(2011.1.7)
オバマ政権と核兵器廃絶 関連資料

<参考資料>外交政策と国内経済問題は関連している
ロン・ポール下院議員の巻頭言

 アメリカ下院の金融委員会の国内金融政策小委員会(House Financial Services Subcommittee on Domestic Monetary Policy)の委員長にロン・ポール議員(テキサス州選出共和党。Ronald Ernest "Ron" Paul。<http://en.wikipedia.org/wiki/Ron_Paul>)が就任するそうだ。いよいよ連邦準備制度(Fed。日本ではなぜかFRBと略称される)と全面対決だ、と期待するのは私ばかりではないだろう。(期待し過ぎも禁物だが・・・)これまで一貫して連邦準備制度を「アメリカ憲法違反」と批判し続けている。2009年には「連邦準備制度を終わらせろ」(“End the Fed”<http://en.wikipedia.org/wiki/End_The_Fed>)という本を書いてベストセラーになっている。取りあえずの仕事は全くのブラックボックスの連邦準備制度の透明性を高め、議会の監視下に置くと言うことだろう。

 アメリカにとっての最大の国家安全保障上の脅威は、テロリストでもなければ、イランでも北朝鮮でも中国でもない。崩壊しつつある国家体制である。その中心課題は厖大な国家負債だ。アメリカの国家負債一手にまかなうのが「ドルの信用」である。そのドルの信用は今音を立てて崩れている。アメリカ・ドルを発行できるのは連邦準備制度をおいてない。

 ロン・ポールは共和党議員というより、根っからの「リベタリアン」だ。(この言葉の概念規定も相当やっかいだが・・・)私はリベタリアンを総体として必ずしも支持するものではないが、ロン・ポールの連邦準備制度批判は至極まっとうである。

 そのロン・ポールが自身のWebサイトで「2011年成功へむけての調理法」(“Recipe for a Successful 2011”<http://paul.house.gov/index.php?option=com_content&view=
article&id=1813:recipe-for-a-successful-2011&catid=62:texas-straight-talk>
)と題する「巻頭言」を書いている。今、私たちは彼の言うところに耳を傾けてみる価値があるだろう。以下本文。



2011年成功へ向けての調理法


 2011年という年はアメリカに多くの機会と難題がもたらされます。われわれはこの危機をつくり出した諸政策を継続することによって経済的破滅に向かって加速するのか、それとも「ティー・パーティ運動」のエネルギーを基盤として選出された新たな議会が行く手を変える(change course)勇気を見いだすのか?

 下院における新たな共和党の多数派のもとで、私はアメリカ国内の金融政策を注意深く見つめる小委員会の委員長に就任する機会に恵まれます。私は連邦準備制度を真に監視・監督する見地から昂揚しておりますが、私はアメリカの国内金融政策と外交政策が関連しあっているという重要な点にも焦点を合わせたいと思っています。

 つい先週のことですが、(ロンドンの)フィナンシャル・タイムズは、水で薄めた私の「連邦準備制度監査法」(my Audit the Fed bill)によっても、最大の連邦準備制度による救済プログラム、すなわち「入札方式流動性供給計画」(the Term Auction Facility−TAF)によってなされた救済資金の55%までがアメリカ国外に流れたことが明らかになった、と報じました!これは、アメリカがその海外帝国を維持する真のコストのほんの1例にしか過ぎません。そしてフィナンシャル・タイムズは、一層の(連邦準備制度の)透明化と管理・監督が必要だと叫んでいるのであります。

 若干の補足説明が必要かも知れない。まず、「入札方式流動性供給計画」から。2007年秋証券会社ベア・スターンズ破綻に端を発したアメリカのサブプライム・ローン危機が発生した。今考えてみれば、これが2008年秋リーマン・ブラザーズ倒産をきっかけとする金融危機の伏線だったのだが、危なかったのはベア・スターンズばかりではなかった。ベア・スターンズ同様欧米の多くの金融関連企業は、価格の下がったデリバティブ商品を買い込んでおり、どこが倒産してもおかしくない状況だった。これら金融関連企業に対する一種の共済策として連邦準備制度が07年12月に発動したのが「入札方式流動性供給計画」(the Term Auction Facility−TAF)だった。連邦準備制度がこうした企業に緊急融資を行うわけだが、その貸し出し利率は金を必要とする金融関連企業の入札によって決定するというもの。苦しいところほど高い利率をつけることになるので、名前を隠して入札した企業もあったといわれる。その実態はなかなか明らかにならなかった。こうした不透明で不健全な連邦準備制度に対して、監視と監督のメスを入れようとしたのが、ロン・ポールの連邦準備制度透明化法(Federal Reserve Transparency Act of 2009)だった。
(<http://www.govtrack.us/congress/bill.xpd?bill=h111-1207>)。

ロン・ポール自身が「連邦準備制度監査法」(the Audit the Federal Reserve bill)と呼んでいるように、本来はもっと連邦準備制度に対する監視・監督を強める内容だったが、「水で薄められて( watered-down)先の法律が2009年12月に成立した。その法律によってもTAFで発動された救済資金の55%が海外(ほとんどが西ヨーロッパの金融会社)に流れたことが明らかになった、とロン・ポールは言っているわけで、これはアメリカの「海外帝国」を維持する費用だった、と指摘している。同様な指摘は中国の信用格付け会社「大公国際信用評価公司」のアメリカ国債に関する報告の中でもなされている。この報告によれば「アメリカは厖大なコストのかかるグローバル覇権維持政策を放棄しないかぎり現在の負債体質は改善されない。」という意味合いのことを述べている。(「中国格付け会社、アメリカ国債の格付けを2ランク下げる」第1回、第2回、第3回を参照の事。<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/world_data/dagong_20101110.html>など。)

 これが、私たちが外交政策と最近の経済危機が共に手を携えて進行していることを理解する鍵となる理由です。あるものは、私たちの海外での外交的支出や軍事的支出のいかなる削減も議論のテーブルに乗っていないと無根拠に主張しながら、責任ある予算策定に私たちを導き戻すと約束しています。
 
 彼らは私たちの軍事予算が、他の世界をすべて合わせたほど支出している状態を続けすべきだという事ばかりでなく、海外でもアメリカの政策をもっと積極的にすべきだ、と私たちに信じさせたがっているのです。

 ロン・ポールの主張は決して誇張ではない。たとえばスエーデンのストックホルム平和研究所のデータをもとにして見るとアメリカの軍事予算は、1国で世界の42%を占めている。
(「世界の国別軍事予算2009年」<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/world_data/
list_of_countries_by_military_expenditures.html#0
>参照の事。)

 
 彼らは、私たちがパキスタンやイエメンやアフガニスタンやその他のどこであれ、爆撃し続けるべきだ、と信じているのです。また私たちの利益にならないもう一つの中東戦争に確実に着々と進みつつあるのにイランのような諸国に対してさらに歪んだ制裁をかけなければならないとすら信じているのです。

(ことについでに私も便乗して言っておきたいが、こうして戦争を起こしたがっているアメリカの尻馬に乗って、対イラン敵視政策、対北朝鮮敵視政策、反中国の論調を日本国内でつくり出し、さかんにありもしない危機を煽り立てているのが、朝日新聞、共同通信をはじめとする日本の既存マスメディアだ。戦前彼らは天皇制軍国主義を持ち上げたが、今は親分を変えてアメリカ帝国主義を持ち上げている。しかし世界はアメリカに心底ウンザリしている。)

 彼らは過去の誤った間違った政策を代表しています。そして彼らは私たちを袋小路の突き当たりに導きたがっているのです。私たちはネオコン張りのコケおどし(scare-mongering)の誘惑に抵抗していかなければなりません。

 私たちが2011年にそして新しい議会(2011年1月休み明けから始まったアメリカ議会のこと)ですべきことはたくさんあります。私たちはひどい反憲法的なそして不道徳な運輸安全保障局(Transportation Security Administration)の政策をこれ以上眺めないでいる必要があります。私たちは自分たちの国を旅行するのに放射線を当てられたり身体中をなで回されているのです。完全な安全保障と称してカラッポの約束に基礎をおいて私たちの市民的自由を奪っている連中はそう簡単にはあきらめません。

 運輸安全保障局=Transportation Security Administration。9/11直後の2001年11月に成立した航空運輸安全保障法(Aviation and Transportation Security Act)に基づいて設置された。航空輸送の安全を保証するため様々な特権が付与されている。成立当初は運輸省の部局だったが、2003年には国土安全保障省に移管された。いうまでもなくテロ対策である。2011年会計年度の予算は約81億ドルの巨大部署( http://en.wikipedia.org/wiki/Transportation_Security_Administration

 私たちは彼らに立ち向かい続けなければなりません。妥協してはなりません。私たちは国土安全保障省が、アメリカを東ドイツのような警察国家にするような傍若無人ぶりを許してはなりません。そういう警察国家は、「良き兄弟」や「良き姉妹」が自身の隣人に関して情報提供することが奨励されるような国家なのです。私たちは政府当局がテレビ画面を通じて、せっせとプライベートな生活にいそしんでいる私たちを脅しつけるようなことを許してはなりません。それはまるで(ジョージ・)オーウェルの『1984年』の中で生活しているようです。

 私は次の議会に参集する議員のみなさんが、アメリカ人民(the American people)が彼らに付託したことの重要性を理解している、と楽観的に考えています。しかし私はまた彼らを選んだ人々に対して議員たちの行動を、彼らの議会における投票行動を、注意深く監視するように期待もします。そのもっとも直近の徴候は「反アメリカ愛国者法」(the anti-American PATRIOT Act.)の再承認に関する投票行動でありましょう。この警察国家法をもう一度叩き潰すことは2011年と112議会(2011年1月から始まる議会)がスタートするにあたり、大きな活路だといえましょう。私たちは自信をもって前進しなければなりません。私たちの支持は大きくなっています。(Our numbers are growing.)新年おめでとう。

 ティー・パーティ運動を通じて圧勝した共和党主導のアメリカの政治を単に“保守回帰”とみたり、「大きな政府」と「小さな政府」の対立とみたりするのは恐らく間違いだろう。「チェンジ」を標榜して圧勝したオバマ政権に対する幻滅が根底にある。ティー・パーティに参集したアメリカの市民たちの要求は実に多様だ。リベタリアンも保守的リベタリアンからほとんど無政府主義に近い左派リベタリアンもいる。彼らの政治的要求を一言ではくくれない。しかし共通しているのは、戦争のない、穏やかで安心な市民生活を送りたい、という1点だろう。オバマが幻想だったと知ったアメリカ市民の怒りが「ティー・パーティ運動」に結集した、と見るべきだろう。それは必然的に共和党支持とならざるを得ない。なにしろアメリカ政治では事実上選択肢は2つ(それは実は、独占資本家党という1つの選択肢なのだが・・・)しかないのだから・・・。これが2大政党制の実態である。