(2009.6.17)

(その1へ)

<参考資料> NPT加盟呼びかけに対してイスラエルが激しく反発


 09年5月初旬から2週間の日程で開かれた、「10年NPT再検討会議準備委員会会合」の2日目第3セッションの全体討議で、アメリカ代表団団長、アメリカ国務長官補佐官ローズ・ゴットモーラーは、討議に参加し、ほぼ「オバマのプラハ演説」の内容を具体的にした演説を行った。
<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/obama_05.htm>

 この演説の中身も、来年の再検討会議に対するアメリカの基本的スタンスを示しており、来年の争点の一つが見えてくるのだが、それよりも興味を引くのは、事実上「インド、イスラエル、パキスタン、北朝鮮」に、NPT加盟を呼びかけ、またその課題に向かって積極的に動くのは、オバマ政権にとって重要なテーマであるとしたことだ。

 恐らくアメリカ政権の正式な代表が、国連の場でイスラエルが核兵器保有国であることを認めた声明としては、はじめてではないか。内容を良く読んでみると、この4カ国が核兵器保有国だとは、云っていない。しかし、この会合の参加者には、極めて明白にオバマ政権の認識が伝わったはずだ。その上でこの4カ国にNPT加盟を働きかける、とも明言した。「オバマのプラハ演説」(全訳・コメントあり)
<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/obama_04.htm>の中で私は次のように注釈を入れている。

オバマは、NPT強化を強調しているが、実はそうではない。アメリカが、IAEAの抜き打ち査察を承認する追加議定書を承認・批准するとか、イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮などにIAEA加盟を迫るとかの施策が含まれているのなら、これはIAEA体制の強化ということができるだろう。』

 しかし、ゴットモーラーの声明を読むと、オバマは本気でNPT体制の強化を考えている、と訂正しなければならないだろう。それが核兵器廃絶を目的としたものかあるいは別な目的があるのかは別として。

 ゴットモーラーの声明は、大手マスコミからは全く無視された。大手通信社もロイターを除くと全くこの声明に注目しなかった。AP電でも触れていなかった。ということは、オバマ政権は、この声明をあくまで国連の各国代表団というプロたちのみに理解して欲しかったのであり、一般には余り知られて欲しくなかったのだ、と推測できる。日本の新聞も書かなかった。従って私も知らなかった。

 私がこの話を知ったのは、東京外語大学の「中東ニュース」である。それを引用すると、

09年06月01日付 アル・ハヤート紙(イギリス)HPコラム面
【ムスタファ・ゼイン】

 ローズ・ゴットミューラー米国務長官補佐は、イスラエル、インド、パキスタンに対し核兵器不拡散条約(NPT)への調印を要請した。これにより、核兵器開発中のイランを脅す一方で武器庫を確保しているイスラエルには目をつぶるのかというアラブの疑念は、一応の回答を与えられた。

 この事で、合衆国政治とイスラエルに対するその立場は移行したとみなす向きもあった。しかし、声明を冷静に読むと、それがオバマ政権による広報戦略の一環であったことは明確である。大統領は、アラブ・ムスリムへのメッセージを携えたエジプト訪問を前に、自分たちが公正な中東和平を目指しているのだと人々を納得させ、彼らの「心をつかむ」ことをねらっている。

 イスラエルでは、この声明は侮りと無関心で応じられた。上下両院400の議員は、イスラエルの治安維持を大統領に要請する。それと対立する用意はホワイトハウスにはない。それ故、たかが国務次官補による声明に、イスラエルは無関心である。更にいえば、イスラエルはすでに核武装しており、たとえ条約への調印を強制されたとしても、その武器庫を放棄せよと強要することは誰にもできない。条約は、調印国の兵器保持や開発を妨げるものではない。それは、これらの兵器の拡散を禁じるのであって、所有者から取り上げることはしないのだ。

 米声明が侮られた事は、まことに教養深いリーバーマン外相が言い表している。外相によれば、「米政権は、イスラエルが命ずればどんな政策でも立案してくれる」。そして両国関係の歴史をその発言の中で示して見せた。外相は、イスラエルを和平の道に無理やり押しだそうという試みを阻止してくれる、米議会内外の「友人たち」の力、並びに、米国の圧力に屈するならばどんなイスラエル政府でも追い落としてくれるだろう、ロシア系移民からなる自党の力に全面的に信頼を寄せている。

 和平への道において、合衆国がイスラエルに強権を行使し得るという夢を我々は垣間見た。設立以来1500億ドル以上になるというその無償有償の軍事援助を停止さえすれば、イスラエルの兵器工場は役に立たなくなる。そうすればイスラエルは、非民主的で「不愉快な」アラブと平和裏に共存するしかなくなるだろうと。しかしこれは夢に過ぎなかった。米帝国主義が民主主義によって世界を変えるという夢。そこでは、以前の帝国が犯したような過ちも虐殺も繰り返されない。オバマは、この夢から覚め、周囲の現実と向き合う勇気がないらしい。

 ワシントンによるイスラエルへのNPT参加要請は、イランに対する偏った態度をうわべだけのモラルで隠ぺいしようとするものに過ぎない。そして、エジプト主導により核のない中東というアラブ世論を構築しようというもくろみである。さもなくばこれは、イスラエルの民族主義者しか笑わないアメリカ風のひどいジョークだ。 』


 この記事は、いくつかの誤解の上に成り立っている。たとえば、NPTに加盟してもイスラエルは、核兵器の放棄をしなくてもいい、としている部分などがそうだ。しかし、ゴットモーラーの声明の重要性そのものは見落としていない。ともかく私はこの記事で、ゴットモーラーの声明を知り、原文をインターネットで探して、それを読み、その重要性を知った。そして、この声明に表面冷静を装いながらも、一番激しく反発をしているのは、他ならぬイスラエルであることを知った。以下この声明に対する反応である。


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