【世界各国の基礎データ】
(201012.5)

<参考資料> 世界の原子力発電所 
 その② お金持ちの国だけが脱原発を議論できる



▼「別表1:世界の原子力発電」に飛ぶ  
▼「別表2:地域別原子炉」に飛ぶ
▼「別表3:原子力発電所を計画または検討している国」に飛ぶ
▼「別表4:国内電力生産にしめる国別原発シェアの推移 2001年-2011年」に飛ぶ

「その① 西ヨーロッパを一変させた『フクシマ大惨事』」へ

 事情の異なる東ヨーロッパ

 『フクシマ核惨事』(Fukushima Nuclear Disaster)は、2000年代から『国際核利益共同体』が『原子力ルネッサンス』をテコに営々と築き上げてきた『核に対する信頼回復』一挙に吹き飛ばしてしまった。特に西ヨーロッパ諸国ではそれが著しかった。ところが旧ソ連圏を中心とする東ヨーロッパでは、西ヨーロッパ諸国ほど『フクシマ核惨事』に対する抵抗が大きくないように見える。それはなぜだろうか?西ヨーロッパと東ヨーロッパでは何が基本的に違うのであろうか?まず原発の発電に占める各国のシェアの推移を国別に概観しておこう。これら30か国(イランは2011年に操業を開始したものの同年送配電網に電力を供給しておらず国内シェアはゼロ)のシェア推移は次の3つに分類できる。

① 2001年から2011年の推移が±2%以内で発電シェアは横ばいだったと見なせる国
② 2001年から2011年の推移が+2%以上で発電シェアが上がったと見なせる国
③ 2001年から2011年の推移が-2%以上で発電シェアが下がったと見なせる国


 単純に2001年から2011年の差を求めて上がった下がったと見るとのは必ずしも目的-すなわちその国の原発依存の傾向を知ること-に沿った処理とはいえないだろう。電力は経済成長の関数でもあるからだ。経済成長すれば、電力需要も伸びる。さらに地続きのヨーロッパ諸国では『電気』は輸出入製品でもある。また逆にアメリカや西ヨーロッパ諸国では、急速に電力需要が経済成長の絶対的関数でなくなっている。経済成長のモデルが『信用経済主導型』となっているからだ。電力需要の増大を伴わない『経済成長』のスタイルになりつつある。(実際経済=Real Economyに対して仮想経済=Virtual Economyが幅をきかせつつある、といってもいい)さらに電力需要はその国の平均生活水準向上の関数でもある。単純に原発シェアが上がった下がったでは、その国の原発動向を読み取ることはできないだろう。しかし±2%を指標に置いておけば、おおむねその国の原発依存の傾向は読み取れるだろう。

 こうしてみると次の結果が得られる。

① 原発依存に変化のない国

  アメリカ、フランス、ウクライナ、中国、インド、フィンランド、ブラジル、スロバキア、南アフリカ、メキシコ、パキスタン、オランダ、アルメニアの13か国上記のうち中国、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカなどが原発依存に変化のない国に分類されるのは意外と思われるかも知れない。しかしこれらの国の経済成長は2000年代桁外れである。特に2008年秋リーマンショックに端を発した世界的信用危機後の世界経済成長を引っ張ったのはこれらBRICsや新興国である。中でも中国の経済成長は並外れている。この間GDPは約4倍に成長しているから、原発による発電量も4倍になってシェア現状維持ということになるが、スタートから操業まで15年近くかかる原発は簡単に追いつかない。中国はこの間ほぼ石炭発電で経済成長をまかなったのである。その意味でわずかながらも原発シェアが下がっている南アフリカ(-1.5%)やメキシコ(-0.1%)は原発依存度を落としているといえるかも知れない。

② 原発依存を上げている国

 ロシア、カナダ、チェコ、スイス、ハンガリー、ルーマニア、スロバニアの7か国。
 上記のうちもっとも古い原発国の一つ、スイスはその①でも見たとおり『フクシマ核惨事』の直後2011年5月原発からの脱却を決めた。現在5基ある原子炉が最後に閉鎖されるのは2034年である。ロシア、カナダは自国内に有力な核産業を抱えている。しばらくは原発依存度を高めていく。残った4か国はいずれも旧ソ連圏の諸国で、ソ連崩壊後西側に市場を開放した。とくに工業国チェコ、ルーマニアの原発依存への急傾斜ぶりは著しい。

③ 原発依存を下げている国

 日本、韓国、ドイツ、イギリス、スエーデン、スペイン、ベルギー、台湾、ブルガリア、アルゼンチンの9か国。日本は『フクシマ核惨事』のため、2011年に次々と原発稼働をを停止していった事情がある。ドイツはその①でも触れた通り、もともと脱原発の流れがあって、第二次メルケル政権で再復活、『フクシマ核惨事』で再転換、原発の段階的解消を決め、やがて原発をゼロにする。韓国、台湾が依存を下げている事情については私はわからない。特に韓国電力公社は原発輸出を目指しており国内でも原発依存度を上げていく計画になっている。実態的には依存度を上げる計画が必ずしもうまくいっていないことを意味している。


 台湾も「フクシマ惨事」に注目

 台湾は現在3か所の原発で6基の原子炉が稼働している。いずれも民主化前戒厳令下に国民党政府が導入したもので、原子炉はGEかウエスティングハウス、また発電機もGEかウエスティングハウスの製造になるもの。アメリカの強い影響下で、いってしまえば台湾に押しつけられた原発である。現在第4の原発で2基の原子炉が建設中だが(別表1参照のこと)、この2基のゼネコンはGEである。GEの下で東芝と日立が原子炉建設、三菱重工は発電機を製造するというもので、典型的な『日本の原発輸出』である。第4原発の建設計画は戒厳令下の1980年からスタートしたが、地元住民の激しい反対運動で今に至るも『建設中』である。これらのいきさつは日本語ウィキペディアの『台湾第四原子力発電所』が優れた記述を掲載している。

 また日本エネルギー経済研究所は7月に『「脱原子力依存」に揺れる台湾のエネルギー情勢』(常務理事・首席研究員 小山 堅論文)を公表し中で、次のように述べている。

 「  第2 の共通点は、これまでのエネルギー政策の中で重要な位置付けを占めてきた原子力を巡る大きな情勢変化という点がある。日本の「3.11」後の状況は紙幅の関係もあり、割愛するが、台湾でも、原子力を取り巻く国内環境は厳しさを増している。現時点で、台湾では、金山・国聖・馬鞍山の3 ヵ所、計6 基で514 万kWの原子力発電が稼働中で、第4 の龍門原子力発電所が建設中である。・・・福島事故を受けて、台湾国内では原子力の安全性を巡って懸念が高まり、市民の原子力を見る目は急速に厳しさを増した。折りしも2012 年1 月の台湾総統選挙という政治要因も加わり、世論の流れの影響下、2011 年11 月には、馬英九総統が、既設の原子力発電所のライセンス期間延長を認めず、期間終了と共に廃炉する方針を発表した。建設中の龍門原子力発電所は商業運転を認める、としたものの、徐々に「脱原子力依存」していくという方針を示したのである。一次エネルギーの11%、電力の18%を占める(2009年時点)原子力への依存を低減させるため、台湾政府は、再生可能エネルギーの大幅拡大、省エネルギーの抜本的推進、天然ガスおよび石炭火力発電所の増強、CCS への取り組み強化等からなる『新エネルギー政策(New Energy Policy)』を発表している。こうした状況は、まさに今日の日本の状況を彷彿させるものと言って良い。」

 台湾については反原発運動と結びついた民主化運動が同国の原発の動向を左右するものとなっている、と見て間違いなさそうだ。

 アルゼンチンについては、既存原発2基が老朽化しており国内電力需要に追いつかないためのシェア低下と見られる。建設中の3号機は2012年中に完成し2013年中に操業すると世界原子力協会のサイトは伝えている。また4号機5号機も計画中であり、フランスの原発ベンダー大手アレバ社と日本の三菱重工業の原発合弁会社ATMEA社(折半出資で2007年に設立)は同社の原子炉でアルゼンチン原子力発電会社の入札資格を確認したと三菱重工業のプレスリリース『アルゼンチン原子力発電会社(NA-SA)がATMEA1炉の入札資格を確認』は2012年7月に伝えている。だから長期的には原発依存度を下げると思えない。


 原発依存の傾向を強めるウクライナ

 その①でも見たように、EU諸国のうち西ヨーロッパ諸国はすでに原発の非導入を決めている国かあるいは原発をもっていても長期的には依存度を下げていく諸国、ここで確認すれば、ドイツ、スイス(いずれも2030年代には原発ゼロ)、あるいは原発ゼロを明言していないものの、状況証拠から原発を縮小していく傾向にある諸国、スペイン、ベルギー、スエーデン、イギリスなど。乱暴にいってしまえば西ヨーロッパ諸国の中で原発に前向きなのはフランスとフィンランドだけ、という状況になっている。
 
 それに対して東ヨーロッパ諸国では、ウクライナ、チェコ、ハンガリー、ルーマニア、スロベニア、そしてベラルーシ(別表3参照のこと)など原発に前向きな国が多い。これは一体どうしたわけだろうか?

 それぞれ固有の事情があるのだが、それら固有の事情を貫いて共通する特徴は一体なんだろうか?それを次に見てみよう。

 これらの国の中では、最多の原子炉保有国でありまた原発シェアも47-48%と依存度の高いウクライナから見てみよう。

 資源エネルギー庁が2012年1月に作成した『原子力を巡る状況について』という資料がある。総合エネルギー資源調査会の基本問題委員会第9回会合http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_problem_committee/009/配付資料の一つらしい。原発肯定の立場から作られた資料であるがなかなかの大作である。その資料に中に現ウクライナ首相、ミコラ・アザロフのコメントが引用されている。『2011年 東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故』と題した項目で、フランス大統領(当時)のニコラ・サルコジの「リサイクル可能なエネルギーを導入したとしても、原子力エネルギーで得られるエネルギー量を代替することはできない」(フクシマ核惨事後訪日時2011年3月)という言葉と「強い地震や津波が発生しうる地域での原発建設を国際的に規制するべきだ」「原発は最も経済的な発電方法であり、設計、建設、運用上のしかるべき規則を遵守すれば安全だ」「規則や基準は(各国に)共通のものでなくてはならない」とするロシア大統領ドミートリー・メドヴェージェフの言葉の中に挟まれていてあまり目立たない。が、アザロフの言葉は次のようであった。

 「お金持ちの国だけが脱原子力を議論できる」(2011年3月フクシマ核惨事後)


 「人口統計学上の大惨事」

 金持ち国だけが脱原発を議論できる、とはなかなか含蓄に富んだ言葉だがアザロフは何を言おうとしているのだろうか?旧ソ連時代に苛酷事故を起こしたチェルノブイリ原発は現在ウクライナ領土内にある。


1986年のチェルノブイリ事故のためウクライナは2012年の現在も国民全体の健康問題に直面し、激しい人口減少に悩まされている。国連のある報告書はこれを「人口統計学情の大惨事」と形容している。


 私たちの普通の良識で考えれば、ウクライナは原発と絶縁し、放射能の影響を最小化する道を選ぶはずだと考える。しかし実際はそうではない。ウクライナは現在も15基の原子炉が操業中であり(2012年11月現在。別表1参照のこと、電力需要に占める原発依存度は47.2%(2011年実績)であり、前述のように2000年代を通じて原発依存度を高めている。原発の発電容量は1417万kWとカナダに次いで世界第7位。しかも2030年操業開始を目指して、さらに2基の原子炉建設を計画している。

 ウクライナにおける原発をめぐる情勢は、世界の原発を巡る情勢の縮図でもある。「お金持ちの国だけが脱原発を議論できる」とは決してウクライナだけに当てはまる形容ではない。日本の、たとえば福井県おおい町にも、青森県大間町にも、山口県上関町にも、世界中の原発立地地域のどこにでも当てはまる言葉だ。ウクライナで何が進行したのか、世界最大の核産業業界団体『世界原子力協会』(World Nuclear Association)のウクライナに関する記述をたどりながら見ていこう。http://www.world-nuclear.org/info/inf46.html

 「  ウクライナの主要なエネルギー源は国内で産出するウランと石炭である。(同国ウラン産出は世界第8位)その他のエネルギー源はほぼ石油と天然ガスである。1991年旧ソ連の崩壊でウクライナの経済は壊滅状態となり消費電力は1990年の2960億kWhから2000年の1700kWhへと劇的に急減した。これら急減は石炭と天然ガス発電で起こっている。今日ではウクライナは豊富に埋蔵するシェールガスの開発を進めており、2020年までにはその領土内を横切るパイプラインを通じて西ヨーロッパに輸出すると期待されている。」

 ウクライナが旧ソ連崩壊後独立したのは1991年8月である。それまでのウクライナの経済的状況はアメリカCIAの世界実情報告2002年が次のように伝えている。(<http://www.faqs.org/docs/factbook/print/up.html>)

 「  旧ソ連においてウクライナはロシアに次いで重要な経済的位置を占めていた。その肥沃な国土は旧ソ連の農業生産の1/4を産出していた。農業は肉、ミルク、小麦、野菜などのかなりの部分を(旧ソ連内の)他の共和国に供給していた。」

 私たちは今忘れがちになるのだが、ウクライナは『ソ連の穀倉地帯』だった。チェルノブイリ事故による放射能汚染はそのウクライナの農業をいっぺんにダメしたのである。かつての同国の主要な輸出品目『農産物』は2010年全体の7.7%に過ぎなくなっている。最大の輸出品目は『鉄鋼金属製品』(33.3%)である。(<http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ukraine/data.html>)


 独立後の大混乱

 独立後の同国の混乱ぶりについては、日本語ウィキペディア『ウクライナ』が次のように記述している。

 「  1991年、政府はほとんどの物資の価格を自由化し、国有企業を民営化するための法制度を整備した。しかし、政府や議会内の強い抵抗により改革は停止され、多くの国有企業が民営化プロセスから除外された。1993年の末頃には、通貨政策の失敗によりハイパーインフレーションにまで至った。」

 さまざま表現が可能だが、一言でいえば「制度設計」や「社会的安全装置」なしにいきなり強欲資本主義の中に裸で飛び出した、ということだ。同記事を続ける。

 「  1994年に大統領に就任したレオニード・クチマは、IMFの支援を受けながら経済改革を推進し、1996年8月には10万分の1のデノミを実施し、新通貨フリヴニャを導入した。1999年の生産高は、1991年の40%にまで落ち込んだ。しかし、同年には貿易収支が初めて黒字を記録。その後もフリヴニャ安や鉄鋼業を中心とした重工業により、2000年の国内総生産は、輸出の伸びに支えられて6%という成長をみせ、工業生産高の成長も12.9%だった。これは独立以来初めての上方成長であった。2001年から2004年までの間も、中国への鉄鋼輸出の急増などに起因して高度成長が続いた。」

 この後は日本語ウィキペディア『オレンジ革命』を引用する。

 「  2004年ウクライナ大統領選挙の結果に対しての抗議運動と、それに関する政治運動などの一連の事件である。・・・同時にこの事件はヨーロッパとロシアに挟まれたウクライナが将来的な選択として、ヨーロッパ連合の枠組みの中に加わるのか、それともエネルギーで依存しているロシアとの関係を重要視するのかと言う二者択一を迫られた事件でもある。」

 これも一つの間違いない見方であるが、経済的に見ると、「ウクライナ」という市場が西側金融資本主義体制の中に組み込まれるのか、ロシア影響下で経済運営を続けていくのかという選択でもあった。非常に残念なことに第三の道、すなわち『ウクライナ人民のための経済運営』という選択肢は提示されなかった。日本語ウィキの記述を続ける。

 「  ウクライナは1991年にソビエト連邦から独立したが、ソ連解体後も黒海に面するウクライナはロシアにとって地政学的に重要な地域として捉えられ、カスピ海で産出される石油、天然ガスの欧米に対しての積み出し港として重要な位置を占めていた。又ウクライナは国内においてエネルギー資源を産出できなかったため、この分野に関してはかなりの割合をロシアに依存していた。

 一方、西に目を転じると東欧革命以来、ヨーロッパの広域経済圏を目指すEU(ヨーロッパ連合)とヨーロッパ全域における安全保障体制の確立を目指すNATO(北大西洋条約機構)が東への拡大を続けており、特に2004年5月1日にポーランドやスロバキア等旧東欧8各国がEUに加盟すると、ウクライナはEUと直接国境を接することになった。続いて2007年にはルーマニアとブルガリアもEU入りを果たし、更にトルコも一貫して加盟を希望している。EUは域内での経済の自由化を推し進める一方で、域外からの経済活動には障壁を設けている。ウクライナではEUと協定を結んで、EU加盟国と国境を接している西部にEUやアメリカ合衆国、日本の資本を受け入れる一方で、主に中央アジア諸国からのEUへの不法侵入者の取り締まりなどを行っている。その一方でEU外にあっては陸上、そして黒海からの海上ルート全てをEUと接することで、将来的にはEUからの締め出しを食らう可能性がない訳でもない。そこでウクライナもEUに加盟するべきであるという議論が生じてくる。この意見に対してはウクライナ西部・中部での支持が強い。

 ウクライナ南東部はもともと地元の工業がウクライナ全体の経済を牽引してきたという自負があり、さらに最近のロシア経済の好調もあり、地元のロシアと取り引きの多い工業地帯では景気が回復していた。また南東部にはロシア人の人口が多く、ロシア語が使われていた。そのためEU寄りの政権誕生には不安を抱く人が多く、ロシアは当時の南東部系ウクライナ大統領および南東部住民との思惑の一致を口実に南東部へ肩入れした。」

 こうした状況がオレンジ革命の背後にはある。オレンジ革命そのものは、

 「  2004年の大統領選挙では、ロシアとの関係を重要視する与党代表で首相のヴィクトル・ヤヌコーヴィチと、ヨーロッパへの帰属を唱える野党代表で前首相(当時)のヴィクトル・ユシチェンコの激しい一騎打ちとなった。2004年11月21日の開票の結果、大統領選挙におけるヤヌコーヴィチの当選が発表されると、その直後から野党ユシチェンコ大統領候補支持層の基盤であった西部勢力が、ヤヌコーヴィチ陣営において大統領選挙で不正があったと主張し始め、不正の解明と再選挙を求めて、首都キエフを中心に、ゼネラル・ストライキ、座り込み、デモンストレーション、大規模な政治集会を行い選挙結果に抗議した。」


 オレンジ革命の欺瞞性

 今となっては、この「オレンジ革命」は、西側が仕掛けた『民主化キャンペーン』に民主主義が未成熟のウクライナ国民が乗せられた事件という疑いが濃厚である。西側の狙いは『民主化キャンペーン』で、ウクライナをロシアから引き離し、西側金融資本主義の枠内に取り込んでおこうというものだったのであろう。後に見るようにチェルノブイリ事故の放射能の影響に苦しむウクライナは、西側金融資本にとって特別な狙いを持つものであったかも知れない。それはその後のウクライナの政治情勢の成り行きで明らかになっていく。日本語ウィキの記述を続ける。

 「  この抗議運動はマスメディアを通じて世界各国に報道され、大きな関心を呼んだ。特にヨーロッパやアメリカでは野党ユシチェンコに対して、ロシアでは与党ヤヌコーヴィチに対して肩入れする報道がなされた。この報道合戦ではナショナリズム的な報道に終始したロシア側に対して、一連の大統領選挙が民主的ではないというスタンスを取った欧米側の報道に世界世論がなびいたため、徐々にロシア側の行動が規制される結果となった。このことは後のキルギスでの政変事(チューリップ革命)にロシア側として積極的な動きができないなどの足かせともなった。

 ロシアの支持を受けたヤヌコーヴィチを中心とする与党勢力は選挙結果を既成事実化しようと試みたが、野党勢力を支持するヨーロッパ連合及びアメリカ合衆国などの後押しもあり結局野党の提案を受け入れて再度投票が行われることとなった。再投票の結果、2004年12月28日ヴィクトル・ユシチェンコ大統領が誕生した。

 この運動は同じく現職政権への抗議であるユーゴスラビアのミロシェヴィッチ大統領に対する抗議運動、その後グルジアで起こったバラ革命(ローズ・レボリューション)に誘発された運動であるとされる。また、原因としては、ロシアが南東部よりの当時の政権側にあからさまに肩入れしたためである、との説明がなされることが多い。

 だがその一方で、他国勢力の介入という点では、ユシチェンコ陣営に対する米国からの介入があったとする見方も存在しており、具体例としては、米国の投資家ジョージ・ソロスの名などが挙げられている。

 また、この政変で成立したユシチェンコ政権であるが、成立直後から盟友であったはずのティモシェンコとの対立が報じられるなど政権内部の抗争が相次いだ。結果、革命を支持した民衆も離反し、最終的に支持率が一桁に落ち込む。その結果として、2010年のウクライナ大統領選挙では、一度は『革命』によって大統領になり損なったヤヌコーヴィチがウクライナ大統領に就任するという、皮肉な事態を招くこととなった。

 2010年9月30日、ウクライナ憲法裁判所は2004年の政治改革法を違憲と判断し、同法によってもたらされた憲法改正を無効とする判決を下した。これにより、オレンジ革命は大きく後退することとなった。」

 ウクライナの政治情勢に深入りすることが目的ではないので、ここで切り上げるが2004年『悪役』だったはずのヤヌーコビッチが2010年には大統領に選ばれ、ウクライナは再び親ロシアの方向へ舵を切る。


 「国民全体の生活水準と生活の質を悪化させている」

 もうお気づきだと思うが、日本語ウィキペディアの記述も、総合エネルギー資源調査会の基本問題委員会第9回会合での配付資料も、また引用はしなかったが『オレンジ革命』を賛美した欧米日本のマスコミも、ウクライナ国内での「民主革命勢力」も共通してチェルノブイリ事故の放射能による深刻なウクライナ国民に与えている健康影響について一言も触れていない。まるで何事もなかったかのようである。

 しかし実際にはウクライナは、チェルノブイリ事故による低線量内部被曝の影響で激しい人口減少に見舞われていたのである。チェルノブイリ事故の6年後1992年、独立の翌年、ウクライナは過去最高の人口5215万1000人だった。表面人口が伸びているように見えたがすでに病巣は進行していた。出生が落ち始めていたのである。チェルノブイリ事故の1986年までウクライナの生児出生は毎年のでこぼこはあるにしてもほぼ70万人から80万人の幅の中にあった。チェルノブイリ事故発生の1986年は79万2574人と70年代以降を通じて1983年の80万7111人に次いで生児出生の多い年だった。それが事故の翌年には早くも対前年比 -3万1723人と減少を見せ始める。そして2001年まで連続して減り続けるのである。出生が上昇に転じはじめるのは2002年だがそれも上向き一直線というわけではない。表現とすれば出生減に歯止めがかかり上昇に転じはじめた、というところだろう。底だった2001年には出生は37万6479人とピークの半分以下になってしまう。出生減を追いかけるようにして増加したのが死亡である。70年代を通じて増加傾向にあった死亡数はチェルノブイリ事故の86年 56万5150人と前年から改善を見せた。87年には再び増加しはじめる。1995年までに死亡が前年をした回った年は1989年だけでそれも対前年135人減とほぼ前年をキープした、と表現する方がふさわしい。死亡増に歯止めがかかるのは1996年からであるが、一直線で死亡が減少に転じたというわけではない。一進一退という表現がふさわしい。

 出生減と死亡増に見舞われれば人口は減少せざるをえない。1991年ウクライナが独立した年には早くも出生減が死亡増を上回りウクライナの人口は減少に転じていく。その後ウクライナの人口自然減は2010年まで一直線で続いていく。91年約5200万人だった同国人口は2011年には 4566万5281人と20年間に約650万人も自然減少するのである。これが社会問題化しないとすれば不思議である。というのは「国民の富」とはまずその国の人口である。人口の伸びない国に富は蓄積しない。次にその人たちが人間らしい暮らしができるように生活水準をあげていくことだ。高い生活水準と生活の質を多くの国民が享受できることが「豊かな国」の基本条件である。ウクライナはその条件の基本に欠けている。

 ウクライナ政府がチェルノブイリ事故の影響を全体的・網羅的に明らかにしたのは、『フクシマ事故』直後の2011年4月だった。20日から22日の間、ウクライナの首都キエフで開催された『チェルノブイリ事故25年:未来へ向けての安全』と題する国際会議で、同名の報告書をウクライナ政府緊急事態省が公表したのである。表紙を含め英語A4版352ページに上る厖大な報告書で、事故後25年経過しなおかつチェルノブイリ事故の影響に苦しむ、またこれからも苦しむであろう同国の実態を明らかにしている。『フクシマ事故』に直面する私たちに対する警告の報告書として読むこともできる。第4章は事故の社会経済面に対する影響に焦点をあてているが、その総括ともいえる冒頭で次のように述べている。(英語原文p170)

 「  チェルノブイリ惨事は旧ソ連邦ばかりでなく国境を越えてその経済圏と社会圏に深甚な損失をもたらした。事故は、旧ウクライナ社会主義共和国、ベラルーシ社会主義共和国そしてロシア社会主義共和国連邦における人々の日常生活、環境そして夥しい地域に極めて大規模な破壊をもたらす原因ともなった。チェルノブイリ事故は現在もウクライナ、ベラルーシそしてロシア連邦におけるあらゆる生活の局面で破壊的なインパクトを産み続けている。」

 そして次の諸点を特記している。

 「 経済と公共が消費する電力生産の減少。
農業と産業設備のダメージによる重篤な損失。
森林区域と水資源産業のダメージ(5120平方キロメートルの農地と4920平方㎞の森林の限定的使用)
1986年の11万6000人に及ぶ避難者とその住宅建設にかかる相当な費用:1986年から1987年にかけて続いておこる事態への諸措置:ほぼ1万5000にのぼる集合住宅、影響をうけた1000人以上の人々のためのホステル、2万3000件の建物と800の社会文化施設
事故直後、相当部分の資金が放射線のインパクトから人々を護ることそして生活と健康に対する放射線の脅威を最小化することに振り向けられた。
旧ソ連邦の厖大な量の資金的援助と技術資源が、生活活動と産業活動を一新し、環境の汚染浄化、依然として汚染地域に暮らす人々に対する社会的支援の確保、クリーンな食料や医療サービスの提供などなどに向けられた。
影響を受けた人々は個人資産、収穫農産物、居住空間の喪失などを含む避難に伴う物理的損失に対して部分的補償を受けた。
あらゆる種類の産業設備やそれぞれの農場が失った財政的、物質的、技術的資源に対してその生産活動を新たにはじめ、避難先での雇用を確保する目的を持った補償を得た。」

 と指摘し、単に国家だけでなく、社会全体がチェルノブイリ大惨事に対して復旧を目指して支援と補償に莫大なコストを支払ったと述べている。そして次のように続ける。

 「  チェルノブイリ惨事の結果を克服する作業は現在も進行中である。国家予算の大きな部分は依然としてその作業に転用中であり、ウクライナの経済発展を減速させている。そして国民全体の生活水準と生活の質を悪化させているのである。」

 チェルノブイリ事故がウクライナに厖大な人的資源の喪失と国民の生活水準と質の劣悪化をもたらしたことは疑いようがない。このウクライナの状況に前にも引用した現ウクライナ首相ミコラ・アザロフの「お金持ちの国だけが脱原子力を議論できる」という言葉と重ね合わせてみると核産業のもつ陰湿で非人間的な暗渠が垣間見えるように思える。


 シェアを上げ続ける原発の電力

 次にウクライナがなぜチェルノブイリ事故にもかかわらずいまだに15基の原発を操業し、なおかつ2030年までにさらに2基の原発新設を計画しているのかその実情を見ておこう。引用するのは世界原子力協会「ウクライナ」に関する記述である。次の表はウクライナの出力生産の推移表である。1991年2963億kWhだった同国の電力生産は年々減り続け2009年には1729億kWhと1991年の水準から41.6%も落ち込んでいる。日本語ウィキペディアも世界原子力協会もいっさい触れていないが、ウクライナ政府緊急事態省の報告を下敷きに見てみれば、一言でいって『チェルノブイリ大惨事』の社会経済的影響による電力需要の落ち込みが背景にあることは明らかだろう。しかも原発だけは一貫して750億kWhから900億kWhの生産量を保ち続け結果として同国電力生産に占めるシェアを上げている。

 世界原子力協会の資料「Nuclear Power in Ukraine」より引用
<http://www.world-nuclear.org/info/default.aspx?id=380&terms=Ukraine>

 「  ウクライナの核産業は永年にわたりロシアと深くかかわってきたが、旧ソ連からの独立後に生じた大きな変化の中でも比較的安定を保ってきた。・・・ウクライナは『エネルゴアトム』(Energoatom-National Nuclear Energy Generating Company of Ukraine。ウクライナ国営企業)のもと4か所の原子力発電所で15基の原子炉を操業している。2005年に2基のロシア型加圧水型原子炉(VVER-1000)の操業を開始し26.3%原子力発電用量を上げた。エネルゴアトムは2020年にはウクライナの電力の50-52%を原発で占めるとしている。(2011年は47.2%)」

 「  2004年4月にはフメリヌィーツィクィイ原子力発電所2号機(Khmelnitsky-2)がまた同年10月にはリウネ原子力発電所4号機(Rovno-4)がグリッドに接続して新たに190万kWの発電容量を加え長い建設期間に終止符を打って、1996年と2000年に閉鎖となったそれぞれチェルノブイリ1号機と3号機の代替えが行われた。この新設原発はエネルゴアトムがフラマトムANP(Framatome ANP)とアトムストロイエクスポルト(Atomstroyexport)のコンソーシアムを使って遂行したものであった。」


 アレバ、ジーメンス、アトムストロイエクスポルト

 ここでようやくチェルノブイリ事故で今なお苦しむウクライナが原発推進をすすめているのかその輪郭がおぼろげながら見えてくる。ここでフラマトムANPと呼ばれる企業はフランスの原子炉メーカーである。今は世界最大の原発ベンダー、フランスのアレバ社の参加に入り、現在は正式にはアレバNPと呼ばれている。アレバNPはアレバ社本体とこれもドイツの原発企業であり世界的な電機メーカーであるジーメンス社の共同出資会社である。

 出資比率はアレバが2/3、ジーメンスが1/3である。アトムストロイエクスポルトはロシアの事実上国家独占原発輸出促進独占体である。ロシアのエネルギー分野の最大手ガスプロム社の事実上の子会社でもある。ロシア・プーチン政権でエネルギー相をつとめるセルゲイ・シマトコはアトムストロイエクスポルトの前会長だった。要するに同社はロシア原発輸出戦略の最先端実働部隊だ。つまり、長い間建設が中断していたウクライナのメリヌィーツィクィイ原子力発電所2号機とリウネ原子力発電所4号機はフランスとロシアの核産業最大手が協力して資本と技術を提供し完成させたものということになる。別ないい方をすれば国際核利益共同体が、エネルギー調達に苦しむウクライナの窮状につけ込んで資本と技術を提供しウクライナに原発を保有させた、という見方も可能だ。再び世界原子力協会の記述を続ける。

 「  1990年(ウクライナ独立の前年)、フメリヌィーツィクィイ原子力発電所の2号機から4号機の3つの原子炉建設が停止となった。同原発のインフラは4基の原子炉用にすでにほとんど完成していた。3号機は75%完成していた。(現在もそうである)4号機は28%完成していた。以来この2つの原子炉工事はある程度当時の状態のままで維持されている。2010年の半ば頃ウクライナ政府とロシア政府はこの3基の原発完成で合意し、2011年2月アトムストロイエクスポルトとの間で契約が交わされた。ウクライナ政府は2012年の後半にはこれら原発のための融資契約にサインできると期待している。」

 世界原子力協会は原発建設がなぜ停止したのか全く触れていない。従って推測する他はないのだが、時期的に見て独立後の経済的・社会的大混乱があって、原発建設資金も技術のウクライナ独自で調達できなかったろうことは容易に推測できる。さらの想像をたくましくすれば、ウクライナ国民の原発に対する嫌悪感も背景にはなかったか?ともかくプーチン・ロシアはウクライナで完成途上にあった3つの原子炉の完成に動いた。しかも資金のないウクライナはロシアからの融資でこの原発を完成させるのである。

 世界原子力協会の記述を続ける。

 「  2006年政府は新たな国家核産業企業体、ウクラトプロム(Ukratomprom)の創立に動いた。これは垂直統合型の核産業持ち株会社で内閣とエネルギー省に報告の義務を負っている。」

 2006年は欧米と協調協力関係を目指すユシチェンコ政権が成立していた。しかしウクライナの核産業ビジネスモデルは明らかにロシア型であった。ウクラトプロムは6つの核関連国有企業を統合しており資産はおよそ100億ドル。この中には63億5000万ドルと最大の資産をもつ原発保有電力会社エネルゴアトム、ウラン鉱山採掘会社ボストGOK(VostGOK)、ウラン開発会社ノバコンスタンティノフ(Novokonstantinov)などが含まれている、と世界原子力協会は記述している。

 「  2011年2月、エネルゴアトムはロシアのアトムストロイエクスポルトとAES-92型に関して建設契約の枠組みについて合意し調印した。それに先立つ2010年6月にはロシアに大きく資金を依存する形で両政府間で合意を見ていた。」

 AES-23型はロシア型の原子炉でいわゆる第3世代に属する原子炉に分類されている。第三世代の原子炉とはよく聞く名前だが、定義がはっきりしていない。恐らくは原子力発電推進派の誰かが書いたのだろうと思われる日本語ウィキペディアの「第3世代原子炉」から引用しておく。

 「  第3世代原子炉は、第2世代原子炉の運用中に開発され、各種の第2世代炉の設計を元に進化的な改良が組み入れられた改良型の原子炉の設計。改良された燃料技術、優れた熱効率、受動的安全システム、メンテナンスとコストの削減のための原子炉設計の規格化などが特徴となっている。」それでは第2世代原子炉とはなにかというと、「炉の技術の改良の結果、第2世代炉に比べ長い運用寿命を得ている。第2世代炉の当初の設計寿命が40年、実質的な運用寿命は80年以上に延ばされているが、第3世代は当初設計では60年の寿命であり、完全な分解点検と圧力容器の交換までの寿命は120年に延長できる。・・・現在提唱されている第3世代原子炉の形式は多くが水素冷却炉である。以前からの沸騰水型、加圧水型の改良型が多く、多数の会社によって様々な原子炉が設計されている。原子炉の大型化、効率化によって第3世代原子炉の多くが出力が強化されており、第2世代2基分程度の発電能力を持つものも存在する。」

 要するに第2世代と比較して、安全性が向上し効率化され従って長寿命(当初設計60年。延長すると120年)の原子炉、ということらしい。典型的な原発メーカーによる営業トークの分類である。世の中に第3世代原子炉と称する原子炉には以下のようなものがある。


 「・ 改良型沸騰水型軽水炉(ABWR) ゼネラル・エレクトリックの設計した原子炉。1996年に日本で最初に導入された。」
  日立製作所とGEの合弁による国際的な原発ベンダー、日立GEニュークリア・エナジーの主力原子炉。東京電力柏崎刈羽原発6・7号機(操業開始1996年11月と97年7月)、中部電力浜岡原発5号機(2005年1月)、北陸電力志賀原発2号機(2006年3月)の実績がある。現在建設が強行されている中国電力島根原発3号機、電源開発大間原発1号機・2号機もABWRである。

 「・ 改良型加圧水型軽水炉(APWR)  三菱重工業の開発した加圧水型軽水炉の改良型。」
  いまだに納入実績はないが日本原子力発電の敦賀原発2号機・3号機はAPWRの採用が決まっている。

 「・
CANDU6能力向上形(EC6) カナダ原子力公社の開発したCANDU炉の後期系統。
  VVER-1000/392  VVERのAES91からAES92までで行われた様々な改良が加えられたもの。」
  VVER-1000はロシアの加圧水型原子炉の第3世代である。現在はAES2000まである。

 「・ AP600 1998年にウェスチングハウス社がNRCの最終設計認可を受けた加圧水型軽水炉。」
  ウエスティングハウスの原発部門は現在東芝の子会社であり、東芝-ウエスティングハウスはAP1000を主力としている。アメリカ・ジョージア州ボーグル原子力発電所3号機・4号機に採用が決定し、アメリカ原子力委員会(NRC)原発の建設と運転を34年ぶりに認可した。VCサマー原発2・3号機への採用も決まっている。

 さて改良型ロシア原子炉の導入を決めたウクライナで計画中の2基の原子炉は37億ユーロ(3700億円)必要とされ、そのうち85%がロシアからの融資、残り15%はウクライナ自身の資金調達である。この融資は2基の原子炉が操業開始してから5年以内に返済されるとしている。両国は2012年以内にこの融資について最終調印し建設がスタートすると見られている。ウクライナのGDP全体は1652億ドル(2011年世界銀行。13兆2160億円。1ドル=80円 http://data.worldbank.org/country/ukraine#cp_wdiで、静岡県の県民総生産が16兆4527億円であることを考えると、ウクライナにとって原発への投資がいかに過大でリスキーかが理解できよう。しかし、西側もロシアも原発を推進するならお金も技術も提供しましょう、というスタンスだ。ウクライナ首相ミコラ・アザロフの「お金持ちの国だけが脱原子力を議論できる」という言葉の背景はこのような事情である。       
(以下次回)


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別表1:世界の原子力発電 
 
1 ここに登場する国は、原子力発電を行っている国、あるいは計画中の国、あるいは消費電力量世界50位以内の国である。(研究炉や実験炉)は含まない。
2 消費電力量の単位はすべて億kWh。発電容量はすべて万kW。(小数点以下四捨五入)
3 順位は原子力発電容量の順。
4 国名が赤字は原子力供給国グループ(NSG)に加盟。(<http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/nsg/index.html>)。NSG加盟国でこのリストに載っていない国はキプロス、デンマーク、エストニア、アイスランド、アイルランド、ラトビア、エストニア、ルクセンブルグ、マルタと46カ国中9カ国もある。不思議なグループである。
5 資料出典:原子力発電については『世界原子力協会』(WNA)のWebサイト『World Nuclear Power Reactors & Uranium Requirements』原子力発電実績及び占有率はは2011年。その他は2012年11月現在。
6 世界原子力協会は世界の核産業業界団体。営業トークも混じっているがデータについては正確で迅速。『建設中』は「最初のコンクリート打設が開始されているかまたは主要な入れ替えが進行中」、『計画中』は「承認、または資金手当て、または主要な問題が解決した案件」としている。
7 1996年から2009年の間、43の原子炉が閉鎖・廃炉となり、49原子炉が稼働を開始している。この間6原子炉しか増えていない。
8 日本の東電福島第一原発1号機から4号機はすでに除かれている。またドイツが段階的原発解消を決定した際閉鎖廃炉になった8原子炉も除かれている。
9 アメリカ・ドミニオン社のキウォーニー原発の1原子炉は含まれている。

順位 国 名 原子力
発電容量
(万kW)
原子力
発電実績
(億kWh)
国内
原子力発電
占有率
原子炉数 特記事項
操業中 建設中 建設中
発電容量
計画中 提案中
1 アメリカ 10,220 7,904 19.2% 104 1 122 13 13 核兵器保有国。「フクシマ事故」の影響と天然ガス価格の下落で計画中案件は流動的。
2 フランス 6,313 4,235 77.7% 58 1 172 1 1 核兵器保有国。
3 日本 4,440 1,562 18.1% 50 3 304 10 3 ”建設中”の原子炉は中国電力島根発電所3号機と電源開発大間原発1・2号機と見られる。大間2号機はまだ建設未着手。
4 ロシア 2,416 1,620 17.6% 33 10 916 24 20 核兵器保有国
5 韓国 2,079 1,478 34.6% 23 4 521 5 0
6 カナダ 1,417 883 15.3% 20 0 0 2 3
7 ウクライナ 1,317 849 47.2% 15 0 0 2 11 2030年までに新規原子炉2基建設の予定。
8 ドイツ 1,200 1,023 17.8% 9 0 0 0 0 フクシマ事故の影響で6原子炉を閉鎖、既存の9原子炉も段階的に閉鎖。
9 中国 1,188 826 1.8% 15 26 2,764 51 120 核兵器保有国。2020年までに70GWhにする計画。現在の約7倍。
10 イギリス 1,004 627 17.8% 16 0 0 2 11 核兵器保有国
11 スエーデン 940 581 39.6% 10 0 0 0 0
12 スペイン 745 551 19.5% 8 0 0 0 0 段階的廃止の予定はないが、スペイン政府は将来の増設については未確定と発表。現状維持と見られる。
13 ベルギー 594 459 54.0% 7 0 0 0 0 今のところ原発は段階的に廃止の予定。
14 台湾 493 404 19.0% 6 2 270 0 1 建設中の2基はGEがゼネコン。原子炉は日立と東芝が受注。2基の発電機は三菱重工が受注。激しい住民の反対闘争でここ20年「建設中」。
15 インド 439 289 3.7% 20 7 530 18 39 核兵器保有国
16 チェコ共和国 376 267 33.0% 6 0 0 2 1
17 スイス 325 257 40.9% 5 0 0 0 3 フクシマ事故の影響で、反原発集会の後2011年5月政府は原発の禁止を決定。2034年までに現在5基の原子炉を順次閉鎖。
18 フィンランド 274 223 31.6% 4 1 170 0 2 2012年時点で2020年までに操業の計画。
19 ブルガリア 191 153 32.6% 2 0 0 1 0 2004年と2007年の4原子炉閉鎖。2012年3月計画中案件は正式に中止となったがWNAは掲載している。
20 ブラジル 190 148 3.2% 2 1 141 0 4
21 ハンガリー 188 147 42.2% 4 0 0 0 2
22 スロバキア 182 143 54.0% 4 2 88 0 1
23 南アフリカ共和国 180 129 5.2% 2 0 0 0 6
24 メキシコ 160 93 3.6% 2 0 0 0 2
25 ルーマニア 131 108 19.0% 2 0 0 2 1
26 アルゼンチン 94 59 5.0% 2 1 75 1 2
27 イラン 92 0 0.0% 1 0 0 2 1 最初のブシェール発電所が完成シタガ2011年は実用発電していない。ロシアとターンキー方式。
28 パキスタン 73 38 3.8% 3 2 68 0 2 核兵器保有国
29 スロベニア 70 59 41.7% 1 0 0 0 1 隣国クロアチアが原子力発電所の50%を所有している。クロアチアにも電力供給を行っている。
30 オランダ 49 39 3.6% 1 0 0 0 1
31 アルメニア 38 24 33.2% 1 0 0 1 2 アメリカの支援で計画は既存の施設を入れ替え。進展がない。
合 計 37,415 25,180 13.4% 436 61 6,141

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別表2:地域別原子炉

2012年11月現在:単位は万kW

地 域 炉数 比率
北アメリカ 126 28.9%
南アメリカ 4 0.9%
東アジア 94 21.6%
東南アジア・南アジア  23 5.3%
中近東・西アジア 1 0.2%
アフリカ 2 0.5%
西ヨーロッパ 118  27.1%
ロシア・東ヨーロッパ  68 15.6%
オセアニア 0 0.0%
合 計  436


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 別表3:原子力発電所を計画または検討している国

国 名 原子炉数 特記事項
建設中 建設中
発電容量
計画中 提案中
バングラデシュ 0 0 2 0 2011年ロシアと契約で建設予定。
ベラルーシ 0 0 2 2 ロシアとターンキー方式
チリ 0 0 4
エジプト 0 0 1 1 2012年時点で計画は再び流動的。計画サイトは抗議運動のため閉鎖。
インドネシア 0 0 2 4
イスラエル 0 0 0 1 核兵器保有国
イタリア 0 0 0 10 イタリアは2011年5月の国民投票で原発再開政策を正式に断念。しかいWNAは依然として提案中10件を掲載している。
ヨルダン 0 0 1 0
カザフスタン 0 0 2 2 カザフスタン政府は2012年8月正式に原発建設にゴーサインを出した。
北朝鮮 0 0 0 1 核兵器保有国
マレーシア 0 0 0 2 マレーシア政府は2011年3月(フクシマ事故の後)原発建設を進めると表明。が依然流動的。
ポーランド 0 0 6 0
リトアニア 0 0 1 0 2009年に最後の原発閉鎖。2012年9月EUはリトアニアに原発建設の決定をした。日立GEニュークリアエナジーが建設予定。
サウジ・アラビア 0 0 0 16 2035年までに16基の原子炉を建設すると発表。
タイ 0 0 5 0 タイのエネルギー相は2026年までに原発を操業させる方向で青写真を作ると発表。しかし非常に襲い進展。(2012年現在)
トルコ 0 0 4 4 2012年7月最初の原子炉の具体的計画が明らかになった。建設・運営はロシアのROSATOM。所有の過半もロシア。
アラブ首長国連邦 1 140 3 10 韓国のコンソーシアムが2017年までに建設予定と伝えられた。
ベトナム 0 0 4 6

その他 1 アルジェリアは2020年までに原子炉1号機を建設する計画があったが今は立ち消えになっている。
2 アメリカについては『Nuclear Power in the USA』<http://www.world-nuclear.org/info/inf41.html>を参照のこと。
3 ニジェール、ナイジェリア、ケニア、スーダンなども原発を計画中と伝えられたが、世界原子力協会のリストには掲載されていない。(2012年11月現在)
4 カタールは一時原発建設を計画したが、経済情勢の悪化で立ち消えとなったものらしく世界原子力協会のリストには掲載されていない。(2012年11月現在)


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別表4:国内電力生産にしめる国別原発シェアの推移 2001年-2011年

1 商業用原子力発電を行っている国のみ。
2 電力生産量の単位はすべて億kWh。発電容量はすべて万kW。(小数点以下四捨五入)
3 順位は原子力発電容量の順。
4 『増減』の項目は2001年ト2011年の単純な差。
5 資料出典:原子力発電については『世界原子力協会』(WNA)のWebサイト『Nuclear share figures, 2001-2011』<http://www.world-nuclear.org/info/nshare.html> データは2012年4月現在。
6 1996年から2009年の間、43の原子炉が閉鎖・廃炉となり、49原子炉が稼働を開始している。この間6原子炉しか増えていない。
7 日本の東電福島第一原発1号機から4号機はすでに除かれている。またドイツが段階的原発解消を決定した際閉鎖廃炉になった8原子炉も除かれている。
8 アメリカ・ドミニオン社のキウォーニー原発の1原子炉は含まれている。

順位 国 名 発電容量
(万kW)
2011年
原子力発電
実績
(億kWh)
2010年
原子力
発電実績
(億kWh)
操業中
原子炉数
電力生産に占める原子力発電のシェア
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 増減
1 アメリカ 10,220 7,904 8,071 104 20.4% 20.3% 19.9% 19.9% 19.3% 19.4% 19.4% 19.7% 20.2% 19.6% 19.2% -1.2%
2 フランス 6,313 4,235 4,101 58 77.1% 78.0% 77.7% 78.1% 78.5% 78.1% 76.9% 76.2% 75.2% 74.1% 77.7% 0.6%
3 日本 4,440 1,562 2,803 50 34.3% 34.5% 25.0% 29.3% 29.3% 30.0% 27.5% 24.9% 29.9% 29.2% 18.1% -16.2%
4 ロシア 2,416 1,620 1,594 33 15.4% 16.0% 16.5% 15.6% 15.8% 15.9% 16.0% 16.9% 17.8% 17.1% 17.6% 2.2%
5 韓国 2,079 1,478 1,419 23 39.3% 38.6% 40.0% 37.9% 44.7% 38.6% 35.3% 35.6% 34.8% 32.2% 34.6% -4.7%
6 カナダ 1,417 883 855 20 12.9% 12.3% 12.5% 15.0% 14.6% 15.8% 14.7% 14.8% 14.8% 15.1% 15.3% 2.4%
7 ウクライナ 1,317 849 840 15 46.0% 45.7% 45.9% 51.1% 48.5% 47.5% 48.1% 47.4% 48.6% 48.1% 47.2% 1.2%
8 ドイツ 1,200 1,023 1,330 9 30.5% 29.9% 28.1% 32.1% 31.0% 31.8% 25.9% 28.3% 26.1% 28.4% 17.8% -12.7%
9 中国 1,188 826 701 15 1.1% 1.4% 2.2% - 2.0% 1.9% 1.9% 2.2% 1.9% 1.8% 1.8% 0.7%
10 イギリス 1,004 627 569 16 22.6% 22.4% 23.7% 19.4% 19.9% 18.4% 15.1% 13.5% 17.9% 15.7% 17.8% -4.8%
11 スエーデン 940 581 557 10 43.9% 45.7% 49.6% 51.8% 46.7% 48.0% 46.1% 42.0% 34.7% 38.1% 39.6% -4.3%
12 スペイン 745 551 593 8 28.8% 25.8% 23.6% 22.9% 19.6% 19.8% 17.4% 18.3% 17.5% 20.1% 19.5% -9.3%
13 ベルギー 594 459 457 7 58.0% 57.3% 55.5% 55.1% 55.6% 54.4% 54.1% 53,8% 51.7% 51.1% 54.0% -4.0%
14 台湾 493 404 399 6 21.6% 22.9% 21.5% - - 19.5% 19.3% 17.1% 20.7% 19.3% 19.0% -2.6%
15 インド 439 289 205 20 3.7% 3.7% 3.3% 2.8% 2.8% 2.6% 2.5% 2.0% 2.2% 2.9% 3.7% 0.0%
16 チェコ共和国 376 267 264 6 19.8% 24.5% 31.1% 31.2% 30.5% 31.5% 30.3% 32.5% 33.8% 33.3% 33.0% 13.2%
17 スイス 325 257 253 5 35.0% 39.5% 39.7% 40.0% 32.1% 37.4% 40.0% 39.2% 39.5% 38.0% 40.9% 5.9%
18 フィンランド 274 223 284 4 30.6% 29.8% 27.3% 26.6% 32.9% 28.0% 28.9% 29.7% 32.9% 28.4% 31.6% 1.0%
19 ブルガリア 191 153 142 2 41.6% 47.3% 37.7% 41.6% 44.2% 43.6% 32.1% 32.9% 35.9% 33.1% 32.6% -9.0%
20 ブラジル 190 148 139 2 4.3% 4.0% 3.6% 3.0% 2.5% 3.3% 2.8% 3.1% 3.0% 3.1% 3.2% -1.1%
21 ハンガリー 188 147 147 4 39.1% 36.1% 32.7% 33.8% 37.2% 37.7% 36.8% 37.2% 43.0% 42.1% 42.2% 3.1%
22 スロバキア 182 143 135 4 53.4% 65.4% 57.3% 55.2% 56.1% 57.2% 54.3% 56.4% 53.5% 51.8% 54.0% 0.6%
23 南アフリカ共和国 180 129 129 2 6.7% 5.9% 6.0% 6.6% 5.5% 4.4% 5.5% 5.3% 4.8% 5.2% 5.2% -1.5%
24 メキシコ 160 93 56 2 3.7% 4.1% 5.2% 5.2% 5.0% 4.9% 4.6% 4.0% 4.8% 3.6% 3.6% -0.1%
25 ルーマニア 131 108 107 2 10.5% 10.3% 9.3% 10.1% 8.6% 9.0% 13.0% 17.5% 20.6% 19.5% 19.0% 8.5%
26 アルゼンチン 94 59 67 2 8.2% 7.2% 8.6% 8.2% 6.9% 6.9% 6.2% 6.2% 7.0% 5.9% 5.0% -3.2%
27 イラン 92 0 1 - - - - - - - - - - 0.0% -
28 パキスタン 73 38 26 3 2.9% 2.5% 2.4% 2.4% 2.8% 2.7% 2.3% 1.9% 2.7% 2.6% 3.8% 0.9%
29 スロベニア 70 59 54 1 39.0% 40.7% 40.4% 38.8% 43.4% 40.3% 41.6% 41.7% 37.9% 37.3% 41.7% 2.7%
30 オランダ 49 39 34 1 4.2% 4.0% 4.5% 3.8% 3.9% 3.5% 4.1% 3.8% 3.7% 3.4% 3.6% -0.6%
31 アルメニア 38 24 23 1 34.8% 40.5% 35.5% 38.8% 42.7% 42.0% 43.5% 39.4% 45.0% 39.4% 33.2% -1.6%
リトアニア - - - - 77.6% 80.1% 79.9% 72.1% 69.6% 72.3% 64.4% 72.9% 76.2% 0.0% 0.0%
合 計 37,415 25,180 26,300 436

リトアニアは2009年末で2基の原子炉を廃炉・閉鎖処理とした。これは反原発運動のためではなく、EU加入条件。2012年に新原子炉建設契約を日立GEニュークリアエナジーと調印。2012年10月総選挙と新規原発の是非を問う国民投票が行われ、反原発派が勝利したため流動的となった。
イランは2011年にブシェール原発が操業したが2011年には商業発電の実績なし。

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