(2010.4.15)
No.006

「普天間問題」の解決は日米安保条約解消にあり


 4月15日付中国新聞を見てみると、共同通信の配信ものが掲載されており、「米の国益追求全面に」の大見出しのもとに、オバマ主導の「核保安サミット」の閉幕を伝えている。「テロリスト」が国際社会に対する最大の脅威のひとつ、核物質(兵器級ばかりでなく、すべての核分裂物質を含む)を4年以内に管理を徹底する、ことを基本内容とした、何ともしまりのない共同コミュニケを発表して終了した。オバマ政権としては、「核テロリズム」を口実として、NPTで定める参加国の原子力エネルギー技術取得や自国内での産業育成の権利まで、取り上げるところまで踏み込みたかったのだろうが、結構抵抗が大きかったと推測できる。

 論理的にも支離滅裂である。

 イスラエルは核兵器を保有している。イランは持っていない。これが事実である。

 核兵器を持っておらずしかもNPT(核兵器不拡散条約)に参加しているイランが、制裁を受けて、核兵器を保有し、しかもNPTに参加していないイスラエルが全く問題にされない点をエジプトやトルコなど新興国や途上国から指摘されれば、グウの音もでない。

 イランに対する制裁を国際的にも合意したかったのだろうが、オバマ政権のプロバガンダが行き届いたアメリカや日本、ヨーロッパの主要国だけならいざ知らず、事情のわかった諸国も混じっての会議では、そうは行かない。

 いつもはオバマ政権賛美の記事を書く共同通信もさすがに、「核開発を続けるイランへの対応では、国際社会の足並みが揃っているとは言い難い。」と書かざるを得なかった。

 それより、日本の大手メディアは、オバマの日本への扱いが冷淡だったことに不満だったようだ。主要各国の首脳とは公式会談を持ったのに、日本の鳩山首相に対しては非公式に10分しか時間を取ってくれなかった、しかも鳩山が、わずか10分の間で「普天間代替案」を説明したのに、オバマは冷ややかな対応だった、という書きぶりである。

 ここが日本の大手メディアの不思議なところで、「日本の首相に対して失礼ではないか」とはならずに「これはすべて普天間問題を決着させない鳩山が悪い。」という論調だ。

 普天間問題を決着させるとは、とりもなおさず日米ロードマップ通りに、

 普天間飛行場代替施設を、辺野古岬とこれに隣接する大浦湾と辺野古湾の水域を結ぶ形で設置し、V字型に配置される2本の滑走路はそれぞれ1600メートルの長さを有し、2つの100メートルのオーバーランを有する。各滑走路の在る部分の施設の長さは、護岸を除いて1800メートルとなる。この施設は、合意された運用上の能力を確保するとともに、安全性、騒音及び環境への影響という問題に対処するものである。』
(http://www.mofa.go.jp/mofaJ/kaidan/g_aso/ubl_06/2plus2_map.html)

 とすることである。

 鳩山政権は、これ以上沖縄に負担かけまいと、色々な代替え地を模索し、稔りが薄い努力を続けている。最もこれは沖縄県民のきっぱりとした意思表示がベースにあり、これを無視できないことが背景にある。

 日本の大手メディアは、沖縄県民の意志を無視して、「普天間問題」を決着させよ、説いているのかというとそうでもない。沖縄県民の意志を尊重せよ、という。

 「普天間問題の早期決着」とは、とりもなおさず日米ロードマップ通りに代替え地を「辺野古」とすることである。「辺野古」とするかしないか、これは完全な二者択一問題である。

 沖縄県民の意志を尊重しつつ、「普天間問題の早期決着」などできるわけがない。それを平気で主張する日本の大手メディアは、こちらも支離滅裂である。

 今の情勢で、「沖縄県民の意志を尊重する」とは「普天間問題」の決着をギリギリまで引き延ばすことである。その限りでは、鳩山政権の方針の方が筋が通っている。しかし、これは鳩山政権を窮地に追い込む。普天間の代替地など日本のどこを探してもありようがない。米軍基地は嫌われている。かつて金で横面をはり倒すようにして、候補地を絞り出したものだが、今は日本の市民も金では替えられない大事なモノがあることに気がつき始めた。

 オバマ政権はこうして窮地に陥っている鳩山政権を、ちょうど猫がネズミをいたぶるように、「地元の合意がなければ、代替地は受け入れられない。」などとハードルを高くしている。これが鳩山いじめであり、「地元の合意」などというのは口実に過ぎないことはすぐわかる。「地元の合意」といえば、「辺野古」は、「沖縄」ははっきり反対の意思表示をして居るではないか。「地元の合意」が大切というなら、「辺野古」もダメだ。

 論理的に考えるなら、解決策は、たった一つしかない。

 それは日米安全保障条約を解消することである。日米安全保障条約解消は国際法違反ではない。国際信義にも悖らない。条約に「解消条項」が明記されているからだ。

第十条:この条約は、日本区域における国際の平和及び安全の維持のため十分な定めをする国際連合の措置が効力を生じたと日本国政府及びアメリカ合衆国政府が認める時まで効力を有する。もっとも、この条約が十年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了させる意思を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行なわれた後一年で終了する』
(1960年6月23日批准発効)
(http://www5b.biglobe.ne.jp/~USPinfom/anpo1.htm)

 日米安全保障条約は、たとえば2010年6月1日に日本政府が「解消」をアメリカ政府に通告すれば、2011年5月31日にその効力を失う。

 ところで「普天間問題」は、2006年5月1日の在日米軍「再編実施のための日米のロードマップ」(ライス国務長官、ラムズフェルド国防長官、麻生外務大臣、額賀防衛庁長官=いずれも当時)に基づく。この「ロードマップ」は日米両政府の合意に基づく。この合意は両国間の条約ではなく、あくまで時の政府間の行政協定である。

 ところでこの行政協定は、日米安全保障条約の第6条、

 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリ力合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基づく行政協定(改正を含む)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。』

 というたった1ヵ条が、その法的根拠である。

 日米安全保障条約が解消されれば、その第6条に基づく日米間のすべての行政協定はその法的根拠を失う。

 合法的に、「普天間問題」も「日米ロードマップ」も雲散霧消である。

 私は本気でこの文章を書いている。茶化すつもりは毛頭ない。「普天間問題」の唯一の合法的解決策はこれしかない。

 考えても見て欲しい。「沖縄」は、沖縄にある米軍基地に出ていって欲しい。それでは、日本のどこが米軍基地に来て欲しい、といっているのか。基地反対派の市長を落選させた岩国か。いやその当時ですら、基地反対派の市長を落選させた岩国市民は、米軍基地を歓迎したのではない。日本政府からプレゼントされるお金が欲しかっただけだ。欲しかったのはお金であって、米軍基地ではない。

 どこの人間が、自分たちの住んでいるところに「治外法権」の外国軍隊に来て欲しいと思うものか。
 日本中、「米軍基地」は来て欲しくない、といっている。自分達の住むところに「米軍基地」は必要ないと云っている。米軍には出ていって欲しい、といっている。

 「普天間問題」は、在日米軍の存在をもういちどじっくり考えてみる、日米安全保障条約をもう一度じっくり考えてみる、いいチャンスではないか。われわれ日本の市民がこの問題を考えて見るのに、どうしてたっぷり時間をかけられないことがあろうか。どうしてオバマ政権から締め切りを突きつけられなければならないか。

 「普天間問題」の唯一の合法的解決策は、日米安全保障条約の解消である。

 もし鳩山政権にそれをする度胸と真の意味での「愛国心」がなければ、度胸と愛国心のある政府を合法的に樹立するまでだ。

 日米安全保障条約解消に反対するのは、一部独占大企業と大手メディア、そして明治以来日本を牛耳ってきた高級政府官僚だけだ。

 もっとも安保解消をアメリカに通告しようものなら、オバマは東京にすっ飛んできて思いとどまるようになだめすかして、威しをかけるだろう。10分どころではなく、1日でも2日でも鳩山と話し合いたがるだろう。

 その時、明らかになるのは、日本の米軍基地が、日本を守るために存在しているのではなく、アメリカが世界の軍事支配を続けるために必須の前線軍事基地だ、という事実だろう。