アメリカの戦略態勢<America's Strategic Posture>


支援機構からのあいさつ
(Letter from Facilitating Organization)


 「アメリカの戦略態勢」という最終報告は、「戦略態勢議会委員会」が調査し、討議し議会に最終報告を出したものだが、11ヶ月間にも及ぶこの厖大な作業を委員会だけで行ったのではなく、事務局として支援した機構がある。それが合衆国平和研究所(United States Institute of Peace―USIP)だ。合衆国平和研究所(USIP)は、1984年アメリカ議会によって設立された超党派のシンク・タンクで、その運営資金はすべて連邦政府の予算でまかなわれている。

 USIPの目標は「暴力的な国際紛争を防止し、またその解決策を模索する。」「紛争後の安定の促進とその発展」「紛争管理能力、その手段、知的資本を世界的規模で促進」という3つのスローガンに要約される。もっともすべての項目の頭には「アメリカのための」と但し書きがついているのだが。

 こうした活動の傍ら、今回のように議会が必要とする調査・分析・提言を目的とした委員会が作られたりすると、支援機構として事務局的機能も持っている。支援機構としての実績で有名名プロジェクトは、たとえば、2006年の「イラク・スタディ・グループ」報告であろう。この時は戦略国際問題研究所(CSIS)などと共に支援機構として機能した。理事会メンバーはすべて大統領が指名し、議会上院が承認する。通常理事のほか、職能理事(Members ex officio)の中には、元国務長官のコンドリーサ・ライスや現国防長官ロバート・ゲイツなどの名前が見える。

 執行機関の最高責任者は理事長のリチャード・H・ソロモン
(註1)(Richard H. Solomon)で、このあいさつは、報告書のトップに配置されており、理事長リチャード・ソロモンの名前で書かれている。

以下全文

 超党派独立で、アメリカの戦略態勢の行く手をしっかり見据えたこのイニシアティブ(「アメリカの戦略態勢」議会委員会のこと)は、2008年のアメリカ議会に由来する。議会委員会は調査・討論の上、その最終報告を仕上げていくのだが、合衆国平和研究所は、その支援機構として働く栄誉を得た。アメリカ議会によって基金を得て設立された国立研究所として、われわれは国際平和に対する脅威を防止し、管理し、そして解決するという仕事において能動的な役割を演じている。それに加えてわれわれは、現代的挑戦に相ふさわしいアメリカの外交政策及び安全保障の実施の採用、という仕事を援助している。独立超党派の国立機関という立場は、われわれの公平・公正な分析、あるいは超党派的行動を育む能力を確かなものにしている。

 「世界の核平和」(the nuclear peace of the world)を保障すること以上に、地球的に肝要なことはない。核兵器の適切な役割を評価すること、諸軍備管理イニシアティブ、諸不拡散計画などは、アメリカの戦略態勢を定義する上で決定的に重要である。この報告書は、「脅威」が変化し、世界が拡散へ向けた「転換点」(註2)により一歩近づきつつあるまさにこの時に世に出される。軍事紛争、民族宗教衝突、過激主義、テロリズム、そして大量破壊兵器の拡散、これらはすべて世界的な安全保障と発展に対する重大な挑戦として向かい合っている。核兵器や核技術の拡がりは、こうした地球規模の環境状況に対して危険な局面をさらに追加している。本最終報告で示されている諸提言を実施にうつそうとすれば、厖大な政治的意志と大統領及び関係連邦政府諸省間の協力が要求され、また大衆に対する教育(註3)や彼らの諸政策に対する支持が必要である。合衆国平和研究所が引き続き専門家討議の機会を提供し、これら諸課題に対する大衆教育の枠組み土台を提供し続けることが私の希望である。

 私はウィリアム・J・ペリー元国防長官及びジェームス・R・シュレジンジャー元国防長官が、「アメリカの戦略態勢議会委員会」を指導してくれたことに対して深甚なる謝意を表したい。またこの委員会に対して刻苦精励をしめした各委員、ジョン・グレン元上院議員、ジョン・フォスター博士、リー・ハミルトン元下院議員、ジム・ウールジー大使、モート・ハルペリン博士、キース・ペイン博士、エレン・ウィリアム博士、ハリー・カートランド博士、ブルース・ターター博士、フレッド・アイクル博士(註4)に対しても深甚なる謝意を表明するものである。

 またこのプロジェクトに参加してくれたスタッフ、それから国家安全保障、軍備管理、核技術、軍事関連事項などでその知識をもって貢献してくれた諸専門家にも感謝したい。とりわけ、委員会執行事務長であり、また紛争分析防止センター(註5)の上級計画担当ディレクターであるポール・ヒューズ(註6)の仕事は特筆したい。またこの野心的な試みに卓越した支援をした国防分析研究所(註7)にも感謝したい。

 「アメリカの戦略態勢」に関して合意に達するのは容易な仕事ではない。この問題は、これから大統領、議会、アメリカの人々の課題となるわけだが、この報告書に示された提言や考え方を実行に移すまことに良き機会となるだろう。私はこうした人々が果敢に挑戦するだろうことを疑わない。
敬具

リチャード・H・ソロモン
合衆国平和研究所理事長


註1  リチャード・H・ソロモン:Richard H. Solomon。合衆国平和研究所(USIP)(<http://en.wikipedia.org/wiki/United_States_Institute_of_Peace>)理事長。USIPのサイト(<http://www.usip.org/specialists/richard-h-solomon>)によれば、1993年に理事長に就任しているから17年間の長期政権になる。1989年から1992年までは国務省東アジア太平洋担当国長官補佐官でカンボジア和平の交渉担当者、またアメリカと北朝鮮の間の和平合意で重要な役割を演じているという。1992年から93年の間はフィリピン大使も務めている。フィリピン大使時代は、米軍クラーク基地、スービック基地撤退の枠組みを作った。全体としていえば日本を含めた東アジア・太平洋地域の専門家という印象を受ける。さらにそれ以前は国務省の専門スタッフとして国家安全保障会議の上級スタッフもつとめている。ミシガン大学の政治科学教授からスタートし、ランド研究所の政治科学部門長も務めた。マサチューセッツ工科大学で中国政治専の政治科学博士号を取得している。中国語は堪能だそうだ。しかしこの履歴では全く触れていない重要な経歴がある。NNDBというデータベースによれば、ソロモンは1937年生まれで、ミシガン大学の教授から1971年に外交問題評議会の国際関係フェローをつとめている。つまり外交問題評議会が彼の出世の出発点だったということである。
<http://nndb.net/people/753/000120393/>
註2 「転換点」:もとの英語は“Tipping Point”で、これ以降この報告書全体のキーサードの一つとなっている。しばしば“”の中にいれて使われ、「不拡散へ向けた転換点」という意味合いよりも「拡散へ向けた転換点」という意味合いで危機感をあおるキーワードとしてこの後しばしば登場する。
註3 大衆に対する教育:もとの英語は「public education」である。
註4 ペリー以下各委員の略歴は<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/
obama/USA_SP/strategic_posture_6-08.htm>
を参照の事。委員会の本質的性格を知る上で不可欠である。
註5 紛争分析防止センター:Center for Conflict Analysis for the Institute。合衆国平和研究所の研究計画プログラムのひとつ。紛争地域として特にイラン、パキスタン、北東アジア、ケニア、レバノン、ジンバブエの各地域を取り上げているそうだ。
<http://www.usip.org/cap/index.html>
註6 ポール・ヒューズ:Paul Hughes。コロラド州立大学で社会学の学士号を取得。経歴から見ると国防省出身らしい。1996年から2000年まで国防長官室で人権問題担当の副室長に就任している。それから陸軍大佐の階級を得て、国防大学の国家安全保障研究所の上級軍事フェローを経て、合衆国平和研究所入りをしている。(<http://www.usip.org/specialists/bios/current/hughes.html>)また10年2月2日、ワシントンDCのマディソン・ホテルで、平和研究所主催の「アメリカー韓国―日本 地球規模問題に関する三カ国協力」(U.S.-South Korea-Japan Trilateral Cooperation on Global Issues)と題するシンポジウムが開かれるが、パネリストとして、外務省の参事官(大使級)の石井正文とともにヒューズも参加するそうだ。なおこの時、キースピーチとして防衛省政務官長島 昭久(民主党)のメッセージも届くそうである。防衛省戦略企画室長が代読するという。
<http://www.usip.org/events/us-south-korea-
japan-trilateral-cooperation-global-issues-catalyst-change>
註7 国防分析研究所:Institute for Defense Analyses。非営利法人であるが、連邦政府が出資する国家安全保障に関する各種研究開発機関の運営管理法人。これら各種研究開発機関は、国防問題、国家安全保障問題を主として科学技術の観点から研究している。恐らくは、合衆国平和研究所が扱えない国家軍事機密情報の提供をしたのだと思われる。(<https://www.ida.org/>