【参考資料】ヒロシマ・ナガサキ・フクシマ
 (2011.5.7)
 

<参考資料>福島原発危機:山内知也、文科省への申し入れ書 2011年5月5日
『福島の子供を慢性被曝から護れ』

 福島県内の児童と生徒の被ばく限度とされている年間20ミリシーベルトの基準が適切か適切でないかというおよそ信じがたい議論がまだ続いている。しかし、年間20ミリシーベルトを上限とすることが適切か、1ミリシーベルトが適切かという議論自体が一種の欺瞞を含んでいる。というのはこの被曝線量は決して一過性の被曝ではなく、子供たちが受ける慢性被曝だからだ。

福島の子供たちが、1年間だけ被曝するのなら上記の議論も意味がある。しかし現実は子供たちはそこに住み続ける。被曝は1年間だけなのではない。その慢性被曝に対する危険に注意を喚起したのがこの申し入れ書である。この申し入れ書の中で山内は、

『年間20ミリシーベルトの基準は、子供が浴びる線量としては不当に高いものです。撤回して年1ミリシーベルトの基準を児童と生徒にはまず適用してください。』

 と要求している。それは年間1ミリシーベルトが「安全」だからなのではない。現行法が認める上限値だからだ。子供たちがこの放射線環境の中で暮らす、さまざまな被曝のシチュエーション(呼吸、食物や飲み物の摂取、傷口からの摂取など)の総和を考慮するなら、1ミリシーベルトでも十分に危険なのだ。それは山内が最後に、

『今は応用問題を解くことが必要です。子供と住民の避難計画を一刻も早く立案し実行して下さい。』

と要請していることでも明らかだろう。今は、特に電離放射線に対する感受性の高い子供たちにとっては、「放射線源からの避難」という段階に入っている。私としては、政府及び福島県当局に対して、「冷静」で「理性的」かつ「知性的」な対応を要請したい。

以下山内知也の文科省及び原子力安全委員会への申し入れ書全文である。


2011年5月5日
児童・生徒の被ばく限度についての
申 入 書 (2)

文部科学省学校健康教育科 電話 03-6734-2695
FAX 03-6734-3794
原子力安全委員会事務局 電話 03-3581-9948
FAX 03-3581-9837

山内知也 神戸大学大学院海事科学研究科 教授

 大学で放射線を教授している者として申し入れます。

 先に2011年4月21日付けで申入書を提出いたしましたように、福島県内の児童と生徒の被ばく限度とされている年間20ミリシーベルトの基準は、子供が浴びる線量としては不当に高いものです。撤回して年1ミリシーベルトの基準を児童と生徒にはまず適用してください。

 既に環境汚染の主体になっているのはセシウム-137であって、この核種の半減期は30年です。土壌に付着する性質が強いので取り除かれない限りその場に留まって放射線を出し続けます。1年目が20ミリシーベルトであったと仮定します。次年度に同様な過ごし方をさせますと、ほとんど同じ被ばくを受けることになります。相当の作業と努力がなければ同様な被ばくが2年目以降も続きます。

年当りの被ばく量 累積被ばく量
1年目 20.0ミリシーベルト 20.0ミリシーベルト
2年目 19.5ミリシーベルト 39.5ミリシーベルト
3年目 19.1ミリシーベルト 58.6ミリシーベルト
4年目 18.6ミリシーベルト 77.3ミリシーベルト
5年目 18.2ミリシーベルト 95.5ミリシーベルト
6年目 17.8ミリシーベルト 113.4ミリシーベルト
−小学校卒業−
7年目 17.4ミリシーベルト 130.8ミリシーベルト
8年目 16.6ミリシーベルト 147.8ミリシーベルト
9年目 16.2ミリシーベルト 164.4ミリシーベルト
−中学校卒業−
10年目 15.9ミリシーベルト 180.6ミリシーベルト

 小学1年生は卒業までに113ミリシーベルト、中学卒業までに164ミリシーベルトを被ばくすることになります。例え半分でも、それぞれ、57ミリシーベルトと82ミリシーベルトです。

 原子力安全委員会が平成19年に改訂した原子力防災指針<原子力施設等の防災対策について>は、セシウムが原子炉からは出てこないという大前提で書かれております。希ガスとヨウ素だけが念頭におかれています。今は応用問題を解くことが必要です。子供と住民の避難計画を一刻も早く立案し実行して下さい。
以上