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ポツダム宣言

今日の哲野と網野の会話。

【網野】ポツダム宣言に振り回されたね

【哲野】今から10年も前に訳したポツダム宣言に、あれほどのアクセスがあるとは全く予想してなかった。
ポツダム宣言はトルーマン政権の広島原爆投下(トルーマン政権による原爆対日使用)におおいに関係していて、その興味から訳したものだったけど、今読み直して見ると色々誤訳や訳し落としがあったりして、大慌てで訂正した。

▽『ポツダム宣言』
http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/potsudam.htm

【哲野】なんであんなに1日に2万とか、3万とか閲覧数があったんだろうね。

【網野】それがね、ツイート見て知ったんだけど、どうも安倍さん、国会の党首討論で、共産党の志位さんの質問中、ポツダム宣言の第6項と8項で、前の戦争は誤った戦争だということが指摘されてる。それを受け入れて戦争が終わった、あれが誤った戦争だったという認識があるかという質問に、よく読んでいないので論評することは差し控える、と答弁したのよ。志位さんがおっかけてポツダム宣言のいう侵略戦争を認めないのか、と質問したんだけど、ついに言を左右にして、安倍さん、認めなかった。それでみんな、ポツダム宣言ってなんだ?とインターネットで調べたらしい。それで哲野のポツダム宣言の訳も、見られたということらしいわよ。

▽安倍晋三「ポツダム宣言」受諾5/20党首討論 志位和夫

【哲野】なるほど。安倍さんは絶対にあれは誤った戦争だと、口が裂けても認めないからね。爺さんの岸信介が言うように、あれは日本帝国の防衛戦争だった、と堅く信じている。志位さんも安倍さんの、どポイントを突いたんだね。

【網野】なんでそれが、どポイントになるの?

【哲野】戦後世界秩序は国連体制に代表される。国連は戦勝国による世界平和の維持体制だ。その国連の戦後世界秩序は、民主主義国とファシズムの戦いで、民主主義国側が勝利したという建前で成り立っている。それを象徴するのがポツダム宣言だ。ポツダム宣言でいう日本の世界征服戦争を安部首相が認めないということになると、日本の首相が戦後世界秩序=国連による世界平和維持を認めない、という話になっちゃう。これ、国連憲章に今でもある、敵国条項に該当する話になってくる。

【網野】ちょっとまって、そりゃとんでもなく大変なことじゃない。

【哲野】そう。政治的には自殺行為だね。かといって、安倍さんがあの戦争は防衛戦争だった、という立場を崩すわけにはいかない。どう答えようが、窮地に陥らざるを得ない。だからどポイントの質問なんだ。

【網野】なるほど。ところでどうしてそう、防衛戦争に固執するの?理解できないんだけど。

【哲野】岸信介の考え方では、侵略戦争したのは日本だけじゃない。帝国主義間戦争だったんだ。帝国主義日本が、自らの帝国を守るために、中国や朝鮮半島、アジア諸国の労働力や富や資源を自らのものにしようとするのは当然のことだ、だから防衛戦争なんだ、という理屈だったように思う。
ただ、岸は非常に頭のいい男で、戦後肝心なところでは、シッポを掴ませなかった。首相を辞めてから言いたい放題言っている。その意味では、安倍晋三は出来損ないの岸信介だという言い方もできるんじゃないか。あの世で自分の孫の頭の悪さに、しかめっ面をしてるんじゃないか。

【網野】うーん。帝国主義間戦争という、そういう側面がないわけでもないけど。

【哲野】ところが、日中戦争も、第二次世界大戦の一部だと考えると、帝国主義間戦争という側面よりも、民主主義とファシズムの戦いという側面が大きくクローズアップされる。岸は第二次世界大戦の一面だけを全部だと決めつけてるが、もう一面の特徴、民主主義とファシズムの戦いという側面を全く無視している。国連体制の建前は民主主義とファシズムの戦いで、民主主義が勝利した、ということになっている。またこれは、重要な歴史的事実でもある。

【網野】どちらを重く見るか、ということなのか。

【哲野】そりゃ民主主義とファシズムの戦いで、ファシズムが徹底的に粉砕されたという点を重く見なきゃ、話は始まらない。岸や安倍のように、帝国主義間戦争だという点を重く見れば、戦前のような軍国主義ファシズムを肯定することになりかねない。今そういう雰囲気が世の中に相当あるけど、私たち庶民の立場から見れば、帝国主義間戦争だった、だから日本はやむを得なかったんだと考えてみたところで、未来は開けない。当然、戦前の日本は天皇制軍国主義一色に塗りつぶされていたわけだから、これをポツダム宣言が言うように一掃する必要があった。現実にはそうなってないんだけどね。ここがドイツと日本の決定的違いだね。

【哲野】ところで安倍さんポツダム宣言読んでないって話は本当なの?

【網野】本人はつまびらかに読んでいない、といってるわよ。

【哲野】読んでない?!ポツダム宣言を読んでないし、理解してない首相というのは、戦後初めてじゃないだろうか。(もしかして、もう一人いるかもしれない。それは麻生太郎だろう。彼も爺さんの吉田茂から、頭が悪いのでほとほと手を焼いたという話がある。)ポツダム宣言を受諾して日本の戦後がスタートした、という認識を持ち得ないだろうね、それじゃあ。オバマさんも大変な人を日本の首相に据えちゃったもんだ。人民日報が言う、まさに『飢えたるもの食を選ばず』だね、こりゃ。

【網野】ここまでとは思ってなかったかもしれないよ。

【哲野】ということは、オバマさんもそろそろ安倍さんの見限りどきかもしれないね。

【網野】そうなるかねぇ。なんか心配ですよ。見限れないほど、飢えてたらと。

【哲野】そんなこと言うけど、ボクだって2005年になるまでポツダム宣言をまともに読んだことなかった。『トルーマンと原爆』をやってたからどうしても読んで理解しなきゃいけなかった。

【網野】そういえば、私も教科書でポツダム宣言は習うけど、哲野が訳してくれるまで読んだことないし、文書は載ってないし、ただ「無条件降伏した」ということだけ習った記憶がある。

【哲野】読んでみて驚いた。そしてこれが日本の戦後の出発点であり、枠組みなんだということに初めて気がついた。それで外務省の仮訳を読んで、むかっ腹を立てたわけだ。これじゃ、誰も理解できない。学術界の人だって、本気で訳そうと思えば簡単に平易な日本語、誰でも読める日本語にできるはずなのに、外務省に遠慮して誰もやろうとしない。学術界の成果が日本の市民のものになってない。それで無謀にも自分で訳してみようと思ったわけだ。今読むと穴だらけだけど。

【網野】本来は外務省が訳すか、声をかけて翻訳委員会でも立ち上げて、学者が数人で取り組めば簡単にできた話なんでしょ?なんでやらなかったんだろう、ま、ポツダム宣言だけじゃないんだろうけど。

【哲野】ポツダム宣言の内容を一般市民の知的共有財産にしたくなかった、というほかはないだろうね。

【網野】なんで?

【哲野】基本的に日本の支配構造は戦後も戦前と一貫している。機会があれば、戦前のような天皇中心の一種の管理国家にしよう、という動きはず~っと流れてる。そういう流れから言うと、ポツダム宣言受諾が戦後日本の出発点であり、今も私たちを規定していることを知ってほしくなかった、ということだと思う。
領土問題だってそうだ。あれ、第8項だっけ、『日本の主権は本州、北海道、九州、四国及びわれわれの決定する周辺小諸島に限定するものとする。』と書いてある。これを受け入れて降伏したわけだから、この条項は今でも私たちを規定している。沖縄だってこの時日本の領土とは明記されていない。実際には戦後アメリカが『我々の決定する周辺小諸島』を曖昧にして混乱させてきた、といういきさつもあるけれど、出発点はこのポツダム宣言だ。ロシアや中国はこの点をいつも強調している。日本国民がこのことを知らなければ、ロシアや中国は反日だと思い込んでしまうだろうね。マスコミもそういう風にあおるし。
その意味では、今回のポツダム宣言を巡る党首討論は非常に有意義だったと思うし、志位さんの、問題の根幹を突く優れた討議だったと思う。
原貴美恵さんの書いた『サンフランシスコ平和条約の盲点』という本を読むと、アメリカが自分の都合で日本を巡る領土問題をいかに恣意的に操作してきたかがよくわかる。原発問題や被曝問題もそうだけど、結局我々が必死こいて勉強しなければ、いいように操作されるし、この社会は一歩も私たちにとっていい社会にならない、ということだよね。

という話を長々とやっておりました。