プロフィール

コンテンツ

記事一覧

国民が事態を正しく理解する努力を妨害している大手マスコミ

国民が事態を正しく理解する努力を妨害している大手マスコミ

朝日新聞を見ていた網野が、憤慨したように哲野に対して

網野:311以降特に注意してマスコミの報道を見るようになったけど、もう、国民の知る権利を、マスコミが妨害しているような気がする。

哲野:知る権利というと?

網野:正しく事態を把握するべく、情報を的確に知ろうとする努力のことを私は言ってるんだけど。

哲野:ウーン、少なくとも日本のマスコミがこれまで国民の知る権利を守ってきたことはないし、だいたい、マスコミにそれを期待するのは無理なんじゃないか。

網野:それは、戦前、戦中、戦後のマスコミのあり方を知ったから、私も期待する方がおかしい、と最近はそう思う。でも多くの人は知らないでしょ。それに情報を知ろうとすれば手近な新聞やテレビ報道にどうしても頼る。

哲野:いや、そういう意味ではなく。知る権利は、知る努力があって初めて守られるもんだよね。懐手してなんの努力もせずに、知る権利を主張するのが元々虫がいいっていうもんだ。
いや、ボクの言いたいことは、マスコミに知る権利を守れと言ったって、それはお門違いだ。マスコミは、もともとそういう存在じゃあない。ニュースを商品として、消費して、垂れ流す、これがマスコミだ。根底に無理な期待があるんじゃないか。

網野:無理な期待だね確かに。

哲野:いや、ボクが言いたいのは、マスコミがどうあるべきかじゃなくて、私たち一般市民がどうあるべきかの話なんだよね。日本は先進国の中でも異常にマスコミに対して無盲目の信頼がある社会。これが根幹にある問題じゃないかね。マスコミの報道に対して批判力が弱いとか、そういう問題だよ、きっと。でも最低限、マスコミは我々が正しく知ろうとする努力を邪魔しちゃいけないよね。少なくとも、確認された事実は、事実として報道する必要があるよね。事実をねじ曲げちゃあ、これはルール違反だろうね。

網野:知る権利のもっと前の話ね。最低限事実は事実として言ってもらわないとルール違反。

哲野:そうそう。知る権利を守れったって、そりゃ無理だ、知る権利以前の話として、少なくとも確認された事実は、確認された事実として報道する、これは君も言うように、お金とって新聞売ってるわけだから、最低限の商道徳という話さ。

網野:規制基準を安全基準といったり、解釈改憲といいながら、憲法違反とは言わないし。原子炉設置変更許可が出た時点で事実上の合格というし。地元30km圏同意は法的要件なのも、法的要件ではないと言うし、明らかな嘘も時々見受けられるし。

哲野:ま、30km圏同意が再稼働の法的要件かどうかは、再稼働に関する明文規定がないので、これは誰しも確認できる事実とはいえない。ただ、現在の法体系を解釈すると、こうなる、という話。
でも、規制基準の場合は、これは確認された事実だ。
安全基準というと、審査に合格した原発は安全だという誤解が生まれるかもしれないということで、規制基準と名称を変えたわけだし、規制基準合格の定義も、これも、確認されている事実だ。原子炉設置変更許可、工事計画認可、保安規定認可、起動前検査、起動後検査が確認されて、審査合格と、これは誰も否定しようのない事実だからね。



http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/genpatsu/NSR/pdf/index_04-45-2.pdf

(22P参照のこと)

これなどは、事実をねじ曲げて報道している、好例だろうね。
九州電力の川内原発のケースでは、原子炉設置変更許可の審査書案が出ただけで川内原発合格と各マスコミ一斉に報道した。知る権利を守ることは期待しないが、せめて確認された事実は、確認された事実として報道しなきゃいけないよね。これじゃあ、ニュースが正しい商品ではなくなるから、金返せ、と言いたくなる。

網野:少なくとも正しく理解しようとする努力を妨害しちゃいけないよね。

哲野:いや、その話、今日の朝日新聞に性懲りも無くまた正しく理解しようとする私たちの努力を、妨害し混乱させようとする記事が2本立て続けにでている。

▽朝日新聞2015年5月28日

哲野:1本は、福島原発の高濃度汚染水問題。この記事によると、東京電力は溜まっていた高濃度汚染水の処理が終わったと発表して、そのまま朝日は書いている。
高濃度汚染水の定義は、核燃料(デブリ)に直接触れた処理水のことを指している。東電は、ALPSに通して様々な放射線核種を取り除いてトリチウムだけが残った処理水を、低濃度汚染水と呼んでいる。だから、最初に放射性セシウムを取り除いて、高濃度汚染水にして、そこからストロンチウム90など、様々な放射線核種を取り除いてトリチウム水にする、これが汚染水処理のプロセスだ。
ところが、安倍さんが東京オリンピックを呼んじゃった、高濃度汚染水の処理を早くしなきゃいけない、東電は2014年度までに終わると約束をして、その約束がトラブル続きのALPSのために果たせなくなった。そこで、高濃度汚染水の定義を変えちゃった。
どう変えたかというと、ストロンチウム90だけ取り除けば、もう高濃度汚染水じゃないと。そこでストロンチウム90だけを取り除いて高濃度汚染水処理が終わったと発表したわけだ。

網野:ちょっと待ってよくわからん。東電は高濃度汚染水を約62万トン処理したと発表したけど、そうじゃないわけ?

哲野:そうじゃない。62万トンのうち、ストロンチウム90だけを除いた汚染水が18万トン残ってる。要するに、高濃度汚染水の定義を変えて、ストロンチウム90だけを取り除いても、高濃度汚染水処理が終わった、と東電は公表してるわけだよね。この朝日の記事も、よく読んでみると「処理完了の約62万トンのうち、約18万トンがこの処理水…さらにALPSで処理しなければならない」とちゃんと書いてある。読んでるものは、混乱しちゃうよね。要するに、62万トンの高濃度汚染水処理が終わったのか、終わってないのか。

網野:そう、私もここがよくわからない。

哲野:この記事のどこにも、東電が高濃度汚染水の定義を変えちゃった、と書いてないから、読む者はわからない。本来の定義に従えば、62万トンー18万トン=48万トン分の高濃度汚染水が処理できました、あと18万トン残っています、と書けば、正確に理解ができるけど。あるいは、東電は高濃度汚染水の定義を途中で変えて、ストロンチウム90だけを取り除いても、高濃度汚染水じゃないとしたと。そしてそのまま、高濃度汚染水処理が終わったと発表したけど、この発表は正確じゃない、と書けばもっとよく理解できたかもしれない。これなんかは知る権利どころの話じゃなくて、せめて私たちの理解を妨害しないでくれって話だよね。

網野:もう1本の記事は?

哲野:これはもっとケッサクな話。原子力規制委員会は、27日、川内原発1号機の保安規定(正確には、保安規定変更)を認可した、これで原子炉設置変更許可、工事計画認可、保安規定認可がそろったので、川内原発の審査終了、という記事さ。

網野:ちょっとまって。原子炉設置変更許可が出た時点で、「審査終了」って言葉使ってたよね?

哲野:いや、使ってない。「審査合格」だ。

網野:あ、そっかそっか。審査が終了して合格だから、勘違いしてた。

哲野:先ほどの原子力規制委員会の資料を見てわかるように、審査終了=審査合格だ。それを終了もしてないのに、合格、合格、と書いてきたものだから、実際保安規定が認可された時点でどう書くかなと思ってたら、審査終了ときた。

網野:合格したんじゃなかったの?って話だよね。

哲野:そりゃ原子炉設置変更許可はすべての基本の出発点だから、一番大事なのは事実だが、これが合格かというと合格ではない。事実に反する。だから、私たちを混乱させて、理解を妨げるような記事は少なくとも書くべきじゃない。ルール違反だ、とボクは言うわけだよね。もうちょっと言えば、経産省や電気事業連合会の尻馬に乗って、審査合格してないものを審査合格だとはやし立てるような世論誘導はすべきじゃない、とこう言ってるわけよ。

網野:なるほど、知る権利以前の問題ね。

哲野:この朝日の記事にしたところで、まだ事実を曲げている。原子力規制委員会の資料によれば、審査・検査終了は起動後検査が終わった時点となっている。川内原発1号機は現在起動前検査の最中だ。原子炉に核燃料も入れてない。原子炉に核燃料を入れて、間違いなく動作するかどうかを起動後検査を終了して、はじめて合格なんだけど、見出しには川内原発の審査終了と書いてある。正しく理解する立場から言えば、この記事ですら理解を妨げ混乱を誘発している。

網野:それにこのフローチャート見ても、ここで再稼働ってかけないんじゃないかと思うんだけど。

哲野:そうそう、その問題もあるよね。原子力規制委員会の審査合格は再稼働の法的要件の重要な一つであるけれども、必要十分条件ではない。菅直人さんの特別委員会質疑にもあったように、現在原子力災害対策指針が30km圏の原子力災害避難計画を義務づけているわけだから、30km圏自治体の再稼働同意がどうしても必要となる。確かに30km圏自治体の同意が必要とどこにも明記されてないが、現在の原子力規制法体系を理解すると、そう結論せざるを得ない。それをすでに地元同意は終わった、あるいは朝日新聞が一貫して主張するように、地元の再稼働同意は法的要件ではない、という立場からこのフローチャートはできている。

網野:そうなんだよねえ。こういう理解を妨げてるよね。

哲野:地元同意が法的要件かどうか、についてはまだ議論の分かれるところだ。しかし少なくとも、国会の特別委員会で地元同意(この場合30km圏)が法的要件の必要にして十分条件である、という議論が行われていることだけは報じておかなきゃ、読む者は正しく理解し判断することはできない。しかもこの時、東電の姉川さんは30km圏地元の理解が得られていないということになると、電気事業者としては原発の再稼働はできない、と明確に電気事業者の立場から答えているわけだから。

▽まぼろしの第115回広島2人デモチラシ
5~6ページに「衆議院 原子力問題調査特別委員会2014年11月6日 菅直人議員 質疑抜粋」
http://www.inaco.co.jp/hiroshima_2_demo/pdf/20141114.pdf

網野:知る権利をマスコミが守ってくれなくて良いから、せめて確認された事実は確認された事実として、報道してくれなくちゃ私たちが正しく事態を把握できないよね。

てな話をしておりました。