2010.1.26

アメリカの軍事予算(2010年)


1.軍事予算か防衛予算か

 本記事は基本的に英語Wikipedia「アメリカの軍事予算」Military Budget of the United States<http://en.wikipedia.org/wiki/Military_budget_of_the_
United_States>
の翻訳と注釈、説明を加えたものである。私の問題意識の出発点は「広島への原爆投下がなぜなされたか?」だった。それは必然的にアメリカの「核兵器予算」がその後いかに成長発展したかという問題意識に移行する。

 アメリカの「核兵器予算」は当初「マンハッタン計画」という一つのまとまりで把握できた。46年米原子力委員会(AEC)が成立し、「マンハッタン計画」が施設・設備・人員ごとそっくりAECに移行した後でも、アメリカ原子力委員会の予算を分析すれば、おおよそ把握できた。

 しかし1977年カーター政権の時にAECが分解し、原子力規制委員会と「核兵器製造と維持、研究開発」の業務が新設エネルギー省に引き継がれるとまったくわからなくなった。ついでに云えばこの時の初代のエネルギー省長官がジェームズ・シュレジンジャーである。エネルギー省の予算は当然発表されるのであるが、しょっちゅうめまぐるしく変化する内部の機構、予算分類の切り分け、輻湊する核兵器関連予算が入り乱れ、私にはわからなくなった。有り体にいえば私に分析能力がないのである。手も足も出ない。
(舌だけは思い切り出してやったが・・・。)


 この記事は、そうした私の問題意識に一つの手がかりを与えてくれる。この記事は、アメリカ連邦予算の軍事的分析能力をもったグループが執筆していると思われる。しかし、2010年、アメリカが核兵器に対してどのくらいの予算配分をしたかについては依然としてわからない。

 アメリカの核兵器体系は、実に多彩な省庁予算に分散されている。たとえば、核弾頭ミサイルの「ミサイル本体」は、アメリカ国防省(Department of Defense DOD)の予算で製造されている。しかし核弾頭容器の中に格納する核爆発装置そのものは、おおむねエネルギー省の予算で製造されている。核兵器開発の研究開発予算はというと、国防省やエネルギー省は勿論、航空宇宙局(NASA)やとんでもない部局に配分されている。これが貯蔵に関する費用、警備や安全に関する費用、影響調査や評価、軍事医学的研究や将来計画の調査研究などの数限りない派生項目に対する予算付けとなると、CIAやFBI、国土安全保障省や数多くの科学研究予算項目に分散され、「アメリカの核兵器体系に対する予算全体」を把握するのは容易ではない。

 しかも、よく観察してみると、全体像を把握しているのはほんの一握りのトップグループで、「核兵器体系」という巨大なピラミッドを実際に動かしている人たちは、自分の持ち場しかわからないという構造になっている。だから、一生懸命に働いている科学者の研究が実は「核兵器体系全体の研究の一部」だった、というのはむしろ当たり前の事になる。規模や質は変化発展したが構造は「マンハッタン計画」の時とまったく同じである。

 防衛予算というとアメリカの軍事予算全体を指すものだ、と錯覚しがちであるが実はそうではない。防衛予算とは「国防省」に配分された予算であり、軍事予算全体ではない。「核兵器体系予算」に典型的に示されるように、各省庁にまたがった予算配分に軍事予算が細かく配分されている。そうした「予算体系全体」をアメリカの軍事予算だとこのWikipediaの執筆グループは認識し、その全体像に迫ろうとしている。


2.「米国国立アレルギー感染症研究所」事件

 「アメリカの軍事予算体系」全体の問題に関連して、2009年、重大な事件が広島で発生している。「米国国立アレルギー感染症研究所」事件である。

 「米国国立アレルギー感染症研究所」というのは、アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health NIH)の一研究機関である米国国立アレルギー感染症研究所(National Institute of Allergy and Infectious Diseases NIAID)のことである。

(* National Institute of Allergy and Infectious Diseasesは放射能影響研究所のサイトを見ると、米国国立アレルギー研究所と訳語をあてているので、それに従う。以下呼称はそれに統一する。)

 アメリカ国立衛生研究所は1887年に設立されたアメリカの医学医療研究機関である。国立衛生研究所が連邦政府の中で重要な機関に成長していくのは第二次世界大戦が始まってからである。まず1937年、全米ガン研究所が設立された。ついでこの項目の主役である国立アレルギー感染症研究所が1948年に設立された。その後専門研究所が次々に設立され現在は、21の研究所を擁するアメリカの巨大医学医療研究機関に成長している。こうした研究機関の中では、当然軍事医学研究も行っている。

 事件のあらましは次の通りである。米国国立アレルギー感染症研究所(NIAID)が広島の放射能影響研究所(以下広島放影研)に対して、09年4月までのいずれかの時期に、「研究助成を行いたいのだが、研究助成金の申請をしないか?」と持ちかけた。その研究助成の内容は「「急性放射線被ばくによる免疫老化とその他の後遺症に関する研究」だ。放射線を被曝した人が老齢化するにつれてどんな影響が出てくるのか、またどんな後遺症が発生し、どんな経過をたどるのかを研究して報告してくれるなら研究助成金を出しますよ、申請してくれるなら有り難いですね、ということだ。なぜこんな話を持ちかけたかというと、平和学者の浅井基文(現広島平和研究所所長)が自身のWebサイトで次のように言っている。
なおこの事件のあらましそのものは、すべて浅井のサイトの記述によっている。
浅井のサイトは次。
<http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/
hiroshima/2009/0506.html>


 浅井は『私は・・・いくつかの公開資料から、NIAIDと放影研との間で進められている研究計画が極めて重大な問題をはらんだものであり、放影研はこの研究計画に参加するべきではないと判断するに至りました。』とした上で、

『@ NIAIDは、2004年にアメリカ政府から直接、対核テロリズム対策の計画開発に関する中心的機関としての役割を果たす特別任務を与えられたこと
A その資金は、議会からの特別割り当てによる対テロ対策専門の「色つき」予算であること(予算は5年にわたり、文書には記載されていないが1年間約200万ドルー半額はアメリカの学者に還元―とのこと)
B NIAIDの司会の下で開かれた会議において、日本の原爆被爆者を対象(言葉は悪いですが、「モルモット」です)とする研究計画が承認されたこと
C NIAIDは、放影研を指名して上記Bの計画を推進しようとしていること
D さらに、放影研は過去数十年にわたる放影研に協力してきた被爆者に関するデータベースなどをもNIAID側に提供することになっていること(善意で長年にわたって放影研に協力してきた被爆者の膨大な資料、データがアメリカの対核テロ対策のために利用される危険性があること)』

 つまり「核テロリズム対策」を名目にしてアメリカの権力中枢は、放射線被曝に対処するための全般的な軍事研究を行おうとしている、ということだ。そしてその研究の一端を放影研に下請けに出そうということだ。

 テネシー州オークリッジの核兵器製造工場(現在は閉鎖立ち入り禁止)の元従業員たちは深刻な放射線障害を起こしてアメリカ連邦政府を相手どって訴訟を起こしているし、原子力委員会時代からおこなってきた一連の核実験にともなうアメリカ国内放射線ヒバクシャは、地域住民から元兵士、外注作業員など広汎に広がって数万人単位になっている。まず彼らへの対策を講ずる必要がある。また詳細にこうした研究を行う事によって、爆発を伴わない核兵器、すなわち「被曝」だけをその機能とした新たな核兵器を開発する事も可能である。ともかくその長期的データと研究が必要だ、ということは容易に推察できる。

 浅井が指摘する「NIAIDは、放影研を指名」というのはむしろ当然だろう。というのは広島放影研は、その前身時代のABCC(原爆傷害調査委員会)から、広島への原爆投下による被爆者のデータを厖大にもっている。また追跡調査も数多く行っている。1945年の放射能被曝による「ガン発生」のピークは2010年、つまり今年だというほど、放射線による人体破壊の影響は息が長い。こうした長期の医科学的データを持っているのは、放影研と広島大学原爆放射線医科学研究所しか世界にはない。こうしたデータを分類整理して提出してもらうだけでも1000万ドル(5カ年―半分はアメリカの研究者に還元されるので実質500万ドル)は安い買い物だ。

 ABCCは(The Atomic Bomb Casualty Commission(ABCC)は、1948年春、ハリー・S・トルーマンからの全米科学アカデミー−全米研究評議会に対する大統領指令(a presidential directive)に基づき設立されたもので、広島と長崎における原爆生存者の間にみられる「後期放射線」の影響を調査指揮した。純粋な科学的調査研究のために設けられたもので、医学的治療は行わなかった。また、アメリカに強く支持されていたために、ABCCはおおむね原爆生存者や日本人から疑惑の目で見られた。」

<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/ABCC.htm>というのが大筋の説明だが、当初から予算は実は、「マンハッタン計画」からその機能を受け継いだアメリカ原子力委員会から出ていた。全米科学アカデミーの予算ではない。全米科学アカデミーに依頼したのは「軍事医学研究」色を薄めるための一種のダミーである。(私がABCCを軍事医学研究機関であると断ずる理由については別項「ABCC―原爆傷害調査委員会―Atomic Bomb Casualty Commission)について」
<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/ABCC.htm>
を参照の事。)

 その後ABCCは原子力委員会の慢性的予算不足から、その予算の一部を日本の厚生省に肩代わりさせ、またアメリカ色を薄めるために、現在の「放射能影響研究所」に改組する。しかし「軍事医学研究機関」としての役割が全くなくなったわけではない。つまり放射能影響研究所は「ABCC」の尻尾を今に引きずっている。この点からも国立アレルギー感染症研究所が放影研を指名したのはよく理解できる。

 ところで放影研は、改組後かつてのABCCの「暗いイメージ」を払拭するため、いくつかの仕組みを設けている。その一つが、「広島地元連絡協議会」だ。私はこの広島地元連絡協議会なる機関が放影研の政策決定にどれほどの権限と影響力をもっているのか全くわからない。「財団法人放射能影響研究所 日米共同研究機関」<http://www.rerf.or.jp/
index_j.html>
のサイトの組織図を見てみても、「広島地元連絡協議会」は出てこない。外部諮問組織、乱暴にいいかえれば、放影研の業務に透明性のイメージを持たせるための「マネー・ランドリー機関」だろう。

 この地元連絡協議会に「アレルギー感染症研究所(NIAID)との間で、日本の原爆被爆者における『急性放射線被ばくによる免疫老化とその他の後遺症に関する研究』が審議事項として提出された。」(前出浅井のサイトより)

 ところが経過がおかしい。この協議会は原則公開でメディアが審議の模様を取材できる。しかしこの時は、会議を開かず、放影研理事長が協議会委員を一人一人訪ね、同意を求めて回った。このことに不審と不満をもったのは恐らく浅井一人であろう。浅井も広島平和研究所所長という肩書きで連絡協議会メンバーであった。

しかし、理事長の説明には曖昧な点が多く、また。私として疑問を感じざるを得ないような点もありましたので、理事長には、地元連絡協議会を開催してしっかり報告し、十分な議論の上に決定することを希望すると申し上げました。その後、2週間ほどが経っても放影研からの返事がなかったので、私は理事長にメールを送り、是非地元連絡協議会を開催してほしいと申し入れました。その結果、理事長は(*09年)4月28日に同協議会を開催しました。』

 どうもこの時協議会は非公開だったようだ。原則公開のはずが報道関係者には公開されなかった。私としては、是非放影研にこの時の協議会議事録の全文公開を求めたい。ともかく、この時の会議で内容に疑問を呈したのは浅井一人だったようだ。浅井の指摘する問題点は前出サイト(<http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/hiroshima/2009/
0506.html>
)の最後の方に具体的に記述されているので是非読んで欲しい。

 浅井の反対理由は一言でいえば、「核テロリズム対策」というアメリカの国策に日本の研究者が、「原爆被爆者のデータ」を使って協力すべきではない、それは核兵器廃絶を願う原爆被爆者の意志を踏みにじるものである、という点につきよう。

 私の見方はもっと意地悪で、アメリカの軍産複合体制の要請する「核兵器に関する軍事医科学研究」に日本の医科学者が、広島原爆の犠牲者から得られたデータを使って協力する、というのが基本構図だろうと思う。特徴的には、何段にも下請けに出された研究が、最終的に軍事研究全体の中に組み込まれていくという意識を現場の研究者が全くもっていない、という典型的な例であろう。アメリカの軍事予算立案者からみれば、「アレルギー及び感染病研究所(NIAID)」自体も一つの手駒にすぎない。こうした見方からすれば浅井の主張は至極まっとうで正しい。

 さてこの「事件」の成り行きは次のようである。09年9月8日、この地元連絡協議会に、

米国アレルギー感染症研究所(NIAID)の研究助成に対する放影研の調査研究計画申請について」が「審議事項」として提出されました。出席者は、浅原利正(会長。広島大学学長)、碓井静照(広島県医師会会長)、神谷研二(広島大学原爆放射線医科学研究所所長)、川本一之(中国新聞社社長)、佐々木英夫(広島原爆障害対策協議会健康管理・増進センター所長)、坪井直(広島県原爆被害者団体協議会理事長)、スティーブン・リーパー(広島平和文化センター理事長)、石田照佳(広島市医師会副会長)、三宅吉彦(広島市副市長)そして私でした。』
<http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/hiroshima/2009/index.html>

みなさん、この各委員の名前をよく頭に刻んでおこう。)


 どうも会議の雰囲気は、浅井一人が反対、棄権が一人、あとは全員賛成だったようである。多勢に無勢である。

 しかし、発言した他のすべての委員(棄権を表明した一人を除く)は、研究結果が被ばく者のためになるデータを生み出すものであるから(であれば)賛成という「結果オーライ」だけの意見を表明しました。』

と浅井は書いている。

 しかし賛成委員の主張、「研究結果が被ばく者のためになるデータを生み出すものであるから(であれば)賛成」というのは、研究の成果が一般に公開され、核兵器による放射線被曝がいかに深刻かを明らかにし、しかもその結果が、アメリカ側の研究結果と共に日本の医療関係者(医科学研究者にではなく)と共有された時のみ成立する主張だ。この条件が担保されない限り、賛成委員の主張は単に希望的観測に基づく主張となる。

 浅井は相当怒っているようだ。

私は、この有様(*討議の内容の事)を見て、広島の放影研と一緒に行動している医療界は正に魑魅魍魎の集まりであり、グルになって悪事を働こうとしていると思わざるを得ませんでした。原爆症認定集団訴訟をまとめてこられた渡辺力人さんが「放射線影響研究所(放影研)、または厚生労働省(厚労省)が隠れ蓑にしている医療分科会に名を連ねている広島の科学者や医師は、一連の司法判断をどう受け止めているのだろうか」という発言をされていることは前回このコラムで紹介しましたが、その言葉が私の頭の中をぐるぐる回転していました。放影研と一緒に動く彼らは被ばく者の血を吸い尽くすダニだとすら思いました。』

とまで書いている。
<http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/hiroshima/2009/index.html>

 さて、この申請は、放影研のサイト(
<http://www.rerf.or.jp/index_j.html>)を見てみると、「お知らせ」のボックスに「米国国立アレルギー感染症研究所(NIAID)との間で「原爆被爆者における免疫老化とその他の放射線被ばく後影響の調査」に関する研究契約を9月30日付で締結しました。」とある。だから、9月8日に地元協議会を開いて、了承を取り付けて申請し、「アレルギー感染症研究所」は即座にこの申請を受理、審査の上了承し、9月30日に契約するというスピード処理を行ったことになる。ついでにこのボックスには、「9月8日地元連絡協議会開催しました。」とありPDF文書が添付されているので議事録が読めるのかとおもったら、開会のお知らせだけでがっかりだった。ついでのついでに私はこの時の議事録公開も要求しておく。私は誰がどんな発言をしたのかを是非とも知りたい。

 私からいうと、この事件は大きく云えば「アメリカの軍産複合体制」の実態を垣間見るささいな「一こま」だと見える。

 軍産複合体制とは、単に「アメリカ連邦政府と軍事産業の利権を媒介とした結びつき」ではない。だから、日本語訳の「軍産複合体」という言葉とは区別して、「軍産複合体制」という言葉を使うようにしている。といってこの言葉は私の発明でもない。アメリカの軍産複合体制(The Military-Industrial Complex)を具体的に叙述したアメリカの労働運動家シドニー・レンズの同名の著作を日本語に訳した小原敬士の創造である。(「軍産複合体制」岩波新書 シドニー・レンズ著 小原敬士訳 1971年7月参照の事。)小原はガルブレイスが叙述した「いかに軍部をコントロールするか(How to Control the Military)」を翻訳出版する際にも、「軍産体制」(「軍産体制論」ケネス・ガルブレイス著 小原敬士 小川出版 1970年)というタイトルを日本語訳に当てた。レンズもガルブレイスもアメリカの実態を研究し、「The Military-Industrial Complex」とは、単に軍事産業と連邦政府の軍事利権をめぐる癒着構造と捉えなかった。「軍事国家」「帝国主義国家」としてのアメリカ合衆国を支配する体制であり、「米国政府、議会、軍事産業、金融資本、一流大学、研究開発機関、シンク・タンク、大手ジャーナリズム、州政府、退役軍人の組織、産業労働組合、ブーズ・アレン・ハミルトンなどのコンサルタント、広報企業、広告代理店・・・など極めて幅広い分野を包含した、広汎で底の深い、アメリカの支配体制を意味する。」(「オバマ政権の国防副長官に元レイセオン副社長」<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/obama_01.htm>)と捉えた。

 こうした軍産複合体制が「予算」を媒介として、幾十層にも下請け構造を作り、学者や支配的マスコミを使ってプロバガンダ行い、絶対的権威を作り上げながら、それを背景に、アメリカの世論を支配体制に都合よく誘導して行き、支配体制を維持しつつ、政策要求を貫徹している。だから私たち一般市民は、「軍産複合体」とは峻別して「軍産複合体制」とはっきり認識しなければならない。次項から叙述するアメリカの軍事予算の内容も、そうした意味あいをイメージしながら読んで欲しい。

 「The Military-Industrial Complex」という言葉を最初に世の中に知られる形で使ったのは、よく知られているように、大統領を退任する際の「離任演説」の中で使ったアイゼンハワーである。アイゼンハワーもレンズやガルブレイスの使った意味、すなわち「軍産複合体」ではなく「軍産複合体制」の意味で使っている。

私たちの今日の軍組織は、平時の私の前任者たちが知っているものとはほとんど共通点がないどころか、第二次世界大戦や朝鮮戦争を戦った人たちが知っているものとも違っています。・・・しかし、私たちは、このことが持つ深刻な将来的影響について理解し損なってはなりません。私たちの労苦、資源、そして日々の糧、これらすべてが関わるのです。私たちの社会の構造そのものも然りです。・・・我々は、政府の委員会等において、それが意図されたものであろうとなかろうと、"The Military-Industrial Complex"による不当な影響力の獲得を排除しなければなりません。誤って与えられた権力の出現がもたらすかも知れない悲劇の可能性は存在し、また存在し続けるでしょう。・・・この”The Military-Industrial Complex"の影響力が、我々の自由や民主主義的プロセスを決して危険にさらすことのないようにせねばなりません。・・・連邦政府による雇用、プロジェクトへの資源配分、および財政力によるわが国の学者層への支配の可能性は常に存在しており、このことは深刻に受け止められるべきです。・・・、その際に公共の政策それ自体が科学技術エリートの虜となるかもしれないという逆の同等の危険性も警戒しなければなりません。』
(アイゼンハワーの離任演説<豊島耕一訳>
<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/Eisenhowers_
Farewell_Address_to_the_Nation_January_17_1961.htm>

 この演説は1961年に行われたが、今日ではアメリカの軍産複合体制は、単にアメリカを支配するばかりでなく、日本を含めて世界中にその支配体制を拡張したように見える。

 09年被爆地広島で起こった「米国国立アレルギー感染症研究所」事件は、この世界に最初の核兵器をもたらしたアメリカの軍産複合体制が「ヒロシマ」をも汚染している事件として捉えるべきだろう。


3.2010年予算

 予算内容に入る前に簡単に、もう一度「軍事予算」という時の概念とその範囲を見ておこう。英語Wikiは次のように述べる。

 軍事予算は、アメリカ連邦政府が国防省に割り当てた一任予算のことをいう。またはより広義には連邦予算のうち、あらゆる国防関連費用のことをいう。この軍事予算は、給与、訓練、制服組人員あるいは非制服人員の健康医療費、兵器の維持、装備、施設、作戦資金、新規装備の開発・購入などに関わる費用をまかなう。この予算はアメリカの軍事組織のすべての部門、すなわち陸軍、海軍、空軍、海兵隊、沿岸警備隊などの資金をまかなう。』

 2010会計年度(09年10月1日から10年9月30日まで)の予算成立のいきさつについては次のように述べている。

 当初大統領ベースの国防省予算は5338億ドル(約48兆円。1ドル=90円とする。以下同じ。)だった。さらに“海外緊急対応作戦”(overseas contingency operations)予算を追加すると合計6638億ドル(59兆7420億円)にものぼった。』

 ここでいう海外緊急対応作戦とは要するにイラン・アフガン戦費のことである。差し引きすると、2010会計年度ではイラン・アフガン戦費に1300億ドル(11兆7000億円)を当てたことになる。

 これが大統領が議会に予算要求する時の総額であった。ところが議会審議を経て議会が承認し国防省予算として、09年10月28日大統領オバマが法案に署名する時点ではこの金額が増額される。大統領が予算要求して議会が増額して認めるというケースは、軍事予算に関してはさほど珍しいケースではない。この時に上下両院の軍事委員会が大活躍する。

最終的に国防省予算の規模は6800億ドルとなり、160億ドルそれぞれ61兆2000億円と1兆4400億円)の増額となった。統合参謀本部のマイク・ミューレン議長は、イラク・アフガニスタン戦争を支援する費用として2010年春までに、追加予算措置としてあと400億ドルから500億ドル(3兆6000億円から4兆円)の追加補正法案の提出を見込んでいる。』

 09年11月4日付けニューヨーク・タイムス紙は、「ミューレンはあと数ヶ月以内にイラク・アフガン戦争の追加予算が必要となろう、と語った。つい1週間まえに10年度のイラク・アフガン戦争の戦費として1300億ドルを議会が承認したばかりである。ミューレンはいくら要求するか具体的な金額を明らかにしなかったが、国防省関係者のあいだで流布している話では、500億ドル程度だろうということだ。また下院国防予算小委員会委員長の民主党ジョン・マーサ委員長は、理論的には400億ドルが必要となろうと、ため息をついた。」(大意)<http://www.nytimes.com/2009/11/05/world/05military.html?_r=1>)と書いている。この英語Wikiの記述は、このニューヨーク・タイムスの記事を根拠に書いているようだ。

 このニューヨーク・タイムスの記事はミエミエの観測記事である。統合参謀本部は予算が通過した直後、追加予算を500億ドル程度議会に承認させようとしている。議長のミューレンは、いくら必要かは数字はいわないが、ちゃんと国防関係者の話として500億ドルの数字を出している。これに対して議会は、「400億ドルは必要だ。」とため息をついてみせる。こうして世論の反応をうかがった上で、大きな反発がないとみると、大体400億ドルから500億ドルの範囲で追加予算を通してしまおうという腹だ。大統領オバマは話が違うと一応抵抗の形は見せるが、結局認めてしまう。つまり大統領、国防省、統合参謀本部、議会、ニューヨーク・タイムスがぐるになって世論誘導を09年11月の時点で開始したわけだ。

 この英文Wikiの執筆グループはニューヨーク・タイムスの記事を見るとシナリオが読めるのでほぼ断定的に「10年春までにイラク・アフガン戦費として400億ドルから500億ドルの追加費用が要求される。」と書いているわけだ。アフガニスタン追加派兵の時と全く同じ図式である。

 さて英語Wikiの記述に戻ろう。

 国防省以外の国防関連予算は2160億ドル(19兆4400億円)から3610億ドル(32兆4900億円)の間を構成すると見られ、国防省予算と合わせるとアメリカの軍事予算は2010会計年度で合計8800億ドル(79兆2000億円)から1兆300億ドル(92兆7000億円)に達する。』

 さて、ここからが難しいところだ。つまり各省に配分された予算の中からどこまでを国防関連予算と分類すべきなのかという問題だ。たとえば、エネルギー省に配分された予算のうち「核兵器に関する予算」は誰が見ても、国防関連予算だ。しかし、国防関連予算に関するアメリカの負債の利払いは一体国防関連予算なのか?NASAが行う研究開発費のうちどこまでが国防関連予算なのか?なかなか分類がむつかしい。結論から言うとこの英語Wikiの執筆者グループは、アメリカの独立調査研究組織「ライトハウス」の分析に大筋従っている。(<http://www.independent.org/newsroom/article.asp?id=1941>)私もほぼ妥当だと思う。しかし、とはいえ、各予算項目に「軍事予算」のラベルが貼ってあるわけではないので、幅を持たせた表現になっている。とはいえ、アメリカの軍事予算は、日本の一般会計年間予算にほぼ等しいと考えておけば、さほど外れていない。


4.緊急及び追加支出

 イラク・アフガニスタン戦争に対する戦費はこれまで、年間連邦予算の枠組み、すなわち、会計年度当初に議会が承認する予算とは別途に、「追加支出予算」として扱われてきた。ところがオバマ政権の2010年予算は、これを年度当初の連邦予算の中の項目として扱われる事になった。何故こうしたのかは私にはわからないし、この事を問題とした記事にもあまりお目にかからない。なにか当然当たり前という扱いだ。イラク・アフガニスタン戦争は2001年、2003年から継続しているから当初から連邦予算に組み込むのは当然という議論ならば、なぜブッシュ政権の時にそうしなかったのか?しかも当初予算項目は、「イラク・アフガニスタン戦費」という項目ではなく「“海外緊急対応作戦”(overseas contingency operations)予算」という項目だ。現在はイラク・アフガニスタン戦費しかないので、わかりやすいが将来もそうだとは言い切れない。公開された資料を使って分析することは、従来より余分な手間が増えるという事はいえるだろう。

 さらに追加予算の中でわかりにくいのは国防省の「ブラック・バジェット」(Black Budget)だ。これは特別計画のために国防省につけられる予算で、当初連邦予算の中には計上されていないし、公表される国防省予算の中にもでてこない。正確な金額もわからないし何に使ったかもわからない。

 ともかく、2008年年度末までに、アメリカはイラク・アフガニスタン戦争で9000億ドル(810兆円)を直接コストとして使っている。間接コストは、たとえば「イラク・アフガン戦費」は負債でまかなうのでこの利子、あるいは3万3000人以上の負傷兵に対する健康・医療費増分などがある。間接コストがどの程度にのぼっているのかは推測に頼る以外にはないが、専門分析家の中には直接コストを上回る、と見る人もいる。決して小さい金ではない。とにかく、負傷されると金がかかる。だから現場戦闘要員を外部の警備会社に発注したり(これはこれで別な問題が生ずるが)、NATO諸国にアフガニスタン派兵を要請したり、日本に非公式にではあるが、派兵を打診したり、無人兵器を多用する方針なども、こうした間接コストを減らしたいという要求のあらわれともみることができる。


5.2010年国防省予算の内訳

 次に2010年当初予算のうち国防省予算の内訳を英語Wikiから見てみよう。先に説明したとおりこの中にはイラン・アフガン戦費が含まれている。(註7)

支出別内訳

予算項目 割り当て資金 対2009年比
1.作戦費及び維持費 2833億ドル(註1) +4.2%
2.軍事人件費 1542億ドル(註2) +5.0%
3.兵器購買費 1401億ドル(註3) -1.8%
4.研究・開発・実験・評価費 791億ドル(註4) +1.3%
5.軍事建設費 239億ドル(註5) +19%
6.家族住居費 31億ドル(註6) -20.2%

註1−6:  それぞれ日本円では、25兆4970億円(註1)、13兆8780億円(註2)、12兆6090億円(註3)、7兆1190億円(註4)、2兆1510億円(註5)、2790億円(註6)

註7: 在日米軍の再編費用は、09年5月10日付けのしんぶん「赤旗」
<http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2009-05-10/
2009051001_01_1.html>
)によれば、国防省が議会に対して日本側の負担分は200億ドルから300億ドルだと説明した。もし事実とすれば、日本円で1兆8000億円から2兆7000億円になる。軍事建設費や家族居住費などの数字と較べてみると、日本側負担は決して小さい金額とはいえない。これでいうと日本の国家予算は、アメリカの軍事予算の一部としてすっぽり取り込まれている事になる。「思いやり予算」という言葉そのものが実態を隠す欺瞞ということになる。こうしてアメリカの駐留経費を払い続けてきた歴代自民党政権はまさに、日本の冨をアメリカに譲り渡す売国奴といっていい。そしてそれを許して来た日本の大衆は「大馬鹿者」と云わざるを得ない。

部門別内訳
部門 2010年度要求予算 予算の比率
1.陸軍 2252億ドル(註8) 33.9%
2.海軍/海兵隊 1717億ドル(註9) 25.9%
3.空軍 1605億ドル(註10) 24.2%
4.その他国防関連予算 1064億ドル(註11) 16.0% 

註8−11: それぞれ日本円で20兆2680億円(註8)、15兆4530億円(註9)、14兆4450億円(註10)、9兆5760億円(註11)。   


6.年間10億ドル以上のプロジェクト

09会計年度、国防省は1042億ドル(93兆780億円)の兵器購入を行い、研究開発、実験及びその評価に796億ドル(7兆1640億円)の費用が必要とした。次にその中から1件年間10億ドル以上かかるプロジェクトをみておこう。2010年の数字が入手できないので2009年の要求数字から見てみよう。()内は対前年比である。


1.  ミサイル防衛 94億ドル(8460億円)(+8.0%)。これは一般的なミサイル防衛という意味ではなく、2002年ジョージ・ウォーカー・ブッシュが大統領の時にスタートした国家ミサイル防衛計画に基づく予算である。04年から09年までの6年間で合計530億ドル(4兆7700億円)の費用を計上している。ミサイル防衛は大きく3つの段階に分類できる。すなわち「敵の発射段階」(boost phase)、中間段階(mid-course phase)、最終段階 (terminal phase)の3段階である。発射段階でのミサイル防衛というのは敵のミサイル発射地点を直接攻撃して防衛しようというもの。09年アメリカがポーランドなど東ヨーロッパにミサイル防衛基地を配備しようとしてロシアと一悶着あった。アメリカは「対イラン防衛網だ」と説明したが、当然これは子供だましの屁理屈で、ロシアのミサイル基地を狙ったものだった。これは防衛なのか攻撃なのかよくわからないが、ともかく彼らの理屈に従って説明する。これが「敵の発射段階」での防衛という事になる。中間段階では空中(大気圏)で打ち落とそうというもの。09年北朝鮮が人工衛星を打ち上げたが、アメリカも日本もこれはミサイルだと言い張って、どさくさに紛れて日本海に派遣した自衛隊のイージス艦と一体でミサイル防衛の合同訓練を行った。最終段階というのは、いざアメリカ本土に敵のミサイルが突入し、大気圏を出たら出来るだけ早くこれを打ち落とそうというもの。

 国家ミサイル防衛は次のような要素から成り立つ。地上迎撃ミサイル、イージス弾道ミサイル防衛システム、終末高高度防衛ミサイル、空中迎撃システム(Airborne systems)、短距離対弾道ミサイル、多国間または国際協力システム(以上英語Wiki<http://en.wikipedia.org/wiki/National_missile_defense>による。)

2. F−35統合打撃戦闘機(F-35 Joint Strike Fighter) 69億ドル(6210億円)(+6.2%)。日本語Wikiは「統合打撃戦闘機(JSF:Joint Strike Fighter)計画に基づいて開発された、第5世代ジェット戦闘機に分類されるステルス機である。概念実証機のX-35は2000年に初飛行を行い、競作機となったX-32との比較の結果、X-35がJSFに選定される。量産機のF-35は2006年に初飛行し、現在でも開発は継続中である。2012年に実戦配備予定。JSFの名の通り、ほぼ同一の機体構造を用いながら、基本形の通常離着陸(CTOL)、艦載機(CV)、短距離離陸・垂直着陸(STOVL)という3つの派生型を製造する野心的なプロジェクトである。アメリカ空軍・海軍・海兵隊、イギリス空軍・海軍、が採用を決定しており、あわせて数千機が製造される見込みである。」としている。
<http://ja.wikipedia.org/wiki/F-35_(%E6%88%A6%E9%97%98
%E6%A9%9F)
>)

開発・製造メーカーは世界最大の軍事企業、ロッキード・マーチン社。

3. 航空母艦更新計画(Carrier Replacement Program) 42億ドル(3780億円)(+23.5%) 海軍の航空母艦更新計画。航空母艦をフォード型などの高速原子力航空母艦に更新していく計画。75機以上の戦闘機を搭載できる。なおフォード型の開発製造メーカーはノースロップ・グラマン社。
(http://en.wikipedia.org/wiki/Gerald_R._Ford_class_aircraft_carrier)

4. F−22ラプター(F-22 Raptor)41億ドル(3690億円)(-6.8%)ロッキード・マーチンとボーイングが共同開発した多用途型戦術ステルス戦闘機。ミサイルや爆弾を胴体内に格納できる。また超音速巡航能力をもつ高速機。09年現在で1機あたりコストが1億4000万ドル(126億円)とバカ高い。維持コストも高い。アメリカはこの最新鋭機を海外輸出禁止措置にしている。イスラエル空軍、日本の自衛隊もこの機種を導入したがっている。
(もっとも一番導入したがっているのはライセンス生産するつもりの三菱重工だろう。)
<http://en.wikipedia.org/wiki/F-22_Raptor>

5. バージニア級原子力潜水艦(Virginia class submarine) 39億ドル(3510億円)(+14.7%) シーウルフ級に替わる攻撃型原子力潜水艦。ゼネラル・ダイナミクスとノースロップ・グラマンの共同建造。すでに第6隻が就航しており、現在3隻建造中。全部で3隻建造予定。1隻のコストは28億ドル(2520億円)30隻建造予定。水中を30ノット以上で航行できる。12基のトマホーク型垂直発射式の潜水艦発射巡航ミサイルを装備している。トマホーク・ミサイルは様々な種類があるが、私の関心から云えば、メガトン級の熱核爆弾(水素爆弾)や最大144個の子爆弾をもつ多弾頭ミサイルを装着できる。たとえば子爆弾1個あたり4万TNT火薬相当の核爆弾だとすれば、1個の多弾頭核ミサイルを発射して、576万TNT相当の破壊力を持つ事になる。広島型原爆が1.5万トンだったとすると、1発のトマホーク多弾頭弾で最大384個の「広島市」が消滅することになる。
<http://en.wikipedia.org/wiki/Virginia_class_submarine>

6. 未来型戦闘システム(Future Combat System) 33億ドル(2970億円)(-2.9%) アメリカがこのところ力を入れてきたハイテク兵器、近代化兵器はイラン・アフガニスタン戦争では全く役に立たないことが、判明してきた。戦車1台街中を自由に走れない有様である。だから、対ゲリラ戦争向けに開発する兵器体系全体を未来型戦闘システムと呼んで開発している。2004年から投入されはじめた。代表的には、軽装でハイテク装備を施した未来型装備兵士、小型無人地上車両、小型無人爆撃機など。日本語Wikiは「無人偵察ヘリや持ち運び可能な無人偵察車両、GPSなどを駆使して収集した敵の情報を、兵士のヘルメットの前に装着された小型画面や戦闘車両にリアルタイムで送信し、双方向にて情報を共有することにより最小限の人員で敵に有効な打撃を与えることを目指している。また、車両の軽量化などにより有事即応態勢が高まり、紛争地域への投入・実戦展開に要する時間が従来の3割も短縮できるとされる。」
<http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%
A5%E3%83%BC%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%
BC%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%
90%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%
B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0>

と述べている。しかしこれが本当なら、アフガニスタンに3万人も増派する必要はない。大半はハイテク兵器のガラクタである。開発メーカーだけが儲ける仕組みになっている。

7. DDG1000駆逐艦(DDG 1000 Destroyer) 32億ドル(2880億円)(-8.6%) 最新鋭ズムウォルト級ステルス駆逐艦。ゼネラル・ダイナミクスが開発建造メーカー。建造費は33億ドル(2970億円)。現在1隻建造中で、これは2012年就航予定。その後の建造は未定。ミサイルのお化けみたいな駆逐艦だ。戦闘用ヘリコプターも離発着できる。
<http://en.wikipedia.org/wiki/Zumwalt_class_destroyer>

8. C−17(C-17) 30億ドル(2700億円)グローブマスターの愛称のある戦略/戦術大型輸送機。開発メーカーはマクダネル・ダクラス社だったが、ボーイングが吸収合併したため現在はボーイング社が製造している。とにかく輸送量が大きい。イラク戦争の初期輸送で大活躍した。1機製造コストは約2億ドル(180億円)
<http://en.wikipedia.org/wiki/C-17_Globemaster_III>

9. V−22オスプレイ(V-22 Osprey) 27億ドル(2430億円)(+3.8%)垂直離着陸型輸送機。ヘリコプター・メーカーのベル社とボーイング社の共同開発。国防省との契約は恐らくボーイング社だと思われる。開発は以前から行っていたが、開発中に少なくとも2回事故を起こし、開発が遅れていた。08年現在までの開発コストは、270億ドル(2兆4300億ドル)2007年にイラク戦争に投入された。海兵隊と空軍に配備されている。1機製造コストは6800万ドル。(62億円)。日本の自衛隊も導入する話もある。<http://en.wikipedia.org/wiki/V-22_Osprey>アメリカの新兵器開発で、当初予定通り、当初開発コスト通りで開発されたケースはほとんどない。ほとんどが開発が遅れ、当初見積もりコストを大きく上回るケースが圧倒的に多いが、このオスプレイは中でも悪質だった。

10. 宇宙配備赤外線システム(Space-Based Infrared System―SBIRS)23億ドル(2070億円)(+130%) アメリカ政府が進める宇宙空間における赤外線を使った監視システム。静止軌道衛星と高度楕円軌道衛星と、管制室における赤外線監視プログラムからなら複雑な監視システムで、戦闘機に対する情報やミサイル防衛で使う情報などを提供する。ただ思うほど開発が進まず、現在開発コストはすでに100億ドル(9000億円)にのぼっていると英語Wiki<http://en.wikipedia.org/wiki/Space-Based_Infrared_System>)は述べている。

11. F/A−18E/Fホーネット(F/A-18E/F Hornet) 20億ドル(1800億円)(-4.8%) 多機能型戦闘機。1999年に就役して以来、2009年現在400機も製造されている。アメリカでは主に海軍が使用し、航空母艦の艦載機になっている。もともとマクダネル・ダグラス社が開発したが、同社がボーイングに吸収されたため、ボーイング社の製造となった。1機あたりの製造コストは、5470万ドル(50億円)。日本自衛隊の次期主力戦闘機としてロッキード・マーチンがF−35を、ボーイングがホーネットを売り込みにかけているそうだ。ホーネットはすでにオーストラリアやフランスが導入している。ボーイングの営業担当のセールスマンに日経ビジネスがインタビューして提灯持ちをやっている。この記事のなかで、「今はスーパー・ホーネットと呼ばれており、最新鋭機だ。」とこのボーイングのセールスマンは云っているが<http://business.nikkeibp.co.jp/
article/tech/20091228/211930/>
、現在のホーネットは、1995年に初飛行して以来、「スーパー・ホーネット」だ。F−35にしろ、ホーネットにしろ、そんなものを買うくらいなら、「保育園」を作るべきだろう。

12. MH−60R/S(MH-60R/S) 19億ドル(1710億円)(+72.7%) アメリカ陸軍や空軍に配備されているシコースキー社製の多目的戦闘ヘリコプター、ブラック・ホークの海軍版で、「シーホーク」と呼ばれている艦載機。三菱重工業が製造して、海上自衛隊に納めているSH−60Jは、事実上シーホークのライセンス製造版である。初就航は1980年代の半ば頃。現在1機当たりの製造コストは2800万ドル(25億円)。三菱重工業は1機当たりいくらで自衛隊に売っているんだろうか?<http://en.wikipedia.org/wiki/SH-60_Seahawk>

13. EA−18Gグローラー(EA-18G Growler)18億ドル(1620億円)(+12.5%)ホーネット(スーパー・ホーネット事実上すべてホーネットである)をベースにボーイングが製造している電子戦機。電子戦機というのは電子偵察機、電子戦支援機、電子妨害機などの総称。(もう私は、バカバカしくて本当はやめたい。)08年から海軍に配備が開始された。1台あたり7300万ドル(65億円)
(なんで同じものなのに毎年単価が上がるんだろう?アメリカの納税者も温和しいなぁ。)(<http://en.wikipedia.org/wiki/EA-18G_Growler>

14. 化学兵器の非軍事化事業(Chemical Demilitarization)16億ドル1440億円)(+0.0%) 化学兵器禁止条約に基づく、化学兵器廃棄作業の年間予算。日本語Wiki<http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2
%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E5%90%88%E8
%A1%86%E5%9B%BD%E3%81%AE%E5%A4%A7%E9%87
%8F%E7%A0%B4%E5%A3%8A%E5%85%B5%E5%99%A8#.
E5.8C.96.E5.AD.A6.E5.85.B5.E5.99.A8.E3.81.AE.E5.BB.
83.E6.A3.84>
は次のように書いている。「2009年7月、アメリカ陸軍化学物質局によると、1997年に宣言された通り、アメリカ合衆国は31,100トンの神経ガスおよびマスタードガスの備蓄のうち63パーセントの廃棄を終えたという。2006年までに廃棄された化学兵器のうち、500トンだけがマスタードガスであり、その大部分はVXやサリンといった他の薬品であるという。残りの86パーセントは2006年4月に廃棄された。アメリカの13,996トンの禁止兵器は、フェイズ3の割り当てと期限に従い、2007年6月までに廃棄された。最初のフェイズ3の公約では全ての国は2004年4月までに全貯蔵量の45パーセントを廃棄しなければならないことになっていた。しかし、その期限に間に合わないことが予想されたので、ブッシュ大統領は2003年9月にフェイズ3の期限を2007年12月まで延長するように、また全ての備蓄の廃棄期限であるフェイズ4の期限を2012年4月に延期するように要求した。この延期によって、ロシアを含むいくつかの国が条約から脱退した。2012年は化学兵器禁止条約によって許可された最終期限であるにもかかわらず、アメリカは国際情勢の変化からこの期限に間に合わないかもしれないと主張している。」

15. ストライカー装甲車(Stryker) 13億ドル(1170億円)(+18.2%)ゼネラル・ダイナミクスが製造している陸軍装甲人員輸送車。2002年アフガニスタン戦争開始の後、実戦配備された。機関砲や機関銃も装備している。要員2名で9名の兵員を輸送できる。1台当たりのコストは142万ドル(1億3000万円)(<http://en.wikipedia.org/wiki/Stryker>

16. 沿海域戦闘艦(Littoral combat ship) 13億ドル(1170億円)(+116.7%)小型高速の沿岸地域を対象とした低コストの戦闘艦。ここでいう沿岸地域とは敵勢力が優勢な沿岸域を想定している。ストライカー装甲車同様、ゲリラ戦になると、高価なハイテク兵器や高価な戦闘機はほぼ役にたたない。こうした低コストの兵器の投入に力をいえる事になった。
<http://en.wikipedia.org/wiki/Littoral_combat_ship>

17. CH―47大型輸送ヘリコプター・チヌーク(CH-47 Chinook)12億ドル(1080億円)(+9.1%) タンデム・ローター式の大型輸送ヘリ。1960年代はじめに投入して以来現在まで現役である。ボーイングが製造している。アメリカは陸海空すべてに導入されているほか、日本の陸上自衛隊、オランダ空軍なども採用している。現在までに1200機近くが生産されている。1機当たりのコストは1999年時点で1030万ドル(9億3000万円)
<http://en.wikipedia.org/wiki/CH-47_Chinook>

18. P−8Aポセイドン(P-8A Poseidon) 12億ドル(1080億円)(+33.3%)海軍の次世代対潜水艦哨戒機。ボーイングが受注した。2013年から運用開始の予定。日本語Wikiが優れた記述をしている。
<http://ja.wikipedia.org/wiki/P-8_(%E8%88%AA%E7%A9%
BA%E6%A9%9F)>


19. 発展型使い捨てロケット(Evolved Expendable Launch Vehicle)12億ドル(1080億円)(+9.1%)(社)日本航空宇宙工業会がアメリカ連邦政府09年度予算を分析した資料があり<http://www.sjac.or.jp/common/
pdf/kaihou/200803/20080306.pdf>
その資料の中で「発展型使い捨てロケット」(同資料27P)と訳されているのでそれに従った。空軍が開発中で、国防省が打ち上げる軍事衛星のためのロケット。現在デルタW型とアトラスX型、それぞれ2基のプロジェクトが進んでいる。ボーイングとロッキード・マーチンの間で競争が行われ結局、両社が対等出資合弁会社、連合打ち上げロケット協力(United Launch Alliance)という会社を作って受注した。
<http://en.wikipedia.org/wiki/Evolved_Expendable_Launch_Vehicle>

20. UH−60ブラック・ホーク(UH-60 Black Hawk)11億ドル(990億円)(-26.7%)12.の海軍シーホーク・ヘリコプターの陸軍版。メーカーも同じくシコースキー。1979年に導入され、現在までに2600機が生産されている。08年で1台製造コストは1400万ドル(12億6000万円)
<http://en.wikipedia.org/wiki/UH-60_Black_Hawk>日本の自衛隊も採用しているという。

21. E−2C/D ホークアイ(E-2C/D Hawkeye)11億ドル(990億円)(22.2%)早期警戒管制機。もともとグラマン社の開発。現在はノースロップ・グラマン社の製造。早期警戒管制機は、自ら飛行することで一定空域内の敵性・友軍の航空機といった空中目標をレーダーにより探知・分析し友軍への航空管制や指揮を行う機種である。空中警戒管制システムや空中警戒管制機とも呼ばれる。1960年代半ばに運用が開始された寿命の長い機種。アメリカ空軍が採用している。自衛隊など多くの国でも採用されている。E−2D型は日本の自衛隊が海外では最大のユーザーと英語Wiki<http://en.wikipedia.org/
wiki/E-2_Hawkeye>
は書いている。1台コストは8000万ドル(72億円)

22. トライデントU型弾道ミサイル(Trident II Ballistic Missile)11億ドル(990億円)(+0.0%)潜水艦発射弾道ミサイル。ロッキード・マーチン社の製造でアメリカ海軍とイギリス海軍が採用している。1990年に導入された。1台コスト3200万ドル(29億円)射程距離1万1300km。12基の多弾頭核弾頭を搭載できる。(核弾頭は含まれない。核弾頭はエネルギー省が供給する。)

23. 移動中ユーザー目標システムーMUOS(Mobile User Objective System)10億ドル(900億円)(+25%) アメリカの軍事通信衛星システム(SATCOM)に対する一連の静止軌道衛星群のこと。国防省が開発中である。MUOSは超周波帯域(UHF 300Mヘルツから3Gヘルツ)を使用する。このため、移動中のユーザーと更に安定した通信ができる。地上局を含めて海軍が担当している。2010年から打ち上げを開始する。主契約はロッキード・マーチン社。
<http://en.wikipedia.org/wiki/Mobile_User_Objective_System>


 以上23件が09年度予算で、1件10億ドル以上のプロジェクトである。


7.国防省予算以外の軍事関連予算

 国防省予算以外の軍事関連予算を英語Wikiはリストにしている。それを次に見ていくのだが、それでもエネルギー省所管の「核兵器開発、維持、クリーンアップ、製造」など核兵器関連予算は含まれていない。また退役軍人関連予算(復員局関連予算)、退役軍人及び未亡人・家族養老年金支払い(財務省所管)、過去の戦争に対する負債利払い(財務省所管)、外国に対する武器販売に対する手当資金(国務省所管)、外国に対する軍事関連開発援助(国務省所管)などは次のリストには含まれない。また本来は軍事関連予算ではない他の省庁に対する割り当てで、軍事関連の性格をもった予算、たとえば、国土安全保障省、FBIの対テロ対策予算、NASAが支出している軍事情報収集システムなどもこのリストには含まれていない。アメリカの軍事予算は極めて幅広い体系を持っている。とんでもないところで、その予算を使って研究したり、一般企業が売り上げを上げたりするケースもある。一例を挙げると、国防省の中に国防高等研究計画局という部局がある。年間32億ドルの予算を持って運営されているが、これは直接軍事研究を行う部局ではない。世界中から極めて幅広い研究、突飛な研究をするプロジェクトに予算を配分していく部局である。この研究をしている人たちに、「軍事研究」をしているという意識は少ない。「軍事研究」は内容で決まるのではなく、その研究が使われる目的によって決まるのだ。


国防関連支出 2010年要求及び承認予算 計算方法(註12)
国防省支出予算 6638億ドル(註13) 基本国防予算に海外緊急対応予算を加えたもの。
FBI対テロ対策予算 26億ドル(註14) この予算の最低1/3は軍事関連予算。
国際事案予算(註15) 53−521億ドル(註16) 海外武器販売予算は最低限軍事関連予算。考えようによってはこの予算全体が軍事関連予算ともなる。
エネルギー省国防関連 164億ドル(註17)  
復員退役省 530億ドル(註18)  
国土安全保障省 411億ドル(註19)  
NASA 37―94億ドル(註20) NASAの総予算の20%から50%は軍事関連予算。
退役軍人省(註21) 568億ドル(註22)  
議会承認予算のうち
他軍事関連
60億ドル(註23)  
過去の戦争で発生した
負債の利子
313−1237億ドル(註24) 負債利子全体の23%から91%
総合計 8800億ドルから
1兆250億ドル(註25)
  


註12: どうやって、一見非軍事予算と見える予算枠から軍事予算を見つけていくかということだが、英語wikiの執筆者グループは、民間のシンク・タンクや研究者の考え方を採用している。
代表的には<http://www.independent.org/newsroom/
article.asp?id=1941>

<http://www.armscontrolcenter.org/policy/security
spending/articles/spending_more_than_most_know/>
など。
註13―註14: それぞれ59兆7420億円と2340億円
註15: これは国務省の予算項目。
註16: 4770億円から4兆6900億円
註17: 1兆4760億円。これには核兵器関連予算は含まれない。
註18-20: それぞれ4兆7700億円、3兆6990億円、3330億円―8460億円。
註21: 復員退役省(Department of Veterans Affairs)と退役軍人省(Department of Veterans Benefits)は別の省。ここは退役軍人省の予算項目。
註22: 5兆1120億円。
註23: 5400億円。
註24: 2兆8170億円―11兆1330億円。
註25: 79兆2000億円から92兆2500億円。


8.連邦予算全体から見た軍事予算

 2010年国防省予算は連邦予算全体から見ると約19%を占める。また税収全体から見ると28%を占める。もしこれに非国防省軍事関連予算を加えてみると、予算全体の25%―から29%を占める事になり、税収全体の38%から44%を占める事になる。議会予算事務局によれば、2000年から2009年の会計年度の10年間で見ると、毎年国防関連の予算は平均9%で成長しているという。

 憲法上の制約で、軍事的資金は、「裁量支出」(discretionary spending )科目に割り当てられている。こうした科目は結局のところ、政府の予算立案に取っては毎年の予算変更を可能とする極めて柔軟性に富む科目だ。これに対して「承認支出」(mandate spending)は、通常の予算立案作業とは別に、法律に基づいたある計画にのみ支出を認められた科目だ。ここ近年、全体として云えば、「裁量支出」は、連邦支出の1/3を占めてきた。そして軍事支出は2003年の「裁量支出」全体の50.5%を占めて以来、毎年その比率を着実に上げている。

 2010会計年度、国防省予算は、GDPの4.7%を占めた。ここでいうGDPは、アメリカ連邦予算運営局(Office of Management and Budget)が発表した「会計年度2010年」(http://www.whitehouse.gov/omb/budget/fy2010/assets/hist.pdf)と題する資料の2009年GDP推測値、14兆2402億ドル(1281兆6180億円)のことを指す。ついでに云えば、これがアメリカ政府の公式資料だから、アメリカ政府は09年GDP伸び率を0.126%だった、と推測している事になる。

 さて、国防省予算が伸びたとしても、それを上回ってGDPが伸びれば、GDPの中の国防省予算が比率的に下がるのは当然だ。これまで見てきたように、2010年国防省予算は、それまで補正予算で立てられてきたイラク・アフガン戦費をすでに含んで立てられた約6640億ドル(59兆7600億円)だった。アメリカの歴史上もっとも大きい国防省予算である。しかし、それでも冷戦期のピークだった1980年代後半の国防省支出総額からすると、対GDP比率は1.1−1.4%程度低い。たとえば、1985年のGDPは4兆1489億ドル、1989年のGDPは5兆4017億ドルだった。

 統合参謀本部議長のマイク・ミューレンは、(国防予算は)GDPに対して4%が絶対的底であると述べている。だから2010年予算の4.7%は健全だと云いたいのであろうが、これまで見てきた、軍事関連予算を考えてみると、そうとはかならずしもいえなくなる。推測値の最低8800億ドルだとみれば、6.18%となるし、最大値の1兆250億ドルをとれば、7.2%となる。しかもこの軍事費にはエネルギー省の「核兵器関連予算」はまったく含まれていない。

 アメリカ国内にも、軍事費カットの声が大きくはなってきた。しかし、その声もオバマ政権の国防長官ロバート・ゲイツに代表されるように、主として保守派や軍事産業代表者、それらに支持される学者、研究者、著名人などの「テロとの戦いでアメリカは引くべきではない。」とする声に消されがちである。

 私は、軍事費を膨らませ、世界で戦争を起こしているアメリカの「軍産複合体制」そのものが、地球にとって何よりもまして脅威だと思う。またこの「軍産複合体制」の危険さは、決して雲の上の出来事ではなく、「米国国立アレルギー感染症研究所」事件の例に見られる如く、われわれの市民生活をも実は脅かしている。広島のすぐ隣の岩国市では、厚木基地の米軍機が移駐し、岩国基地を強化することによって、岩国・広域広島地域の市民の生活を脅かしている。われわれも自分の頭でしっかり考えなければならない。そして政治を変えて行かなければならない。