アメリカ経済 関連資料 (2010.12.23更新)

<参考資料> 財務省証券(アメリカ国債)の保有者
(2010年12月発表)
2010年は9ヶ月間で1兆2500億ドル増加 

2010年12月発表。元資料はアメリカ財務省の財務省年鑑(Treasury Bulletin)
http://www.fms.treas.gov/bulletin/index.html>から”Ownership of Federal Securities”をクリックするとword文書でダウンロードできる。
数字赤字部分が今回訂正または今回追加部分。
単位はすべて10億ドル : n.a.はnot avairable

1 アメリカ財務省証券(アメリカ国債)の発行残高は、基本的にブッシュ政権時代にほぼ85%膨れあがった。
2 2009年1月オバマ政権にはいると、その発行残高はさらに加速している。09年3月期は4271億ドル(38.5兆円。1ドル=90円。以下同じ)、同6月期は4184億ドル(37.7兆円)、9月期は3645億ドル(32.8兆円)、12月期ついに12兆3114億ドルと12兆ドル台を突破し、4026億ドル(36.2兆円)の増加となった。2010年3月期は、さらに4617億ドル(41.5兆円)増加。6月期には約4300億ドル増加し、早くも13兆2018億ドルとなった。2010年前半で約9000億ドルの伸びであり、しかも加速している。2010年9月末では2009年12月末に比べて1兆2500億ドル増加した。
3 2010年6月期の財務省証券発行の伸びは、「連邦準備制度及政府部内各基金」、「外国政府及び外国投資家」及び「その他投資者」の3つのカテゴリーでほぼまかなっている。特に「外国政府及び外国投資家」のカテゴリーは史上初めて4兆ドルの大台を超えた。連邦準備制度は、2010年秋、2011年6月までに6000億ドルの財務省証券を購入するという、第2次金融緩和策を発表した。以下のカテゴリーで言うと「連邦準備制度及政府部内各基金 」(註1)の分野が膨らむということになる。連邦準備制度と政府部内各基金の比率については発表されていない。政府部内基金の最大のファクターは「国家養老年金基金」セキュリティ基金(ソーシャル・セキュリティ基金)と見られている。
4 目立たないながら、「その他」のカテゴリーがじわじわとシェアを伸ばしている。全体の10%を突破するのも時間の問題と思える。このカテゴリーは、個人、政府系機関、証券ブローカー、証券ディーラー、銀行、個人信託基金、個人不動産基金、企業、非企業法人など幅広い投資家が含まれている。私は連邦準備制度を支える大手金融機関の別働隊だと考えている。
 5 これは私の推測だが、中国の伸びが鈍化傾向を見せれば、オバマ政権は日本を当てにせざるを得ない。その場合に日本の旧日本郵政公社の保有する資産(預金・保険金)をあてにせざるを得ない。このためには旧日本郵政公社の完全民営化が必要だったのではないか。 


政権 対象年 対象月 発行総額指数
 (2000年3月
末=100)
証券発行
総額
連邦準備制度
及政府部内
各基金
(註1)
保有比率
(%)
預金
金融機関 
(註2)
保有比率
(%)
アメリカ貯蓄
債権基金
(註3)
保有比率
(%)
養老年金
基金
(民間)
(註4)
保有比率
(%)
養老年金
基金(州及び
地域政府)
(註5)
保有比率
(%)
保険会社 保有比率
(%)
各種
投資信託
(註6)
保有比率
(%)
州及び
地域政府
 (註7)
保有比率
(%)
外国政府及び
外国投資家
 (註8)
保有比率
(%)
その他
投資家
(註9)
保有比率
(%)
クリントン政権 2000年 3月末 100.0 5,773.4 2,590.6 44.9% 237.7 4.1% 185.3 3.2% 150.2 2.6% 196.9 3.4% 120.0 2.1% 222.3 3.9% 306.3 5.3% 1,106.9 19.2% 657.2 11.4%
6月末 98.5 5,685.9 2,698.6 47.5% 222.2 3.9% 184.6 3.2% 149.0 2.6% 194.9 3.4% 116.5 2.0% 205.4 3.6% 309.3 5.4% 1,082.0 19.0% 523.5 9.2%
9月末 98.3 5,674.2 2,737.9 48.3% 220.5 3.9% 184.3 3.2% 147.9 2.6% 185.5 3.3% 113.7 2.0% 207.8 3.7% 307.9 5.4% 1,057.9 18.6% 510.8 9.0%
12月末 98.1 5,662.2 2,781.8 49.1% 201.5 3.6% 184.8 3.3% 145.0 2.6% 179.1 3.2% 110.2 1.9% 225.7 4.0% 310.0 5.5% 1,034.2 18.3% 490.0 8.7%
ブッシュ政権 2001年 3月末 100.0 5,773.7 2,880.9 49.9% 188.0 3.3% 184.8 3.2% 153.4 2.7% 177.3 3.1% 109.1 1.9% 225.3 3.9% 316.9 5.5% 1,029.9 17.8% 508.1 8.8%
6月末 99.2 5,726.8 3,004.2 52.5% 188.1 3.3% 185.5 3.2% 148.5 2.6% 183.1 3.2% 108.1 1.9% 221.0 3.9% 324.8 5.7% 1,000.5 17.5% 363.1 6.3%
9月末 100.6 5,807.5 3,027.8 52.1% 189.1 3.3% 186.4 3.2% 149.9 2.6% 166.8 2.9% 106.8 1.8% 234.1 4.0% 321.2 5.5% 1,005.5 17.3% 419.8 7.2%
12月末 102.9 5,943.4 3,123.9 52.6% 181.5 3.1% 190.3 3.2% 145.8 2.5% 155.1 2.6% 105.7 1.8% 261.9 4.4% 328.4 5.5% 1,051.2 17.7% 399.6 6.7%
ブッシュ政権 2002年 3月末 104.0 6,006.0 3,156.8 52.6% 187.6 3.1% 191.9 3.2% 152.7 2.5% 163.3 2.7% 114.0 1.9% 266.1 4.4% 327.6 5.5% 1,067.1 17.8% 378.9 6.3%
6月末 106.1 6,126.5 3,276.7 53.5% 204.7 3.3% 192.7 3.1% 152.1 2.5% 153.9 2.5% 122.0 2.0% 253.8 4.1% 333.6 5.4% 1,135.4 18.5% 301.5 4.9%
9月末 107.9 6,228.2 3,303.5 53.0% 209.3 3.4% 193.3 3.1% 154.5 2.5% 156.3 2.5% 130.4 2.1% 256.8 4.1% 338.6 5.4% 1,200.8 19.3% 284.8 4.6%
12月末 111.0 6,405.7 3,387.2 52.9% 222.6 3.5% 194.9 3.0% 153.8 2.4% 158.9 2.5% 139.7 2.2% 281.0 4.4% 354.7 5.5% 1,246.8 19.5% 266.2 4.2%
ブッシュ政権 2003年 3月末 111.9 6,460.8 3,390.8 52.5% 153.6 2.4% 196.9 3.0% 165.8 2.6% 162.1 2.5% 139.5 2.2% 296.6 4.6% 350.0 5.4% 1,286.3 19.9% 319.1 4.9%
6月末 115.5 6,670.1 3,505.4 52.6% 145.4 2.2% 199.1 3.0% 170.2 2.6% 161.3 2.4% 138.7 2.1% 302.3 4.5% 347.9 5.2% 1,382.8 20.7% 317.0 4.8%
9月末 117.5 6,783.2 3,515.3 51.8% 147.0 2.2% 201.5 3.0% 167.7 2.5% 155.5 2.3% 137.4 2.0% 287.1 4.2% 357.7 5.3% 1,454.2 21.4% 360.0 5.3%
12月末 121.2 6,998.0 3,620.1 51.7% 153.3 2.2% 203.8 2.9% 172.1 2.5% 148.6 2.1% 136.5 2.0% 280.8 4.0% 364.2 5.2% 1,533.0 21.9% 385.4 5.5%
ブッシュ政権 2004年 3月末 123.5 7,131.1 3,628.3 50.9% 162.9 2.3% 204.4 2.9% 169.8 2.4% 143.6 2.0% 141.0 2.0% 280.8 3.9% 374.1 5.2% 1,677.1 23.5% 349.1 4.9%
6月末 126.0 7,274.3 3,742.8 51.5% 158.7 2.2% 204.6 2.8% 173.3 2.4% 134.9 1.9% 144.1 2.0% 258.7 3.6% 381.2 5.2% 1,739.6 23.9% 336.3 4.6%
9月末 127.8 7,379.1 3,772.0 51.1% 138.5 1.9% 204.1 2.8% 173.9 2.4% 140.8 1.9% 147.4 2.0% 255.0 3.5% 381.7 5.2% 1,798.7 24.4% 366.9 5.0%
12月末 131.6 7,596.1 3,905.6 51.4% 125.0 1.6% 204.4 2.7% 173.7 2.3% 151.0 2.0% 149.7 2.0% 254.1 3.3% 389.1 5.1% 1,853.4 24.4% 390.1 5.1%
ブッシュ政権 2005年 3月末 134.7 7,776.9 3,921.6 50.4% 141.8 1.8% 204.2 2.6% 177.4 2.3% 158.0 2.0% 152.4 2.0% 261.1 3.4% 412.0 5.3% 1,956.3 25.2% 392.2 5.0%
6月末 135.7 7,836.5 4,033.5 51.5% 127.0 1.6% 204.2 2.6% 181.0 2.3% 171.3 2.2% 155.0 2.0% 248.7 3.2% 444.0 5.7% 1,879.6 24.0% 392.3 5.0%
9月末 137.4 7,932.7 4,067.8 51.3% 125.4 1.6% 203.6 2.6% 184.4 2.3% 164.8 2.1% 159.0 2.0% 244.7 3.1% 467.6 5.9% 1,930.6 24.3% 384.8 4.9%
12月末 141.5 8,170.4 4,199.8 51.4% 117.2 1.4% 205.1 2.5% 184.9 2.3% 153.8 1.9% 160.4 2.0% 251.3 3.1% 481.4 5.9% 2,036.0 24.9% 380.4 4.7%
ブッシュ政権 2006年 3月末 145.0 8,371.2 4,257.2 50.9% 115.4 1.4% 206.0 2.5% 186.6 2.2% 153.0 1.8% 161.3 1.9% 248.7 3.0% 486.1 5.8% 2,084.5 24.9% 472.4 5.6%
6月末 145.8 8,420.0 4,389.2 52.1% 117.4 1.4% 205.5 2.4% 192.1 2.3% 150.9 1.8% 161.2 1.9% 244.2 2.9% 499.4 5.9% 1,979.8 23.5% 480.2 5.7%
9月末 147.3 8,507.0 4,432.8 52.1% 113.8 1.3% 203.7 2.4% 202.0 2.4% 155.6 1.8% 160.6 1.9% 235.7 2.8% 502.1 5.9% 2,027.3 23.8% 473.4 5.6%
12月末 150.3 8,680.2 4,558.1 52.5% 115.1 1.3% 202.4 2.3% 207.5 2.4% 157.1 1.8% 159.0 1.8% 250.7 2.9% 516.9 6.0% 2,105.0 24.3% 410.6 4.7%
ブッシュ政権 2007年 3月末 153.3 8,849.7 4,576.6 51.7% 119.9 1.4% 200.3 2.3% 221.8 2.5% 159.2 1.8% 150.8 1.7% 264.5 3.0% 535.0 6.0% 2,196.7 24.8% 427.1 4.8%
6月末 153.6 8,867.7 4,715.1 53.2% 110.6 1.2% 198.6 2.2% 232.5 2.6% 160.2 1.8% 142.1 1.6% 267.7 3.0% 550.3 6.2% 2,193.9 24.7% 268.7 3.0%
9月末 156.0 9,007.7 4,738.0 52.6% 119.8 1.3% 197.1 2.2% 246.4 2.7% 165.6 1.8% 133.4 1.5% 306.3 3.4% 580.3 6.4% 2,237.2 24.8% 324.1 3.6%
12月末 159.9 9,229.2 4,833.5 52.4% 129.9 1.4% 196.5 2.1% 257.6 2.8% 168.8 1.8% 123.3 1.3% 362.9 3.9% 531.5 5.8% 2,352.9 25.5% 272.2 2.9%
ブッシュ政権 2008年 3月末 163.5 9,437.6 4,694.7 49.7% 127.4 1.3% 195.4 2.1% 270.3 2.9% 169.4 1.8% 129.2 1.4% 484.4 5.1% 521.6 5.5% 2,507.5 26.6% 341.2 3.6%
6月末 164.4 9,492.0 4,685.8 49.4% 114.9 1.2% 195.0 2.1% 276.7 2.9% 169.1 1.8% 135.1 1.4% 477.2 5.0% 513.4 5.4% 2,587.2 27.3% 399.4 4.2%
9月末 173.6 10,024.7 4,692.7 46.8% 130.5 1.3% 194.3 1.9% 291.7 2.9% 171.6 1.7% 140.6 1.4% 656.1 6.5% 500.5 5.0% 2,799.5 27.9% 447.0 4.5%
12月末 185.3 10,699.8 4,806.4 44.9% 107.6 1.0% 194.1 1.8% 297.2 2.8% 174.6 1.6% 160.5 1.5% 768.8 7.2% 491.9 4.6% 3,076.3 28.8% 625.6 5.8%
オバマ政権 2009年 3月末 192.7 11,126.9 4,785.2 43.0% 130.9 1.2% 194.0 1.7% 306.0 2.8% 173.2 1.6% 191.0 1.7% 716.0 6.4% 504.1 4.5% 3,264.7 29.3% 864.0 7.8%
6月末 200.0 11,545.3 5,026.8 43.5% 145.4 1.3% 193.6 1.7% 312.5 2.7% 172.7 1.5% 209.7 1.8% 695.0 6.0% 517.8 4.5% 3,460.3 30.0% 817.5 7.1%
9月末 206.3 11,909.8 5,127.1 43.0% 199.3 1.7% 192.4 1.6% 328.3 2.8% 172.0 1.4% 233.0 2.0% 644.9 5.4% 520.0 4.4% 3,575.3 30.0% 917.6 7.7%
12月末 216.5 12,311.4 5,276.9 42.9% 206.6 1.7% 191.3 1.6% 338.4 2.7% 174.7. 1.4% 235.7 1.9% 663.9 5.4% 531.3 4.3% 3,691.5 30.0% 1,001.1 8.1%
オバマ政権 2010年 3月末 221.2 12,733.1 5,259.8 42.1% 273.7 2.1% 190.2 1.5% 462.2 3.6% 181.6 1.4% 260.6 2.0% 648.6 5.1% 534.7 4.2% 3,884.0 30.4% 1,076.8 8.4%
6月末 230.5 13,201.8 5,345.1 40.5% 269.8 2.0% 189.6 1.4% 531.9 4.1% 174.5 1.3% 261.8 2.0% 637.7 4.8% 511.8 3.9% 4,010.1 30.4% 1269.4 9.6%
9月末 236.8 13,561.6 5,350.5 39.5% na na 188.7 1.4% na na na na na na na na na na 4,200.0 31.0% na na
12月末                                            


連邦予算は現金主義

 この資料はアメリカ財務省金融経営局発行の「財務年鑑」の中の「連邦証券の保有」という資料をもとに作成したものである。アメリカ財務省金融経営局(Financial Management Service Bureau)は次。
<http://www.fms.treas.gov/bulletin/index.html>

 また財務年鑑(Treasury Bulletin)の「連邦証券の保有」(Ownership of Securities)は上記サイトから「Ownership of Federal Securities」の項目をクリックすれば、ワードファイルでダウンロードできる。また面倒くさい人は直接「アメリカ連邦証券の保有」をワードファイルまたはPDFでダウンロードできる。

 アメリカ連邦証券の総発行額はおおむねアメリカ連邦政府の総負債と考えることができる。(厳密には異なるが、全体としてみれば大筋外れていない。)

 まずわれわれが注意しておかなければならないことは、連邦政府の会計システムが「現金主義会計」を採用しており、「発生主義」ではないと云うことだ。(「<参考資料> アメリカ連邦予算の仕組みと連邦負債」<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/Economy_of_the_US/11.htm>を参照の事。また現金主義、発生主義については、たとえば次を参照の事。
<http://financial.mook.to/accounting/01/structure_13.htm>


 発生主義会計に慣れたわれわれとしては、アメリカ連邦政府の会計主義をしっかり理解しておかなければ、とんでもない間違いを犯すことになる。

 つまり、アメリカ連邦政府の総負債とは、発生主義に基づいて生じたコストを基に積算されたものではなく、単年度に発生した現金主義に基づく赤字の累積総額ということだ。単年度ごとに発生した現金赤字を、都度支払い処理をするため、財務省がアメリカ証券を発行し、これから現金収入を得て連邦予算に繰り入れるというシステムである。だからアメリカ財務省証券の総発行額は、現金主義会計に基づく連邦政府の総負債にほぼ等しいということになる。

 別な言い方をすると、連邦政府で「発生したコスト」のうち、まだ「赤字化」していない、従って「負債化」していない部分がある(どの程度あるのか私にはわからない。)ということでもある。

 また連邦政府の総負債の上限は、法律で決められている。言い替えれば、アメリカ議会がこの「上限法案」を通過させ、大統領が署名して法律になって始めて、負債上限が決定され、この法律に基づいて財務省が「証券」を発行できる仕組みとなっている。先頃、

[ワシントン 28日 ロイター] 米上院は28日、連邦債務の上限を14兆3000億ドルに引き上げることを承認した。賛成60に対し反対は40だった。これにより11月の中間選挙前に再引き上げを承認する必要はなくなった。』

 と報道されたが、これは法律で負債の上限を引き上げた、という意味である。2010年1月オバマ政権のホワイトハウス予算運営局は、2010会計年度(09年10月から10年9月まで)の連邦負債総額を約14兆4500億ドルと予想する数字を発表したが、先の報道と合わせて考えてみると、「上限」をめいっぱい使い切るつもりだな、と推測ができる。もし、14兆3000億ドルを越えてしまいそうであれば、オバマ政権はもう一度今年度内に「上限法案」を出さなければならなくなる。(「<参考資料> アメリカ連邦政府総負債の推移とGDP比率」<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/Economy_of_the_US/07.htm>を参照の事。)

 アメリカ財務省証券の保有者は推定しかできない。短期ものは、市場で売買できないものあるが、ほとんどの中長期ものは市場で売買できるからだ。しかしこうして財務省が推定資料を出していると云うことは、誰がいつ買うにしろ、集計した資料を基におおよそ見当がつくと云うことだ。


「連邦準備制度及び府部内各基金」のカテゴリー

 財務省証券の保有者は政府部内保有と政府部外保有とに大きく分けられる。

 政府部内保有は、カテゴリーの名称としては「連邦準備制度及び政府部内各基金」<Federal Reserve and Intragovernmental Holdings(註1)>となる。「連邦準備制度」(Federal Reserve System)としたが、これはすべてが連邦準備制度なのかどうかはわからない。というのは、アメリカ12区域に地区連邦準備銀行(Federal Reserve Bank)があり、恐らくこの12の地区連邦準備銀行もアメリカ財務省証券を保有していると見られるからだ。だからここで云う「連邦準備制度」とはアメリカの中央銀行である「連邦準備制度」(Federal Reserve System)と12の地区連銀を総称したカテゴリーと見なければならない。

 ところでこうしてみると、「連邦準備制度」保有の「財務省証券」を厳密な意味で「政府部内保有」と見ることには若干疑問が残る。確かに「連邦準備制度」はアメリカ議会が創設を決め、アメリカ連邦政府部内の一行政執行機関として位置づけられているが、連邦準備制度の株主は、政府でも議会でもない。民間銀行なのだ。しかもこの民間銀行は国際金融資本が中心である。地区連銀も一定の出資を義務づけられているので、すべてが国際金融資本とはいえない。またこの地区連銀の出資者も民間銀行なので、国際金融資本を中心とした民間銀行が「連邦準備制度」の株主という言い方は適切だろうと思う。その「連邦準備制度」が保有する「アメリカ証券」は「資本の論理」からすれば、アメリカ政府の資産ではなく、連邦準備制度の株主である「民間銀行」の資産ということにもなる。だからこれを「政府部内保有」に分類するのは疑問がのこる。

 「連邦準備制度及び政府部内各基金」のカテゴリーの中で、「政府部内基金各基金」<Intragovernmental Holdings>はどういう分野だろうか?この分野については、アメリカ市民の間でもわからない市民が多いらしく、よく質問の対象になっている。

財務省の一般向け説明では、

Intragovernmental Holdings are mostly made up of the Government Account Series (GAS) held by government trust funds, revolving funds, and special funds. 」
<http://www.treasurydirect.gov/govt/charts/principal/principal
_govpub.htm>


 という説明、すなわち「政府部内各基金とは、ほとんど政府勘定シリーズから成り立っています。政府勘定シリーズとは政府信託基金、アメリカ連邦政府回転基金や特別基金が所有している一連の基金です。」という説明で、まるで「らっきょの皮むき」説明である。

 アメリカの投資家向けサイト、デイブ・マニュエル・ドット・コム(http://www.davemanuel.com/investor-dictionary/)の説明によると、政府部内基金とは、連邦政府管掌の基金です。つまり、政府が自分自身からお金を借りることを意味します。たとえば、政府は国家養老年金基金(Social Security Trust Fund)を運営していますが、その国家養老年金基金は毎年の歳出より歳入の方が大きいため、余剰金が生じます。その余剰金で財務省証券を購入します。」と書いてある。

 政府部内各基金とは、こうした政府管掌財源基金であるようだ。こうした基金のうち国家養老年金基金についで大きい基金が、国家高齢者・障害者医療保険基金(Medicare Trust Fund)のようだ。

 国家養老年金基金にしても国家高齢者・障害者医療保険基金にしても、元来これは連邦政府のお金ではない。アメリカの国民が老後のためにあるいは病気をした時のために保険で医療が受けられるようにと積み立てた金だ。それを「税金」として徴収している。だからこの「税金」が払えない人は、いずれも老後の年金保障や高齢医者医療や障害者医療の枠からはみ出さざるを得ない。言わば社会保障の外に立たざるを得ない。

 問題は国家養老年金基金(Social Security Trust Fund)や国家高齢者・障害者医療保険基金が財政的に健全なのかどうかということだ。これらが健全な時のみに、財務省証券を購入する余裕が生まれる。健全でない場合に購入すればそれは各基金の財政を圧迫し、結果それぞれの給付金を減額せざるを得ない。この問題に深入りすると、この記事の主題からそれていくので、ここでやめるが、アメリカ政府の総負債という問題は、表面で見るより相当奥行きが深そうだとは思う。


財務省証券の「政府外保有者」

 財務省証券の「政府外保有者」は、財務省の「証券保有者」のカテゴリーからみると、預金金融機関(註2)、アメリカ貯蓄債権基金(註3)、養老年金基金(民間)(註4)、養老年金基金(州及び地域政府)(註5)、保険会社、各種投資信託(註6)、州及び地域政府(註7)、外国政府及び外国投資家(註8)、その他投資者(註9)の8つのカテゴリーがある。

 預金金融機関(Depositary Institutions)(註2)は、法律で預金業務を認められた各種金融機関、わかりやすく云えば各種銀行だ。連邦預金保険公社(Federal Deposit Insurance Corporation−FDIC)に参加している金融機関だと考えて良い。

 アメリカ貯蓄債権基金(U.S. Saving Bonds)(註3)は、アメリカ国債として独自に発行権限を与えられている基金のことである。発祥は1935年でそれまでのアメリカ郵便局債券に替わってこの名称が使われた。安全な投資先として誰でも買える有利な投資先、とされている。

 このアメリカ貯蓄債権基金が大きくふくれあがったのは、1941年アメリカが日本に宣戦布告をした時がきっかけになっている。この時厖大な財源をまかなうため、国債を大量に発行した。「戦争債券」“War Bond”と呼ばれたのがこれである。こうして次々とシリーズの国債が発行された。だから財務省証券を「アメリカ国債」と解釈すると若干誤解が生まれる。

私も長い間誤解していたし、財務省証券の中のBondとこのアメリカ貯蓄債権基金の発行するBondの区別ができていなかった。) シリーズは発行順にA、B、C、D、E、EE、F、G、H、HH、Iまである。金利は固定で、現在の低金利状況から見れば、5%前後と比較的高い。償還も30年から40年と長期間である。一口25ドル、50ドル、75ドル、100ドル、200ドル、1000ドル、5000ドル、1万ドルまであり、庶民が購入できる仕組みになっている。(以上英語Wikipedia<http://en.wikipedia.org/wiki/Series_E_bond#The_U.S._Savings_Bond_programs>などによる。)


左は戦争債券購入を呼びかける1942年のポスター。
英語Wikipedia“Series E bond”
<http://en.wikipedia.org/wiki/Series_E_
bond#The_U.S._Savings_Bond_programs>
からコピー・貼り付け】

 養老年金基金(民間)(Pension Funds-Private)(註4)は、老後年金基金のうち、公的性格を持たない基金で、たとえば連邦政府職員退職システム基金(Federal Employees Retirement System)とかスリフティ貯蓄計画基金(Thrifty Saving Plan)のうちの政府証券基金(“G”Fund)などを指している。

 養老年金基金(州政府・地域政府)(Pension Funds-State and Local Governments)(註5)は、連邦政府外の州政府やその他の市や町などの自治政府が直接運営する老後年金基金のことである。

 保険会社(Insurance Companies)各種投資信託(Mutual Funds)(註6)は、これまでのカテゴリーとは全く異なり、民間の企業カテゴリーである。各種投資信託の中には、マネー・マーケット・ファンド、オープン投資信託、閉鎖型投資会社などが含まれている。

 州及び地域政府(註7)は、各州政府や地域政府が直接財務省証券を購入するカテゴリー。各政府の剰余金を活用して購入するわけだが、ここが私には理解できない。各州政府や地域政府はどこも財政難で剰余金は枯渇していると思うのだが。

 外国政府及び外国投資家(註8)。ここがよく話題になるカテゴリーだ。「アメリカの最大の国債保有者は中国で、次が日本だ。」とよくいわれが、それはこのカテゴリーで1位、2位という事だ。ここで云う国債とは厳密には財務省証券のことで、いわゆる「国債」ではない。しかし広い意味で「アメリカの国債」という捉え方は間違っていないと思う。英語の記事でも結構それに類した記述も多く、「アメリカの国債は外国に大きく依存しており、中国や日本が買ってくれないと困る。」といった記述をよく見かける。中国や日本が買ってくれないと困ることは事実としても、これが最大の保有者という誤解はアメリカ市民の間でも結構多いのに驚いた。「外国政府及び外国投資家」というカテゴリーでもわかるように、すべて外国政府が保有しているわけではない。外国籍の企業や機関投資家による保有もこのカテゴリーに含まれる。

 その他投資者(註9)のカテゴリーには、個人、政府系機関、証券ブローカー、証券ディーラー、銀行、個人信託基金、個人不動産基金、企業、非企業法人など幅広い投資家が含まれている。


ここ10年の特徴

 最後に、ここ10年の特徴を大ざっぱにつかんでおこう。

 クリントン政権がブッシュ政権に移行するのは2001年1月である。そして9月に「9/11」が発生する。「9/11」の「首謀グループ、アル・カイダ」をタリバンが匿っていることを口実に01年10月には空爆を開始し、本格的なアフガニスタン侵攻が始まる。2003年3月には、「大量破壊兵器を保有している。」ことを口実に、イラク侵攻が開始される。

 アメリカ財務省証券の総発行高は、クリントン政権の末期にはほとんど増加していない。むしろ減っている。ということは単年度の連邦政府会計決算は黒字だったわけである。(もちろん現金主義会計ベースだが。)

 ブッシュ政権初年度の2001年もさほど増えていない。はっきりした増勢が顕著になるのは2002年以降である。3ヶ月ごとの残高を較べてみてもウソだろうというぐらいの伸び方を示し始めるのは2004年以降である。2000年3月末クリントン政権の最末期を100としてみると、2004年3月末は123.5、05年3月末は134.7、06年3月末は145.0、07年3月末は153.3、08年3月末は163.5、09年1月オバマ政権に替わって最初の3月末には、192.7、そして6月末にはついに200.0となる。

 さらに、オバマ政権が見通している連邦負債の見通しは、2010年が13兆8000億ドル、11年15兆1400億ドル、12年16兆3400億ドル、13年17兆4500ドル、14年18兆5300億ドル、15年19兆6800億ドルと予想している。

 これを先ほどの指数に直してみると、10年239、262,283,302,320、340・・・と信じられないくらいの膨らみ方を予測しているのである。

 オバマ政権は、クリントン政権型の財政運営より、ブッシュ政権型の、あるいはそれよりさらに過激な借金型運営を志向していると云っても過言ではなかろう。

 これは、イラク戦争・アフガニスタン戦争の財政負担や景気回復のための財政負担の増加であろうことは間違いなかろうが、それだけではないような気がする。クリントン政権時代、財政を黒字化できたのは、主として国家養老年金基金の収入増と高齢者・障害者医療保険基金(メディケア)の収入増が主要因だった。わかりやすく云うと、難癖をつけて給付を減額したのである。いわば国家的詐欺を働いたのである。クリントン政権時代、この国家的詐欺は強化された。それでも戦争出費が増えて負債が積み重なった。

 私はアメリカ社会の人口構成比率の推移をまだ調べていないが、恐らくは急速に高齢化が進んでおり、それはブッシュ政権時代から顕著になったのではないだろうか?その上に、社会保障の枠の保護の外に居る人たち、すなわち国家養老年金の税金やメディケアの負担金を払えなった人たちが急増し、財政赤字に拍車をかけているのではないだろうか?失業率の推移から見てもこのことは裏付けられるのではないだろうか?

 すなわち、国家養老年金基金やメディケアを使った「国家的詐欺」も完全に限界にきていて、収入より支出が増え、これが連邦政府の赤字を直撃しているのではないか、ということだ。これが、戦争出費、景気回復財政出動と並んで、あるいはそれを上回る要因になってきたのではないかと思う。

 先頃のオバマ政権の軍事予算を削減しないで連邦予算を削減する、という発表を見てみると、国家養老年金基金やメディケアを使った「国家的詐欺」をさらに強化するということに他ならない。しかしそれでも先ほど見たように、負債はどんどん膨らんで行くのである。

 アメリカの総負債をめぐる状況は表面の数字以上に深刻なのではないだろうか。それをこの表は示している。これが特徴の第一である。

 次の特徴は、アメリカ政府外とされる「財務省証券保有者」の性格だ。カテゴリーで云うと、アメリカ貯蓄債権基金、養老年金基金(民間)、養老年金基金(州及び地域政府)州及び地域政府などである。アメリカ貯蓄債権基金などは、政府内基金に入れてもおかしくないのだが、これは独立した基金ということで政府外勘定に置かれている。しかしこの基金が仮に財政危機に陥れば、公的住宅保証機関であったファニーメイやフレディーマックを救済したように、連邦政府が救済しなければならないだろうことをみても、その性格は明らかだ。またその他のカテゴリーもおおむね公的基金的性格をもち、しかも「高齢化社会」の問題が直撃するような性格をもったところばかりである。

 たとえば終末的な財政危機と伝えられるカリフォルニア州政府がデフォルト状態になった時に連邦政府は救済しないだろうか?

 こうしてみると、「政府外保有者」といってもアメリカ国家という立場から見ると、どれも「国家総負債」を構成しそうなカテゴリーであることに気がつく。これが特徴の第二。

 次が「外国政府及び海外投資家」の保有急増ぶりである。比率から見ると、2000年3月末時点で、19%程度だったのが、2007年には25%程度(1/4)となり、2009年には30%近く(1/3弱)となっている。つまり、これは「連邦準備制度及び政府部内各基金」で財務省証券を消化仕切れなくなってきていることを示しているのではなかろうか。

 この意味では、「中国や日本が財務省証券を買って呉れなくなるとアメリカは立ち行かなくなる。」というネット上のアメリカ市民の心配はあたっている。

 もし伝えられるように、中国がその保有を大幅に減らさないまでも、これまでに積極的に買いに出ないとすれば、その購入圧力は日本に向いてくることは容易に想像できる。

 と同時に、第一のカテゴリー「連邦準備制度及び政府部内各基金」の中の「連邦準備制度」が直接買いに出る以外にはなくなる。このカテゴリーで「連邦準備制度」と「政府部内各基金」の比率が明らかではないが(是非知りたいものだが)、「連邦準備制度」が購入して以外に道はなくなるだろう。

 この点、連邦準備制度は心配ない。いくらでも金をもっている。なにしろ「世界の本位通貨」であるドルの発行権をもっているからだ。しかもその発行権には天井がない。無限である。

 しかしここで倒錯的で奇妙なことが起こる。先にも見たように連邦準備制度の株主は民間銀行だ。民間銀行が株主である連邦準備制度の発行するドル通貨の信用の裏付けは、それがもはや金兌換通貨ではない以上、アメリカ国家経済に対する信用ということになる。

 そのアメリカ国家経済に対する信用に大きな疑問符がついて、いわば黄色信号から赤信号に替わろうとしているこの時期に、無限のドル通貨発行権を使って連邦準備制度がアメリカ財務省証券を買っていけば、それは「ドル通貨の信用」そのものに対する不安を起こさせないだろうか。

 つまり連邦準備制度は自身の信用の裏付けであるアメリカ国家経済の信用を自分のオールマイティ権を行使して強化しようとすればするほど、自身の信用を弱めていくという倒錯現象が発生するのである。これが第三の特徴である。

 この第三の特徴こそ、これからの世界金融システムが刻々と向かっている「破断界」である。