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福井地裁 高浜原発運転差止め仮処分命令 決定

福井地裁 高浜原発運転差止め仮処分命令 決定

2015年4月14日(火曜日)午後2時、福井地裁が関電高浜原発の運転差止め仮処分命令を出しました。

哲野と網野にとって、激動の1日がやっと終わりました。
決定日が近づくにつれ、論理の上では仮処分命令は出るはずと思いながらも、また裁判長が職務代行の樋口英明裁判長であることも念頭に入れながらも、なかなか実感できませんでした。

午後2時、2~3分過ぎたところ、法廷から仮処分決定の通知を持って弁護団が集まった群衆のところにやってきて、「司法はやっぱり生きていた」の垂れ幕を示しました。
アナウンスを聞いていると、原告(債権者)の全面勝利の内容でした。
意外だったのは、これまでこの裁判に極めて冷淡だったマスコミが号外まで出してこのニュースを報じたことでした。

しかし報道ぶりをみていると、この裁判の本質がまだマスコミには理解できていないようです。昨年5月21日の福井地裁判決(本件)を読んだ記者は、どうも一人もいないかのようです。

関西電力は「福井地方裁判所において、平成26年12月5日に仮処分の申立てがなされて以降、当社は、申立ての却下を求めるとともに、審査会合の中でご説明してきた内容も含め、発電所の安全性が確保されていることについて、科学的・専門的知見に基づき具体的に主張・立証してきました。」とプレスリリースでコメントしたものの、安全性確保については関西電力自体も、1280ガル以上の地震動の場合は苛酷事故発生を認めており、科学的・専門的知見に基づき安全性確保を立証できなかったわけで、このコメント自体にすでに嘘を含んでいます。
▼関西電力プレスリリース
「(コメント)高浜発電所3、4号機運転差止仮処分の決定について」
http://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2015/0414_1j.html

一方、原子力規制庁は、2015年4月14日の定例記者会見で米谷総務課長が「福井地裁仮処分命令決定については、規制委員会は当事者でないため、コメントする立場にない。」と述べました。

▼原子力規制委員会 規制庁定例記者会見
14分42秒あたりから
https://www.youtube.com/watch?v=Nq51gaecCn0

原子力規制委員会が「当事者ではない」という認識は、今回決定の主文を読む限り驚くべきコメントと言わざるを得ません。
というのは、福井地裁決定は、関西電力高浜原発の具体的危険を指摘する際、原子力規制委員会の規制基準そのものを厳しく批判し、
「・・・原子力規制委員会が策定した新規制基準は上記のいずれの点においても規制の対象としていない。・・・かような規制方法に合理性がないことは自明である。」
「・・・しかるに、新規制基準は上記のとおり、緩やかにすぎ、これに適合しても本件原発の安全性は確保されていない。新規制基準は合理性を欠くものである。そうである以上、その新規制基準に本件原発施設が適合するか否かについて判断するまでもなく、債権者らが人格権を侵害される具体的危険性、すなわち被保全債権の存在が認められる。」
と述べ、根本問題のひとつとして、規制基準の不合理性を指摘しています。
であるならば、原子力規制委員会も当事者と言わざるを得ず、この他人事のような態度は解せません。

他方、安倍政権の菅官房長官は同日午後4時ごろの記者会見で福井地裁判決が出ても政府の原発再稼働をさせる方針には変わりはないと述べ、またここでも政府は当事者ではない、としました。
▼菅官房長官4月14日午後記者会見
http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201504/14_p.html

政府の方針に変わりはない、とするのは今回に限れば一種の強がりに過ぎません。というのは、今回決定はよく読んでみれば、高浜原発だけに当てはまる判決理由ではなく、根拠法を日本国憲法に置き、原発の絶対安全性を、1993年の伊方訴訟最高裁判決に法的根拠を求めている限り、一般性・普遍性を持つ中身と言わざるを得ません。
▼伊方訴訟最高裁判決
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%8A%E6%96%B9%E5%8E%9F%E7%99%BA%E8%A8%B4%E8%A8%9F

つまり、今回の決定は日本の全ての原発に当てはまるものなのです。残る問題は債権者の権利保全の緊急性だけ、ということになります。
わかりやすく言えば、原子力規制委員会の規制基準合格決定が出た時点で当該原発に対して運転差止め仮処分命令を申し立てれば、過去の判例を前例とする限り、人格権侵害の具体的危険の緊急性は立証されたことになり、当該原発の運転は差し止められるということになります。
菅官房長官がいくら政府の方針に変化はない、と強弁しようとも、司法は政府の方針に待ったをかけているのが現状です。

長い間、三権分立をなおざりにし、政府権力さえ握れば何でもできると思っている菅官房長官には、今回の福井地裁決定の意味が、まだよくわかっていないようです。
日本国は三権分立の法治国家です。政府がやりたいことはなんでもできる、と考えるのは、権力側の夜郎自大な思い上がりです。

お伝えしたいことは山ほどあります。が、みなさん、今回の件についても新聞報道・テレビ報道にばかり依存せずに、福井地裁決定が何を国民に伝えたいか、何を理由としているか、何が真の問題なのか、を理解するために、一度原文をお読みになってみてください。

▼脱原発弁護団全国連絡会
http://www.datsugenpatsu.org/bengodan/news/15-04-14/
このページの最下段に、決定文要旨、決定文(本文)、弁護団声明がアップされています。

また、裁判所のwebサイトからも読めます。
▼裁判所
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=85038