれがなかなか実現できない、という八方ふさがりの状況にあるわけですね、今現在が。』

最悪の事態・・・

で、一応、余り話題にしたくはないことですが、その最悪の時、言われる「破局」の時にはどのくらいの放射能がでてくるだろうか、という話、この見通しについておうかがいしておきたい。

今、政府の言い分は、(国際原子力事象評価尺度の)レベル7だということをようやく昨日(4月12日)認めたですね。あまりにも愚かな人たちだと私は思います。こんなことはじめからわかっていたわけです。すくなくともレベル7なんということは1週間も10日も前からはっきり確定していたのに、今頃言い出す。

でもそれでも彼らは、「レベル7だけど、チェルノブイリとは違います」、なんてことを言っている。何という人たちだと思います。確かにチェルノブイリの原子力発電所の事故で出した放射能の量と、今現在まで「フクシマ」が出している放射能の量を比べると、多分一桁違うと私は思う。それは彼らが言っているとおりです。

でも一桁しか違わないし、すでに、とてつもないひどいことをやっちゃてるわけですから、まずそれを反省して欲しいと思います。それを踏まえた上で申し上げるのですが、それで、もし私が恐れている破局という事態になったとすると、要するにチェルノブイリと同レベルの放射能放出になると思います。いまより10倍上がるとことは確実です。』

原子力災害対策本部の報告

 原子力災害対策本部の「報告」(4月15日17:00版<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/pdf/201104151700genpatsu.pdf>)の18/64ページに「4月12日」の項目があり、そこには次のように記載されている。

・福島第一原子力発電所事故・トラブルに対するINES(国際原子力・放射線事象評価尺度)評価について、レベル7と暫定評価(ただし、放射性物質の放出量は、同じレベルのチェルノブイリ事故の1割程度)

・3/11から4/5までの福島第一原子力発電所から大気中への放射性核種の放出総量の推定的試算値(原子力安全委員会)
:ヨウ素131 15万テラベクレル 
セシウム137 1万2千テラベクレル
  63万テラベクレル(ヨウ素換算値)
・原子力安全基盤(JNES)の原子炉の状態等の解析結果から試算による福島第一原子力発電所の原子炉からの大気中への総放出量(原子力安全・保安院)
:ヨウ素131 13万テラベクレル
セシウム137 6千テラベクレル
  37万テラベクレル(ヨウ素換算値) 』

 つまり政府発表の数値にも、原子力安全委員会と産業経済省の原子力安全・保安院の2つの数字があって37万テラベクレルから63万テラベクレルと幅があるということだ。可笑しいのはそのどちらの数字をとろうがチェルノブイリ事故の約1割程度、と云う暫定評価は動かない、ということだ。

 それではチェルノブイリ事故での放出量はどうかというと、原子力安全委員会は630万テラベクレル、原子力安全・保安院は370万テレベクレル、と見ていると言うことになる。同じ政府の中の2つの機関がチェルノブイリ事故での放出量を全然異なる量で見ているということになる。

 これはありえないわけで、要するにこの発表の眼目は、「レベル7」は認めます、でもチェルノブイリ事故からいうと1/10だったんですよ、ということを日本国民に印象づけたいというところにある。こう言われると何かフクシマは一段落したかのような錯覚に陥る。私たち日本の国民もとんとなめられたものだが、この発表があった直後の新聞には、「レベル7、でもチェルノブイリの1割」という見出しが踊った。

 小出が「愚かな人たち」という理由もここにある。国際原子力事象評価尺度は「レベル7」を「深刻な事故」とし、「ヨウ素131等価で数万テラベクレル以上の放射性物質の外部放出」としているわけだから、37万テラベクレルであろうが63万テラベクレルであろうが最初から「レベル7」なのだ。
(たとえば日本語ウィキペディア「国際原子力事象評価尺度」、あるいは英語Wikipedia“International Nuclear Event Scale”などを参照の事。)

 また2011年3月23日、ドイツの環境保護団体グリーンピースの物理学者、ヘルムート・ハーシュは、フランスのシンク・タンク、放射線防護核安全研究所(Institut de Radioprotection et de Surete Nucleaire -IRSN)の公表した数字をもとにして、「もしあと数万テラベクレルのヨウ素-131等価の放射性物質が放出されるならばこの事象はレベル7と考えるべきだ。」と述べている。
(<http://www.greenpeace.org/international/PageFiles/285388/
greenpeace_hirsch_INES_report_25032011.pdf
>)

 その根拠として、フランスの放射線防護核安全研究所の推定「事故発生以来2011年3月22日までの控えめな見積もりとして、9万テラベクレルのヨウ素-131と1万テラベクレルのセシウム-137を放出した」とする数字を信頼できる推定とし、これをもとにハーシュは、放出セシウム-137は40倍するとヨウ素-131等価になる、従って1万テラベクレルのセシウム-137は、40万テラベクレルのヨウ素-131等価となる、従ってフクシマはすでに約50万テラベクレルのヨウ素-131等価の放射能を放出している」と述べている。ちなみに先の数字で、原子力安全委員会も原子力安全・保安院も、セシウム-137を40倍してヨウ素-131等価量を求めている。

 だから「レベル7」と評価することに何か意味があるのではなくて、何故今になってそれを認めるのか、というその政治的意図を疑わなくてはいけないし、今までの放射能放出量、それが63テラベクレルであれ、37万テラベクレルであれ、そのこと自体よりもこれ以上の破局を防ぐことに最大限の注意を払わなくではならない。チェルノブイリの放射能放出は止まったが、「フクシマ」からはまったく止まっていないし、止めるメドもついていない。


福島第一全体壊滅の悪夢

実は、ホントはもっと心配しなければいけないことがある・・・。

事故を起こしたチェルノブイリの原子力発電所4号炉は出力100万キロワットです。それに相当する核燃料があって、それが一斉に放出された。それに対して、福島第一原発で危機に瀕している1号から4号まで入れると、出力は約280万キロワット、それに対応する核燃料があります。さらに言うならば、使用済み燃料プールに入っていた使用済み核燃料は、ほぼ同じくらいのものがある。あるいはもっと多いものが使用済み燃料プールの中にあるわけです。さらに言ってしまうならば福島第一原発の5号機、6号機までほぼ200万キロワット分の燃料がある。使用済み燃料もある。』

福島第一原発の保有する核燃料は下表の通り。

【別表1】 東京電力福島第一発電所の核燃料

  1号機 2号機 3号機 4号機 5号機 6号機 合計
出 力(kw) 46万 78.4万 78.4万 78.4万 78.4万 110万 469.6万
炉心燃料装荷体数 400体 548体 548体 0体 548体 764体 2808体
プール貯蔵体数 292体 587体 514体 1331体 946体 876体 4546体
出典: 日本語ウィキペディア「福島原子力発電所事故」(2011年3月24日閲覧)なおこの記述は社団法人日本原子力産業協会の資料をもとにしている。
註: 燃料装荷体とは一定の数量にまとめた核燃料棒の集合体のこと。「プール」は使用済み燃料プールのこと。4号機は定期点検中で原子炉内には核燃料はなかった。

クリックすると大きいファイルでご覧いただけます。

今、辛うじて原子炉を冷やすための作業をしてくれていて、破局を食い止めているわけですけど、(地震やさらなる高濃度放射能が現場に発生すれば)そういう作業が一切出来なくなる。最悪を想定するという前提にたてば、冷やせなければ(炉心が)溶けるというのは厳然たる事実なわけで、どこか(原子炉や使用済み燃料プールのうち)一カ所破局に至れば、次々と破局が来る、だって人が現場にとどまることができないわけですから。

そうなると、破局の連鎖が次々に起こるという事になると思います。そうなった場合には、多分チェルノブイリ事故の10倍の放射能を相手に考えなければいけないと思います。』

1号機と5号機の間は、地図で見ると約5−600m位離れているんですが、これは、放射能汚染で人が作業できなくなると言うことから言えば、意味のある距離と思われますでしょうか?
上記別図「福島第一発電所配置図」参照

(即座に)思いません。もし1号機から3号機のどれかが、私が心配しているような破局的な事故になったとすると、きっと福島第一発電所の中に人がとどまることはできなくなると思います。』

5−600mの距離は余り意味のない距離ということですか?

多分。でも、わかりません。それは起きてみないとなんとも、私にはわかりませんが、常識的に考えれば、福島第一の中に人は踏みとどまれない、と考えるべきでしょう。最悪を想定するという前提にたてば、そうなる。』

もっと聞きたくない話をお尋ねしますが、福島第1から南へ約10km下がったところに福島第2がある。ここは4つの原子炉があって合計すると440万キロワットになる。この「10km」は意味のある距離でしょうか?

   はい。多分10Kmは大きいと思います。福島第2で闘う作業員は、もちろん厖大な被曝をすることになるでしょうし、それは風向きにもよるでしょう。でも何とか人は踏みとどまれるんじゃないかと思います。

でも、例えばですよ、運悪く福島第1の原子炉のどこかが破局を迎えて大量の放射能が出てきて、それが福島第2原発の方に流れていって、福島第二あたりで雨が降るといったことになると、多分福島第2原発でも、人がいられなくなるでしょうね。

それはもう予測と言うよりも、運を天にまかせるしかない話ですね。可能性としては少ないんではないかと、私は思います。』

だけど今の段階で絶対にないとはいえない?

それは言えません。全ての可能性は排除できない状態だと思います。』

全ての原発停止が危機管理の基本

話が纏まらない方向に行ってしまうのかなとは思いますが、今、明らかに日本列島を取り巻く状況は、地震の活発時期に入っている、そうですよね?今私たちは福島第一原発のことばかり話題にあげていますが、ひやっとしたのは2−3日前、中規模の地震があって、東北電力の女川発電所で電源が50分くらい止まったと云う事故がありましたね。すぐに調べてみたら、日本全体で現在ただ今原子炉が26(25)基動いているんですね。うかつでお恥ずかしい話、私、それ知らなかったんですよ。福島原発事故があって安全基準を見直すというんで、止まってるとばかり思っていた。これは福島第一と同じ状況にならないという保証があって動いているんでしょうか?
(訂正:2011.4.22 上記では26と言っているが、数えなおすと25基だったので訂正する)

(あきれてものが言えない、という感じで苦笑)それはですね・・・。
私は、こういうことを目の前で事実として見ているわけですから、なんで、即刻すべての原発がとまらないのか、私は不思議なんです。』

じゃ、私の感じ方はまともなわけですね。

まともですよ!日本中の全ての原発を今止めるということが、今、一番最初にやらなければならないことだ。日本は、マスコミも含めて、多分、多くの人々は停電になったら困ると思っている。だから原子力は必要なんだと。』

いや、私も、実は、福島事故が起きる前には、危険だなと思いつつ、頭のどこかでそう思っていました。電気が足りなくなると経済活動が停滞すると。ところが調べれば調べるほど、ものごとの大小の判断基準が間違っていると言うことがわかってきた・・・。汚染された日本の国土と引き替えにして見合う価値のあるものは世の中にはないと・・・。

しかし、いまだに、原子力発電はそれに見合う価値があると考えている人が多いようなんですね。私とすれば本当に意外なことですけど、多分、多くのみなさんが、そう思っている人が多いがために、原子力発電が止まらない。今でも動いているわけですね。』

網野『 いや、私はそう思わないんですよ。つまり国土が汚染されるのはいやだけど、電気は必要だ、だから原子力発電は事故をおこさない、と思いたいんじゃないか、と。』 

でも現実に事故を起こしたじゃないですか!そのために、福島第一原発の周囲の人は自分の住むべき場所、生活の場所を失った。

それで今、原発を動かしている人たちは、何というかというと、自分のところは、あんな福島のような巨大な津波は来ませんよ、仮にきたとしてもディーゼル発電機はもっと高いところにありますよ、といいながら自分たちの原子力発電所は安全だ、というようなことを言っている。でも私は教訓の受け止め方が間違えていると思います。

事故というのは一つの原因で起こるのではない、いろんな要因が重なって起こるのであって、今回起きたその一つの要因に関しては、自分たちは防禦しているかもしれないけれど、別な原因で事故というのはおきるかもしれないんです。事故は起こってはじめて、ああ、しまったと気づくのというのが、その本質です。しかし原発事故はあまりに失うものが大きすぎると思うのです。』

今度だって東電は本当にしまったと云う風に反省をしているだろうか、と云う風に思いますけれど、事故というものは起きるまではわからないんです。それが事故の本質です。しかし、起きてしまえば、こんなひどいことになるという装置はまずは止めるというのが、危機管理の原則だと私は思います。』

中部電力・浜岡発電所

うん、ま、他の装置と違って放射能による損失・被害だけは取り返しがつかないですからね。地震や津波で破壊されても、そこにまた人間が戻って経済活動を営めれば、いつかは立派に復興できるけど、放射能汚染は経済活動を含めて人間的営みを許さないですからね。
そうです。』

これは気象庁が昨日発表したのかな、これから日本列島全体が活発な地震期に入って行くと見られるので、東日本だけではなしに西日本地域でも十分警戒を怠らないようにしてください、と云う内容だったと思うけれど・・・。

当然の見解ですね。』

いや、十分警戒を怠たってはならない筆頭は原発じゃないですか、原発を止めるということが最初にやらねばならない「警戒」じゃないですか、先生の話から出てくる結論はそうなる。

そう思います。危機管理、安全確保という立場から見ると、ごくごく当たり前だと思います。私は明後日(4月15日)から、浜岡原発に行きますけれど、そこは、政府の地震予知連絡会が、「東海地震が起きますよ」とずっと警告しているわけですが、その東海地震の予想震源域のど真ん中に浜岡原発があるんですよ。』
 中部電力浜岡発電所。『静岡県御前崎市にある中部電力の原子力発電所である。1号機から5号機まで5つの発電設備があるが、1号機と2号機は2009年1月に運転を終了した。』『東海地震の予想震源域にあり、活断層が直下にあるという説まで発表されており、またトラブルが多発していることなどから耐震性の不足が懸念されている。また、今ある高さ10m−15mの砂丘では高さ8mの津波しか耐えられないため、2011年3月16日に2―3年以内に高さ4m(標高。海抜では12m)ほどの防波壁を作る計画が発表された。』と日本語ウィキペディア「浜岡原子力発電所」は説明している。現在操業中は、3号機−5号機で出力は、110万キロワット、113.7万キロワット、138キロワット。なお5号機は国内の原子力発電所単体では最大出力(同「浜岡原子力発電所」)だそうだ。2008年には、7号機の建設計画が発表された。なお3号機は定期点検で現在操業停止中。

こうなってもまだ浜岡が動いているのは信じられない話ですね。

日本の危機管理という点から見ても、信じられないような事態が今、この日本という国で起きていて、みんな原発を止めたら停電になっちゃうから困るといっているわけです。』

被曝に絶対安全値はない

網野『 原発関係の人たちって「最悪のシナリオ」をこれまで考えなかったんですか?』

考えなかったですよ。それ考えたら、コストが高くついて原発なんて作れない。だからそういう最悪のシナリオの事故は「想定外」として無視してきた。』

網野『 その責任は誰にあるんですか?無責任ですよね。』

無責任だ、というのはその通りですが、今ボクなんか、一人の市民として恐れているのは、そういう無責任体制が、福島原発事故が起こったあともずっと続いているんじゃないか、と言うことなんですよ。無責任体制のまま事故対応にあたっているんじゃないか・・・。そういう無責任体制が一掃されて、新しい体制で事故対策に当たっているのならまだ納得できるし、信頼も出来る。そうではないんじゃないか、という感じが強くしている。特に政府関係者や東電にそれを強く感じる。

そうだと私も思いますよ。ですから私が前にも言いましたが、菅さんが事故は安定化の方向に向かっている、と言いましたが、どうしてそんないい加減なことを一国の首相が言えるのか不思議でしょうがないし、レベル7だと認めた上で今度はチェルノブイリとは違うと言ってみたり、本当にこの人たちはどんな神経をしているのかと思います。』

「小出裕章インタビュー 第2回 その@」の「安定化に向かっている?」の項参照の事。
(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/fukushima/20110413.html>)


今日ここへ来る前、ホテルでモーニング・ショーを見ていたんですが、テレビのキャスターが、「福島会津地方は、原発から100km離れているんだから、放射能の影響は全然ないんだよ、だから皆さん、観光旅行に来てください」と、そういう話をテレビでやっているわけなんですよ。

だから、そういうやり方がダメなんですよ。政府のやり方もそうですけど、ある放射能のあるレベル以上は危険、それに達していなければ問題ありません、という言い方です。そういう説明の仕方なんです。でもそれダメなんですよ。放射能はどんなレベルであっても危険なのであって、あるレベルは安全で、それを越えたら危険、絶対安全と危険、そういう境目(しきい値)が引けないものなのです。』

 ― 政府の出してくるデータはよく見てみると、「危険値」を出している。いわゆる「許容値」とか「基準値」とかいわれるものですね。それ以下だと絶対安全です、と云っているのかというとそうではない。「それ以下だから問題ない。」、「危険とはいえない。」とかいう言い方ですね。要するに「その値以上は危険です。」と云っている。しかしボクら一般市 民は、別に危険値を知りたいんじゃない、安全値、それも絶対安全値を知りたいんです。

そんなものはない。今日本の放射線被曝線量限度は、国際放射線防護委員会(ICRP−International Commission on Radiological Protection)の勧告を基にして基本的には決められていますが、そのICRPも一貫して「絶対安全な被曝量」はない、と云っています。
ただし彼らは(ICRPは)、原子力産業界の片棒を担ぐ立場ですから、被曝線量基準値を決めて、それを守りなさいという風な勧告を出す。そしてそれがあたかも安全値であるかのように装っているわけです。その彼らも言うように、被曝線量に関して絶対安全値はありません。』

正確な情報を伝えることが唯一パニックを防ぐ道

石原信雄という有名な元官房副長官が昨晩(4月12日)、NHKの番組に出ていて、菅政府の対応を批判しているように見せながら、「政府というものはパニックを抑えるものなのだ、だから安心する材料を提供する姿勢の菅政府に関してはある程度理解ができる」と云う意味合いのことをいっていました。この人、名官房副長官、と謳われた人なんだそうですけど・・・。

うん、なるほど。いや、その通りですよ。日本の国は、これまでその通りのことをやってきた。実際は危険だけれども、安心させる。だから情報は伝えない、出さない。そういうことをこれまでずっとやってきた。ですから、今石原さんという人が言ったというのは、まさにその通りのことをやってきたんです。

 でも私は実はそうは思わない。危険があるならどれだけの危険があるのかをきっちりと伝えるというのがまず国のやるべきことだと思います。住民に事実を伝えないまま、危険があるのに、「安心しなさい」、いうようなそんなことをやってはいけない。日本という国の不幸な歴史がずっと、このような形で続いてきたけれど、そんなことではいけないというのが私の考え方です。』

事実はやがてあきらかになるんですよね。

そうです。どうせわかってしまうわけですから。全ての情報をきちっと住民に伝えると言うことがパニックを防ぐ唯一の方法です。

それなのに、住民には情報を伝えないまま、安心しなさい、大したことはありません、というようなことをやり続けてきた。本当に困った国だし、昔から日本は「よらしむべし、知らしむべからず」というのがあるわけですよね、住民には知らせない、政府を信頼させてよりかからせればいいという、そういう国だったわけで、その歴史がいまだに、こんなことになってもまだ続いている。そして、それを当たり前のことだという「元名官房副長官」がいて、それをNHKが放送するという仕組みなんですね。』
  
根拠のない安心感ではなくて、正しい情報をきっちり国民に伝えることがパニックを防ぐ唯一の方法だし、その情報に基づいてみんなで知恵を集めるというのが、「フクシマ危機」を乗り越える唯一の道だと私は思います。』  

 (了)