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ポツダム宣言 その2

ポツダム宣言 その2

哲野:今日の特別委員会で、またポツダム宣言に関する議論が行われたようだ。仕事で国会中継を見ている暇がなかったんで、NHKのwebニュースで見た。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150601/k10010099431000.html

また、このことを日本の国策放送機関であるNHKがいち早くニュースで報じたことの意味もまたなかなか深長なものがある。

網野:どういうこと?

哲野:前回の共産党の志位さんの質問に、事実上安倍さんはポツダム宣言は知らない、と答えている。これは日本の政治家とすればほぼ自殺行為に等しい。だから今回弁明の機会を与えて弁明させ、それを国策放送機関であるNHKが報ずる、それを国際的に発信する、こういうシナリオではないか。
質問に立った野党議員が民主党の細野豪志だという点も興味深い。
官邸側は細野に質問を依頼し、細野がこれを受けて質問をする、細野は官邸に一点貸しを作る、と想像をたくましくすることもできる。

網野:何が弁明になるの?なんで弁明したかったの?

哲野:前回の志位さんの質問のポイントは、前回の戦争(いまなおかつ、前回の戦争と言わざるを得ないのが日本の弱点だろうが、太平洋戦争と呼んでも良いし、15年戦争と呼んでもいいし、日中戦争と呼んでもいいし、大東亜戦争と呼ぶこともできる)が、旧日本帝国による侵略戦争だったことを認めるか、認めないかにポイントがあった。
安倍さんとすれば当然、あれは日本の防衛戦争であり、侵略戦争とは認めたくはない。これはポツダム宣言の立場とは真っ向から対立する考え方、別な言い方をすれば、典型的な歴史修正主義者の考え方になる。
事実、安倍さんは歴史修正主義者であり、その意味では戦前日本型のファシストと見なしても差し支えない。
ところが、ポツダム宣言を出した側、すなわち戦勝国、すなわち連合国が戦後連合国(the United Nations)による国際平和秩序を構築し、これが現在の国連(United Nations)になる。
だから、戦勝国による国際平和秩序構築とは、国連による国際平和秩序と同義だ。
ポツダム宣言を読んでいないかどうかは別として、これを認めない立場は、結局国連による国際平和秩序を認めない立場、すなわち安倍さんは自ら歴史修正主義者であることを日本の国会の場で全世界に示したことになる。
これは、日本の政治家とすれば自殺行為だ。だから弁明の機会がどうしても必要だったんだ。安倍さんは爺さんの岸信介を目指しているんだろうが、いかにも頭の悪い岸信介だ。

網野:ポツダム宣言を認めないことは、その後の戦勝国による国際平和秩序維持の体制そのものを否定することになる、という理解でいい?要は話が元にもどっちゃうのね、土台の話に。認めるの?って言われて、はい、認めます、悪うございました、という意思を示したのが、ポツダム宣言受諾だったわけだ。

哲野:そう、その通り。だから、ポツダム宣言を読んでいないことを理由に、志位さんの質問をはぐらかそうとした、侵略戦争であることを認めまいとした、ことは実はアメリカと同盟関係を結ぶ日本のトップとして自殺行為だった、ということに後でたぶん、外務省の誰かが、まずいですよ首相、あれは、と耳打ちがあったんだと思う。だから弁明の機会が必要だったんだろうと思う。

網野:で、肝心の弁明の内容はどうだったの?

哲野:NHKのニュースを見る限り、渋々、安倍さんの考える必要最低限の中身で、これはこれで、たとえば中国や東南アジア諸国や、ロシアから見ると、あるいはアメリカのリベラル派から見ると、問題だらけの弁明だよね。
まず、「第6項の世界征服の部分を含め、当時の連合国側の政治的意図を表明した文書だ。政府としては、同項を含め、ポツダム宣言を受諾し、降伏したということに尽きる」と述べている。
当時の連合国側の政治的意図とは、とりもなおさず、現在の国連による世界平和秩序維持体制のことだ。言い換えれば、過去の政治的意図ではなく、現在ただいまの体制のことだ。安倍さんは結局現在の国連体制を認めていないともとれる。
わかりやすく翻訳してしまうと、あれは防衛戦争だったんだけど、戦勝国側の政治意図を受け入れなければ、戦争が終わらなかったんで、やむなく受け入れたんだ、とも取れる。歯切れが悪いよね。

網野:防衛戦争だったんだけど、負けたから、しょうがない敵さんの言うとおりに渋々従った、ということかしら。

哲野:その安倍さんの気持ちが、後段部分に明示的に表れている。それは、「先の大戦の結果、日本は敗戦を迎え、多くの人々が貴重な人命を失った。アジアの人々にも多くの被害を及ぼしたことも厳粛に受け止め、戦争の惨禍を2度と再び繰り返してはならないとの決意で、戦後の平和国家としての歩みを進めてきた」とする部分だ。
この部分には、ポツダム宣言の精神からすると、最も重要な点が欠落している。
先の大戦の結果、と言ってるけど、その結果をもたらしたのは、「日本の人民を欺きかつ誤らせ世界征服に赴かせた、影響勢力及び権威・権力」(第6項)だ。結局、戦後日本を平和国家にするためには、この軍国主義勢力を一掃することがポツダム宣言の大きな骨子になっている。だから、「そのような新秩序が確立せらるまで、また日本における好戦勢力が壊滅したと明確に証明できるまで、連合国軍が指定する日本領土内の諸地点は、当初の基本的目的の達成を担保するため、連合国軍がこれを占領するものとする。」(第7項)と続くわけだよね。
このポツダム宣言の趣旨を認めるのであれば、安倍さんの言うようにいきなり平和国家の道を歩んだとはならない。まず、この「権威・権力」とその影響力を完全に葬り去ることが、戦後日本が平和国家の道を歩む大前提になっている。この点を安倍さんは今回の答弁で全く無視してしまっている。
結局全体を通じて言えば、国連社会に対する弁明として、特にアメリカオバマ政権に対する弁明として、今日の答弁があったわけだけど、これだったら弁明になっていない、とボクなんかは思うね。
それは、次の箇所に如実に表れている。「そうした結果を生み出した日本人の政治指導者には、それぞれ多くの責任があるのは当然のことだ」

網野:意味がわからない。そうした結果を生み出した日本の政治指導者というのは、ポツダム宣言の言う「日本の人民を欺きかつ誤らせ世界征服に赴かせた、影響勢力及び権威・権力」のことよね。

哲野:そうそう。だから、その限りでは安倍さんが間違ったことを言ってるわけではない。ところが、戦後そうした勢力の影響力を一切排除する仕事は、実はこれら政治家の仕事ではない。この結果を受けてこうした愚かな勢力の復活を許さないのは、後代の政治家の仕事だ。
皮肉にも、安倍さんはその後代の政治家のトップにいる。
ところが、安倍さんの言い方を聞いていると、悪かったのは当時の政治家で、現代の政治家にはその責任はない、と言っているように取れる。だから、弁明にはなっていないんだよ。

網野:なるほど、それは理解できる。中国とか、ロシアとか、韓国とか、東南アジア諸国とか、オーストラリアとか…まぁ、大被害を受けた国々なんかは、これ聞いたら「やっぱり、安倍はわかっとらん」と思うだろうね。

哲野:ボクもそう思う。

網野:中国とかから、アメリカに対して、なんか言いそうだよね。

哲野:あるかもわからんね。たとえば「オバマさん、なんであんた、いつまでもあんなファシストと手を組んでるの?」とか。

網野:多くの人たちが安倍さんがファシストであることに気がついてないかもしれないね。あとファシストかもと思ってても、経済活性化のほうに気をとられてて、自分たちが選んだ人間の危険に気がついてない感じがする。

哲野:それは間違いないだろうね。相当左の人の中でも、安倍さんを歴史修正主義者とか、ファシストだとか呼ぶことには相当ためらいがある。
でも現実には、今の自民党はかつての自民党ではない。保守政党というよりも、極右政党と呼んだ方が適切だよね。かつての保革対決の図から見ると。
ヨーロッパで極右政党の台頭などと報道されているけど、日本ではすでに極右政党が政権をとってしまっていることに気がついていないのかもしれない。それよりなにより安倍さんのファシスト的体質が色濃く政治に影を落としている。質問にまともに答えない。内容のないスローガンを繰り返すなどという彼の国会答弁なんかは、ヒトラーの体質にきわめてよく似ている。

という話を今日しておりました。