(2011.4.23)
(追記2014.3.20)
No.026

福島原発事故:3号機プール鎮圧に見る菅政府の犯罪行為

(以下追記)
半年以上も前のことになるが、ツイッターで福島原発事故当時首相だった菅直人とやりとりする機会があったので、そのやりとりを転載しておく。
この本記事の主題に直接関連した重要部分である。
朝日新聞などマスコミはいまだに福島第一原発事故における自衛隊の活躍を国民に印象付けようとしているが、実体はこの記事で報告した通り。
最大の問題は一つ間違えば東日本全体が失われようとしていた、その最大の危機に直面して、時の総理大臣(原子力緊急事態宣言中は全権力が集中する)の知らないところで自衛隊ショーを企画し、実施した勢力が日本政府内部に存在した、という点だ。(今も恐らく存在していることだろう)当時、3号機プールの鎮圧に失敗すれば東電福島第一原発敷地内には高濃度の放射性物質が立ち込め、人が敷地内にすら留まれない状態だったことを考えれば、政府内に巣食うこの勢力は、マフィアに劣らぬ組織犯罪集団ということになる。
(以下、ツイッターでの菅直人とのやりとり)

菅 直人 (Naoto Kan) 16:54 - 2013年7月9日

吉田所長に海水注入の中止を直接指示したのは東電の武黒フェロー。官邸からの指示と当時報道されたが、私を含め官邸の政治家は海水注入で廃炉になって海水 注入は当然と考えており、誰も中止を指示してはいない。指示をしたのは官邸にいた東電の武黒フェローと東電上層部の。つまり東電内部の指示。

哲野イサク ‏@isaac63588042 7月10日
私もそれが真実だと思います。武黒氏の二枚舌。ところで一つ教えてください。3号機プール鎮圧の件です。いったん東京消防庁ハイパーレスキュー隊に出動要請しておきながら、これを取り消し自衛隊に出動要請したわけは?http://bit.ly/173nKFI

菅 直人 (Naoto Kan) ‏@NaotoKan 7月10日
@isaac63588042 東京のレスキュウ隊の出動を私から当時の石原知事に要請し、派遣してもらいました。

哲野イサク ‏@isaac63588042 7月10日
@NaotoKan すみません。お答えになっていないと思います。私の質問はなぜいったん要請したハイパーレスキュー隊の出動要請を取り消して、自衛隊に出動要請したのかという点です。3月17日以降の話ではなく、3月12日に起こったことの話です。私の質問は他ならぬあなたが総理大臣の時の首相官邸発表に基づいています。http://bit.ly/13AZNsj  49p 【消防庁】 18:02の項をご覧下さい。私の読み違いの可能性もありますので、もしそうなら合わせて訂正いただけると助かります。

菅 直人 (Naoto Kan) ‏@NaotoKan 7月10日
@isaac63588042 12日に断ったことは私の知らないところで行われたようだ。私は改めて直接石原都知事に電話をし、改めて出動を頼み、出動してもらった。

哲野イサク ‏@isaac63588042 7月10日
@NaotoKan わかりました。これで辻褄が合いました。旧原子力安・保院がハイパーレスキューに応援を頼むのは当然です。核事故のために養成された部隊です。しかしこのチャンスに自衛隊の存在を国民に印象づけようという勢力があって、安・保院に断らせ、見せ場を作った、これにマスコミが全面協力して自衛隊の派手なショーをテレビや新聞を使って宣伝した。ただし、3月12日の出動依頼、それに続く依頼要請のキャンセルはあなたの知らないところで行われた・・・。十分に辻褄があいます。お手間を取らせました。ありがとうございました。

(オリジナル:https://twitter.com/NaotoKan/status/354750352593137665


  何故ハイパーレスキュー隊出動が遅れたか?

 最近上網した「東京消防庁・ハイパーレスキュー隊 記者会見 2011年3月19日深夜」(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/fukushima/20110319.html>)と云う記事を抜き書きにして、その若干の補足を入れ、雑観とする。

 以上がこの記者会見の、中断された時間を除けば、ほぼ全容である。原子力災害対策本部発表の「2011年福島第一・第二原子力発電所事故について」(以下報告書と略)の4月15日17:00現在版の1/64pに記載されている「使用済み燃料プールへの注水」という表によれば、3号機は4月15日午後5時現在、累積水量5,263トンである。プールの容量はほぼ1500トンである。実施者による内訳は以下の通りである。

  実施 水量計  割合
自衛隊  3月17日、18日  100トン  1.9%
警察機動隊 3月17日  44トン 0.8%
緊急消防援助隊 3月19日、20日、22日、25日 4,224トン 80.3%
東電 計延べ13日 892トン 16.9% 
累積水量合計   5,236トン  

 3号機の使用済み核燃料プールは、危険な徴候を示していた。3月14日、原子炉建屋で原子炉から大量に放出された水素が原因の大規模な水素爆発を起こした後、翌15日午前6時14分煙が発生、午前10時22分建屋付近で400ミリシーベルト(0.4シーベルト)という高濃度の放射線量を検出した。ほぼ人は近寄れない。3月16日には午前8時34分、10時と連続して大きく白煙が噴出。この時点では格納容器爆発の恐れも懸念された。10時45分、共用の中央制御室から作業員に対して退避命令が出された。
「報告書」9/64pから10/64pによる

(クリックすると大きな画像でご覧いただけます)

 11時14分、白煙については原子炉からのものではなく、使用済み核燃料プールからの蒸発が多いものと判定されたが、このことは3号機使用済み核燃料プールが危険水域(人が近寄れなくなるほど危険な放射線量の充満)に近づきつつあることを示していた。

 人が近寄れなくなると言うことは、放置すれば福島第一原子力発電所敷地内に人が止まれなくなることを意味している。それは、事故鎮圧作業が出来なくなることを意味し、1-3号機、使用済み核燃料プールの燃料棒本格的溶融(核崩壊熱による)を招き、チェルノブイリ事故をはるかに上回る放射能放出を結果することになる。
 
(クリックすると大きな画像でご覧いただけます)
 だからこの時は崩壊熱による温度上昇を抑えるため、大量の水でプールを満たしてやる必要があった。プールの総容量は約1500トン。半端な容量ではない。しかも放水前はプール内にはほとんど水がない状態だったと考えられる。

  19日午後2時5分からハイパーレスキュー隊は巨大な放水能力をもつ消防車(スーパーポンパー)で連続放水を開始。この連続放水は翌20日午前3時40分まで約14時間弱続いた。総放水トン数は約2,430トン。記者会見でも「ほぼ命中していた」という通り、プールはほぼ満水状態になったろう。

 3号機は、3月14日の水素爆発の後、原子炉、使用済みプールはいずれも危機的状況を迎えていた。原子炉に関しては今でも危機的状況はかわらないが、プールについては3月19日から20日未明にかけての東京消防庁・ハイパーレスキュー隊の出動で、一応の危機的状況を脱しつつあるという言い方ができるだろう。

 
3月18日~19日、東京消防庁ハイパーレスキュー隊による放水活動
「今70ミリシーベルトです」という声が、5分40秒あたりの映像から聞こえる。

 ここで誰しも思う疑問は、何故ハイパーレスキュー隊をもっと早く出動させなかったのか、ということである。この記者会見を読んでも佐藤の証言で、事故発生の翌日12日から、当然自分たちに声がかかるものと手ぐすね引いて作戦を立てていたことがわかる。

 報告書によれば、総理大臣から東京都知事に出動要請があったのは3月17日午前7時。都知事はただちに受諾したことになっている。これを受けて、消防庁長官から東京消防庁にハイパーレスキュー隊を緊急消防援助隊に派遣要請したのが3月18日午前0時50分。以上「報告書」49/64p、50/64pによる

 なぜこの間17時間以上もかかったのか疑問が残るところだが、総理大臣の要請がある前の3月16日には、ハイパーレスキュー隊は東京の荒川河川敷で、立案した作戦に沿ったシミュレーション訓練を実施している。

 なぜもっと早く出動させなかったのか?

 実は事故の起こった翌日の3月12日午後6時02分、原子力安全・保安院は消防庁長官に派遣要請をしているのである。「報告書49/64p」の「消防庁の動き」の項の記述を引用すると、

『18:02 原子力安全・保安院から施設を冷却するための装備を持った部隊を派遣して欲しいとの要請があり、消防庁長官から、東京消防庁のハイパーレスキュー隊及び仙台市消防局の特殊装備部隊を緊急消防援助隊として派遣要請』

 そしてこの派遣は、同日、

 『原子力安全・保安院の要請取り消しにより、中止』

 となるのである。

 原子力安全・保安院がすぐさまハイパーレスキュー隊に出動要請したのは極めて当然のことだ。ハイパーレスキュー隊は「核事故」や「大量破壊兵器事故」に特化した部隊として、必要な装備を持っている上に、隊員はそのための訓練や知識を備えている。今回の事態でいち早く出動しなくていつ出番があるというのか。だからこのことにはなんの疑問もない。

 従って今の疑問は、「なぜもっと早く出動させなかったのか?」ではなくて、「なぜ原子力安全・保安院は派遣要請を取り消したのか?」という疑問になる。報告書はこの疑問に答えて呉れないばかりか、要請取り消しの時刻も記述していない。

 だからこの後は合理的推測に頼る以外にはない。

 菅政府の犯罪行為

 「報告書」38/64pの「防衛省の動き」の項目を追っていくと、3月13日の記述に、

『 17:57 福島原発での空中散水を目的とした放射線モニタリングを16:15から実施する予定であったが、3号機の水素爆発の危険性を考慮し、モニタリング及び空中散水を一時中止 』

 とある。ヘリコプターで空中から水をまこうという計画があったことがこれでわかる。

 誰が立てた作戦計画か知らないが、非常識にもほどがある。ヘリコプターが運べる水は1回精々2トン。10機がいっぺんに飛び立ったとしても20トン。ところが必要とする水は数千トン単位だ。土台、ケタが違う。明らかに原発事故を全く知らない、シロウトが立てた作戦計画だ。現実に風に流されなからよろよろと飛び上がった自衛隊のヘリから申し訳程度の水がばらまかれ、それも風に流されあさっての方へかかっていた映像をご記憶の方も多いだろう。

 そしてこの記述から、ハイパーレスキュー隊への派遣要請を中止して、自衛隊に出動命令が下ったという事も推測できる。また菅政府は14日の3号機水素爆発も十分予測していたことも窺える。

 翌3月14日の「防衛省の動き」に関する記述を見てみると、

『 9:42 安全性の確保が出来たため、ポンプ車両7両で第一原発3号機に向かう。』

 これでいよいよはっきりしてきた。3号機使用済み燃料プールの鎮圧は自衛隊にやらせ、見せ場を作ろうとした、そのため菅政府は原子力安全・保安院に圧力をかけ、ハイパーレスキュー隊への派遣要請を取り消させた、と云う推測が成り立ってくる。

 そして、3月16日の記述

『 16:00 福島第一原発3号機への放水のため、CH-47(ヘリ)1機が離陸。モニタリング結果により中止の可能性があり
17:20 3/16はヘリによる放水作業は実施しない。』

 3月15日、16日は先ほども見たように3号機の使用済み核燃料プールは盛んに白煙を上げ、大量の放射能を含んだ水蒸気をまき散らしていた。危険水域に近づいていたのである。一刻も早く大量の水を注入し、核崩壊熱による温度上昇を抑える時期であった。ジルコニウム合金の被覆がとけ炉心が損傷していることは明白である。しかしまだ燃料棒の本格的溶融は始まっていない。これが溶け出すと手がつけられなくなる。この時菅政府は、たった1機のヘリコプターに冷却作業を任せようとしていた。そのヘリコプターも放射線濃度が高い、と云う理由で散水を中止してしまった。

 3月17日の「防衛省の動き」に関する記述。

3月17日
『09:48 【散水】 第一原発3号機に関し、陸自ヘリにより散水(1回目)を実施
09:53 【散水】 第一原発3号機に関し、陸自ヘリにより散水(2回目)を実施
09:56 【散水】 第一原発3号機に関し、陸自ヘリにより散水(3回目)を実施
10:00 【散水】 第一原発3号機に関し、陸自ヘリにより散水(4回目)を実施 』

 この4回で「自衛隊ヘリコプター・ショー」は終わった。前述の如く、この4回の出動でまいた水はほとんど空中へ流されていった。テレビで自衛隊の活躍を印象づける目的のこのショーは二度と行われなかった。余りにも子供だましだったからである。ただ、この3月17日の時点で菅政府は、今回の福島原発事故をまだ甘く見ていた、という事だけは言えるだろう。でなければこのようなヘリコプター・ショーにうつつを抜かしている余裕はなかったはずだ。

ユー・チューブhttp://www.youtube.com/watch?v=0EQn5nIG_rw からコピー貼り付け。テレビのアナウンサーが「あ!今投下しました!」と大げさに伝えている。可笑しいのは、すでに「福島第一原発3号機 自衛隊ヘリ放水開始」 とテロップが出ているにもかかわらず、アナウンサーが「あれは3号機でしょうか?」、そして解説者が「あれは屋根がないですから、3号機でしょう」と応じている。NHKをはじめ大手テレビ局も結局「自衛隊ショー」の共犯者だった。画面中央の鉄塔横の黒い機影が自衛隊ヘリである。そしてそ の下の白っぽいものが、投下した水である。3号機から立ち上る白煙ではない。

 同じく3月17日の「防衛省の動き」に関する記述。

『19:35 【放水】 第一原発3号機に関し、消防車により放水(1回目)を実施
19:45 【放水】 第一原発3号機に関し、消防車により放水(2回目)を実施
19:53 【放水】 第一原発3号機に関し、消防車により放水(3回目)を実施
20:00 【放水】 第一原発3号機に関し、消防車により放水(4回目)を実施
20:07 【放水】 第一原発3号機に関し、消防車により放水(5回目)を実施 』

 この「自衛隊放水」の光景はテレビを通じて、自衛隊の活躍として、派手に全国に流された。が、この水が到底プールに届いたとは思えない。というのは、消防車は建屋から20mも離れた地上にいた。ハイパーレスキュー隊総括隊長・冨岡豊彦の証言によれば、彼は3号炉建屋から2m離れたところにいて、プールとの直線距離は50mだった。それはそうである。使用済み核燃料プールは、地上約20mの上空にあるのだから。建屋から20m離れた地上から打ち上げた水がプールに届くはずがない。そもそもテレビ画面では、やや斜め上に打ち上げていた。使用済み燃料プールを狙った角度ではない。

 
自衛隊の3月18日の放水作業
防衛省「東日本大震災への対応」関連資料より

http://www.mod.go.jp/j/approach/defense/saigai/tohokuoki/index.html

 これも結局は自衛隊ショーだった。

 東京消防庁ハイパーレスキュー隊への要請を断ったのは、自衛隊にショーを演じさせ、日本の国民に自衛隊の活躍ぶりを印象づけ、宣伝するためだった。直接証拠はない。しかし状況証拠からする合理的推測ではある。もしこの推測が当たっているなら、これは菅政府による犯罪行為である。

 またこう考えてくると、なぜ総理大臣から東京都知事に出動要請があって、消防庁長官から東京消防庁ハイパーレスキュー隊に出動命令が出るのに17時間もかかったのか、また総理大臣からの命令の前後に、ハイパーレスキュー隊が荒川河川敷で実戦を想定したシミュレーション訓練を行っていたかの謎が解けていく。

 3号機使用済み核燃料プール鎮圧ショーを自衛隊にやらせ、これをテレビで全国放映させて、自衛隊の存在価値を愚かな日本国民(こんなことを許すのは私たちが愚かだからだ。原発事故鎮圧に自衛隊の出番はない。そのために必要な装備も訓練もない。)に宣伝する「自衛隊ショー」が終了するまで、ハイパーレスキュー隊を待機させていたのである。

 繰り返すが、ハイパーレスキュー隊出動前後の3号機使用済み燃料プールの危機的状況を考え合わせると、これは菅政府による犯罪行為である。