(2009.8.11)

<本文の内容>

国家予算
国家負債
国家負債の歴史
負債の天井
各負債要素―一般向け口座と政府向け口座
保有者の推定
外国の保有者
アメリカ・ドルに対するリスク



国家予算(National budget)

国家負債(National debt)

 2009年1月時点で、アメリカ連邦政府の総負債は10兆6270億ドルである。(過去8年間で85.5%の増加)(*1ドル=95円で約1009兆5650億円。円ドル換算レートは以下同じ。)

(* 以下国家負債については、英文Wikiの別途項目が詳しくわかりやすいので、そこから抜粋引用する。
<http://en.wikipedia.org/wiki/United_States_public_debt>


 合衆国政府負債(The United States government debt)は通常、公的負債(public debt)とも呼ばれ、あるいは国家負債(national debt)とも呼ばれる。「公共が所有する負債」“Debt held by the public”は、各州、諸企業、各個人、外国政府が所有する全ての連邦負債の事である。しかし連邦政府内で所有する負債あるいは支払い義務は、これに含めない。また社会保障信託基金(Social Security Trust Fund)にある負債もこれに含めない。

 毎年の政府赤字は政府の歳入と歳出の差と考えて良い。理屈の上では「赤字」は負債のその年における増加分である。しかし、ある種の歳出(補正的予算や社会保障計画における追加税の収入)は負債に含めるが、その年の歳出赤字には含めない。たとえば、2008会計年度(*2007年10月1日から2008年9月30日)連邦予算の赤字は4550億ドル(*43兆2250億円)だった。しかしこの年国家負債は1兆ドル(95兆円)積み上がった。これは単年度では初めての事である。総負債は2003会計年度以降、毎年5000億ドル以上増加してきているが、これは予算支出と非予算支出の両方だと考えて良い。

(* この節の冒頭でアメリカ政府の総負債-gross debt-は09年1月時点で10兆6270億ドルと紹介したが、この総負債は連邦政府負債に、政府が所有する基金-たとえば社会保障信託基金などが代表例だが-の負債を加えたものである。だからアメリカ政府の負債といった時、連邦政府の総負債で見なければならない。)
 

国家負債の歴史(History)

 最初に劇的ともいえる負債の増加が見られたのは南北戦争の時である。負債は1860年(*南北戦争は1861年から1865年)には6500万ドルだったが、1863年には10億ドルを越え、戦争の継続と共に27億ドルに達した。その後19世紀には、ゆっくりと上下をして1910年代に至る。第一次世界大戦に関与してその支払いが合ったため、1920年代のはじめ頃には、大ざっぱに言って220億ドルになっていた。

 第二次世界大戦に参加した事によって、国家負債は一桁増加し、戦争が終わる頃には260億ドルに達していた。その後国家負債の伸びはほぼインフレ率に見合うものだったが、1980年代に入ると、その増加は急ピッチになっていった。負債はレーガン政権、ブッシュ(ジョージ・H・W)の時、急速にふくれあがり、クリントン政権の時にやや減少に転じたものの、ジョージ・W・ブッシュ政権の時、ほぼ倍増し、オバマ政権でさらに倍増するものと予想され、アメリカのGDPとほぼ同額になるものと予測されている。

(* 別図「アメリカ連邦政府総負債の推移とGDP比率」を参照の事。連邦政府の総負債はブッシュ政権の初期、2001年の5兆7700億ドルから末期の2008年の10兆ドルと倍増に近い伸びをしてめしている。この間アメリカGDPに対する国家負債の比率は、58%から70%へと上がった。ホワイトハウスが毎年出している「Historical Table」の2010会計年度<http://www.whitehouse.gov/omb/budget/fy2010/assets/hist.pdf>は2009年から2014年までの総負債とGDPの予測数字を含んでいるが、2014年の連邦政府総負債は実に18兆3500億ドルを予測し、確かにブッシュ政権末期よりさらに倍近い伸びを見込んでいる。この間GDPの伸び率予測は、2009年はほぼ0%とこれ自体疑問の大きい数字であるが、2011年から14年までは年率5−6%と比較的高い伸び率予測し、ほぼGDPに匹敵する連邦政府総負債となるだろうと予測している。

 歴史的にみて、2000年代ブッシュ政権の後半4年間、アメリカのGDPの伸びはほぼ平均5%程度だった。この伸びは、端的に言って、金融業全盛時代であり、イラク戦争、アフガン戦争による歳出急増、いってしまえば、アメリカ全体を借金漬けにして達成した伸びだった。オバマ政権のホワイトハウスもこの借金漬け体質は変えないと予測している事になる。問題はいかにして予測するGDPを達成するかだが、私など素人からみても、金融業全盛時代、それは実需経済に健全な金融を提供することで成り立った全盛時代ではなく、言わば虚業による全盛時代だったが、をもう一度期待するのは誰が考えても無理であろう。それでは戦費乱発をもう一度行うか?これも無理であろう。アメリカがこれだけのGDPの伸びを確保する新たな実体経済を短期間に育て上げなければ無理であろう。)

(*  なお、国家負債をGDPとの比率で捉えようとすることにどれほどの意味があるのか私にはよくわからない。しかし素人目にもGDPに匹敵する国家負債があるという事は、その国の財政政策に問題があるだろうと、薄々推測がつく。CIAは世界実情報告-World Fact Book-で、世界各国・各地域中央政府の負債とそのGDPに比率を求めランキングを作成している。別図「世界各国 国家負債のGDPに占める比率ランキング」を参照のこと。このランキングでアメリカは22位である。しかしこれは2007年の数字に基づいている。このリストでやはり気になるのは第2位の日本であり、GDPの縮小と国家負債の伸びを考慮すれば、国家負債が日本のGDPの2倍に達するのは時間の問題とおもわれる。)

 

負債の天井(Debt Ceiling)

 少なくともここ数十年、有効な「負債の天井」が存在する。財務省は毎年必要な負債の調達に200回以上のオークション(*この場合は財務省証券のセリの事を云っている。)を実施している。財務省は(小さな例外を除くと)、決められた天井を越えない範囲で政府の運営に必要な資金を調達する権限を議会から得ている。天井は2年に1回くらいの頻度でアメリカ議会を通過する新しい法律によって定められている。2009年2月13日に「2009アメリカ回復再投資法」(H.R.I.)(the American Recovery and Reinvestment Act)によって政府総負債の天井を12兆1040億ドル(*約1150兆円)と定めている。

(* 先ほど紹介した、ホワイトハウスの予測では2010年の会計年度でこの天井を軽く突破する。ということは再びオバマ政権は議会に要請して、新しいシーリングを決める事になるのだろう。予算に関する限り、共和党も民主党も全く違いはなく、オバマ政権は前ブッシュ政権の路線をそのまま踏襲しているように見える。)
 

各負債要素―一般向け口座と政府向け口座
(Components- Public and government accounts)

 国家負債は次の2つのカテゴリーに分けられる。

1. 一般向け証券
・市場で取り引きできる証券
・市場で取り引きできない証券。
2. 政府口座で保有する証券

 1999〜2008会計年度の間、財務省が発行した証券は約60%が一般向け証券(Securities held by the public)である。2008年現在、社会保障連邦老齢者及び生存者保険信託基金(Social Security Federal Old-Age and Survivors Insurance Trust Fund)が保有する政府口座負債の半分を占め、約2兆2000億ドルである。ほとんどの政府負債は、中期国債(Treasury Notes 2〜10年物の利付債)、短期国債(Treasury Bills 1年未満の割引債)それと1兆口の長期国債(Treasury Bonds 10年物以上の利付債)及びTIPS(Treasury of Inflation Protected Securitiesインフレ連動債)の形で存在する。

(* ここの原文の記述は、単にnotes, bills, bonds, Inflation Protected Bondsである。
訳語は日本語Wiki<米国債><http://ja.wikipedia.org/wiki/米国債>の訳語に従った。こう訳すべき何か適切な理由があるのだろうと思う。)


保有者の推定(Estimated ownership)

 一般市場向け負債では、非常に幅広い保有者が存在する。財務省も大きなカテゴリーでしかグループを分けていない。しかしどちらにせよ、アメリカ国債の最大の保有者グループは「連邦準備制度及び政府内ホールディングズ」である事は間違いない。アメリカ国外の保有者及び外国政府も大きな比率を占めている。
 
(* 別図「財務省証券(アメリカ国債)の保有者」を参照の事。ただ、この資料からは、連邦準備制度と政府内ホールディングズの比率がわからないし、連邦準備制度がアメリカ国債の保有者だとすれば、これは「アメリカ政府自身」がアメリカ国債の保有者といえるのかどうかは疑問だ。というのは連邦準備制度は確かにアメリカ政府の一機関であることは間違いないが、所有しているのは事実上民間銀行のグループだからだ。政府内ホールディングズについては、前掲図の註1を参照して欲しい。私にはまったくお手上げである。)


外国の保有者(Foreign ownership)

 伝統的には、国家負債の防衛方法はアメリカが「自分自身で負債を保有する」だった。しかしこの方法は次第にあてはまらなくなっている。2007年外国政府が保有するアメリカの負債は全体の約25%であり、1988年当時の13%からみると事実上2倍になっている。外国の投資家が、アメリカの国債を買おうという気持ちは薄れつつあるにもかかわらず、それはドルが減価しているからだが、アメリカ財務省の統計では、外国投資家の保有率はあがっている。2009年5月現在中国は7720億ドルを保有している。全体で云えば中国と日本が、外国投資家の保有の47%を占めている。最近の国際決済銀行(the Bank of International Settlements)の報告が指摘するように、外国の銀行がアメリカ国債を買うのをやめるとか相当量売却するとかといった事態は、金融的あるいは政治的リスクの顕在化というべきだろう。国際決済銀行は次のように報告している。

実際、公的負債への投資家にとってはあまりありそうにはないが、出口へ向かって殺到する状態になれば、これを完全に制御することはできない。』
(*  この国際決済銀行の報道記事は次である。
<http://www.forbes.com/feeds/afx/2008/06/30/afx5166493.html>

 2006年イタリア、ロシア、スエーデン、アラブ首長国連邦の中央銀行は、ドル保有資産を次第に減らしていくと、と声明した、スエーデンではドル保有の銀行準備を90%から85%に減らす動きを見せた。2007年5月20日、クウェートは自国通貨とドルとの連動を継続しない(*ドルペッグをやめる)こととした。シリアも同年6月4日同様の声明をだした。

(* 図「財務省証券の国外保有―2009年1月現在」を参照の事。)
 

アメリカ・ドルに対するリスク(Risks to the U.S dollar)

 様々な要素がドルの価値に対する圧力となって増大している。ドル切り下げへのリスクまたはインフレーション、世界の準備通貨としてのドルの役割に対する挑戦・・・。もし、準備通貨としてのドルの役割が、他の通貨やバスケット通貨(*バスケット通貨については次。<http://ja.wikipedia.org/wiki/通貨バスケット制>ただしよくわからない。恐らく通貨バスケット制に対して反対の立場から書かれているからだろう。誰だって通貨バスケット制にはしたくない。でもやらざるを得ない事情があるからそうする。そこが書かれていない。)にとって替わられたとしたら、アメリカ・ドルは世界から資本を集めるためにより高金利となるだろうし、長期的には経済成長率の低下といった問題に直面する。

 エコノミスト誌(*イギリスの著名な経済週刊誌)は、2009年5月に次のように書いた。

 銀行を救済するために一財産を使う。西側の諸政府はその負債の利子に対応するために、より「高い税金」という意味でそのツケを支払わなくてはならなくなるだろう。(*そうか。そうだったのか。利払いのために税金が高くなるのか。日本の国家予算の中で利払いに当てられる部分を今度調べてみなくてならないな。)国家財政の赤字と共に貿易赤字をもつ諸国の場合(たとえばアメリカやイギリスなど)、外国の債権者からの要求に対応するためにより高い税金が必要になるだろう。これは政治的に云えば、緊縮財政を意味する事になる。したがって、通貨の切り下げを行う事によって、こっそりと(by stealth)債務不履行にしてしまいたいという誘惑は避け難いであろう。投資家たちにとってはこの危険が現実のものとなりつつある・・・。』
(*  このエコノミストの記事は次。
<http://www.economist.com/businessfinance/displayStory
.cfm?story_id=13653915&source=hptextfeature>

 こうしたリスク(*ドル脆弱化へのリスク)は、財政赤字や貿易赤字の観点からアメリカが採りたくない手段と関連がある。たとえば、連邦政府の会計監査を担当する連邦政府会計監査局(the Government Accountability Office-GAO)は、アメリカは財政的に「持続不能」(“unsustainable”)な道をたどりつつある、と主張している。そして政治家も選挙民もこの道を変えたくない、のだともいう。2010会計年度(*2009年10月1日から実施)予算は、2010会計年度から2019会計年度まで毎年約1兆ドルの総負債増加を示している。2009会計年度(*2009年9月末で終了)だけ取り出してみれば、2兆8000億ドルという空前の増加を示している。2019年までにアメリカの総負債は23兆2000億ドル、ほぼGDPの100%に相当する見通しだ。2009年は80%だった。

(* これまで見てきた数字からして、2019年の時点でアメリカのGDPが23兆2000億ドルに達するかどうかは非常に疑問である。もしこの計画ならアメリカには新たな、有望な投資先がいくつか存在しなければならない)

 さらにサブプライム・ローン危機(the subprime mortgage crisis)は、アメリカ政府には相当な金融的重荷になっている。2009年時点で10兆ドルを越える直接関与か信用保証をだしている上に、2兆6000億ドルの投資かあるいは費用を負担する。2009会計年度予算には、その一部分しか計上されていない。

 アメリカは同時に大きな貿易赤字を抱えている。これら赤字を金融手当するために、海外から資金を借りなければならない。その多くは貿易黒字で運営している国々からであるが、こうした国々は経済的に興隆しつつあるアジア諸国か石油輸出国である。1996年から2004年の間、アメリカの貿易赤字は6500億ドル増加しており、GDPの1.5%だったのが5.8%をしめるまでになった。

(「アメリカ経済」 終了)