(2010.4.24)
<参考資料>イラン核疑惑:テヘランの「反核サミット」関連


そのG テヘラン会議に関する日本の論調

 2010年4月17日・18日の両日、テヘランで開催された第1回「核軍縮及び核不拡散に関する国際会議」に対する日本のメディアはほとんど黙殺に近いものだった。それでも幾つかのメディアは短いながらこれを取り上げた。多くの論調は、「核疑惑の中のイランが欧米に対抗して、お手盛りの国際会議を開いた。」といった体のもので、核兵器保有国の二重基準ややりたい放題を正面から批判したこの国際会議を真面目に取り上げた記事はなかった。特に、中東唯一の核兵器保有国「イスラエル」の存在に脅かされる、中東イスラム諸国の悲痛で、深刻な「核兵器廃絶への思い」に耳を傾けるメディアは一つもなかった。各紙申し合わせたように、この会議のメインテーマの一つである、「中東の非核化」については無視を決め込んだ。

 私はといえば、「核テロリズムが地球にとって最大の脅威」としたオバマ主宰の「核テロ対策国際サミット」より、「ある種の核兵器保有国による二重基準の実施や差別的アプローチが「不拡散体制」を弱体化させていることへの深甚な憂慮の表明。特にある種の核兵器保有国のNPT非加盟国への協力関係やシオニスト体制の核兵器敞を問題にしないことなど。」を主張するこのテヘラン国際会議の方が、はるかにまっとうで論理的かつ実際的に思える。

 「いや、国際政治は正義や正論で動くのではない。結局は力だよ。」という人があれば、それもこれからはどうかな、と思う。というのは、今回テヘラン会議に集まった諸国はほとんどが、「09年世界大恐慌」の中でも、経済成長を遂げた諸国なのだ。イラン、中国、インドネシアなどはすべてそうである。(たとえば、「国際通貨基金−IMFが推測する主要各国の経済成長−2007年―2013年」<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/world_data/GR_IMF.htm>などを参照のこと)

 日本の主要メディアが、依然として「欧米絶対主義」を堅持し、「欧米盲従」「オバマ賛美」を繰り返している間に、世界の潮目ははっきり全く別な潮流に変化しつつある。従って、この5月のNPT再検討会議の真の争点も見えずじまいである。再検討会議が始まると、「意外」「まさかの」「よもやの」「予想外に」などといった見出しが並ぶことだろう。

 いまから40年以上も前のことである。モスクワで汽車を乗り間違えた私は、東ベルリンで下車した。西ドイツの「フランクフルト・アム・マイン」に行くつもりで、東ドイツの「フランクフルト・アン・オーデル」行きの列車に乗ってしまったのだ。当時西側に行くには東ベルリンから西ベルリンに抜ける以外には思いつかなかった。東ドイツのビザは取得していない。大枚5ドルもはたいて24時間有効の「トランジット・ビザ」を買った。動物園駅から西ベルリンに抜けるには、翌日まで待たなければならない。簡易ホテルに入って一晩すごさなければならなかった。テレビを見て過ごしたのだが、ドイツ語は全くわからない。しかし東ドイツ政府が「プロパガンダ」を流していることはよくわかった。

 今考えてみて、東ドイツの放送を私が「プロパガンダ」だと思ったのは、私がエトランゼだったからであろう。東ドイツの市民の中にはこのプロパガンダを頭から信じた人も多かったに違いない。

 テヘラン会議の内容をイランのメディアで読んでみて、その関連記事を日本語の新聞で読んでみると、日本の新聞がプロパガンダを流していることがよくわかる。それは物事の道理や事実関係が、イランの新聞の方がはるかに筋が通っているからだ。

 かつて東ベルリンで、東ドイツの放送を「プロパガンダ」だと思ったエトランゼの私が、今日本で、日本のメディアが流す記事を「プロパガンダ」だと感じる・・・。当時の東ベルリンの市民より、今日本の市民の方がはるかに条件が悪い。「日本語の壁」にぐるり取り囲まれているからだ。海にぐるりを取り囲まれているよりもはるかに条件が悪い。これをプロパガンダだと認識するには、日本の市民もまた、「エトランゼ」であるより他にないのか。

 能書きはこれくらいにして、これまでご紹介したイランの報道とじっくり読み比べて見て欲しい。トップバッターは我が広島の地元紙中国新聞である。



イランのウラン濃縮批判 テヘラン核軍縮会議閉幕
 中国新聞の2010年4月19日付けの記事(<http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201004190059.html>)である。中国新聞は、テヘラン常駐記者を置いていないので、この吉原圭介という記者を特派したものと見える。しかしテヘランに行って何を取材したものやら・・・。
【テヘラン吉原圭介】イラン外務省主催の国際会議「軍縮と不拡散―大量破壊兵器のない世界」は18日、テヘラン市内で3分科会を開き、2日間の議論を総括して閉幕した。

 「各国の軍縮・不拡散義務」がテーマの分科会では、イランの核開発疑惑も議論となり、元米外交官が「ごまかしと信頼の欠如が軍縮を妨げている」と暗に批判。米国との信頼醸成を進めるべきだと指摘した。ロシアの核不拡散専門家は「海外から濃縮核燃料の提供を受けるのがいい」と述べ、イランが自国でのウラン濃縮を断念するよう促した。

 これに対しイランの研究者らは「大量破壊兵器の製造と使用はイスラム教の教えに反する」「核兵器使用をほのめかす(米国の)脅威こそ国際司法の場で裁かれるべきだ」などと主張した。
 イラン外務省によると会議には約60カ国の200人が参加した。意見交換に加わった一橋大の秋山信将准教授は「参加国数は多かったが、必ずしもイランを支援する立場ばかりではなかった。今回の会議は、自国を正当性化しようとする試みとしては成功とはいえない」と話していた。


イランで核軍縮会議開幕
2010年4月17日(土)22時54分配信。共同通信<http://news.nifty.com/cs/world/worldalldetail/kyodo-2010041701000527/1.htm>の記事。
【テヘラン共同】核兵器開発を疑われているイランの首都テヘランで17日、核軍縮への具体策を探るとする「核軍縮・不拡散会議」が始まった。同国外務省によると、約60カ国の政府、非政府組織(NGO)などが参加。イランは米国など核保有国による核軍縮停滞を非難、自国の核開発は平和目的と主張し、民生利用の促進を呼び掛けた。


イラン主催「核サミット」に56か国、欧米は黙殺
4月17日付け読売新聞の記事。<http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20100417-OYT1T00794.htm?from=any>
【テヘラン=久保健一】核開発計画で欧米の批判を浴びるイランの主催で、核軍縮と核の平和的利用を訴える国際会議が17日、テヘランで開幕した。

 米ワシントンで開かれた「核安全サミット」に対抗するもので、核の平和利用の権利を強調することで非欧米諸国からイラン核開発への支持を取り付けるのが狙いだ。

 イラン側によると、会議には56か国の政府、民間活動団体の代表が出席。イラク、シリアなど親イランのアラブ諸国など8か国が閣僚級を送り込んだ。欧米諸国は会議を黙殺した。

 開幕式でアフマディネジャド大統領は、米国がイラク戦争で劣化ウラン弾を使用したと主張。米国の国際原子力機関(IAEA)への加盟資格を停止するよう求めるなど、欧米批判を繰り広げた。


イラン、核サミットに対抗 核廃絶国際会議を自国開催
 次は4月17日付朝日新聞の記事。<http://www.asahi.com/international/update/0417/TKY201004170332.html?ref=any>
 【テヘラン=北川学】核兵器廃絶をテーマにしたイラン政府主催の国際会議が17日、2日間の日程でテヘランで始まった。オバマ米大統領の主催で今月あった核保安サミットに対抗するものだ。核兵器の開発疑惑を抱え、国連安全保障理事会の追加制裁が論じられるなか、イランとしては改めて疑惑を否定し、「核の平和利用の権利」を国際社会に呼びかける狙いがある。

 会議には約60カ国の政府、非政府組織(NGO)関係者、学者らが参加した。

 アフマディネジャド大統領は開幕演説で「核を保有し、かつて使用し、今後も使うと脅す者は国際原子力機関(IAEA)理事会のメンバーになるべきではない」と米国を批判した。米国は6日に発表した「核戦略見直し」でイランと北朝鮮に対する核攻撃の可能性を残したが、それに対する強い不満とみられる。

 さらにアフマディネジャド大統領は「IAEAは核拡散を制御できていない」とも述べ、IAEAに代わる監視組織を非核保有国で創設するよう提案した。


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